今回は灯里ちゃん出てこないです。
口調やら描写やら難しすぎてやばかったです(小並感)
拙い文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
―――――ターゲット資料―――――――
今回のターゲット
ケイン・クリストファー (種族・吸血鬼)
約142年前に吸血鬼になったと思われる男性、事件として立件されたのは80年前のギール街娼婦惨殺事件からであり、それ以降自身の力を誇示するかの様に、似たような事件を各地で起こしている。
被害者はどの事件も美しく若い女性のみで、検死の結果、一定量まで吸血した後拷問にかけ殺害していると見られる。
遺体はどれも揃いも揃って顔を痛めつけられており、内蔵を引きずり出されていたり、全身が穴だらけになっていたりと酷い拷問によって長い間苦しんだ末に死亡したと見られている。
また、たちの悪い事にかなりの実力を持ち合わせており、今まで何度も公安や討伐隊と接触しているが、捕獲・収容・及び討伐には至っておらず一般の武装組織では止めることがほぼ不可能である。
また、恐ろしく逃げ足が早く1度歴戦の討伐隊が瀕死の状態まで追い詰めたが、一瞬の隙を突かれて霧に姿を変え逃げ去られてしまった。
これまでに確認できている眷属と容姿の変化は以下の通りである。
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ソファに深く腰掛けて、のんびりとターゲットの資料を読みつつ、思った事を整理するために言葉にして考えを口に出していく。
「警察からの情報にしては随分と詳しいね、僕らが裏で集めた情報とも大差ないしね。」
「女ばっかり襲ってるようだね、まぁ美味しいからしょうがないか。」
「でも、殺し方は頂けないねぇ…顔を傷つけてしまっては面白くない。」
「最近はロングヘアの女性を襲ってるんだね…………うーん、居場所を突き止めることは出来てもどうやって殺すかだよなぁ…多分、吸血鬼だと僕の毒は決定打にはならないし…」
どう仕留めるか悩んでいると、アイツが急に口を挟んできた。
『だったら、大量に毒を食らわせて相手の動きを止めてからゆっくりと愉しめばいいんじゃないですか?』
それが出来たらこんなに悩んでないっての
「……それが一番理想的だけど、大量に毒喰らわせるなんてどうやるンだよ。」
『あなたが女装して血吸われれば良いんですよ。あなたの美貌なら馬鹿吸血鬼ぐらい騙せるでしょう。』
と、いつもと変わらない貼り付けた微笑みで言ってくる。
「……は?、死ね」
女装は全然大丈夫なんだが、なんで野郎に血を吸われる前提で任務やらなきゃいけないんだよ。寒気がする。
『でも、そうでもしなきゃあなたの力では此奴は仕留められないと思いますよ。』
至極正論を言ってきて腹が立つ
「…っ痛いとこ突くねぇ………たしかに、僕の能力は此奴と相性が悪いからね…………吸血鬼は心臓に杭を打ち込むか、日光に当てて焼き殺すしかないから、僕の毒じゃ殺しきれないのがなぁ…………」
確かに、動きを止める程の毒を喰らわせるにはなんかしらの手段で僕の血液を相手に摂取させる必要がある。
アイツの提案は、ターゲットの吸血行為を逆手に取って楽に毒を喰らわせる事が出来るから僕からしたらとても好都合なのだ。
相手が野郎でなければ。
「でも、野郎になんて血吸われたくない、絶っっっっ対嫌だ。百歩譲ってレディの吸血鬼ならともかく……」
幾ら任務とはいえ、自身の首を野郎に咬まれるなんて寒気がする。
『……依頼達成楽しみにしてますよ。麗影。』
さっきとは比べられない程の笑みでそう言ったアイツに対して僕は
「………はぁ…名前で呼ぶんじゃねぇ。」
と溜め息混じりに答えることしかできなかった。
ーーー数日後ーーー
朗らかな春の陽気が漂い始めた今日このごろ。
僕は任務遂行の為に薄暗い寂れた街を一人歩いていた。
「依頼の為、そう、これは依頼の為。」
