予ハ常ニ諸子ノ先頭ニ在リ   作:王立

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第二話 戦力、強化であります!

「おい、整備は順調かー?」

 

「あ、西隊長! 順調ですよー!」

 

 知波単学園の整備班が、元気よく挨拶をする。彼女たちは、次の試合で使う戦車を整備していたようだ。

 

「うむ。この戦車たちは次の試合……いや、今後の知波単の要だからな。大変だとは思うが、適度に休憩を入れながらがんばってほしい。言ってくれれば、私たちも……」

 

「いえいえ! こんなに新しい戦車を手に入れたんですから、休んでるわけにはいきません! ぜひとも私たちにやらせてください!」

 

「そうか! 頼もしい限りだ!」

 

 整備されていたのは、今までとは違う戦車だった。基本的に知波単は、チハ以前の日本戦車しか使わない。だがここにあるのは、チハよりも後に作られた日本戦車であり、軽戦車から砲戦車まで様々な種類が揃っている。財政面ではかなりギリギリだが、そこは好成績による補助金でどうにかするしかない。

 この戦車たちを横目に、私は戦車道用に使用が許可されている教室へと戻った。木造を全面に感じる教室の中には、玉田や細見、そして福田を筆頭に多くの生徒が座っていた。

 

「西隊長、お疲れさまです!」

 

「お疲れさまです!」

 

 玉田が陸軍式敬礼で労いの言葉をかけると、他の隊員も一斉に口にした。皆が隊長である私に忠誠を誓っている証だ。私も答礼をして彼女たちの気持ちに答えながら、楽にしていい旨を伝える。

 どうにも、知波単の生徒は固くなりすぎる節がある。戦車とともに、このような空気も変わっていければ良いのだが……。

 

「まず、みんなに話しておかなくてはならないことがある」

 

 いきなりの言葉に、各々が首を傾げた。一体何を言うのだろうと。しかしそれがかなり重要なことだと察し、皆真面目な表情に切り替わった。

 新戦車の運用。これは、今後の方針に関わることだ。そして、知波単の伝統を根本からひっくり返すことでもある。ゆえに、私も緊張していた。一呼吸置いてから、大きく息を吸い込む。

 

「我々知波単は、新型戦車を導入するッ!」

 

 教室どころか廊下にすら響き渡らんとする大声。その声量と内容の衝撃にポカンとしていた彼女たちだが、ようやく思考が追いつき、今度は校舎に響き渡らんほどの驚きの声が発せられた。

 

「に、西隊長……新型戦車というのは……」

 

「一式中戦車チヘ、二式軽戦車ケト、三式中戦車チヌ、そして四式十五糎自走砲ホロ。今後は四式中戦車チト、一車輌のみならば五式中戦車チリなどの運用も視野に入れている」

 

 彼女たちは決して無知ではない。伝統は守れど、戦車の知識はしっかりと持ち合わせており、それが日本戦車ならなおさらだ。だからこそ、この名前を聞いて驚かない者はいなかった。まさか大口径の自走砲までもを運用するとは、思ってもいなかったのだろう。

 そして、これを聞いたからには、知波単の生徒として確認しなくてはならないことがある。それを真っ先に聞いてきたのは、誰よりも伝統を重んじ、誰よりも戦車道に対して熱意を持っている、副隊長の玉田であった。

 ……まあ、玉田が一番最初に聞いてくるのは、なんとなく予想できていたが。

 

「た、隊長! それでは、ハ号やチハはどうなるのでありますか⁉」

 

「私も悲しいが、使われることはなくなる。日本の戦車は、チハからチヘというように、基本的に改良型が多いんだ。だから余裕がある以上は、以前の戦車を使う必要はない」

 

「し、しかし、それでは知波単の伝統が……!」

 

「玉田、知波単という名前がどういう意味だか覚えているか?」

 

「は、はい! 『知恵の波を単身渡れるような進取の精神に溢れる学生になるように』で、あります!」

 

 皆がうんうんと頷く。知波単の生徒で、このことを忘れている者は一人もいないだろう。もはやこれは校是であり、生徒の精神に深く根付いている言葉と言っても過言ではない。

 私は「そのとおりだ、玉田」と言い、一度目を閉じて気持ちを落ち着かせてから喋り始めた。私自身の気持ちを、純粋に伝える。

 

「この言葉のとおり、我々は、進取の精神に溢れる学生になる必要がある。しかしそのためには、伝統だからといって、自らを縛ってはならないのだ。そもそも知波単の伝統とは、過去に縛られることではなく、過去を重んじること。だからこそ我々は既存戦力を強化し、過去を忘れずに前進する必要がある。過去の失敗を、続かせないためにも……!」

 

「隊長……」

 

