「今度は誠凛キャプテンに!……駄目だこりゃ」
味方はやっぱり使えないな、まぁ消去法で選んだ学校だから仕方ないけど、と考えている黄瀬。
呟いている最中、寧ろキャプテンが最低限使えるだけマシだったのでは……?と思い直して立ち直った様だ。
だが彼の呟いた、「駄目だこりゃ」という言葉の意味を履き違えた笠松が吠えた。
「おい黄瀬!今なんつった?!」
「はぁ、マジで同点にされちゃうとは……でも、残り3分って丁度良い時間だし___行くぞ、火神!」
「ははっ……勝負だ!黄瀬!!」
___ダダッ、キュウ、ダダッ!
___バタッ
「は……?」
「火神が急に倒れた?!」
「どういう事だ?!」
黄瀬と火神が相対した瞬間、火神が足を縺れさせて倒れ込んだ。
___ダン、キュッ、ダンダン
___スッ……パシッ
「これで3得点!……黒子くん、元チームメイトの技位はエースに教えておきなよ」
「今のは、赤司くんの___エンペラーアイ」
原作と違い、この黄瀬は部活時間は真面目に練習している上、他のキセキの世代に対して憧れを抱いていなかった。
だから、まだ3分だけだが赤司をパーフェクトコピーする事が出来ていた。
……というか、この黄瀬は全員分のコピーが完了しているし死力を尽くせば5分位は持続出来るのだが、たかが高校の部活に選手生命を賭けたくないと思っているので結局3分までだった。
___ダンダン、ダン、キュ、ダンダン
「黒子くん、取るのは無理だよ」
___スッ……パシッ
『黄瀬くーん!!』
「黄瀬の、2連続3Pだ!!」
「やっべー、マジでヤッベー……」
___ピーッッ!!
「……121-90で、海常高校の勝ち!」
『ありがとうございました!』
黄瀬がパーフェクトコピーで無双した結果、大差で勝利した海常高校。
だが黄瀬以外の出場メンバーは、勝ったのに絶望した様な雰囲気を漂わせていた。
「ば、化け物……」
「俺……今回の試合、何もしてなくね……?」
「クソッ!負けた!!」
「あんなのにどうやって勝ちゃいいんだよ……」
残り3分になると、もはや突っ立っているだけになっていた最上級生達。
笠松キャプテンも内心割と困惑していたが、黄瀬が赤司のコピーについて一切教えて来なかった事に気付いて蹴っ飛ばした。
___ゲシッ!
「痛!……ちゃんと勝ちました、俺!」
「赤司のコピー出来るなら最初から言っとけや!」
「はぁ?!言ったら誰かが漏らしちゃうかもしれないじゃ無いですか!敵を騙すには、まず味方から!」
___ゲシッ!
「じゃあ練習試合なんかで使うな!」
「そもそも先輩達が、新設校如きの選手に抜かれまくるのが悪いですよね?!火神くんを止めなきゃ行けないのに黒子くんの相手もして、更に他のフォローするのは俺だって厳しいんスよ?!」
黄瀬は、笠松先輩以外は火神くんと黒子くんと俺の力ににビビって、全く使い物にならなかっただろという不満を少し漏らした。
言わねぇけど隠し玉はまだあるから少し位見せても良いだろ、と勝手に判断している。
エースが隠し玉をいくつも隠していると戦略に大きく関わる為、せめてキャプテンと監督位には言った方が良いと思われるが……彼は全員に隠した方がデメリットが少ないと判断していた。
___ゲシッ!
「お前が独断専行するから俺達が困るんだっつーの!
