「玉田環、ただいま戻りました!」
「悪いな、帰ってきたばっかなのに」
帰省から戻ってきたばかりの玉田を迎えながら、私は決勝戦における車輌編成の紙を広げた。部屋には、私と今来た玉田の他に、細見と福田がいる。まさに幹部会と言わんばかりの様相で、決勝戦が近いことを感じさせるものだった。
「親御さんとは上手くいったか?」
「はい! 無事、母とは和解できました! 何も問題ありません!」
「そうか! それなら何よりだ!」
一番の懸念要素だった、玉田の家庭事情も無事解決。これも背中を押してくれた、西住さんのおかげであろう。ここまで来れば、もはや怖いものなしだ。
とはいっても、相手は聖グロ及びダージリンさん。油断は禁物である。細見もそれには同感なのか、“ダージリン”という文字を見て、眉間に皺を寄せていた。
「ダージリンさんとは、エキシビションを除けば、昨年度の大会以来でありますね。ある意味、因縁の相手でもありましょうか」
「ふぇ? そうなのでありますか?」
「ああ、そうか。福田は知らないんだったな」
第62回戦車道全国高校生大会、二回戦目。我々知波単は、聖グロ相手に試合をした。当時のダージリンさんは副隊長で、マチルダⅡの部隊を率いていたと記憶している。
「あのとき、ダージリンさんの部隊によって、我々知波単の戦車隊は壊滅した。完敗だった。黒森峰のときよりも、よっぽど酷かったな」
「確かあのときは、玉田が一番近づけたんだっけか」
「そうでありますね。それゆえ、試合後にダージリン殿と握手を交わした覚えがあります」
あれほどまでの強さを示した後に、騎士道精神によって、決して私たちへの敬意は欠かずに接してくれた。あれに感銘を受けたのは、きっと私だけではないはずだ。同期以上の知波単生ならば、皆そのことに共感してくれるはずと信じている。それほどまでに、彼女の存在感は際立っていた。
「あれ以来、私はダージリンさんを目標として、隊長の座を目指した。まあ今も目標なのは、変わらないがな」
今となっては、聖グロといえばダージリンさんというほど、彼女は象徴的な存在となっている。戦車道は各校の個性ゆえ、隊長というのは学校を背負うほどの重責を担うが、あそこまで顔色を変えずにそれをやりきっているのは、本当にすごいことだ。まさしく“聖グロの象徴”であり、彼女はそれに近しい振る舞いを、すでに副隊長のときからやっていたと考えれば、並大抵の人材でないのは間違いないだろう。
そんなダージリンさん相手に、どう戦うか。チトの導入も終わり、玉田には五式中戦車チリに乗ってもらうが、だからといってやすやす勝てるわけでもない。まずは戦術からだが……。
「とりあえずはサンダースのときのように、電撃戦を仕掛けるのがいいと思うんだが、福田はどうだ?」
「特に異論はありません。しかし……」
「しかし?」
「何か足りない気がするのであります。漠然としてて、申し訳ないのですが……」
何かが足りない。気がかりなことがある。福田の主観的な話でしかないのだが、私もそれには同感だった。とてもじゃないが、これだけでダージリンさん率いる聖グロ相手に勝てる気がしないのだ。しかし、だからといって、それが言語化できるわけでもない。漠然とした不安だけが、私を襲っていた。
「それなら、次の練習試合で試してみたらどうでしょうか。継続のミカ殿も、ダージリン殿に劣らず、かなりのやり手。何かが足りないのであれば、その場で露呈するのではないかと、愚考いたしますが」
「なるほど。それはありだな」
聖グロ戦における戦い方を、継続との試合でもやることで、その欠点をあぶり出す。勇猛無比で、前線の一翼を担う玉田らしい意見だ。ミカさん自身も、何かしらのアドバイスはくれるだろう。──うむ。名案だ。そうしようか。
「よし、それでいこう。福田はそれで大丈夫か?」
「問題ありません。練習試合が有意義なものになり、むしろやるべきであると思われます」
「細見もいいか?」
「はい。優勝のためにも、やるほかありません」
参謀である福田と、小隊長である細見の了承も得た。来る継続との練習試合。ここまで意味合いの強いものにできたのは、試合前ながらも喜ばしいことだ。この練習試合を優勝の礎にできるよう、目下、私の意識は恐るべき継続の隊長に向けられていた。