「まずはマチルダⅡからだ! ──ってぇーッ!」
市街地へと入り、味方戦車の盾となりながら、私の乗るティーガーは砲撃をしていた。ルクリリさんの乗るチャーチルに、6ポンド砲搭載のマチルダⅡ。チャーチルをこの距離から一撃で葬るのは難しいので、先に周りを潰していく作戦だった。
「履帯損傷!」
「構わん! 撃ち続けろ!」
逃げられるのは仕方がない。もとよりここで市街地部隊を壊滅させることは、狙っていないのだ。できるだけ数を減らしていくことだけで、福田の作戦は自ずと上手くいくようになる。
福田の作戦──それは、ダージリンさん率いる聖グロ本隊の体力を削った上で、市街地戦へと持ち込ませることだ。ここで聖グロ市街地部隊が劣勢になれば、挟み撃ちの危険性があろうと、本隊は助けに行かざるを得ない。というより、ここに我々の旗車がいる以上、倒しに来ざるを得ないと言うほうが正しいか。
玉田小隊を始めとした囮部隊が機動防御を展開し、聖グロ本隊の気を引いている間に、ティーガーと旗車を中心とした知波単本隊による電撃戦を敢行。最高火力の投入によって、相手チームの要衝たる市街地を奪取しゲリラ戦を行うという、まさに攻守の機動戦が可能な、我々の強みを活かした戦術と言えよう。確かに自陣でのゲリラ戦も可能ではあるが、最初からそれをやると、相手の数が多すぎて破綻しやすい。ならば数を減らしてから、市街地でのゲリラ戦へと持ち込んだほうが、何倍も有利になるというわけである。
「マチルダⅡは全てやったか」
たったの五輌程度だったので、全て一発で撃破していけば、倒し切るのは楽だった。チャーチルには逃げられてしまったが、後ろにいたチトが主砲を割ってくれたので、まあ良しとしよう。修理時間を設けさせるのは、かなり大きいリターンだ。
「こちらケニ。聖グロ本隊は、西住川へ向かっている模様。巡航戦車部隊が、先陣を切っています」
「やはりか。よし、玉田頼む」
「奇襲でありますね! 了解であります!」
とりあえずは、渡河中に奇襲を仕掛ける。ちなみに“西住川”とは、市街地へと向かうときに渡る川の場所のことで、西住さんが味方戦車を助けた場所ということから、我々がそう名付けている。あの姿には当時、感動したものだ。
「我々は西に向かうぞ。細見小隊と合流する」
「ハッ!」
西方の市街地郊外へと走る。玉田はどうやら会敵したそうで、その一報が入ってきた。だが正直言って、ここまでの見え見えな奇襲攻撃では、ダージリンさんを倒すことは無理だろう。これもまた、できるだけ数を減らすのが目的だ。和解したばかりで申し訳ないが、ここはこの役柄を耐え忍んでほしい。
「西隊長、壊滅です……。川に撒かれた煙幕から出てきた巡航戦車部隊に、逆奇襲攻撃をされました」
「流石はダージリンさん、か……。何輌やった?」
「マチルダⅡを三輌。残りは、旗車含めて五輌です」
「分かった。それだけやれれば、十分だ。ホロは砲撃をして、巡航戦車部隊の気を引いてくれ。おそらくは、彼女たちが出てくるはずだ。出てきたら身を引いてもらって構わない。目的はただ一つ、市街地には向かわせるな」
「ハッ!」
市街地戦で巡航戦車を相手にするのは、非常に面倒だ。あの脚で走り回られたら、たまったものではない。
ゆえに彼女たちを市街地へ入らせない方向で、我々は動く。つまるところ、彼女たちに別の仕事を与えるのだ。機動力のない歩兵戦車の天敵であり、巡航戦車で狩りやすい砲戦車のホロを出し、巡航戦車部隊に対処を強要させるのである。
「あと十五分もすれば、ダージリンさんたちは市街地に来るだろう。それまでに車輌の配置場所を確認するぞ」
もちろんゲリラ戦なのだから、配置はバラバラになる。このティーガーだって、電撃戦想定ではあったものの、防戦で猛威を振るったのだ。ゲリラ戦も可能だろう。しかしここで、福田が意見具申をした。
「西隊長、バラバラにしすぎるのは駄目かもしれないです」
