___ダダッ、キュ、ダダッ!
___スッ……パシッ
___ダダッ、キュ、ダダッ!
___ガンッ!
「黄瀬強えぇ!!」
「勝てる訳ねぇよ……あんな化け物……」
入部してから2週間で、他校との練習試合は2回。
2チーム共、全国クラスの強豪校だったが圧勝していた。
当然、キセキの世代の黄瀬涼太がいるからである。
「66-6で、海常高校の勝ち!礼!!」
『ありがとうございました!!』
良い試合展開に出来た黄瀬は、少し喜びながら休憩している。当然、女の子達に手を振りながらだ。
___ゲシッ!
「痛た!また蹴らないでくださいよ……」
「黄瀬……ちょっとこっち来い」
「え、何かありましたっけ?」
「いいから!!」
「うす……」
若干思い当たる所があった黄瀬は、嫌そうな顔をしながらミーティング室に付いて行った。
___ガシャン
黄瀬が扉を閉めた直後、キャプテンが首元を掴んで睨み付けて来た。
「は?首が締まりそうなんで、辞めて貰えません?
……これ以上やるなら、こっちも正当防衛しますけど」
「チッ!」
前世で会得した全力パンチを、笠松先輩にお見舞いするしか無いのかと悩んでいたあたりで手を離された。
「けほっ……」
「___お前、66-6のゾロ目を狙ったな?」
肉食獣みたいな眼圧で睨まれている黄瀬。
コミカルに首を傾げ、やれやれと両手を外に曲げながら呆気なく暴露した。
「あーバレちゃいましたか……かなり自然にやったつもりだったんですけどね」
「決勝戦でもゾロ目だったからな、こりゃ絶対おかしいって直ぐ分かったぜ。で……何でこんな事をした」
何で俺の目的を、よく知らない他人に言わなきゃいけないんだ。絶対に言わねぇよと思いながら、彼は軽薄な笑みを浮かべた。
「んー、ゾロ目がカッコイイと思ったから?」
「カッコいい、だぁ??
___バスケを馬鹿にしてんのか!!」
激昂したキャプテンを見ながら、黄瀬はため息をつく。
「俺がバスケをやってるのなんて、もっと目立ちたいからってだけですよ
学校で1番強い部活がバスケだったから入っただけなんで、わざわざ馬鹿にする程興味無いですから」
「……黄瀬、お前入学初日も目立ちたいって言ってたな。理由でもあんのか」
とにかく熱血系のキャプテンだと思っていた黄瀬は、案外頭が良い笠松先輩を見て顔を引き攣らせた。
別に少し位なら、コイツに説明しても問題ないけど……俺の人生を否定されたらスゲェ腹立つから言いたくないと、彼は思った。
「ありますけど、個人的な事情なんで言いたくないです」
「あっそ___でも次からゾロ目はやるんじゃねーぞ。海常バスケ部というチームの名が穢れるからな」
「……分かりました」
目立つ為に出来ればゾロ目を続けたかった黄瀬だが、あまり周囲と揉めても後で面倒になるから諦めた。
彼は性格が悪いが、物わかりは悪くないのである。キセキの世代の中で1番、妥協する人間だった。
黄瀬に媚びてくる小太りのおっさん監督が、あくびを噛み殺しながら、一応言っとくかみたいな呑気な顔をして話している。
「あー……明日は一応、誠凛とかいう弱小チームが練習試合に来るからなー。学ぶ事も特に無いだろうけど、一応覚えておけー」
『うーっす』
中弛みしている空気の中、黄瀬は何か忘れている様な気がしてウンウン唸っていた。
「どうした?黄瀬」
「あー笠松先輩、何か忘れている気がして……あ゙っ!!」
『どうした?!』
練習中でも澄ました顔をしている黄瀬が、慌てた様な声を出した事で部員全員から注目が集まった。
「そう言えば、帝光中のシックスマンが誠凛に入学してるって桃井さんが言ってました!」
『帝光中のシックスマン〜ッ?!』
思わぬ強敵が出現し、動揺している部員達。
普段はノリが軽い森山も、慌てて黄瀬に聞き返して来た。
「それってあの、幻のシックスマンとか言う……」
「はい。異様な存在感の薄さを活かしたパスの天才です
得点力は低いですが、目の前に立たれても一瞬気付けない程に存在感がない彼のパスワークを防ぐ事は、非常に難しいですよ」
『へぇ……』
(そんな選手が居たのか?!リサーチ不足だった!!スカウトしてりゃ取れたかもしれんのに……!!)
