黄瀬は……監督が辞任した時も、青峰がサボり始めた時も、赤司の性格が急に変わった時も、何も思わなかった。
彼は結局、自分がNBA選手に成れるかどうか試す為に部活に来ているだけである。
NBA選手になりたいのも、兄貴に見つけて貰う為に目立ちたいだけなので、バスケに対する敬意も無かった。
イカれている部員達と仲良くなるよりも、纏わりついて来る女の子達と雑談している方がマシだったので、他のキセキの世代の動向など全く興味が無かった。
県大会も全国大会も圧勝していき、決勝戦になった。
この頃になると、完全にチームは崩壊していて点取り合戦になっている。
「あーあ、次の試合どうするよ」
青峰の投げやりな言葉を聞きながら、黄瀬は良い事を思い付いた。
それは、点数を111-11にすれば、けっこう目立つな!という鬼畜な発想だった。
「111-11とか良くない?難易度ちょうどいいと思うんですけど」
「でも……メンドクサイよ、それ〜」
「確かに面倒だけど、突っ立ってるよりマシじゃない?」
「くだらん、勝手にするのだよ」
「___良いじゃないか。ただの点取りゲームより遥かに楽しめそうだ。それに、今からの相手にもうってつけだ」
点数は111-9となり試合終了直後、原作と違い相手選手はシュートに成功した。
___よってスコアは、111-11になった。
「おー、できたじゃん」
「これで、多少は目立てるか?……あれ、なんか黒子くん泣いてる」
『帝光優勝___!!
そして前代未踏……全中3連覇達成___!!』
黄瀬が家に帰ると、母が嬉しそうに出迎えてくれた。
「涼太!優勝おめでとう!」
「ありがと、お母さん!」
丸鶏にチーズが乗っかったサラダ、具の沢山入ったスープに炊きたてご飯を食べながら、2人で楽しく話している。
ちなみに父親は単身赴任で海外に行っている。
前世のヤツと違いクズではないからこそ、事故で返って来なくならないよなと少し心配していた。
「それにしても……111-11って出来すぎてるわね!キセキの世代だから奇跡が起きたのかしら?」
「……そうかも?兄貴を探すのに一歩前進って感じ!」
彼は本当に嬉しそうに話している……黒子が泣いていた事なんて全く気にしていなかった。
そして、母親に111-11の真相を話すつもりも無い。
相手チームがちゃんと決めてくれた事により自殺点が無くなったので、観客達に目論みがバレる事が無かったのだ。
黄瀬にも、少し悪い事をしたなという自覚はあったので、お母さんには誤魔化していた。
「ねぇ涼太……もう無理に、お兄ちゃんを探さなくても良いのよ?」
「無理はしてないよ。お金を稼ぐついでに、ちょっと目立ってるだけだからさ」
「そう……」
少ししんみりする会話もありながら、黄瀬は全国大会優勝の夜を過ごしていた。
他のキセキ程では無いにせよ、黄瀬にも大量のスカウトが来ていた。
だが自宅から通いたい、キセキと同地区は嫌だ、モデル活動の許可が降りるという3つの条件を入れると、海常高校にあっさり決まった。
卒業式になると沢山の女の子から写真をせがまれたが、彼は途中で何とか抜け出した。赤司に呼ばれているからだ。
正直行く義理はあまり感じていなかったが、あの人を怒らせたら何が起きるか分からないので渋々向かった黄瀬。
「___これからはお互い敵同士だ。次は高校の全国の舞台で会おう」
「うっす」
「今ここで、はっきり代弁しよう___僕らは『キセキの世代』などと一括りに呼ばれる事を嫌悪している
もし戦えば必ず優劣がつく筈だし、自分より上がいる筈もない。それを証明する為に。自分以外を淘汰しなければ気が済まない___理屈では無く本能が」
黄瀬は本気でどうでも良かったので曖昧に頷いていたが、元チームメイトは同意している。
「だろーよ」
「否定する気は無いのだよ」
「黒ちんには分からないだろーね」
「…………いや。目指すものは全く違うが、テツヤも必ずこの戦いに加わる筈だ
答えがまだ全て出たわけではない。だがそれでも、決めたようだからね___黒子のバスケを曲げない覚悟だけは」
海常バスケ部の体験入部とモデル活動が被っていたので全部休み、正式入部の日に初めて部活に行った黄瀬。
「お前が黄瀬涼太だな……俺が海常バスケ部のキャプテン、笠松幸男だ」
「……どうもご丁寧に。これから宜しくお願いします」
定型文を返した黄瀬を見て、笠松は内心苛立っていた。
(一応先輩だから敬語使っとくか、興味ねぇけどなって魂胆がバレバレなんだよ!……ったく、躾甲斐のあるエース様だぜ)