「どうしてだ?」
「あちらの隊長は、奇襲に滅法強い方ですから、個々の奇襲じゃおそらく倒しきれません。なので個々の奇襲は僅かにして、最後に真新しい予測不可能な奇襲を仕掛けるべきであると思われます」
「予測不可能な奇襲か……確かにあのダージリンさんなら、福田の言うことも分かる。思えば、ミカさんも似たようなことを言っていたな。案はあるのか?」
「先程のあちらの煙幕を使った奇襲と聞いて、思いつきました。それとアヒル殿の発想も併せてですが」
福田のとっておきの案だ。賭けてみる価値は大いにある。なにせ相手は、ダージリンさん率いる聖グロリアーナ。戦車の性能さえあれば、黒森峰をも大きく凌駕するほどの実力を持つ学校なのだ。あの狡猾な英国の騎士を相手取るには、怜悧な日本の侍しかいないだろう。反対する理由など、あるわけがない。
「戦の根幹は、策だ。頼んだぞ、福田」
福田による新しい作戦概要を共有し、それぞれの配置へと着く。作戦遂行上必要となるマンション屋上への単身偵察は、搭乗員数が多い私の車輌から出した。通信手の中野が向かったが、きっと彼女なら上手くやってくれるだろう。
「聖グロ本隊、市街地へ侵入。チャーチルも合流している模様」
中野から無線が入る。ついに来たようだ。今、我々は遥か西方に待機している。それはあちらも分かっているはずで、旗車撃破のために自ずとこちら側へ来るだろう。それを上から見ている中野が、マンションの間の道路に待機している各車輌へ、攻撃開始のタイミングを伝えるのだ。
「A地点到達! 池田!」
「ハッ!」
勝利のアナウンスが流れないことから、討ち取れなかったのは分かる。だが、着実に精神は削っていっているはずだ。
B地点、C地点と不規則な場所かつ、不規則な数で奇襲を仕掛けていく。その過程で、マチルダⅡを一輌は撃破したようだ。一輌でも撃破できたのなら、上出来と言えよう。そして次は遠く離れるも、我々の番である。
「現状において我々が繰り出せる車輌は、チトが三輌、チヘが二輌、ケトが一輌、そして“虎が一頭”だ。一方で相手は、ブラックプリンスとチャーチルが一輌ずつ、マチルダⅡも二輌しかいない」
だが、正面切っての突撃は何の意味もなさない。それが福田の考えだった。あの装甲の前では、ティーガーがブラックプリンスにやられた後、蹂躙されるだけであると。そうであるなら、奇襲の二段構えをやるしかない。
「今、福田の乗るケトはすでに配置へと着いた。……確かに我々は囮だ。だが、この囮は必ずや勝利に貢献する囮である。それにただの囮ではない。撃破目標がある。細見、覚えているか?」
「ハッ! 旗車以外でありますね!」
「そうだ。旗車以外を潰しさえすれば、後は福田がどうにかしてくれる」
ミカさんから貰った切り札を使うときが来た。あの砲弾で、私たちは優勝を手にする。
「これより最後の突撃だ。みんな、準備はできているか。この試合の命運を賭けた総攻撃、それを背負う覚悟はあるか」
皆が頷いたのを見て、私は軍刀を抜き、自らの顔の前で構えた。銀色の刀身は、日に照らされ、白く輝いていた。
私も随分と成長したものだ。あれほど優柔不断な性格だったというのに、今は皆の前で堂々と判断を下せている。作戦指揮を執っている。隊長らしく、自分らしく、振る舞えている。これが私、西絹代が人生で創った自分なんだ。今も、これからも、そうであり続けよう。この刀に誓って。
「──予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ」
私は目を瞑り、静かに、それでいて力強く呟いた。
敗ける気はしなかった。絶対に勝利の女神は私たちに微笑むと、私はどこかで確信していた。それは皆の想いを一身に受けたからなのだろうと、私は勝手に納得していたが、きっとそれが正解なのだろう。
戦車道は、“道”の競技なのだから。強い想いが運命を変えるのだから。