そう自分に言い聞かせて寒気を抑える。
あのあと、アイツに言われた通りの作戦でターゲットを仕留める事が決定し、女装はまぁいいとしても、野郎に血を吸われる前提で依頼受けたくない気持ちが一層増して来て居たが、いざ当日となると今までとは比べ物にならない寒気が襲ってきた。
僕は今、胸元に大きめのリボンが付いたクラシカルワンピースにキャペリンハットを被り、動きやすいヒールを履いてる。
髪の毛はいつもとは変えて、ふわふわに巻いて下の方でゆるいローテールにした。
お気に入りの銀のピアスは吸血鬼が警戒するからと、アイツに外させられた。
何時もの愛刀と、吸血鬼専用の武器はレトロな革製バッグの中に隠して持ち運んでいる。
ちなみに今回の任務で着てる服は全部経費で落とさせた。むしろ落ちなかったらやってないしやりたくない。
「ターゲットの最後の目撃情報があったのはこの辺かぁ…」
そこは古びた教会が近くにあり、一見吸血鬼なんて寄り付けない様な場所であった。
「まぁ、最近の吸血鬼はキリスト教信者じゃない限り十字架効かないし、教会あっても気にしないのも当たり前かな」
今は………午後11時、もう真っ暗で肌寒い風が吹いている。
今日ターゲット見つけられなかったらどうしようかな
などと考えていると、ターゲットの方から姿を現してくれて、とても都合が良い。
【お嬢さん、こんな時間にお一人でどうしたんですか?】
口ぶりからして見た目では男だとバレていないらしい。
さすが僕、これからコイツに咬み付かれる事が決まっていなかったら素直に喜んでいたよ。
だが、声でバレてしまっては元も子もないので、精一杯の女声で返事をする。
「えっと、初めてこの辺に来たんですけど、道に迷っちゃって……スマホの充電も無くなっちゃって………」
上手く騙せているだろうか。
【それは大変でしたね……私、この近くにあるホテルのオーナーでして、よければご案内しましょうか?】
どうやら成功したらしい、チョロすぎるだろコイツ。ここで気を緩めずに次の返事をする。
「え?いいんですか!ぜひお願いします!」
ターゲットの後に続いて夜道を歩き出す。
暫く歩いていて気がついたのだが、コイツ敢えて遠回りして案内しているな、しかも結構な速さで。
狡いやり方するねぇ……
本来ならここで体力を奪ってこの後の狩りをしやすくするんだろうけど、生憎僕は男なんでね、全く意味ないんだわ。
なんて考えながらついて行っていると、ツタが生い茂った廃ビルの前で止まった。
辺りはまともな街灯一つ無く、同じような廃ビル群ばかりの廃れた場所であった。
きっと本来なら幻術を使ってホテルに見せてるんだろうが、僕には幻術なんてまやかし効かないかはただの廃墟にしか見えないんだよなぁ
【ここが、私自慢のホテルでございます。長い間歩いて疲れたでしょう。早くチェックインを済ませてお休みになってください。】
コイツは薄ら笑みを浮かべながらそう言って、僕の背中を押して中へと入る。
チェックインの手続きのフリをした後に、ご案内しますと言って僕の事を案内する。
【エレベーターはあいにくメンテナンス中でしてね、大変申し訳ないのですが、階段でご移動願います。】
他愛もない話をしながら進んでいると、
こちらがお客様のお部屋になります。どうぞごゆっくり。と言ってとある部屋の前で止まった。
するとコイツは、開かれた扉から押し込む様にして僕のことを部屋の中へ突き飛ばしてきた。
「なにするんですk」
と抵抗しないで驚いたフリをしていると、押し倒されて首筋に咬み付かれた。
僕の血をゴクゴクと呑み干す音が、直ぐ側で響いてくる。
きっっっっっっっしよ
頭がぼんやりし始めた頃、突然首の牙が抜かれて勢いよく突き飛ばされた。
【おっ、お前男だったのか?!?!】
そこには酷く動揺したケインの姿があった。
「逆に血を吸うまで分かんなかったのかよ」
咬まれた所からドロドロと血が溢れ出してくる。かなり深くまで噛みつかれたらしく、流石に手当をしたほうが良さそうだ。
