東方をスライムが行く!   作:チキン ボーイ

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第1話

 

人里から離れた山の奥、滝に隠れるようにぽっかりと空いた洞窟があった。

常に滝の轟音が響、湿気でじめじめとして住みかとしては最低であろうその場所を好む妖怪がいた。

 

いや、妖怪と言うにはその容姿は摩訶不思議である。

大きさは人の赤子ほど、肌は無くまるで水そのものような透明な体。

 

後にスライムと呼ばれる類いの魔物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通、寝て起きたら景色が変わっていたなら、それを夢と思ってしまうのは仕方の無いことであろう。

おまけに自分の体がスライムなどになっていればなおさらだ。

だから俺は何度も寝直したんだ。二度三度四度と……1日が過ぎるまで寝直した。

だが、何度起きても景色が変わることは無かった。それどころかより鮮明に見えきた気もする。

 

現実は小説より奇なりと言う言葉があったが、なるほどふざけるな。

 

と言うか、この姿になって気づいたのだが言葉を発することができない。

と言うか口が無い。ついでに言うと目も鼻も耳も無い。

だが、景色は見えるし滝のような轟音も聞こえている。

 

とりあえず外を見ようと光が差し込む方に進み始めたのだが、なにせ足がないから這いずることしかできず時間がかかった。

 

 

光が差し込む方に進めば進むほど滝の音が大きくなってくる。恐らく洞窟の入り口に滝があるのだろう。

更に進むと滝のカーテンが見えた。人の足では五分とかからない距離であろうが、この体では十分近くかかってしまった。慣れてないと言うのもあるのだろうが、これはひどい。

 

まぁ、ようやく着いたわけだし外を見よう。

 

 

……いや、全く予想してなかった訳では無いのだが、見渡す限り森しか見えない。

これじゃ現状の確認にならない……

 

山を見上げれば、山頂付近には木がない、そこまで行けばここら一帯を見渡せるだろう。

そう思い動きだろうとしたとき、ぐちゃりと生々しい音が聞こえた。

音源は俺の後ろ、恐る恐る振り返ってみるとそこにいたのは醜悪な面をした小人。

片手に石製の斧を持ち、もう片手には音源であろう首を折られた兎が握られている

 

パッと浮かんできたのはゴブリンやコボルトといった代表的とも言えるようなモンスターの名前だが、こいつはそれとは違うように見える。

……角がある。

 

小さいがこいつの額には角があった。

そう小鬼。

 

 

そう認識したと同時に俺は洞窟に向かって逃げ出した。あいつがスライムを食すかは知らないが、友好的ではないのは明らかだ。

 

背後から小鬼の気味の悪い笑い声が聞こえてくる。みっともなく逃げている俺を嘲る笑いなのか面白い玩具を見つけた笑いなのかはどうでもいい、とにかく洞窟に入れば……俺に勝機がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

小鬼は上機嫌だった。その日の餌を手に入れ巣へと帰ろうとしているところに不思議な生物が現れたのだ。

まるで水溜まりが生き物になったような生物は自分を見て一目散に逃げ出した。

小鬼はこの山でも底辺に位置する妖怪だ。他の妖怪に襲われることはあれど、姿を見て逃げ出す妖怪などこの山にはいなかった。弱者は食われ強者は食らう。それがこの山の、いや、この世界での絶対的な理である。

 

小鬼は歓喜した。自分より低い妖怪が逃げ出す姿を見て優越感を覚えたのだ。

逃げる獲物を直ぐに捕まえるのではなく、じっくりと追いかけ逃げる姿を楽しんだ。疲れはてたところを一方的に叩きのめして遊ぶ自分の姿を想像するだけで笑いが込み上げてくる。

 

獲物は洞窟に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動かなくなった小鬼を見下ろす。

その顔は元の醜悪な面を更に歪めた、苦しんで死んだ顔をしている。

それもそうだ、小鬼の死因は溺死なのだから。

 

ゲーム等ではザコ敵として有名なスライムであるが、その起源は世にも恐ろしい怪物である。その体に物理的な攻撃は効かず、人間程度であれば一飲みでき、そして骨をも溶かす強酸を持ちその姿を自由に変えることができる。

 

名はショゴス

 

とある作家により産み出された正真正銘の怪物である。

 

 

俺がやったのは至極単純、先行して洞窟に入り壁を伝って天上へ、遅れて洞窟に入った小鬼は俺を見失い焦ってキョロキョロしてるところを天上から落下して奇襲。頭を丸飲みし首を締め上げた。

奇襲でパニックに陥った小鬼はゴポゴポと息を吐き出し暴れるが、暴れれば暴れるほど体内の酸素はなくなり苦しくなるばかり、ついには酸欠で気絶しそのまま昇天した。

 

さて、勢いで殺ってしまったわけだが……

これどうしようか?放っておけば余計なものとか引き寄せそうだ。

……食べるか。

スライムの食事と言えばやはり丸飲みからの消化だろう。

 

 

まず小鬼の身ぐるみを剥いだ。使えそうな物は無いと思ったが、火打ち石や石製ナイフなどあって損はないものがいくつか手に入った。

次に小鬼に乗りびろーんと包むように体を広げる。この時に気がついたのだがこの体は体積分なら自由に形を変えられるようだ。

小鬼の全体を包むとジュウジュウと音がし始め、体に何かが染み渡っていくのが分かる。恐らく溶かして吸収しているのだろう。

あれだ、人だって胃や腸で溶かして吸収しているのだから同じだ。ただちょっと溶ける過程が鮮明に見えるだけで……

 

数分間そのままにしていると染み渡る感覚が無くなったのでその場を退いてみるとそこには何も無かった。

そうだ、確か小鬼が暴れまわった時に兎を放り投げていたはず、あったこれも消化しておこう。

 

 

しかし小鬼がいると言うことは此処がファンタジーの世界ということか?

