予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ   作:王立

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第一話 大洗、打破であります!

「あんこう撃破ァ!」

 

「おみごと!」

 

「バンザーイ! バンザーーイ‼」

 

 西住さんの乗るⅣ号戦車が撃破され、無線から万歳の声が響く。

 しかし、何か引っかかることがある。そもそもこの作戦は、西住さんが乗る戦車を撃破することによって、大洗チームの瓦解をさせるのが目的。そう考えれば、試合はまだ全く終わっていなく、我々知波単が浮かれている場合では……ない⁉

 

「ち、違う! 撃破目標はあんこうじゃない! 心得違いだった!」

 

 それに気づいた矢先、知波単一の頭脳であろう福田が、私に無線を入れてきた。

 

「に、西隊長! 旗車発見しました!」

 

「旗車……? なんと! でかしたぞ、福田! どうにかしてやつの進路をずらしてくれ!」

 

「──ハッ! よし、長谷川。開けた場所に出た瞬間に、突撃を敢行する。たとえ散ってもいい。相手に一発でも撃たせたら、こっちの勝ちだ! 先輩方を信じろ!」

 

「玉田ァ! 戦闘配置ッ!」

 

「は……ハッ!」

 

 現残存車輌は、旗車である軽駆逐戦車ヘッツァーのみで、今福田が発見したところだ。あの75mm長砲身の威力は、軽装甲の我々にとっては脅威でしかなく、もし発見されていなかったらと思うとゾッとする。ドイツの駆逐戦車という特性上、一撃でも防ぎきれれば、知波単の勝ち。そして一撃でも、私への攻撃を許したら知波単の負けとなるだろう。

 一刻たりとも油断は許されない。頼む、福田。間に合ってくれ……!

 

「長谷川ぁ! 全速力で向かうぞ!」

 

「うん!」

 

「間に合え……間に合えぇぇえ!」

 

 焦りからか、福田は無線を切っていなかった。彼女の熱意が、無線から漏れ伝わってくる。きっとハ号は、今までにないぐらいの速度を出しながら密林を駆け巡っているのだろう。ディーゼルの音が、段々と近づいてきた。

 月明かりによって、少し薄明るくなっているこの岩場。すでに自由に動ける場所までは移動し、後は大洗の旗車を待つだけだった。Ⅳ号から顔を出した西住さんが、真剣な表情でこちらを見つめる。

 

 ……これは、負けるわけにはいかないな。

 

「──今だ! 突撃ぃーっ!」

 

 互いに森から抜けた瞬間の出来事。ヘッツァーの側面に向かって、フルスピードで突撃をするハ号の姿が見えた。しかし、駆逐戦車の弱みか、側面に迫るハ号にヘッツァーは全く気づいていないようだった。

 

「いけッ! 福田ッ!」

 

「よし、撃てぇーっ! そしてそのまま体当たりだ!」

 

 37mm砲が火を吹き、ヘッツァーの側面へと当たる。威力が弱いこともあり、ダメージは与えられなかったが、そのまま戦車ごとぶつかることでヘッツァーの進路をずらすことに成功した。鉄塊と鉄塊がぶつかる銅鑼のような音を聞き、私と玉田は臨戦態勢へと入る。

 福田のおかげで、なんとか奇襲は防ぐことができた。だが、相手は依然として健在だ。ヘッツァーは、信地旋回をして75mm砲をハ号へと向けた。

 

「隊長! 敵戦車、我々のほうを狙っています!」

 

「相手は砲塔の回らない駆逐戦車だ。すまないが、周りを回ってとりあえず耐えてくれ。──玉田、迅速な包囲だ! 福田が作ったこの好機を無駄にするな!」

 

「ハッ!」

 

 私と玉田の車輌が、旗車の後方へと回り込みに行く。もうおちょくるのは終わりだと言わんばかりに、ハ号は急停止をし、ヘッツァーの正面へと向かっていた。

 

「長谷川、斜線を塞げぇっ!」

 

 私を撃とうとするヘッツァーの主砲に覆い被さり、完全に斜線を塞ぐ。その狙いに気づくのが遅かったのか、ヘッツァーは無駄弾を使ってしまう。

 ハ号は、きりもみしながら遠くへと吹っ飛んでいった。

 

《九五式軽戦車、走行不能!》

 

「先輩方、後は頼むであります……!」

 

 必死に私の乗るチハを狙うヘッツァー。しかし、再装填は間に合わない。帝国陸軍の主力を担った中戦車が、かつての盟友の背中を取る。

 ──敵将、討ち取ったり。

 

「撃てーッ!」

 

 私の掛け声が聞こえたかと思えば、ヘッツァーは爆風に、場は静寂に包まれた。各々が固唾を呑んで見守る中、段々と黒煙は晴れていき、激しくたなびく白旗が姿を現した。

 

《お、大洗女子フラッグ車、走行不能! 知波単学園の勝利‼》

 

「ば……ば、バンザァァアアアイ!!」

 

 勝利のアナウンスが会場に響くや否や、各所からは生徒たちの万歳三唱が聞こえてきた。中には、涙声になりながら叫んでいる人もおり、観客席は空気が振動するほどの熱狂ぶりである。