【許さねぇ…絶対に殺す。俺は女以外の血液は飲みたかねぇのによぉ………騙すような事しやがって………】
怒り始めたケインを尻目に鞄の中から、応急手当用のキットと愛刀を取り出す。
「残念、殺されるのはお前の方だよ。ケイン。」
片手で首の怪我の手当をしつつ、もう片方の手でケインに刀を向ける。
【何故俺の名前を知っている?…………………成る程、お前は俺の討伐依頼を受けて私を殺す為に来たわけか。だが、俺を殺すなんて絶対に不可能だ。今までお前のような輩が何人も俺の手の中でくたばって逝ったからな。】
まるで全てお見通しだと言わんばかりに、ニヤニヤと笑いながら言い放つケイン。
「そう、その通りだよ。自己紹介が遅れたね。僕は夜麗影、君を殺すよう依頼された殺し屋だよ。せいぜい愉しませておくれ。あと、お前なんかに殺されるつもりはないから。」
軽く返事をしておきながら手当を済ませ、吸われた血液分の体力を回復する為に持ってきていた毒瓶を取り出す。
【傷の手当は済んたかい?夜麗影、俺は生憎紳士ではないのでね、早くしないと今度こそとって喰ってしまうぞ。】
コルクを開け中身をぐいっと一気に飲み干し、じわじわと傷口が修復されていく感覚を味わう。
傷口が治るまでの間に、鞄のなかから何時もの服を取り出し、身に纏ってゆく。
傷口が完全に治り切り、莫迦吸血鬼を殺る準備は万端だ。
「完全復活、かかって来な。吸血鬼の坊や。」
そろそろ反撃といこう、やられるのはもう飽き飽きだ。
飲み干してお荷物になっていた空瓶を勢いよく放り投げる。
ガチャンと瓶の割れる音がして、その音を合図に先手を打った。
ぐっと地面を踏み込み、跳躍するかの様に一気に距離を詰めていく。
いきなり先手を打たれて怯んだケインは、苦し紛れかの様に右手から使い魔達を繰り出してきた。
が、そんなもの僕に通用する訳がなくあっさりと突破され、もう目の前にはケインの首筋があった。
取れる
そう思った瞬間視界が一瞬にして真っ暗になった。
何だと思い上へ飛び退くと、本体が見当たらずそこかしこに黒い霧が立ち込めていた。
暫くすると、霧が形を変えコウモリ、狼、蛇……様々な動物の姿をしてあらゆる方向から襲いかかってきた。
あまりの量に一瞬面食らったが、集中して一つ一つ片付けていく。
一つ、また一つと切り裂いていけば、切った動物が塊となって目の前に立ちはだかる。
「あらかた片付いたみたいだね。もうおしまい?」
殆どの使い魔を始末したあと、残るは塊から出てきた本体だけになった。
背後から気配がして、さっと躱して突きを喰らわせる。
「おっと、危ない危ない。まだ一匹隠れてたみたいだね。」
【まだまだぁ!】
今度は体をコウモリにして瞬間移動するかの様に素早く距離を詰めてくる。
コウモリの大群は斬っても斬っても、手応えが無くなかなか攻め入る事が出来ない。
「そんな時は………っと!」
鞄の中から装飾が施された小瓶を4つ、指の間に挟むようにして取り出す。
【ケケケケケケッ、ご自慢の剣技では太刀打ち出来なくなったのかね?】
「そんなつもりは毛頭ないよ。ただ、君に美味しいモンを飲ませてやろうって思っただけ。」
そう言い放つと共に瓶を投げ、切り砕いていく。
切り砕かれた瓶からは、特上の聖水が雨の如く飛び散りコウモリの大群と化したケインに降り注いだ。
【ギャァァァァァッ】
ヘラヘラ笑っていたのが嘘かの様にコウモリ達は凄まじい悲鳴を上げ、地面に墜ちてゆく。
バラバラに飛び回っていたコウモリ達は、一箇所に集まり人型を成してくっついていく。
【………ふはははっ、なかなかやるではないか。】
「舐めてもらっちゃ困るよ。これでもまだ実力の一部に過ぎないからね。」
【ほう………ではこちらも全力で行かせて貰うとしy!?!?】
言葉を言い終わらない内に、ケインは血反吐を吐いてその場に倒れ込んだ。
倒れても尚、血を吐き続けるケインであったが、立ち上がろうとして身を起こしこちらを睨みつけてくる。
