予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ   作:王立

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島田ミカ説は割と推しているんですが、真相はこれ如何に……。


第十五話 まだまだ練習試合だよ!

 鉄と鉄がぶつかり合い、金属音が森中に響き渡る。今この森には、継続と知波単の車輌が集結していた。しかし、私たちの車輌であるBT-42と、敵副隊長の車輌である五式中戦車チリ以外に、戦っている車輌はいなかった。ここにいる全員が、この一騎打ちの行く末を見守っていた。

 撃っては弾かれ、撃たれては躱す。そんな攻防がずっと続いていた。いくらヨウコといえど、近距離戦でティーガーに勝ってはいないはずだ。このままでは、状況を知らぬティーガーが合流する可能性もある。さっさと終わらせなければ。

 

「このままじゃ埒が明かないよ、ミカ」

 

「確かにそのとおりだ。でも、それは相手も同じだよ」

 

「それはそうだけど……」

 

 我慢比べじゃ知波単に勝てないって、自分で言ってたじゃないか。そう思うも、口には出さない。今は、装填と砲撃に集中する。

 

「すばしっこいやつめ! ……よし、脚を狙うぞ!」

 

「やはり彼女は、ユーティライネンであって、マンネルヘイム将軍ではなさそうだ」

 

「ミカの言ってることはよく分かんないけど、脚を狙ってくれるなら、これ以上のチャンスはないね!」

 

 ミッコの言うとおり、脚、つまりは履帯を狙うのであれば、クリスティー式であるBT-42にとってはチャンスである。装輪走行で一気に、戦局を打開できるからだ。

 おそらく相手の副隊長は、BT-42がクリスティー式なのを知らないのだろう。大学選抜戦のときも、私たちの戦いを知波単は一切見ていない。あのとき、大学選抜チームですら知らなかったことを、隊長でもない彼女たちが知っているのも中々におかしい話だ。そもそもこの戦車は、相当マイナーな戦車である。

 彼女は痺れは切らさないが、状況の打開は流石に目指した。だが、その目指す先が誤ることを、ミカは予測していたということか。

 

「撃てーッ!」

 

 まず、一発目の弾は避ける。そして、二発目と三発目を左右の履帯に当てさせて……。

 

「天下のクリスティー式、ここに見参!」

 

「──あっ! 忘れてた!」

 

 先程は積雪が甘く意表を突かれたが、今度はその逆。この場所に、雪が積もっていなくて助かった。これなら装軌がなくても問題ない。ミッコがハンドルを付け、装輪走行へと切り替える。さあここからが私たちの本気だ。最高時速73km。いくら知波単でも、この機動力にはついていけまい。

 にしても「忘れてた」とは、一応知ってはいたのか。驚きだ。流石、一代での急改革を成し遂げた隊長がいるチームである。相当な下調べをしてきているらしい。

 

「回り込むよ」

 

「あいあいさー!」

 

「アキ、撃つときは側面でよろしく」

 

「了解!」

 

 チリは車体の場合、前面装甲は75mm。後面装甲は50mm。しかし、側面装甲は25mmだ。BT-42の貫徹力の低い榴弾砲ならば、ここを狙う他倒す方法はない。

 目の前でドリフトをかまし、回ること270度。相手の超信地旋回も全くもって追いつかず、その薄い装甲が露わとなっていた。

 

「──Tulta」

 

 爆音と共に、チリの側面から白旗と煙があがる。我ながらいい砲撃だったと思う。しかし、ここで終わりではない。私たちはフラッグ車だが、チリはフラッグ車ではないのだ。

 

「全車、敵車輌を撃破しつつ、フラッグ車であるケトを探せ」

 

 ミカが無線にそう告げると、知波単のエース車であるチリ撃破によって呆然となっているその場から、逃げるように走り出す。

 ケトは、機動力こそあるものの、流石に元快速戦車のBT-42を相手にするには分が悪い。逆に、T-26では絶対に追いつけない。どう転んでも、私たちが仕留めに行かなきゃ意味がないのである。

 

「こちら四番車、フラッグ車発見!」

 

 思いのほか、見つかるのは早かった。ケトの座標を教えられ、その場所へとハンドルを切るミッコ。すでにケトは、森を抜けようとしているらしい。しかし、抜ける先はティーガーとは真逆の場所。見誤ったか。それとも無駄な気遣いか。