「帝光中学出身の黄瀬涼太です。ポジションはSFですが、チーム状況によって変えられます。これから宜しくお願いします」
「あれがキセキの世代、黄瀬涼太……!」
「……なんか思ったよりも普通の奴だな?」
最初の挨拶も無難に熟した事により、反感は抱かれなかったが周囲に溶け込む事も出来なかった黄瀬。
彼はワンマンバスケが最強だと信じているので、周りのチームメイトなどどうでも良かったのだ。
基礎練習などは無難に熟し、次は新入生と上級生を混ぜた練習試合。
黄瀬の組んだチームに、キャプテンの笠松、後は他の1年生3人がいた。
相手チームにはスタメンの小堀と早川と森山と、多分ベンチ入りしている2人がいる。
「笠松先輩、この試合も当然、勝ちに行きますよね?」
「ワザと負けて良い試合があるか!しばくぞ!!」
「相手チームの方が総合力があるんで、一点突破ですね
……と言う訳で、取ったら全部俺に回してください」
全く海常という学校の選手を信じていない黄瀬は、欠伸を噛み殺しながら言い放った。
「ああ?!チームワークの欠片もねーな!」
「あー……まぁキャプテンの笠松先輩なら、ボロ負けする事も無いですよね。じゃあ先輩は突撃してください」
「……今回はお前に全部回してやる
だが、負けたら連携練習やらせまくるからな」
「何の役に立つのか分かんないっスけど、了解です」
最初から黄瀬に、SGの森山とSFと思われる中村がマークしてきたが……その程度でキセキは抑えられない。
___ダダッ、キュ、ダダッ
「森山と中村が振り切られた?!」
「速えぇ!流石キセキの世代!!」
『キャー!黄瀬くーん!!』
___スッ……パシッ
「お手本みたいなシュートだぜ……」
「1年とは思えねぇ……」
『カッッコイイー!!』
組んでいる1年生が抜かれまくるので点差はあまり付いていないが、黄瀬に回すと絶対外さない事でジワジワと点差が付いて行った。
___スッ……バシッ
「黄瀬止まらねぇ!」
「1人で……ワンクォーターで20点も入れやがった!」
『キャーッッ!!』
「というか、この女の子達ってどこから……」
休憩に入り、女の子達に軽く手を振りながらドリンクを飲んでいる黄瀬。少し面倒だが、兄貴を探すのに使えるモデル業の為なら仕方ない。
確かに顔は笑っているが、目の奥は冷静な黄瀬。
面白くもない仕事中なのだから、当然だった。
___ゲシッ!
『ブー!!』
「痛って……何で俺、蹴られたんですか?!」
唐突に太ももを蹴ってきたキャプテンに対して怒る黄瀬。
彼は、悪い事をしたつもりが無いのだから当然だろう。
「部活中にシャラシャラしてんじゃねーよ!!」
「これもモデル活動の一環ですよ!愛想悪いと雑誌が売れないんです!」
「知るか!今はバスケに集中しろ!!」
「休憩中なんだから良くないっすか?!てかそもそも、部外者の子が入れるのが悪いと思います!俺、盗撮されたら困るんですけど!」
「うっせぇ!自分で追い払って来い!」
___ゲシッ!
『ブー!!』
「痛ってぇな!……はぁ。無駄だと思うけど、一応やってみますよ……」
どう見てもヤンキーじゃないのに暴力を振るう笠松先輩にイライラしながら、黄瀬は一応女の子達に声を掛けに行った。
当然、本気で追い払ったりなどしない。
キャプテンの信頼より、周りから関心を持たれる事の方が重要だからである。
「ごめん、キャプテンの笠松先輩が怒ってるからさ、帰って貰っても良いかな……」
「あ、黄瀬くんだー!」
「こっち見てー!!」
「今は部活中なんで、静かにしてくれると有り難いっていうか……」
『キャー!黄瀬くーん!!』
「先輩達の迷惑にならない程度にファン活動を……」
「カッコイー!!」
「ダンクしてぇー!!」
黄瀬が近付いてきた事で喜んでいるファン達は、彼の言う事を一切聞いていない。
