111-11   作:いちごケーキ

6 / 6
6 副主将

 

 

 

 

笠松先輩と小堀先輩と3人で帰ることになった黄瀬は、俺が職員室に行くから小堀先輩は1人で帰ってくれねぇかなと酷い事を考えていた。

一応、自分の為に残ってくれた先輩相手とは思えない塩反応である。

 

……黄瀬の予想では、小堀先輩に俺の為なんて事は一切無く、笠松主将の為にやってくれるだけだったからだ。

実際の小堀先輩は、割と黄瀬を憐れんで助けてあげようと思っていたのだが、知る由もなかった。

 

そもそも前世が更に悲惨だった彼からすればこれくらいの問題は困り事とも言えない程度の範囲だったので、憐れまれても困惑するしか無いが。

彼の周りには憐れみつつ何もしない人で溢れていたので、何も思っていないのと区別出来ないのである。

 

 

 

 

黄瀬は髪を整えながら、盛大に気まずさを味わっている。

自分の事が嫌いな人に、ちょっと怖い人がいるから付いてきて貰うなんて申し訳ないと思っているからだ。

彼の思考回路はかなり物騒なので、ちょっと執着されている位なら誤差範囲扱いしていた。

 

だから黄瀬は、この程度で助けて貰おうなんて烏滸がまし過ぎて自分に腹が立っていていた。

別に彼本人が助けて欲しいと言った訳ではなく、周りが勝手に助けようとしている事は、既に忘却の彼方だった。

 

何なら黄瀬は、後で大半の部員から対価を要求されると思っていた。

人の親切を受け取るには対価がいると、真面目に信じ込んでいるのである。

 

 

対して小堀も、凄まじい天才である黄瀬に大切な友人がベンチメンバーから蹴落とされたから逆恨みしている自覚があったので、バレていた事で非常に気まずかった。

 

確かに黄瀬は多少性格が悪いが、キセキの世代の中では圧倒的にマトモな人格をしている。

それに、天才はどこかな壊れているというのは良く聞く話だから、多少生意気なのは仕方ない事だとも小堀は思っているのだ。

 

……それに黄瀬は伝統ある海常高校の1年生エースなのに、他者と殆ど関わろうとしないのは、今まで受けた理不尽のせいだと発覚してしまった。

ここまで来ると、泣きたいのは黄瀬の方だろうなと頭では納得したのだ。

 

イケメンだから悪人から狙われ、バスケの天才だから人々から妬まれるなんて酷い話である。

本人の立ち回りが上手くないのも多少はあるのかもしれないが、散々人に危害を加えられていたらそんな事を考えていられないだろうと思ったのだ。

 

それでも後輩を完全に慈しむ事が出来ない自分を、小堀は責めていた。

別に黄瀬本人は、俺の事を1ミリたりとも嫌わないで欲しいなんて考えていないのだが……性善説を信じている小堀からすれば、自分が情けなかった様だ。

 

 

『…………』

 

暗い沈黙に包まれている部室で、笠松は唐突に黄瀬に無茶振りをした。

 

 

「暇だし何か話せ。面白くなくても許してやるから」

「え゙っ……そういや俺って料理作るのが割と得意なんで、お母さんの誕生日は毎回フルコース料理作ってるんですよ

小学生に上がった位の頃から作ってるんで、今じゃ2時間位で作れる様になりました」

 

前世を入れたら10年以上作っているから、割とプロに近い味なんじゃないかと内心で自画自賛している黄瀬。

異常な器用さをフル活用しているので、実際の所その辺のプロより美味しいディナーが作れていた。

 

頭脳を前世から受け継いでいる関係で、原作の彼が苦手としていた勉強や絵を描く事も寧ろ得意になっている。

そんな彼は、赤司とは別ベクトルの超人でしかなかった。

 

彼が努力して手に入れられないのは、運の良さ位である。

 

 

「やべぇな……バスケも出来て料理も出来るとか、マジ何者だよ!」

「ははは、厳密に言うと多分逆なんですよね。異常なレベルで器用だから、バスケが得意で料理も出来るんですよ」

 

笠松は黄瀬の自慢の様な何かを聞いて少し思案した後、興味本位で質問した。

 

 

「そりゃ良いな!