 

「エンジン出力最大!」

 

 更に速度を上げ、全ての敵車輌を振り切って森を駆け抜ける。フラッグ車が、速度が違うからと独りで逃げたのはラッキーだった。無駄に囲まれるほうが、面倒極まりない。

 

「いたいたー!」

 

 ミッコが嬉しそうに言う。私も照準器から、爆走するケトの姿が見えた。凄まじい勢いで、私たちは距離を詰めていく。やはり追いつくのは簡単だ。

 

「用意!」

 

 ミカにそう言われ、気を引き締めて照準器を覗いた。この速度ならば、追いつくまでに約十五秒。すでに私たちは、視界の開けた氷原へと出ていた。

 

「Vissi、Neljä、Kolme……」

 

 ミカが秒数を数えていく。そして……。

 

「Yksi──Tulta!!」

 

 その声に合わせて、私は引き金を引いた。BT-42の榴弾は見事砲塔後面に当たり、爆発と共に装甲を破壊する。揚がる白旗。凄まじい勢いでスリップしたが、私たちの勝ちだ。

 

 試合前に集まった場所へと、再び戻る。

 

「ミカさん、ありがとうございました。やっぱり強いですね。よろしければなんですが、アドバイス等をいただくことは……」

 

「構わないよ。しっかり考えてきたからね」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 随分謙虚な人なのだなと思う。ここまで謙虚な隊長も、他ではあまり見られないので珍しい。プラウダは言わずもがなだし、聖グロは意外と挑発的だし、うちの学校も謙虚というかもはや性格の言い表し方が分からない。俗に言う“ミステリアス”というやつなのだろうか。

 そんなミステリアスな隊長が、淡々と知波単へのアドバイスを述べ始めた。試合をしているときのような、真剣な表情で。

 

「まず問いたいんだが、君たちはこれからどういう戦い方をしていくんだい?」

 

「ハッ! 我々知波単は、電撃戦を応用した奇襲作戦によって勝利を収めるつもりです! 無闇な突撃はせず、機動力で相手を圧倒し──」

 

「夏季の大洗とプラウダの試合の最初、いや独ソ戦におけるドイツ軍と言ったほうがいいな。電撃戦を仕掛けた国防軍は、防戦に回った赤軍を相手にどうなっただろう」

 

「それは……」

 

 西さんは、言葉を詰まらす。当たり前だ。彼女は、真っ向からこれからの指針を否定されたのだ。随分遠回しではあるが、独ソ戦を例に出すとはそういうことである。電撃戦を行って補給線が伸び切ったドイツ軍は、見事にそこを絶たれ包囲されてしまった。そして、それが一つの原因として戦争に敗北することになった。

 大洗対プラウダも似たようなもので、がむしゃらに猛進をした大洗は、見事プラウダに包囲された。プラウダによる降伏勧告の猶予がなければ、大洗はあそこで敗退し、学園艦も廃艦となっていただろう。

 奇襲作戦とする以上、完全比較はできないかもしれない。だが相手が縦深防御をやり始めた場合に、手が出せなくなるという点は同じだろう。

 

「電撃戦という考え方も悪くないし、それを応用しようとするのは素晴らしいことだ。実際に君たちは、サンダース戦において大勝利をしたわけだからね。しかし、それだけに固執しては駄目だ。君たちは、一体どうやって大洗に勝った?」

 

「……遊撃的な作戦で、勝利を収めました」

 

「そのとおり。君たちは、勢いある電撃的な奇襲作戦だけでなく、堅実なゲリラ作戦もできる。マニュアル通りの黒森峰や、戦車の性能で機動力を活かした奇襲作戦が許されない私たちとは違うんだよ。どちらもできるのが、君たちの強みなんだ。何事も、柔軟性を失っちゃいけない」

 

「柔軟性、でありますか……」

 

 確かに知波単の今の車輌だと、攻勢の奇襲作戦と守勢の奇襲作戦の両方ができる編成だ。まあ黒森峰もそうではあるものの、あそこは作戦が凝り固まっており、西住流に沿ったことしかしない。といっても、最近は変わりつつあるようで、これからはどうなるか分からないが。

 結局柔軟性が一番重要で、どれだけ有効な戦術であっても、それを繰り返していては、いずれ対策される。その場にあったものを取捨選択しなければ、試合は上手く進まない。知波単には、そこが欠けていたのだろう。素人目に見ても、分かることだ。私が気づいたのだから。