まぁでも……今回は確かに、俺達が足手まといになってたな。悪かった」
目を血走らせていたにも拘らず、急に冷静な顔で頭を大きく下げたキャプテン。
黄瀬は、笠松先輩は最低限の動きは出来ていたと分かっていたので、バツが悪くなって俯いた。
「別に……キャプテンは問題なかったと思います」
「いや、俺も何回も透明少年に取られたし___それにチームの動きが悪いなら、主将である俺の責任だ
不甲斐ないプレーで試合をお前任せにして、悪かった」
「もう良いですから!!頭を上げてください!!」
不良で言うならカシラに頭を下げられている現状が気持ち悪かった黄瀬は、大声で喚いていた。
生意気なエースの、半ば悲鳴を聞いて顔を上げた笠松。
腹黒い表情でニヤリと笑った後、彼の事を茶化し始めた。
「へー……嫌いな奴に頭を下げられても、愉快になる訳じゃないんだな。お前」
「別に、嫌いな奴のプライドなんかに価値は無いですよ
……それに俺は、別にキャプテンの事が嫌いって訳でも……好きでも無いですけど……」
「ハハ、正直な奴だな!」
好きではないと言うのは、黄瀬の精一杯の虚勢だった。
笠松という人間のカリスマに、彼は既に割とやられていたからだ。
万が一裏切られた場合、自分のメンタルを守る為についた嘘だと本人だけは自覚していた。
___ゲシ
「何で今、また俺の事蹴ったんスか?!そこは頭撫でるとかも良いのでは?!」
「おー、撫でて欲しいのか?」
___ワシャワシャ
「蹴られるよりはマシってだけですけど?!」
黄瀬は気疲れしながら、誠凛高校を見送った。
「黄瀬くん……今回は負けましたが、次はボク達が勝ちます」
「次も俺が勝つ……多分!」
元教育係だった黒子は不貞腐れている黄瀬を見ながら微笑み、爆弾発言を突きつけた。
「相変わらず、妙な所で自信の無い人ですね……
それはそうと、帝光中の頃より楽しそうにしてますね。チームメイトの皆さんと仲良くなれましたか?」
黒子の言葉を聞いて、黄瀬は嫌な気分になった。
「なれる訳ないじゃん!俺のフィジカルとテクニックとイケメンさを見て、同性が嫉妬しない訳ないんだから」
「そういう所、ウザいです」
「はぁ……ハッキリ言うよね、黒子くんは」
でも俺がスポーツ万能でイケメンなのは事実だから、誤魔化しても仕方なくね?
ワザと下に合わせるのも嫌だし……兄貴を見つけるのにはきっと使えるしな。
黄瀬は大体、そんな事を考えていた。
前世でのネグレクトに、立ち直ってからの避けようが無い大事故、芸能活動の闇やキセキの世代としての誹謗中傷で、大分性根が歪んでいた。
実は彼は、元々の性質的には割と良い奴なのだが、異常に環境が悪かったのだ……根本的に、運の無い奴である。
前世でもスポーツ万能で顔が良くて頭まで良かったが、それを相殺してしまう位、彼は不運な出会いばかりだった。
原作と違い緑間に黒子を見つけたと連絡しなかったし、火神に達会いに行かなかった黄瀬。
原作で言った筈の、「1つ言えるのは……黒子っちが火神を買う理由がバスケへの姿勢だとしたら……黒子っちと火神は、いつか決裂するっすよ」という忠告などが一切無くなっていた。
これが悪い方向に行くかもしれないが、一応友人程度の距離感だった黄瀬からすれば関係ない話だろう。
誠凛との試合の後、スタメン勢は流す程度の筋トレ時間が終わった。
精神と筋肉を消耗する非常に激しい戦いだった為、これ以上負荷を掛ける訳には行かないと監督が判断したのだ。
不摂生な太り方をしているし無精髭は生えてるし格下をあからさまに見下す悪癖がある監督だったが、その辺の思考回路は割とマトモだった。
本人も自覚しているが、前世より身体の耐久力が弱い黄瀬は感謝するべきである。
「俺、今日も支度に時間掛かるんで鍵当番やりますね!」
『おう』
モデルとして身嗜みに手を抜けないという理由も確かにあるが、単純にチームメイトと下校時間をズラしたい黄瀬がにこやかに言い放った。
……彼は基本的に、人間不信が酷いのだ。
地頭が良いから、狡猾な奴に騙される度に大層落ち込んで性格が悪くなっていった。
この世界の黄瀬は、基本的に出会う人間にあまり恵まれない傾向にある。