……でも、何でも出来るのって楽しいのか?なんつうか、出来る喜びみたいなのを奪われてる感じもしたんだけど」

「まぁそういう側面もあるでしょうね

バスケで必要なのも地味な筋トレばっかで、見た技は大体脳内で勝手にコピーしますし」

「うへぇ、よく続けられるな。それ……」

 

ドン引きした様な顔をしている笠松キャプテンに対して、黄瀬はにこやかに答えた。

彼は自分の事を不幸だと特に思っていないので、ちょっと嫌な事もあるよね位の軽い話として答えていた。

 

 

「まあ俺は目立ちたいだけで、バスケでもモデルでも野球でも、何でも良かったんですよ

演技力はないし話力も高くないから芸能人として大成するのは難しい場合って判断して、2年前に校内で1番強い部活に入っただけの半端者ですから」

 

黄瀬の話を聞いて、小堀は才能の差を妬んだ。

だが笠松は、そんな才能があったら欲しいものが無くなるだろうなと達観していた。

 

 

「へぇー、そこまでして目立ちたい理由はやっぱ気になるな……お前なら他の物だって、何でも手に入るだろうに」

 

親友兼兄貴を探しているという理由を、何となく隠していた黄瀬。

だが自分のしょうもない話を聞いてくれた対価として、話しても良いかなと思い直したらしい。

できれば笠松先輩だけに話したかった様だが、小堀先輩にも自慢を聞かせてしまったから教える事にした様だ。

 

でも俺の原動力なんて、聞いた所で何の得にもならないから無駄話を追加で聞かせちゃうだけだよなと、自嘲しながら話し始めた。

 

 

「……まぁ隠してるってほどでも無いんで言いますけど

昔、俺を1度も裏切らなかった友人がいるんですよ

でも引っ越しか何かで会えなくなって……俺が沢山目立てば、会いに来てくれるかなって」

『…………』

 

子役として一斉を風靡し、現役人気モデルとバスケ全国大会優勝を同時に熟した天才の、望んだモノは裏切らない友人だった。

具体的な定義は分からないが、彼らは黄瀬が何もしないまま漠然と嫌われたり付け狙われたりしている姿を見ていた為、かなり切実な悩みだと察した。

 

若干黄瀬を嫌っていた小堀ですら、流石に可哀想になって少し涙目になっている。

黄瀬はまさか本気で、友人を探す為にモデル活動もバスケも続けているのか……?

ヤベェ話だけど、こんな嘘をつく理由も無いしな……

天才過ぎて手に入らない物を、天才性を活かして探し続けてるのか……流石に憐れだ。

 

あまり好きではない後輩相手とはいえ、人が良い小堀はそうやって同情していた。

 

 

「そうか……俺は友達にはなれねぇけど、お前が裏切らない限り裏切らない先輩にはなってやれるぞ」

「そっ、すか……アザース!」

 

信用ならない詐欺師を見るような目線で笠松を一瞬見た後、雑誌の表紙の様な笑顔でお礼を言った黄瀬。

……笠松の言葉を信じていない事が、少し考えればありありと分かる満面の笑みだった。

 

 

「信じたい物を信じて良い筈なのに、突出した才能に振り回されてるんだな……人間、制御出来ない才能があっても仕方ないのかも……?」

「あれ。小堀先輩、何か俺に同情してます?」

 

敵意がほぼ消えて困った様な顔で見てくる小堀に対して、不思議そうに尋ねた黄瀬。

彼にとって信用出来ない人が周りに沢山いるのは日常なので、憐れまれる理由が分らなかったのである。

 

人間は、ちょっとした利益があれば簡単に敵対してくるモノだと確信しているのだ。

 

 

人に裏切られ続ける人間不信の人好きというのは、確かに最初から最後まで可哀想な話だった。

 

 

 

 

 

 

東京予選が始まる直前、黄瀬と笠松は監督命令で会場に向かっていた。

 

 

「片っ端から人警戒してる割には、普通に話に乗ったな」

「……笠松先輩は、急に本気で殴りかかって来ないって信用する事にしたんですよ。だってエースが怪我したら、不利になるのって先輩もですよね

裏切られたら、海常のバスケを質に取れば良いかなって」

「そりゃそうだな」

 

海常のバスケを最優先にしている笠松キャプテンは、そりゃそうだと彼の言う事に納得していたが……

この程度の緩い条件で笠松に気を許せたのは、結局黄瀬が先輩を信じたいと思ったからだった。

 

 

「それより緑間くんは、おは朝占いの順位が良いと好調になるんですけど……1位でした。黒子くんも最下位だったので、これは秀徳の勝利が揺らがないですかね?」

「___まだ個人で戦ってるお前じゃ分からないだろうけどよ、バスケって団体戦なんだぜ

緑間だけ好調でも、他の選手が不調だったら駄目だろ」

 

確かに雑魚が不調だと、キセキ同士が戦ってる時は困るなぁと思った黄瀬。

だが結局、誤差範囲じゃないかとバスケを長年やって来たキャプテンに質問した。

 

 

「ええと、でも……他の選手が好調でも、正直キセキに勝てないと思うんです

言い方が悪いかもしれませんが馬鹿にしているとかじゃなくて、スペック差が有り過ぎて戦いにならないのではと思いまして……

 

キセキの世代って殆ど、攻撃有利の極致じゃないですか

殆どのボールをキセキに回すなら、他の選手の不調ってあまり関係ないと思って……あんまり俺はバスケに詳しくないので間違ってるかもしれませんが」

 

新米エースの素朴な疑問を聞いて、笠松はギョッとして質問仕返した。

 

 