そもそも勝手に侵入してくる様な、マナーの悪いファンに何を言っても仕方ないと思いつつ、黄瀬はキャプテンが諦めるまで交渉を続けていた。
「あの、柔らかい声で話して欲しいなぁ……」
『黄瀬くん可愛いー!!』
「ははは、は」
___ゲシッ!
『酷ーい!!ブー!!』
「また痛っ!……あれ、そういや痛みが長引かない?」
「俺はしばくのに慣れてんだよ!……もう休憩時間終わりだっつの!早く行くぞ!」
「うっす」
もちろん試合は黄瀬達が勝ち、1からチームワークを学ぶ苦行は免れていた。
熱中症対策にこまめにドリンクを飲もうと思い、壁際によって手に取ろうとした彼の頭に、手のひらが乗っかった。
「ワンマンが過ぎるが……よくやった、黄瀬!」
___ワシャワシャ
「…………頭わしゃわしゃしないでくださいよ!子供じゃないんですから!」
「うっせ!まだ1年坊の癖に!」
「セットが乱れる!」
黄瀬は前世から高身長なので、あまり頭を撫でられる機会が無かった。
だから不思議な感触に困り、ついつい思ってもいない事を口にしていた。
___ゲシ
「今の蹴る必要ありました?!」
「このチャラ男が!セットが乱れる位、バスケに集中しろっての!……でだ」
急に真面目な顔をしたキャプテンに、黄瀬は少しだけ動揺しつつも顔をスンとさせて聞いた。
「なんですか?」
「お前は3Pが好きなのか?今回は妙に多かったが」
「いえ、合理的に考えた結果です」
黄瀬は先輩の、意志の強そうな眉毛を見ながら答えた。
絶対深掘りしてくる感じじゃん、そしたら絶対怒ってくるじゃん、面倒だなぁと思いながらだが。
「……理由を説明しろ」
「俺以外の1年生が、今まで練習を積み重ねて来た3年生に勝てる訳ないですよね。だから攻撃ではなるべく3Pを入れてました」
また蹴られるかと思って構えていた黄瀬だが、案外キャプテンは怒っていなかった。
何故か呆れた顔はしていたが。
「ったく……自分で決めりゃ、お前は楽だもんな」
「そうですね」
「そうかよ。ま、お前がチームワークをしたくなったらいつでも言え」
「うっす」
黄瀬の返事を聞いた後、笠松はぐるりと振り返って部員全員に言い放った。
「これが海常のエース、黄瀬涼太の力だ!
___これからは黄瀬中心のチームを作り上げていく!文句ある奴はいねぇな?!」
『はいっ!!』
「エースを、部員全員で支えていくんだ!海常ーッ!」
『ファイ、オーー!!』
大声で叫ぶ新たなチームメイトを見ながら、黄瀬は内心愚痴っていた。
……明らかに女の子より煩いじゃん、これでよく俺のファンに文句付けられたよね。
声量の問題というより、エースがチャラチャラと部活中に手を振っているのが問題だったのだが、黄瀬は気付かなかった。
手を振ることが日常になっている為、駄目な事だと思えなかったのである。
「お前はもう、キセキの世代じゃない……海常のエースだ。良いな」
「……分かりました」
(呼び名とか別に、何でも良くね?)
「まだお前は、キセキの世代って呼ばれてたいか?」
「呼び方とか割とどうでも良いっすけど……キセキの世代って名前の方が目立ちそうですよね」
「こんっだけ注目されといて、まだ目立ちたい訳?」
「まぁ、はい」
呆れている笠松に気付きつつ、自分の事情など一切説明しないまま黄瀬は会話を終わらせた。
帝光中学校のバスケ部が異様に殺伐としていたので、それがデフォルトだと思い込んでいるのである。
精神を削られながら話す位なら、その辺の女の子と話していた方が良いなと黄瀬は思っていた。
別に彼は女好きでもないのだが、同性は妬み辛みがかなり酷いのだ。
まぁ本人は、運良く産まれ直す事が出来た上に義母とも血縁関係が出来たので、幸福だと思っていた。
そして俺とお母さんが完全な幸せを得る為に、後は兄貴を見つけてやると決心している。