前世の方が酷かったから、本人は全く自らの不幸に気付いていないが……芸能界は推しの子の世界線なので、黒子のバスケの芸能界より相当ドス黒かった。
だから、15年も善人の兄貴に執着し続けているのだ。
俺が最後まで残っていようと、ちゃんと鍵は職員室に返すから誰にも迷惑掛けないし、別に良いだろと開き直っている黄瀬。
チームメイトと話して友情を深める気は、一切無かった。
黄瀬にとって、所詮チームメイトなどビジネス関係。
一切交友関係など結ぶ気が無いと、あからさまに主張している事を知っていながら笠松は宣言した。
「今日は俺が鍵当番をする……支度が終わるまで、何時間でも待ってやるよ」
黄瀬にとって最悪の発言を聞き、顔を引き攣らせた。
何なら、火神に馬鹿力でゴールを破壊された瞬間よりも困惑している。
「ゲッ……マジですか??」
「ワザとチームで浮こうとしてんのが悪いんだよ!泣こうが喚こうが、今日は一緒に帰るからな
……皆で帰るのと俺と2人で帰るの、どっちがマシだよ」
「…………」
笠松キャプテンだけを待たせるのは、めちゃくちゃ迷惑だと分かっている。
別に人に迷惑を掛けるのが趣味な訳でもないから、なるべくならやりたくない。
……でも、チームメイトとか言う名の、どうせ天才を排除しようとしてくる敵集団と帰る事も嫌だ。
悩んだ結果、渋々と言った声で黄瀬はお願いした。
「…………じゃあ笠松キャプテン、すみませんが2人で帰る感じでお願いします……」
「分かった。じゃーお前らは速く帰れ!近くにいると、黄瀬がいつまで経っても出発しねぇからな!」
『お、おうっ!』
他の部員達が完全にいなくなった後、黄瀬はワザとゆっくりしていた支度を終えてキャプテンに声を掛けた。
「じゃあ……一緒に、鍵を返しに行く感じですか?」
もしかしたら俺と帰るのが嫌になって来てないだろうかと、キャプテンに尋ねた黄瀬。
疑い深く、他人の言動をを信じられない性格なのだ。
どうせ人の言う事や考える事なんて、ころころっと変わると確信している。
「当然だろ。何の為にわざわざ待ってたと思ってんだよ」
「ですよねー……」
「どんだけ1人で帰りたいんだよ、お前」
別に笠松先輩となら、まぁ一緒に帰っても良いかなと内心は思っている黄瀬。
だが自分の本音を曝け出す様な事は怖くて出来ず、乾いた笑い声を出しながら嘘を付いていた。
「……だって、1人が1番落ち着くっていうかー」
「じゃー何で女を引き連れてんだよ」
「人気商売ですから、仕事の範囲ですよ」
「モデルってイケメンが、カメラマンの前で笑ってりゃ良いだけじゃないんだな……」
「そりゃどんなイケメンの写真を買いたいかって言ったら、ファンサしてくれるイケメンのを買いますよねー」
黄瀬は早足で笠松先輩を置いていきたくなる衝動に駆られていたが、全力疾走しないと無理だし後で絶対怒られると、渋々笠松の歩調に合わせて歩いていた。
彼は微妙な所で損をする、若干真面目な性格をしている。
「失礼します、バスケ部の鍵を返しに来ました」
「失礼します!バスケ部の笠松です!!バスケ部の鍵を返しに来ました!!」
「あら黄瀬くん!……と、笠松くん
珍しいねぇー、チームメイトと来るなんて」
ドギツい化粧をしている教師は、若干ボソボソとした話し方の黄瀬をねっとり見た後、笠松の方をチラリと見た。
「はは……俺も驚いてます……あれ、笠松先輩?」
「怖くない怖くない怖くない……」
「え、何?笠松先輩が怖い!」
なるべく速く帰宅したい黄瀬は、笠松と教師の方を見ないようにしながら颯爽と去っていった。
「じゃー鍵は返したんで!失礼しました!!」
「待て黄瀬!俺を置いてくな!!」
「黄瀬くーん!また来てね〜っ!!」
対人関係の運が致命的に無いこの世界の黄瀬は、また変な奴に目を付けられていた。
彼はそういう事に前世から慣れきっているので、軽いダメージを受ける位で済んでいたが……心が弱い人間なら即座に不登校になるかもしれない。
黒子のバスケの治安の悪さと推しの子の芸能人へのデリカシーのなさなどが悪魔合体している余波を、黄瀬はモロに受けまくっている。