 

「次の相手は聖グロ。彼女たちに既存の奇襲作戦は通用しない。あのダージリンの背後を、簡単に取ることはできないはずだ」

 

「確かに、黒森峰も電撃戦に失敗していました」

 

「だろう? あの試合の正解は、電撃戦ではなく重戦車によるプラウダのような防戦だったんだ。黒森峰の戦車なら、それが一番いい。まああの隊長は、前の試合での勝利の味が忘れられなかったんだろうけどね」

 

「その二の足を踏むな、ということですね」

 

「それでもあそこまで持っていったのは、彼女の技量ではあったが……やはり、敗因の一つとはなってしまうな」

 

 ミカの言うとおり、黒森峰がプラウダのような防戦に徹していれば、戦車の性能差を鑑みるに、敗けてはいなかっただろう。いくらブラックプリンスとクロムウェルがいたからとはいえ、とてもあの重戦車群の防御の布陣を、聖グロの車輌で崩せるとは思えない。

 それに黒森峰が今回電撃戦の主力としたパンターは、後進速度が凄まじく遅く、攻勢に失敗したときのリカバリーがしづらい。もし主砲を割るという判断ができなければ、あの試合はすぐに終わっていたはずだ。本来ならあれほどの超スピードで邁進するのは愚策で、敵がいると分かっているなら、速度を落として堅実に攻めるか、場所を変えて奇襲を仕掛けるべきなのである。聖グロにおいて後者は通用しにくいため、必然的に前者が正しくなる。

 

「まあいろんな方法を試すにしても、おそらくは奇襲に落ち着くはずだ。だから、いろんな奇襲方法を探してみてほしい。いくら聖グロでも、全ての奇襲に対応できるわけではないはずだよ」

 

「分かりました。福田と共に、作戦を練り直してみます」

 

「よろしくね。……あ、ちょっと待ってくれ」

 

「どうしました?」

 

 ミカがヨウコを呼ぶ。どうしたのだろう。

 

「これを渡そうと思っていたんだ」

 

 ヨウコが持ってきた木箱を開け、ミカは大きな何かを取り出した。あれは、砲弾だろうか。にしては、大きいような気もするが。

 

「これは……まさかドイツ軍の……」

 

「やはり博識な君なら知っていたようだね。ケトにでも使うといい。これは、私からのささやかなプレゼントだ。どう使うかは君たち次第だよ。あと、ケトがフラッグ車なら、偵察車を別に導入したほうがいいね」

 

 ミカはアドバイスを織り交ぜながら、その謎の砲弾を手渡した。よく分からないが、多分すごいものなのだろう。西さんは「ありがとうございます!」と言って、その砲弾を受け取った。

 

 

 こうして今日の練習試合は終わりを告げ、私たちは帰路についた。

 

「ミカさん!」

 

 そんなとき、突然後ろからミカを呼ぶ声が聞こえた。振り返れば、知波単のエースだった副隊長がいた。

 

「君は……どうしてここに? もう帰るんだろう?」

 

「まずは、今日の試合ありがとうございました! あんなに楽しかった戦車戦は、初めてでした!」

 

「なんだ、そのことか。私も楽しかったよ。まさか知波単と、あんな戦いをできるとは思わなかったからね」

 

「それと……」

 

 知波単の副隊長は、少し顔を曇らせるが、すぐに真剣な表情へと戻し口を開いた。

 

「誠に僭越ながら、私もそういった経験がありましたので、申し上げさせていただきます」

 

「……なんだい?」

 

「──御母上ほど、大事な存在はおりません」

 

 ミカは珍しく、面を食らったような顔をした。きっとこれは流派、すなわちミカの家の話なのだろう。知波単の副隊長は「失礼しました」と言い、軽く会釈をして去っていった。

 

「玉田環……玉田流、か……これは一本取られたな」

 

「ミカ?」

 

「なんだ、結局みんな同じなんじゃないか」

 

 ミカは乾いた笑いをした後、カンテレを鳴らす。相変わらず、外は寒い。さっきまで身体を動かしていたのが嘘みたいに。

 

「──今年は、帰ってみるか」

 

 しかし、なぜだろう。こんな季節なのに、今吹き抜けた風はどこか暖かいような気がした。

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