だが、立ち上がる事が叶わずに片膝をついて座り込んでしまった。
【お前………俺に何をした!???体が痺…れ………て…】
コイツもあんまり愉しめなかったなぁ………
「期待外れだよ、あんなにイキってた癖にこのザマかよ。な〜にが【本気で行かせて貰うとしよう】だ。」
ゆっくりと歩み寄って顔面を蹴っ飛ばして仰向けにさせる。
「それに、もう動けなくなっちゃったんだ、何でか教えて上げようか?」
そう言いながら、ケインの手を踵で踏みグリグリと地面に押し付ける
【ぜひ、ご講授願おうか。】
ひゅーひゅーと荒い呼吸をしながら、皮肉混じりに言ってきたもので、うっかり脇腹を蹴っ飛ばしてしまった。
呻き声が聞こえてくるが聞こえない振りをして、また痛め付けていく。
「僕の血液はとびきりの猛毒で出来てるんだ。その血液をたっぷり味わった君は知らず知らずのうちに毒杯を煽ってしまったんだよ。」
肩を踏みつけ、頬を殴り、指を反対に折り曲げていく。
「つまり、僕の女装を見抜けずに吸血したあのときからお前の負けだったんだよ、ケイン。」
【………っ成る程、よくやるじゃないか。面白いなぁ。】
いいだけ遊んで飽きたので、いよいよトドメを刺すため馬乗りになって胸に杭を当てる。
「僕は全然面白くねぇんだよ。お前手応え無さすぎてつまらん。さっきの威勢は何処に行ったんだよ。」
そう言うとケインはムッと顔を顰めてこう言い放つ。
【……ここまで言われると流石に腹が立ってきたな……それじゃ、奥の手といこう。】
そう言い放つとケインは黒い霧に包まれた。
不味い、何か来る。
内心不味いと焦っていたが、僕の拘束から逃げた訳ではなく、さっきの様に姿を変えているだけだと分かり、早くトドメを刺すために杭を打とうとした瞬間だった。
【あーっ、あ!………これか】
黒い霧の中からあの人の声がしたんだ。
吃驚して思わず手を止めてしまった、でも、もうあの人はこの世に居ないんだ、この声はコイツのまやかしなんだ、早く、早くトドメを刺さなきゃ。
荒くなる呼吸を抑えて動こうとするが、体が言うことを聞かない。
僕が慌てている中でも構わず、ケインはあの人の声で淡々と語りかけて来る。
【俺はな、吸い取った血液から相手の記憶を読み取り、分析することが出来る。つまり俺の奥の手と云うのはな……】
ボコボコと音を立ててケインの体が、よく見知った者の体へと成り変わる。
【相手の大切な人間に、化ける事が出来ると言う事だ。まぁ、つまりはお前が殺せない人間になれるってことだ。】
「我が…君…………」
目の前には、もう二度と会えないと思っていたあの人がいる。
でも、でも目の前の我が君は本物じゃない。
殺さなければいけないんだ。
【あー、あ、久しぶりだのう、麗影。】
聞き覚えのある懐かしい声に体が震える。
冷静に考えれば相手が能力を使ってあの人に化けたとわかるはずなんだ、でも、分かった所で同仕様もなかった。
どうしても駄目だった。
声も仕草も言葉遣いも全部、全部あの人と全くおんなじで、もう動くことが出来なかった。
【どうした、麗影。随分と元気が無さそうな顔をしているじゃないか。】
動かなきゃ、目の前に居るあの人は偽物なんだ。
何で、何で動けないんだ。
【私を護れなかったことを気にしているのか?】
その言葉を聞いて、もう、声すら出せなくなった。
【あれに関しては、私の落ち度だ。麗影がそんなに気負う必要はないのだよ。】
そう言って、あの人に化けたケインは僕の拘束から抜け出していく。
抜け出していくのを止められる訳が無かった。
僕はきっとおかしくなってしまったのだ。
【すまないな、麗影。今まで苦労をかけた。】
そう言ってあの人は僕の頬に手を当て、申し訳なさそうな顔をする。
なんでそんな顔をするんですか、悪いのは僕なのに、そんな事言わないで、僕は赦されるべきじゃないのに、なんで、どうして。
「そんな事、言わないでください。僕は貴方に許されない事をしたんです。だから、だから」
【だからどうされたいんだい。麗影。】