監督が血涙を流す勢いで悔しがる中、黄瀬はしっかり情報を伝達した。
「黒子テツヤには、いくつか弱点があります
1つ目はフィジカルが弱い事。足も遅いしパワーも無いしシュートも入りません
2つ目は人の目のある所に移動するのはリスクがある事。目に入ると流石にいるのがバレちゃいますし、段々と影の薄さに慣れられてしまうリスクがあります
3つ目はスタミナが無い事。大体半分位しか試合に出られません……まぁこれは、影の薄さに慣れられてしまうという弱点も含んでですが」
『…………』
黄瀬の言う事を吟味したチームメイト達。
笠松は、部員達を代表して黄瀬に問いかけた。
「つまり黒子は、キセキの世代程じゃねーって事だな?」
「そうですね。彼は強力な味方がいる前提で、精々無冠の五将位の戦力になる程度です
でも……赤司さんが言うには、『黒子のバスケを曲げない覚悟だけは決めた』らしいから、何かしらの策があるのかもしれません」
『へぇ……』
曖昧に頷いた選手達。彼らは、周りを活かすタイプのシックスマン如きに何が出来るんだ?とナチュラルに見下していたのだ。
「じゃーお前ら、何があろうと動揺するなよ!
幻のシックスマンが誠凛にいようと、俺達には黄瀬がいる!エースを支えるのが俺達のバスケだ!!」
『おうっ!!』
「結局俺は温存か。あの赤髪も強そうだし、一応出しといた方が良いと思うけどなー」
「お前は先輩の活躍見てろ!」
「はーい」
次の日、誠凛との試合が始まり黄瀬はベンチの置物の予定。
笠松がドリブルを開始した直後……カットされた。
___バシッ!
「マジどこから湧きやがった!……でもやっぱ黒子は、足が遅せぇな!」
「違う!火神だ!!」
___シュッ
「何?!」
「あーあ……」
___ガンッ、バキッッ!!
「よっしゃーっ!!えっ、うおおぉ!!」
「ゴール破壊しやがった!!」
「うわ、ボルト1本錆びてるよ……」
「それでも普通ムリだろ……」
ゴールポストを破壊した火神を見て、海常高校一同は顔を引き攣らせていた。
正直舐めていた誠凛高校の1年が、強いと確信したのだ。
(うわ。黒子くん、やっぱ強い相棒見つけてたんだ
流石は赤司さんの観察眼だな……でも今の俺以下じゃね?キセキの世代に勝つって言える程では無いよな)
「すみませんでした!!」
「ムムムム……!」
自チームの監督に頭を下げているのを見ながら、黄瀬は考え事をしていた。
(もし、この程度の雑魚に負けたら……俺には才能が無いからバスケを辞めよ。バスケってつまんないしな)