寝て起きたらファンタジーの世界とか何処かの小説じゃあるまいし、と笑い飛ばしたいがここまで来るとそれも出来ない。

外を見回したいが小鬼より強い妖怪、それこそ大鬼とか出てこられたら一瞬で潰されかねない。生食いとか火の息で蒸発とか洒落になら無い。

 

 

今のところはこの洞窟を拠点に過ごすしながら情報を集めるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の体で色々試したりしているといつの間にか一ヶ月が過ぎていた。

一ヶ月でわかったことでの一番の収穫は、この山の生態系だ。この山、山頂に近づけば近づくほど妖怪が強くなっている。山頂に木がないのは強力な妖怪の放つ瘴気が関係しているようだ。

 

そして俺はその生態系の中でも中くらいの存在になっているらしい。と言うのもこの一ヶ月で底辺の妖怪等を食べまくったせいで俺の妖力が上がっている。

どうやら俺の消化吸収したものは妖力に変換されるようで、妖力の使い道を知らぬ俺はそれを溜め込むことしかできずいる。

一応体を変形させる時に多少の妖力を使うが、雀の涙ほどである。

 

最近は有り余る妖力のせいで待ち伏せも出来ず、獲物を追いかけ回す日々が続いている。一人で妖力を制御する方法を考えてはいるが、元々持ってなかった力であることもあり全く進展しない。

他の妖怪に聞こうにも、言葉を発することができないのではコミュニケーションの取りようが無く、今まで会った妖怪は総じて知能が低い気がする。

 

 

 

 

 

更に一ヶ月経過、何故か体が一回りほど大きくなった。それと妖力の使い道を見つけた。

どうやらこの体は吸収したものを体の一部として構築することができるようだ。つまり吸収した妖怪の骨や牙何かを体から生やすことができると言うこと。ただし、自分の体積以上の物は構築できないし、強い妖怪の部位はそれなりに妖力を消費する。

そして、俺はこの力を利用して口を造ることに成功した!

カタコトではあるが、喋ることもできるようになったのだが、いかんせん喋る相手がいない。

下級妖怪はすぐ逃げるし、上級妖怪は問答無用で襲ってくる。

 

 

「マッタク、ナンギナモノダ。」

 

「確かにその体は色々難儀そうね~。」

 

「ッ!?」

 

 

今日の獲物である熊を消化しながら溢した独り言に来るはずの無い返事が帰ってきた。驚き上空を見上げると、そこには赤いローブのような物を纏い、長い銀髪の女が見下ろしていた。

 

食事中だとはいえ、辺りへの警戒は万全だったはず。それなのに女の接近は一切感知出来なかった。

空中で音がしなかったと言うのもあるが……

女から妖力を感じられない。

飛んでいると言うことは少なからず何かしらの力を持っているのだろうが、女からはそういったものを感じ取れないのだ。

 

そこから考え出せるのが……

今まで見たことの無い高位の存在。

 

 

「もぉ、そんな見つめないでよ~照れちゃうわ。」

 

「……ナニ者ダ?」

 

 

女がゆっくりと降りてくる。その顔は満面の笑みだが、俺は本能的に女の降りてくる場所から距離を取った。もちろん熊ごとだ。

 

スタッと女が降り立つと足元にあった草が枯れ、風に吹かれ塵となり飛ばされて女の回りは更地となった。まるでこの山の山頂付近のように。

 

 

「私?私は神綺よ、神綺ちゃんて呼んでね!」

 

 

神綺と名乗った女は相変わらず笑みを浮かべながら近づいてくる。かと思えば助走をつけて飛び付いてきた。

突然のことに反応出来なかった俺はそのまま神綺に捕らえられる。

 

「グッ!ハナセッ!!」

 

「わぁ!やっぱり、ぷにぷにモチモチ手触り最高~」

 

 

物凄く脱力した。神綺は俺を捕まえると、そのままぬいぐるみを手に入れた子供のように揉んだり撫でたり頬擦りしたりとしてきた。

 

 

「いや~、散歩中に面白いもの見つけから依ってみたけど、噂の君にだったとはね~。」

 

「噂?」

 

「うん!最近山の中腹辺りに不思議な生物が住み着いたって噂。

 

見た目に反して知能が高いみたいで奇襲や強襲が得意、おまけに擬態なんかもするって話だったけど……会話ができるってのは初耳だわ。」

 

 

一通りいじり回すと神綺は俺を抱き抱えたまま近くに会った岩に座り込んだ。因みに熊は半溶け状態で放り出させられている。

 

 

「人形になれないってことは生まれてまもないのかな~?」

 

「サァ、気ガツイタラ洞窟ニイタノガ二ヶ月前ダ。ソレ以前ノ記憶ハナイ」

 

 

嘘は言っていない、確かに此処に来る前に寝たのは覚えているのだがそれより前の記憶は抜け落ちているのだから。

知識などはあるが、子どもの頃の記憶や家族の顔などを一切思い出せない。

そもそも自分が人であったことする疑問視するようになってきた。

もしかしたらこちらが現実で人であったのは夢であったのではないか……?

 

 

「そっか、じゃ私と一緒に暮らしましょ♪」

 

「……ハァ?」

 

「はい決定!さっそくお家に行きましょうね~。」

 

「マテッ!セメテアノ熊ヲ最後マデ食ワセロ!!」

 

「あんなのより美味しいもの食べさせてあげるから、行くわよ~。」

 

 

そして、俺はそのまま神綺に拉致されたのであった。

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