「僕を怒って、叱って、ちゃんと躾けて下さい。もう、もう二度とあんな事しない様に。僕が犯してしまった罪を償わせて下さい。」
僕は知らず知らずの内に涙を流して、両手を組み合わせてそう懇願していた。
目の前のあの人はハッと目を見開いたが、直ぐに何時ものような笑みを浮かべる。
【出来ないよ、そんな事。私は麗影がしたことは仕方が無いと思ってるし、寧ろ私を叱って欲しい位だと思っている。】
「でも、でも!……僕が犯した過ちは謝るだけでは消えないんです、消えちゃいけないんです。だから、償わせて下さい。」
【……………そこまで言うなら、麗影が望むようにしてやろう。それで麗影の気が晴れるなら喜んでやろう。それに、そんな事を言わせてしまった私にも責任はある。】
【すまない、麗影。】
先ずは肩の関節を外された。
「……ぐっ…ぃあっ」
余りの痛みに思わず声が漏れてしまう。
それでもあの人は止まらずに今度は僕の指を一本一本、反対方向に曲げていく。
それからどんどんペースを上げて、僕の事を傷つけていく。
さっき僕がケインにした様に。
あばらを折られ、右足の腱を切られ、腹を刺され、殴られて、蹴られて、とにかく痛めつけられる。
まともな思考が出来ず、ただ体が受け入れるまま、応じるままあの人に嬲られていく。
痛いとか、苦しいとか、そんな感情は一切なく。ただ、目の前にいるあの人の面影をぼんやりと見つめることしか出来なくなっていった。
【もう、こんな事終わりにしよう。】
あの人は、僕がその辺に放り出したままの杭を手に持って、さっき僕がしたように、僕の事を蹴っ飛ばして仰向けにする。
あの人は絶対にこんな事をしない。
あの人なら、僕がああ言った時点で頬を引っ叩いてそんな事を言うなと止める筈だ。
でも、そこで違和感を感じずに受け入れてしまったのは、僕があの人にこうして欲しいと心の何処かで思って居たからなんだろう。
自分の罪を誰かに赦して欲しかったから、あの人の面影に縋ってこんな事になったんだ。
それこそ、あの人に失礼だよ。本当に莫迦だなぁ…僕。
偽物は、あの人の姿を装ったまま僕の事を見下すようにしてこう言った。
【これで私を護れなかった罪は償えたか、私にこんな事をさせてお前は満足できたのか?】
胸が罪悪感と後悔で埋まっていく。
ずっとずっと抱えていた事を、あの人の姿で何でもないかのように口に出されて、もう情緒がめちゃめちゃになった。
【おやすみ、麗影】
偽物は僕の胸へ杭を打ち込もうとし、トドメを刺されかけたそのときだった。
『こんな紛い物に心揺さぶられて悔しくないんですか?』
目の前には杭を打とうとしたケインの手を抑えて不敵に笑う哥哥がいた。
「…………っ哥哥……」
哥哥はケインの手を掴んで壁に投げ飛ばし、僕の方を向いてこう言い放つ。
『私は貴方にしか興味は無いし、貴方以外の存在は心底どうでもいいんですよ。貴方がどんな形で在ろうと私の手元に居ればもう何でもいい。』
『だが、貴方が情けない面してやられるのを黙って見ている程私は無情じゃないのでね。』
そう言って哥哥は僕に手を差し伸べる。
『さっさと立ちなさい麗影、まだ任務は終わってないんですよ。』
この時の哥哥の顔は、マフィアのボスでもなく、あの人に仕える暗殺者でもなく、僕の兄、夜静雨の顔だった。
痛みで震える足を何とか動かしながら、哥哥の手を取ってゆっくりと立ち上がる。
ぜぇぜぇと荒い呼吸を気合で整えていく。
呼吸が整えば次第と頭が冷静になるもので、僕の頭はあの人を貶したアイツへの怒りがふつふつと湧き出していた。
「………………絶対にアイツ殺す。許さない。」
『それでこそ私の弟です。さぁ、反撃といきましょう。』
視線を合わせてアイコンタクトを取り、僕は斬撃を、哥哥は打撃を交互にケインに喰らわせる。
【!?私にそんな事をしないでk】
『五月蝿いですよ。たかだか100年ポッチしか生きてこなかった吸血鬼如きがあの人に成り交われる訳がないでしょう。』