 私は戦車から顔を出していた、煤に塗れた福田へと手を振った。福田も振り返しながら、地上へと降りた。

 

「福田、よくやってくれた。お前のあの捨て身の行動がなければ、我々は奇襲を防げずに負けていたところだろう」

 

「い、いや、そんな……」

 

「なに、謙遜することはない。お前は、我々にとっての最高の参謀だ」

 

「隊長……!」

 

 福田の目には涙が溢れていた。もし福田の意見具申がなければ、一体どうなっていたか。そんなことは明白で、きっと夏の黒森峰戦と同じような状況だったのだろう。

 もうあの屈辱は味わいたくない。それは知波単の隊長としてだけではなく、一人の戦車乗りとしての切な思いだ。

 

「負けちゃいましたね」

 

 Ⅳ号から降りてきた西住さんが、私の下へやってくる。私たちが成長できたのも、この人がいたおかげだ。その感謝の気持ちを、率直に伝える。

 

「西住さん……。素晴らしい試合、本当にありがとうございます! 我々が成長できたのも、西住さんたちのおかげです。今回の勝利で恩返しすることができました」

 

「いやいや、全然そんなことないです。成長したのは、西さんたち自身の力ですよ。あんな長期戦でも士気を落とさずに戦い抜くなんて、ほんとにすごい」

 

「……ありがとうございます。分かったんです。我々も生まれ変わるときがきたのではないか、と。もう今までの知波単じゃない。次の試合でもそれを見せたいところですね!」

 

 私たちは、笑顔で握手を交わした。決してわだかまりなどはない。各々が全力を尽くした結果なのだ。ここにいる誰もが、互いを称え、そして納得していた。

 

「福ちゃん、いいアタックだったよ!」

 

「今回は負けちゃったけど、次は負けないんだから!」

 

「四月になったら、また遊びに来てね!」

 

「いつでもたらし焼き、食べに来てよ!」

 

「アヒル殿……!」

 

 福田が尊敬する「アヒルさんチーム」の四人。福田も福田で、自分の師である方たちと話ができたようだ。福田曰く、今回の戦術は、彼女たちの助言を下に考えついたものらしい。

 そして、旗車から大洗生徒会の先輩方が降りてくる。

 

「河嶋、とりあえず勉強がんばろう」

 

「桃ちゃんなら、きっとできるよ!」

 

「あぁ、私の大学生活がぁ……」

 

 どうやら西住さんから聞いた話によると、今大会における大洗の目標は、「河嶋さんを隊長に据えて優勝させることで、AO推薦により大学へ入学させる」というものだったらしい。

 そんな重要な目標があったのにも関わらず、勝ってしまったのは申し訳なさが残る。せめて何かできることはないだろうか。しかし悩みが勉学であるならば、そう長考することもない。

 

「河嶋先輩、勉学のほうが少々不安であると聞いたのですが……」

 

「な、なんだ。そのことなら大丈夫だ。ちゃんと勉強するから……」

 

「もし良ければですが、我々知波単流の勉強方法をお教えしましょうか?」

 

「え?」

 

 まさかの提案に河嶋さんは困惑していた。そもそもこんなことを提案できるほど、我々知波単の頭は良かったのかと思っているのだろう。無理もない、以前までは突撃一辺倒の、頭の悪い集団だったのだから。

 しかし、実際の勉学ならば話は違う。それは生徒会長である角谷さんも分かっていたようで、彼女の一言で、河嶋さんの不安は払拭された。

 

「いいんじゃない? 知波単は英語はからっきしだけど、他はすごい優秀だよ。みんな忘れてるけど、そもそも知波単はお嬢様学校なんだし」

 

「いやはや、お褒めに預かり恐縮です。確かに語学は苦手ですが、他の学科なら我々にも教えることができますよ。先輩方もきっと協力してくれるはずです」

 

「私の記憶が正しければ、知波単は自衛隊みたいなスケジュールで生活してたよね。そんな時間が限られてる中で、他校にも劣らない学力を持ってるなら、河嶋も聞く価値あるんじゃない?」

 

「た、確かに……」

 

 角谷さんが言うには、河嶋さんの学力の原因は、病弱の母と五人の弟妹を世話していることにあるらしい。それはもちろん立派なことではあるのは間違いないが、勉強の余裕がこれによってない以上、酷ながらも原因と言わざるを得ないとのこと。

 それゆえ、限られた時間の中で、最大限の効率を目指した我々知波単流の勉強方法は、河嶋さんにぴったりとも言える。語学に関しては参考にならないだろうが、そこは聖グロの生徒にでも聞いてくれれば構わない。

 後々、河嶋さんの模試の結果が大きく変わるのは、また別の話である。

 

「みんな、本当によくやってくれた。これより我々は生まれ変わる。今日ここに、新生知波単の誕生を宣言する! 知波単万歳!!」

 

「バンザーイ! バンザーイ! バンザーーイ‼」

 

 こうして無限軌道杯第二回戦、西住さん率いる大洗女子学園との試合は終わりを告げた。しかし、これはまだ序章に過ぎない。私たちは次なる戦いのために、改革を進めなければならない。

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