予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ   作:王立

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最終章第四話以前に執筆したものなので、ユリなどの新キャラや、KV-1は登場しません。ご了承ください。
ヨウコの車輌予想当たって良かった……。


第十三話 練習試合であります!

 今日は継続高校との練習試合である。私は眼前にいるチューリップハットを被った隊長に、笑顔で語りかけた。

 

「ミカさん、お会いできて光栄であります!」

 

「……あ、ああ。こちらこそ」

 

 大学選抜戦にて、たった一輌、そしてBT-42という戦車なのにも関わらず、次々とパーシングを倒していたのは記憶に新しい。そんなミカさんを尊敬しているのは、言うまでもないことだ。

 

「本日はよろしくお願いします!」

 

 ミカさんは少し笑った後、「よろしく」と言って、礼をした。互いに、最初の位置へと向かう、

 

「本当に虎戦車なんでありますね」

 

「そうだ。だが、機動戦術をする以上は、ティーガーは付いていくことができない。だからティーガーは、ホロを中心とした『重火力部隊』に置かれる。細見、前線は頼んだぞ」

 

「ハッ!」

 

 一際大きいその重戦車に乗り込み、周りを見渡す。継続は、フラッグ車のBT-42、そしてそれ以外の大体がT-26という編成だ。T-26はともかくとして、問題はBT-42である。ベースのBT-7が“快速戦車”と呼ばれるもので、文字通り足が速い。素で時速50km以上、装輪状態になれば時速70kmにも及ぶ、クロムウェルも泣き出すような戦車だ。

 短砲身ではあるため、貫徹力は低い。しかし、ティーガーで相手をするのはかなり分が悪い。相手をするなら、チヘやチヌ……いや、もうチトか。それらのほうがいいだろう。いくら装甲があるとは言えど、回り込まれれば終わり。ティーガーの砲塔回転速度で捕捉することは、不可能だ。となれば……。

 

「旗車も私ではなくなる。福田、大丈夫か?」

 

「は、はい! 少し緊張していますが、問題ないであります! 不肖福田、旗車に搭乗する者として誠心誠意努力させていただくであります!」

 

 旗車、フラッグ車は福田が担当する。福田が乗るケトならば、BT-42の攻撃を躱すこともできるかもしれない。まだ不安はあるものの、この不安が消えることはないと見ていい。相手はミカさんたちが乗る戦車なのだから、そうなって当たり前なのだ。

 

「全車、前進!」

 

 場所はまた雪山。敵戦車の姿は見えない。継続のことだ。遊撃的な作戦を仕掛けてくるのであろう。

 

「西隊長、三時方向に敵影であります!」

 

「来たか」

 

 T-26がこちらに砲を向ける。しっかりと狙いを定めて撃つも、ティーガーの側面装甲を貫くことはない。もしこれがホロなら危なかったが、車体の大きさ的に狙いにくいか。しかし、過信するわけにはいかない。

 

「西原、上西、左右に撃ってくれ。とりあえずの目くらましにはなる」

 

「ハッ!」

 

「了解であります!」

 

 ホロが威嚇と目くらましを兼ねての砲撃をする。雪煙が上がり、その間に雪原を駆け抜ける。前のように左右に行ってもいいのだが、同じ作戦を二度やるのは好ましくない。読まれたら全てが破綻しかねない。細見たちに続いて、このまま前方にある村に入ろう。

 

「細見、何か不審なものはあったりしたか?」

 

「いえ、むしろなさすぎて不審であります」

 

 少し唸って考える。周りにあるのは、家と雪だるま。隠れるとするなら、家だろうか。しかし窓の中にも戦車の姿はなく、入るときに家屋の裏に何かいた形跡もなかった。

 

「西隊長」

 

「どうした? 福田」

 

「これは、無限軌道の跡ではないでしょうか?」

 

 本当だ、と思い地面を見る。日本戦車でもティーガーでもない履帯の跡がついていた。その跡は薄くはなっていたが、よく目を凝らせば見ることができた。そして伸びていた先は……。

 

「雪だるまか……」

 