伝統ある強豪校のエースを背負う彼は、人情の欠片も無い事を考えていた。
チームに義理を全く感じていないから、簡単に辞められてしまうのだ。
それに自分の学力より低い学校を選んでいる為、部活を辞めても本人的には全く問題ないのである。
「すみません、ゴール壊しちゃいました。これじゃ試合にならないので、前面側のコート使わせて貰えませんか?」
「ぐぬうっ……!!」
『キャーッッ!!黄瀬くん!頑張ってぇ!!』
『ははは……やっぱ出る事になったか』
軽く手を振った後直ぐに、蹴り飛ばされないかどうかキャプテンを確認した黄瀬。
蹴られないギリギリの秒数を狙ってファンサービスしているが、偶に予測とズレる事があった。
「うわ、なんじゃあの歓声??」
「黄瀬が出るといつもっすよ……ていうか今の状況、分かってんのか黄瀬!何者なんだ、あの10番!」
「俺も全く知らないっすよ……俺の見立てだと、ジャンプ力が高い選手だと思いますけど」
原作と違い誠凛高校に遊びに行っていない黄瀬は、火神の事を全く知らなかった。
だが彼は、肉体が持ち得る類まれなる観察眼と前世からの頭脳を活かし、ある程度は火神の能力を把握していた。
「お前そんな事も分かんのか……とにかく、あんな盛大な挨拶貰ったんだぞウチは___きっちりお返ししなきゃ、失礼だよな」
「うす」
かなり面倒だったが、人望のありそうなキャプテンの言う事位は聞いておくかと頷いた黄瀬。
何となく、仕方なく聞いているので彼の気分が変われば容易く辞めるだろう。
黄瀬が試合に入り、海常高校の攻撃。
「行け、黄瀬!」
「はい!」
___ダダッ、キュ、ダダッ!
「速すぎるっ!」
「……行かせるか!!」
「ダンクお返し!!」
全力で中に入れるのを止めようとしている誠凛チームを見て、黄瀬は唐突に裏をかきたくなった。
___キュッ
___スッ……パシッ
『キャーッッ!!』
「と見せかけて……3P」
『はぁ?!』
あえて空気を読まない黄瀬の動きに、両チームの選手達が振り回されていた。
「馬鹿野郎!ぶっ壊せって言っただろうが!!」
「すみません……でもダンクを警戒されてた、今が打つチャンスだったと思います!」
___ダンッ、ダンッ!
___ガンッ!
「こっちも全開で行くぞ!!」
『おうっ!!』
また火神のダンクが炸裂し、士気が高まった誠凛高校。
黄瀬はどうでも良さげな顔をしながらも、目は真剣に火神を追っている。
彼は一応、根は多少真面目なのだ。色々あって、性根が腐りかけているが。
「だからダンクで士気を削げって言っただろうが!」
「えー。目に見えないやる気を削ぎに行くより、普通に点数を入れた方が良くないっすか?」
「ったく……お前はまだバスケ始めて2年ちょいだから、分かってねぇんだよ」
「まぁ、その点は否定しませんが」
そうして、エゲツナイ点の取り合いが始まった。
『はあっ、はあっ……!!』
___キュキュッ、スッ……
「あのスピードでフェイダウェイ!」
___バシッ!
「黄瀬が止めたぁ!!」
「そのまま突っ込んでくぞ!」
___ダダッ、キュ、ダダッ!
___キュキュッ、スッ……パシッ
「黄瀬が返したぞ!!」
「止まるな!足動かせ!!」
「……」
「またいきなり!てか何故俺に言う!!」
「…………悪いです……火神…………それ以上の力で…………追いすがる……」
ボソボソとした声の黒子と、誠凛のキャプテンが話している声が少しだけ聞こえ、割と警戒し始めた黄瀬。
何やかんや、元チームメイトの実力をある程度は認めているのだ。
「誠凛、タイムアウトです」
「なんだ……タイムアウトの準備か……」
拍子抜けした黄瀬はベンチに座った後、渡されたドリンクをゴクゴクと飲んだ。
タイムアウトが開けた後、誠凛は陣形をボックスワンに変更して来た。
火神にマンマークされた黄瀬は、思わず半笑いが出る。
(なるほど。俺を火神くんが抑える様に、全員でフォローしていくって感じか。でも……そもそも脇枠も海常の方が強いのに、それでお前ら戦える?)
___スッ……パシッ
「おお!一蹴の3P!!」
『良いぞ良いぞ笠松!良いぞ良いぞ笠松!』
「海常レギュラー舐めてんのか?ぬりぃにも程がある!」
(でしょうね……笠松先輩なら、決めるでしょ)
多少は信頼していると言う事を、口に出さない黄瀬。
そんなんだからチームメイトに信頼されないのである。
まぁ別に、彼はされたいとも思っていないが。
隔絶した実力派があるのは分かってるんだから、勝率を上げる為に俺に回せよ位しか考えていないのである。
___スッ……パシッ
「なるほどね……少し慣れてきたかも」
『良いぞ良いぞ森山!良いぞ良いぞ森山!』
(あ、マグレで入ったな)
ちなみに黄瀬は、キャプテン以外は信用していない。
彼に散々蹴られたり怒られたりしているが、言っている事に一貫性がありチームの為を思っている事は伝わって来るので、意外と好感度が高いのである。
性格が全く合わなかった赤司とか緑間よりは、既に断然好感度が高かった。
だが他のスタメン勢の事は、最低限のプレースタイル位しか知らない位に興味が無い。
この黄瀬は、友好的に話し掛けてきた人間にしか興味が湧かない人種である。
3クォーターに入った。
火神を1人でマークしている黄瀬は、彼だけを見て追いかけている。
___ダダ、キュ、ダダ!
性懲りもなくドリブルで突っ込んでいく火神を見ながら、黄瀬は思案していた。
(休憩開けだ、何か作戦があるはず……)
___シュッ
「黒子くんへのパスか!」
___ゴン、パシッ
「また火神が決めたぞ!!」
「ちっ……でも黒子くんに、やっぱりシュートは無いな
それなら俺は、火神くんを徹底マークすれば良いだけ!」
黄瀬は火神と黒子の連携を見て、確かに実力が足りないならパスもありだなと納得した。
……だが、俺に勝つには足りねぇと嘲笑う。
___ダダッ、キュ、ダダッ!
___ガンッッ!
「それに……俺を止められる訳じゃ無いし」
黄瀬がまた点を入れた後、先程の焼き増しの様に火神が突っ込んで来た。
___ダダ、キュッ、ダダ
「また黒子くんへのパスか……でも火神くんさえマークしてれば……!」
___シュッ
___スッ……パシッ
「今度は誠凛キャプテンに!……駄目だこりゃ」
(簡単に抜かれてんじゃねーよ森山!……駄目だこりゃ、マジでコイツら使えねぇ……)
黄瀬は、笠松先輩以外のチームメイトはやっぱり使えねぇやと諦めた。