「やあ、お目覚めかな」
静まる病室に1人の男が声をかけた。
「初めまして、かな?…僕はフィン・ディムナ…って知ってるか」
「フィンさん」
鈍い体を起こす。
カーテン越しから透ける光から昼頃だということが伺える。
「君の、名前を教えてくれないかな?」
「……アル・クラネル」
そして、フィンは少し考え込む動作をして顔を上げた。
「君は、味方かい?」
「はい、そう思って構いません」
そう言うと、暗い重い顔が一瞬でパッと明るくなった。
「そうかい、英雄」
「はい?英雄ってなんですか?」
「そうか、知らないのも無理ないね……今街では君の話題で持ちきりさ……英雄ってね」
「そうだったんですか……やめてください、僕には似合う名前じゃない」
ザルドと戦うまでの道中でたくさんの闇派閥を倒してきて市民の方にお礼されていたのは知っていたけど無視してしまっていたし、正直愛想が悪いとでも思われているのかと思っていた。
「いや、僕がみていたあの時の君は紛れもない英雄だった……僕が嫉妬するほどにね」
「…………………」
そうしてフィンが病院を後にした。
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負けてしまった。
今までも弱いから負けていたが、最終的には勝利を掴む結果となっていたが今回は違う……完全な敗北相手の器、実力など全て僕を数段も上回っていた。今まではスキルの関係で相手の実力に近づくことができた僕だが、その肝心なスキルがなくなってしまった今僕は残るものが何もない。
「アル?大丈夫」
夜も暗く、静かな病室に女性の声が響く。
「え、……」
「涙、出てるわよ?」
目を拭うと少し湿っていた、指摘されるまで気づかなかった。
「本当に、大丈夫?アル」
「あ、え…いや」
声が吃る、いつもは強気で頼りになる存在である僕がアリーゼ達などには弱さを見せてはいけないと……けれど体は正直だ、涙も勝手に出ているなどと本当は恐れでいっぱいだ。
「一人で抱え込んじゃダメよ?アル、もっと私たちを頼ってもいいと思うわ」
この一言がダメだった。アリーゼさんにこんなにも優し言葉をかけられたら
「ホントは、」
「うん」
「怖かった」
「逃げたかった」
「でもさ、アルは逃げなかったでしょ?」
ここから、僕はアリーゼさんに抱きついて声にもならない声で泣いてしまっていた。自分の弱さを呟きながら。
「ごめんなさい、見苦しいところを見せて」
「全然!気にしないで」
泣きついている間もアリーゼさんは、優しかった。
僕の話を聞いてくれた。
「アルばかりに助けられる私じゃないわよ!」バチコーン
「はは、そうですね……僕も助けてもらってばかりですね」
「そう、仲間ってものは助け合いなの」
アリーゼさんは僕に何かを語りかけてきた。
「…………」
「私たちって、そんなに頼りない?」
僕の性格の事だ、何でもかんでも自分で抱え込んで潰れていくのを見通してこんなことを言ったのだろう。
「いえ、頼りないわけじゃないですけどアリーゼさん…女性ですし、男である僕が守ってあげなきゃいけないですし」
僕がそんな事を言うと、アリーゼは顔を紅くしてこう言った。
「ア、アル…いろんな女の子にそんな事言っているの?」
「いえ、アリーゼさんだけですよ」
そうすると、アリーゼはもっと顔を紅くして俯いてしまった。
「アル、私…まだ、心の準備ができてないわ」
「それって、どういう」
アリーゼは、顔を俯いたまま内股でモジモジし始めた。
「アルったら、そんな事言わせないでよ」
「………………」
(アリーゼさんは、顔を紅くして俯いていてそれに足をモジモジとさせている、これはお手洗いに行きたいに違いない!)その間0.1秒、アルはそう考えついてアリーゼに言った。
「アリーゼさん、僕のことは気にしないでどうぞ、行ってください」
「ほ、ほんとにいいの?」
「はい、どうぞ」
「じゃ、じゃあ失礼します」
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前日アリーゼさんに自分の思いを打ち明けてからは、気分は爽快だ。
そして、意識も充分に回復したとのことなので退院をした。
「うん、だいぶ痺れも引いてきた」
治ったことにも実感が湧きながら病院を後にしていった。
「ただいまー!今帰りました!」
星屑の庭、ホームの扉を勢いよく開いた。
「…………………」
静かな空気に、声が吸い込まれていくだけだった。
「あれ、誰かいませんかー?」
声をかけてみても、反応する声がなし。
とりあえず広間に行く。
「あれ、本当にどこにもいない」
そして見渡すこと数分、不自然に卓上に紙が添えられたことに気づく。
「てがみ?」
そうして開いてみる。
緊急で外に出る。
そうした趣旨が書かれていた内容だった。
本来ならいつも通りでおかしくない、けれど今日は僕が退院することはみんな知っているはずだ、自惚れているわけではないけどみんなはお休みにしてくれているはず、それに机にはお皿が置いてあるそれに作りかけの料理もある…ならこの外に出る用事は緊急、闇派閥が関係しているに違いないと察したアルは計画もなく外に飛び出していった。
「おい、あそこで正義の眷属が戦ってるぞ!」
街を駆けること数十分経った頃だった。
一人の男が放った言葉が耳に入った
「その話し、」
「あん?なんだ?」
「その話し詳しく聞かせてください!」
僕は、その男に掴み掛かっていた
「お、おいそんなガッつくなって」
「はやく、おしえてください!」
「あ、ああ」
僕は低い声で迫った。
「言ったとおり、あっちでやばい女と正義の眷属が戦ってるんだよ」
やばい女……心当たりあるのが一人…だがその場合野次馬になっている民衆も犠牲になっているはず、選択肢が一つ消えた。
それと同時、轟音と共に僕めがけて人が吹き飛んできた。
「ぃて、」
僕はその衝撃に耐えられず一緒に飛ばされてしまった。
「だ、大丈夫か?」
建物が崩れるほどの衝撃だったため、民衆は自分の心配をしててくれた。
「はい、大丈夫です!」
お礼を言い、膝に乗っている瓦礫をどかそうとしたときだった。
(あれ?重いけど柔らかい )
そう思い恐る恐る下を向く。
「あれ?」
見覚えのあるサクラ色の髪、パルゥム特有の小柄な体型
「ライラさん!?」
咄嗟に声が出てしまった。
「いってて……って、アルじゃなねぇか」
「そんなことより、これって……」
「見ての通り想像の斜め上をいってやがる」
見ての通り…額からは血が流れ出て、重症だってことは容易く判断できるほどだ。
「カッコ悪りぃところを見せちまったな、アル」
動けるのが不思議なほどの状態に無理を強いて体を起こしたライラ。
「あっ、安静にしてください…それにカッコ悪いなんて思っていません、とてもカッコいいです!」
「そうか、ってか…アリーゼ達が……」
もう一度戦場に赴こうとするライラをアルが制止する。
「アリーゼさん達は僕に任せてください!」
「お前でも、敵うかわからねぇ相手だ、こんな体でも指示ぐらいならできる」
そうして、二人は戦場……地獄に向かう。
ファイアボルト!
二人の間に、炎が突き抜ける。
「この魔法って、アル?!」
「遅れました、アリーゼさん」
「なんでここに」
「あたしのおかげだ」
アリーゼの疑問にアルの背後からヒョコッと現れたライラが言う。
「まだ死んでいなかったのか、」
アルは、声の主の方に振り向いた。
「………………」
強く頭を打ちつけられるような感覚がした。
それはまた、頭の隅にしまい込んで忘れさせていたような……
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