 普通のものよりも大きな雪だるまだった。他の雪だるまには、履帯の跡は見られない。だが、大きさは同じだ。おそらくは、この車輌が最後に隠れたのだろう。他の隠れていない車輌が消してあげればいいのにとも思ったが、それは結果論か。降り積もる雪で消えると思い込んでいたとか、その辺りのことを考えていたのだと思う。

 

「よし。みんな、雪だるまに向かって撃て!」

 

 その指示をした瞬間に、無線が入る。

 

「九時の方向に旗車発見! 護衛二輌!」

 

 その驚きに気を取られ、実際に撃った車輌は数輌だった。しかし予想は見事に当たり、雪だるまからは白旗を揚げたT-26が出てくる。次発を撃とうかと思うも、雪だるまからは撃たれるまでもなく、T-26が姿を現した。

 

「遅かったか……三時方向へ撤退!」

 

 なんとか速度で振り切ろうと、唯一の包囲網の穴──先程の砲撃で穴にした──を突っ切り、坂を下る。後ろからは、T-26が三輌ついてきていた。

 

「西隊長たちは先に! ここは私が食い止めます!」

 

「分かった。玉田、頼む」

 

 実は新車輌というのは、私だけではない。本来、ティーガーが導入されなければ、目玉は玉田の車輌だった。

 

「知波単魂を見せましょうぞ!」

 

 超信地旋回をして、玉田は三輌のT-26と相対する。まず中央の車輌に最初の一発を当ててから、玉田の車輌は走り出した。そして、間髪入れずに右へもう一発。左にまたもう一発を叩き込み、T-26は鉄屑となった。

 ──五式中戦車チリ。日本戦車の中で、唯一半自動装填装置を搭載した恐るべき車輌である。

 

「でかしたぞ、玉田!」

 

「ありがとうございます!」

 

 玉田も雪原を駆け、本隊へと追いついた。大部隊で移動するも、再び訪れるのは静寂。継続と戦うときの静寂ほど、怖いものはない。

 

「西隊長! 1km先の山に何かいます!」

 

「なんだと?」

 

 1km先。よくもまあそこまで見えると、玉田の化け物じみた身体能力に感心しながら、一体何なのだろうと考える。

 

「斥候でありましょうか?」

 

 細見が言う。

 

「斥候……なるほどな」

 

「待ってください、西隊長! 相手は、継続高校です! 本当に斥候だけで終わりますか⁉」

 

 福田が叫ぶ。相手は、継続高校。つまり似ている組織は、フィンランド軍。フィンランド軍の斥候兵と言えば、誰だろう。……いや、斥候兵ではなく狙撃兵?

 

「まずい! 福田、下がれ! みんな、福田を守ってくれ!」

 

 その瞬間、細見のチヘが炎を上げた。やはり狙撃手だったようだ。あの“白い死神”のように、ここまで正確に撃ち抜くとは。いや、もしかしたら狙いは福田だったのかもしれない。そう考えれば、事なきを得たか。

 

「西隊長、すみません……。私が不甲斐ないばかりに……」

 

「これは仕方ないさ、細見。お前がいなくなるのは痛いが、まだ負けちゃいない。後は、私たちに任せてくれ」

 

「……はい」

 

 とりあえずここからは、離れなければならない。しかし、無防備のまま退くのも問題だろう。

 

「ホロ、榴弾を」

 

「了解であります」

 

 雪煙によって、こちらの身を隠す。単純に考えれば、皆が逃げればそれで終わりなはず。だが、何か漠然とした不安がある。あの狙撃手を残しておいて、いいのだろうか。

 

「西隊長、まずは退きましょう。場所を晒したというのに、その場に残り続ける狙撃手なんていないでありましょうし」

 

「……それもそうだな。だがな、福田」

 

「どうしたでありますか?」

 

「あの狙撃手は私が──重火力部隊が対処する。無理にお前たちが出なくてもいい。これだけは、理解しておいてくれ」

 

「ハッ」

 