そう言ってアイツはケインの腹に高速の蹴りを3発決めた。
ここで僕が斬撃を喰らわせる事が出来ればもっと早く仕留める事が出来るだろうが、右脚の腱を切られているため上手くタイミングを合わせられず、何度も仕留め損なってしまう。
暫く、ケインとの戦闘が続きお互いに体力の限界が近づいて来ていた。
『次で仕留めて下さいね、麗影。でなきゃお仕置きですから。』
ぜぇぜぇと僕の荒い呼吸が静かな部屋に響き渡る。
「わかった。右足もいででも殺るわ。」
ケインは前屈みになりながらも、こちらを睨みつけて様子を伺っている。
『いくぞ、麗影。』
「了解、哥哥。」
合図で一気に距離を詰め、斬撃と打撃を同時に喰らわせる。
【ガッ………まだまだぁ!!】
ケインは怯む事なく、こちらに向かって腕を振るってくる。
今までに無いくらいの集中でケインの攻撃を躱して、勢いを殺さずにそのまま攻撃へと転じる。
僕に気が取られていたケインは、背後から迫りくる哥哥に気づかず頭に飛び蹴りを喰らって倒れ込む。
チャンスだ、逃す訳には行かない。
『いまだ、トドメを刺せ、麗影!』
投げ渡された杭をキャッチしてケインに飛びかかる。
「護れなくてごめんなさい、我が君。」
馬乗りの状態でケインの心臓目掛けて勢いよく杭を突き刺した。
【ガッ、ギャァァァァァァァァァッ!!!!】
到底生き物とは思えない様な悲鳴を上げて、ボロボロと灰になっていくケインを見つめていると、哥哥に肩をポンと叩かれた。
『お疲れ様、麗影。報告書は私が書いておくからゆっくりお休み。』
「はい……哥哥。」
頬を伝う涙は朝焼けに照らされてキラキラと輝き、灰になった吸血鬼はそよ風に吹かれて遠くへ飛んでゆく。
僕はあの人への思いを募らせながら意識を手放した。
ーーーーーーーー夜静雨Sideーーーーーーーー
私の弟は物悲しげな目を涙で潤わせたまま、パタリと音を立てて倒れてしまった。
『やはり限界でしたか。まぁいいでしょう、幸いこの近くには我々マフィアの拠点も在りますし、其処で一休みするとしましょう。』
弟を肩を貸すような形で背負い、証拠が残らぬ様に物資を回収して帰路に着く。
明るく成り始めた夜道を歩きながらぼんやりと今日の事を思い出す。
確か夜中の2時とかそのくらいでしたね。
『そろそろあの吸血鬼も片付きましたかね。………………これは…』
いつもの様に、夜麗影が任務を遂行出来たか確認しようとして視れば、其処にはボロボロになりながら許しを懇願する夜麗影が映っていた。
まぁ、大体予想通りであった。
ターゲットが吸血によって相手の殺せない人間に化けると言う情報は、私は知っていたし理解もしていた、だが夜麗影には一切を知らせなかった。
何故かは至極簡単な話。
可愛い夜麗影の酷く歪んだ顔が見たいからだ。
今回は思ったよりも上手く行って想像以上の表情が見られて最高だった……
だが私は、私自らの手で夜麗影の顔を歪めるのが好きであって、第三者に歪められるのはそこそこの地雷だ。
これ以上は私が歪める、哀れな吸血鬼君には申し訳ないですがさっさと眠ってもらいましょう。
そうして私は隠れ家を飛び出し、あの場へと向かって行った。
なんてぼんやりと考えて居ると、我々の拠点へと到着した。
〈おかえりなさいませ、ボス。その方は?〉
『夜麗影だ。任務帰りにたまたま鉢合わせてな、怪我が酷かったからここで手当をして家に帰す予定だ。私が手当するから換えの衣服と資材を持ってきてくれ。』
〈了解しました、ボス。至急用意致します。〉
そう言って去っていった部下を見送り、ベットの置かれた簡素な部屋へと夜麗影を運ぶ。
窓からは春特有の朧気な日光が差し込み、暖か室内を照らしている。
ベットに夜麗影を寝かせ、ベランダへと向かう。
暖かな春の日差しは全ての罪を包み込み、赦すかのように降り注いでいる。
麗影はあの人の蜃気楼に何を見て何を望んだのだろうか、今更何をしても遅いと云うのに。
脳裏には3人で微笑み合った一刹那の記憶がこびり付いたまま離れなかった。