ご了承ください
「福音(ゴスペル)」
不可思議な衝撃波に吹き飛ばされるアル
「脆い、」
もう何度目だろうか、攻撃を喰らった数は数え切れないほどだ…吐く血すら無くなっている。
「アル!」
「っくそ、体が動かない」
その光景をただ茫然と眺めることしかできないアリーゼ達。
アルはサイドポケットからポーションを出しそれを口にする。
「ッゴホッ」
体が拒否をし咽せていても強引に捩じ込む
「だ、大丈夫です、みんな」
サイドポケットからもう一つポーションを取り出す。
「アリーゼさん、ここは任せてください」
そうしてポーションを皆に均等に振りまいていく、そしてみんなの傷が癒えていく。少量でもこの効果、最上級レベルのポーションだと言うことがわかる、言わずもがなアリーゼたちも、
「アル、これって」
みんなが唾を飲み込む
「ああ、これはそこら辺にある普通のポーションです…そんな事より他をお願いします」
下手くそな嘘、そんなことはみんなわかっているが今だけはその嘘に乗ってあげることにした。
「ええ、わかったわ」
アリーゼが言うと皆が相槌をうつ
皆が四方八方に散らばる。
「楽観的な男だ」
「これが僕の最適解ですから」
「炸響(ルギオ)」
アルフィアがそう唱えるとアルの周りが爆発し始めた。
そして爆煙がアルを包む
「…………っ!」
時間が経ち爆煙もおさまった中に…
「はぁ、はぁ」
アルが立っていた。
「なぜ……そんな、体」
アルフィアが驚くのも無理はない
「こんなのまだマシな方です」
焼けた顔、焦げた皮膚、本来ならば死んでいてもおかしくない……ましてや生きているのさえ不思議なくらいの状態で立ちながら喋っている。
「おいおい、まじかよ?」
ただ1人この状況を興ずる者がいた
「五月蝿い、」
「わるいわるい」
「あなたは……」
「エレボス!」
そう、目の前のやつは……エレボス…前に会って以来
「前より察しが良くなったな」
「おい、こいつと会ったことがあるのか?」
「ああ、言ってなかったっけ?…俺が見た中で一番英雄の器に値する者だ」
そういうとアルフィア、アルを再び眺める
「……………」
(幼い顔、貧相な体、多少腕に自信があるぐらいのそこらへんの雑魚と同様にしか見えん)
アルフィアが出した結果は否だった
今までの奴らより骨があるのは事実、けれどそれは比較対象が悪すぎる、私たちが求めている英雄の1割と満たしていない。
「オラリオ屈指の実力は認める…だが英雄だと?ふざけたことを抜かすな1割も満たしていない」
アルとエレボスに悪態をぶつけた。
「アルフィア…後悔するぞ?」
「っ!なにがだ」
「こいつに浴びせた言葉は後悔することになる」
「ふんっ、勝手にしろ」
「わかった、俺はもうしらんからな」
「…………」
エレボスの発言を流して聞き耳を持たないアルフィア
そしてそそくさと遠い場所に退避するエレボス
「もう、手加減はしない」
「て、手加減してたの……」
アルフィアは手加減をしていたのではない、躊躇していただけだった。
メーテリアの子供であること…今は私たちに立ちはだかる壁になっているこいつは本来なら殺してしまっていただろう、けれど本領が発揮できない、いや本領じゃなくとも多少の力で殺すことも可能だ…これは躊躇もだが、体に限界がきていることが………本人も気づいているはずだ。
「ファイアボルト!」
アルから攻撃を仕掛けた。
「福音(ゴスペル)」
両者の魔法がぶつかる
「……!」
アルの魔法がアルフィアの魔法を相殺してしまった。
「なにっ、相殺だと!」
アルフィアは魔法の相殺に動揺を隠せないでいる。
魔法ならオラリオ一と自負してもいいぐらいの実力者だったアルフィアは魔法で負けることなどなかったのだ。
「ハァァァァ!!」
アルはその隙を見逃すはずもなくアルフィアの懐に潜り込んだ。
「んっ、かなりの俊敏だな」
「……だが甘い…」
けれどアルフィアもレベル7、俊敏型のレベル6のアルに引きを取らないほどの反応速度を見せつけている。
そしてアルフィアがアルの攻撃を避けるためにバックステップを踏んだ、その隙アルは体勢を整えてアルフィアに急接近する
「っなに!……」
思わず驚くアルフィア、その刹那アルの刃が振るわれる………ことはなかった。
「なぜ、振るわない」
「………………」
「今のなら、一撃ぐらい入れられたはずだ」
「なぜしない」
アルフィアは今のアルの行動に苛つきが隠せないでいる。
だがアルの一言で全てが一蹴された。
「できないんです」
「!どういう意味だ」
今の状況でアルの実力を持ってすれば入れられた攻撃をしないなど余計に疑問が深まっていくばかりだ。
「て、手が震えるんです……人を殺めてしまうことに、いやあなたを斬ることに」
アルフィアは一つ重要なことを思い出す。
ベルの存在だ…メーテリアの息子であり自分の甥にあたる存在の奴が今、目の前にアルという偽名までをを使って自分に立ちはだかっているという事を今の発言でより一層確信に近づく。ベルなのだということに
「ベル…」
「…!」
名前を呼んだら不意にビクッと体が震えるアル
「ベル・クラネル」
「……………」
懐かしい声、落ち着くトーンはなぜが聞き慣れていた。
アルフィアもそうとなっては居ても立ってもいられなくなりアルに抱きついてしまっていた。
「……!」
暖かい、アルはそう思いながら温もりに身を任せた。
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……夢を見ていた
会ったこともない、知らない女の人と
自分のようでいて、自分ではない「ベル・クラネル」
たった2人きり——黄昏の光の中を歩んでいく夢を。
それは平穏で、幸せで、美しく、寂しい夢だった
____________「英雄」になる。
夢の中の「ベル・クラネル」は決めていた
沢山のものを背負って「英雄」になると決意していた。
____________「英雄」になりたい。
僕のそれは「願望」のまま。
この英雄願望は、想いは、いつか決意に変わるのだろうか
あるいは違う何かへと変わるのだろうか。
既にぼやけて碌に思い出せない、あの光景に負けないように
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「ここは、どこ」
曇る目をこすりながら辺りを見渡すアル
「誰がいませんかー?」
声を出しても、返ってくるはずもなく辺りに反響しただけだった。
「………英雄……」
思い出した、夢の中で会った知らない女の人とたった2人きりで歩んでいく夢を。
「………っ」
静かに立ち上がるアル。
そして目の前に広がる悲惨な光景にアルは「願望」が決意に変わっていった。
「英雄になる」
英雄は遥か遠い存在だったが、今手を伸ばせば届くかもしれない領域に来ている。
「いま高みに手を伸ばさないで、いつやるんだ!」
声に出して自分に言い聞かせた。
もう願望のままではいけない望むままではいけないと
「いこう」
そうしてアルは全ての始まりに足を踏み入れた。
大抗争などまだ始まりに過ぎないということ。