 今試合において、重火力部隊自体が活躍しづらいのは、重々承知している。しかし、あれほどの火力を持った戦車もいるなら話は別だ。あれを真正面から叩けるのは、このティーガーしかいない。

 七時の方向へ撤退しながら、私は考えた。あの狙撃手が場所を変えるなら、一体どこに来るだろうか。また違う山だろうか。

 

「西隊長、このまま行くとタイガでありますが」

 

「タイガ……? そうか、なるほど……」

 

「西隊長?」

 

 タイガ。亜寒帯気候の地域に発達する、針葉樹の純林である。その中は非常に暗く、狙撃・待ち伏せポイントにはもってこいだ。どうやら雪もそこまで積もっていない。

 

「福田たちは中に入れ。私は外で見張っておく」

 

「重火力部隊は外でありますか?」

 

「そうだ。ミカさんたちは、おそらくここにいる。そして、ティーガーは混戦に向かない。それに、あの狙撃手がここに合流する可能性だってあるだろ?」

 

 あの狙撃手がこの森を射程圏内に収めた場合、非常に面倒なことになる。それは、絶対に阻止しなければならない。ゆえに重火力部隊だけ、外でその仕事をすることとなる。こういうのは、全車輌で包囲網を形成するのが一番楽なのだが、とてもそれができる大きさの森ではない。ここまで広いのなら、中に入ってしまったほうがいいだろう。

 不安になる福田たちを後押ししながら、森へと入らせ、私はホロを連れて周辺を索敵する。ここまで白い地面だと、戦車を見つけるのも容易いはずだが。

 

「隊長、いました!」

 

 森からの砲撃音が聞こえてきてから、十分ほどの時が経った。西原の指す方向を見ると、確かに車高の低い車輌が走っていた。おそらくは、Ⅲ号突撃砲G型。あれならば、あの距離での正確な射撃にも納得がいく。ドイツ戦車は、砲の精度が非常に高いのだ。

 さて、見つけたからには、倒し切るのが我々の役目。ここで返り討ちにされるなど、言語道断である。絶対に仕留め切らなければ。

 

「まずは、ホロで雪煙を作る。その間に一気に距離を詰めて、倒し切るのが理想だな」

 

「サンダースのときと同じでありますね」

 

「ああ。だが、あのときと違うのは、三突には超信地旋回があるという点だ。相手の対応は早まる。十分に気をつけて征くぞ」

 

 格差を埋めるためか、砲塔がない戦車は総じて超信地旋回ができるようになっている。三突もその例外ではない。側面を取ったからと、油断はできない。

 ホロから榴弾が放たれ、三突の進む方向に雪煙が上がる。私は全速力で丘を下り、その煙幕の端のほうを突っ切った。三突はすでにこちらを向いていた。

 

「この速度での行進間射撃は無理だ! まずは相手のを防ぎきれ! ──今だ! 昼飯!」

 

 相手の砲撃するタイミングで思い切り車体を傾け、砲弾を弾く。これがティーガーの前面装甲の硬さだ。

 

「よし、撃て!」

 

 しかし、こちらの弾もまた、既のところで弾かれてしまった。まずい、このままじゃ二発目も来る。

 

「ホロ、援護射撃を頼む!」

 

「ハッ!」

 

 ホロの榴弾が再び炸裂し、大地が揺れる。その間にできるだけ射線に入らないように、移動するが……。

 

「隊長! やられました! 煙幕あっても意味がありません!」

 

「なに⁉」

 

 どうやら上西がやられたようだ。この視界がない中も、動かなかったホロは仕留められたということか。次のティーガーの攻撃でやられるぐらいなら、できるだけ戦力を減らすことにしたのだろう。

 

「敵ながら天晴。敬意を表して、撃破させていただきます」

 

 前進して煙幕を抜け、三突の防盾を狙う。

 

「──ってぇーッ!」

 

 88mmの主砲弾をまともに受けて耐えれるはずもなく、三突は白旗を揚げた。かくして、なんとか侵入は防げた。……しかし。

 

「隊長、旗車やられました!」

 

 試合はもう、決していた。

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