「は?キセキの世代って、そんな攻撃側が有利なのか?」

「そりゃ普通に考えたら、火神くんの時と似たような感じになりますよ

キセキの世代は耐久力に対して力の出力が強過ぎて、キセキ同士の戦いが禁止されてましたから……黙々と1人で出来る、攻撃の方が得意になって当然だと思います」

「聞いてねぇし!俺達だって、お前らの中学の頃のルールなんて知らねぇよ!!」

「そういや言ってなかったですね!すみません!」

 

報告・連絡・相談を完全に怠っていた黄瀬。

彼は自己判断で隠す内容と、うっかり言い忘れていた内容がごっちゃになって意味不明な事になっている。

 

そもそも彼は帝光中学時代、桃井や赤司という何も言わなくても察する超能力者らしき人物に見張られていた為、自分の事を隠すという動きに慣れていなかったのだ。

前世でも受験戦争に身を投じていただけなので、長期的な隠し事に慣れていなかった。

 

 

 

 

 

 

誠凛対正邦の試合を見ていると、1年前に散々黄瀬をファール扱いにしてきた選手が、火神と互角に戦っていた。

 

 

「うわ……完全に頭に血が上ってる……」

「古武術の動きを応用して、長時間全力で動ける様にしているな」

「へぇ……今、一応コピーしました。他のコピーと互換性が全然ないんで、あんまり使い所なさそーですけど」

 

基礎動作からして全然違う為、一分を取り入れて使うのが難しいだろうと判断した黄瀬。

彼の推測に納得しながらも、笠松は一応確認してみた。

 

 

「まぁ根本的に現代バスケと違うからな……でもよ、お前の中で融合したり出来ないのか?」

「うーん……多分この動きを取り入れると、最大速度が大分遅くなるんですよね。俺の長所の1つである、対応の速さを殺しに来ますよ?

……でも、とにかく力押しを望む火神くんには効果てきめんかもしれないですね。ワザと弱い力で戦えば、やる気が出ないかも?」

 

試合を眺めながら、黄瀬と笠松は真面目に会話している。

 

 

「黒子くん達なしでもに思うより食らいついてるっスね」

「てか寧ろ、向こうの方がしっくり来てるけどな

黒子と火神を使った形は春からの、いわば発展途上だ

日向のアウトサイドシュートと新戸部のフックシュート、それを軸にしてチームオフェンスで点を取る今の動きが、1年前から作ったもう1つの形だろ」

 

笠松先輩の意見に対して、黄瀬は最低限は同意しながらも反論した。

 

 

「そりゃそうですけど……火神くんの才能を活かせないのは、どーなんスかね?」

「お前は妙に才能に拘るよなぁ」

「まー俺は全部才能で何とかして来たんで、才能の信者みたいなもんっすよ」

「ふーん。それと1つ分かったのが……」

「なんすか?」

「こっちのチームのキーマンは、俺が前にマッチアップした伊月だ」

「えっ、あの人はあんま点取ってないっすよね?」

 

黄瀬の点取り屋としての感想に、笠松はコイツは初心者だから仕方ねぇけど何も分かってないなと思いながら説明し始める。

 

 

「日向は精神的支柱だ。伊月は多分、目がもう1つある」

「……空間を把握するのが超得意って事っすか?」

「大体そんな感じだな。正確に言うなら、まるで上からコートを俯瞰してる様に見えてるって事だ」

「はー、そんな選手いるんすか。そりゃ強い訳だ」

 

最終的に、火神がダンクを決め72-71で勝利した。

正史だと火神は試合の途中で変えられて、キャプテンの日向が3Pを決めて勝ったので地味に原作改変である。

 

 

___ピピーッッ!

 

「試合終了!」

『よっしゃああぁ!!』

 

誠凛高校の選手達は大喜びしているが、格下にまさかの敗戦をしてしまった正邦高校の選手達は手を床について項垂れている。

 

 

「負けた……」

「くそ……なんでだよ!誠凛なんて、去年出来たばかりの学校だろ?!練習だってうちの方が絶対やってるのに!!

去年なんて、相手にもならなかったのに!……強いのは、どう考えてもうちじゃん!!」

「辞めろ___強い方が勝つんじゃない、勝った方が強いんだ。アイツらの方が強かった、それだけだ」

 

正邦の1年生がなにやら喚いているのを見ながら、黄瀬は醒めた目で笑っていた。

 

 

「はは、負け犬の遠吠えじゃん。ダッサ」

 

 

___ゲシッ

 

「いって、またシバかれた!!」

「人前で言うな!誰が聞いてるか分かんねぇんだぞ!」

「うーっす」

 

黄瀬の暴言を軽く成敗した笠松。

だが笠松は1年前、公式戦で土壇場のパスミスをして格下に負けさせているので目の前の試合が他人事には見えていなかった。

それでも冷静に、1年生の悪い所を正そうと出来る所が彼のキャプテンとしての資質を示している。

 

 

 

 

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