 福田を始め、各隊員の眼から熱意が漏れ出ているのが伝わってきた。いくら伝統とはいえ、今までの状況は、彼女たちも思うところがあったはずだ。その気持ちは大洗の一件で浮き彫りになり、そして今、それを原動力として知波単は変わろうとしている。今まで自分たちを縛ってきたものを、その手で捨てようとしている。

 それは、決して簡単なことではない。しかし、同時に不可能なことでもない。不可能でないのなら、我々にはそれをやり遂げる精神力がある。それこそが知波単魂であり、受け継がれてきた伝統なのだ。

 

「我々が変わるためには、新生知波単を引っ張っていくには、みんなの協力が必要だ。これからもよろしく頼む!」

 

 深々と頭を下げる。一時の静寂が訪れたかと思えば、教室内は拍手で溢れかえっていた。

 

「もちろんですよ、西隊長!」

 

「どこまでもついていきます!」

 

「新生知波単バンザーイ! 西隊長にもバンザーイ!」

 

「お前たち……」

 

 自然と流れ出た涙が頬を伝う。それを手で拭いながら、私は満面の笑みで隊員たちを見た。

 

 ──みんな、本当にいい子達だ。

 

 それが私の、隊長西絹代としての、心からの想いだった。ここまで自分がやれてきたのも、みんながいてくれたおかげだ。みんながいてくれたからこそ、私はこうやってベスト4まで知波単を導けたのだ。だが、ここで終わるつもりは更々ない。我々は、次も勝たねばならない。

 拍手と声が収まってきたところで、福田が一つ質問をした。彼女は、ただ端的に「新車輌の振り分けは、どうするのでありますか?」と聞いた。

 

 こういった状況でも、的確に質問ができる福田は、やはり逸材だと思う。確かに現在ある戦車を、新型戦車に一気に変えるとした場合、誰がどの戦車に乗るのかを考えなくてはならない。それは、福田のみならず、心うちでは誰もが気になっていたことだろう。だが、使うのは日本戦車。他国よりは非常に移行しやすい。

 まず旧砲塔チハは一式中戦車チヘとなり、新砲塔チハは三式中戦車チヌとなる。そして、福田の乗る九五式軽戦車ハ号は二式軽戦車ケトとなり、特二式内火艇組は単純に水域がない場合の編成として、四式十五糎自走砲ホロへと乗り換える。

 基本的に今乗っている戦車の性能を、二段階グレードアップしたような形であり、オープントップであるホロは、改造でどうにかする。(大学選抜戦において、カール自走臼砲が認可されたため、オープントップは大々的に使えるようになった)

 

 しかし、一つだけ注意点がある。

 

「玉田車のみ、四式中戦車チトとする」

 

 その言葉に、隊員たちは感嘆の声を漏らした。四式中戦車チトと言えば、「五式七糎半戦車砲」を搭載した、日本戦車の中でもかなり高水準な戦車である。そんな最新鋭の戦車に唯一選ばれた玉田に、周りが敬意を払わないわけもない。

 だが玉田自身は、この判断に少し困惑していたようだった。そもそもチトは、まだ運用を視野に入れている段階の戦車で、それを鑑みた場合、唯一動かせる一輌、つまりは試作車輌的なものを自分に任されたということであり、かなりの重責となる。もし手荒に使ったら、知波単の発展も遠のく可能性があるだろう。

 気持ちは嬉しいが、なぜ自分なのだと、玉田は私に問うた。その理由を嘘偽りなく話す。

 

「玉田、お前自身はまだ自覚してないかもしれないが、お前はこの知波単学園で一番の戦車乗りだ。大学選抜戦では、パーシング二輌を撃破。先日の大洗戦でも、西住さんの乗るあんこう車を撃破してみせ、最後まで戦い抜いた。だから私は、お前に乗ってもらいたい。もし嫌なら、仕方ないが……」

 

「そ、そんな滅相もない! 隊長にそこまで認められているとは、不肖玉田、感謝の極みであります! チトに乗り、盛大に暴れてご覧に入れましょう!」

 

「よし、それでこそ玉田だ! 知波単の鉄砲玉として、みんなを引っ張っていってくれ!」

 

 玉田は威勢よく答え、にっこりと笑う。

 実際、新砲塔とはいえ、あのチハでパーシングを撃破するのは不可能に近い。西住さんの乗るⅣ号戦車を撃破したのも、他校含めほとんどの生徒が成し遂げていない偉業だ。もっと言えば、一方的に追い詰めて撃破したのは玉田を筆頭とした我々知波単のみであり、唯一負けを記録していないあの聖グロでさえ、ギリギリのところでの撃破でしかない。(もっとも、聖グロはそれさえが作戦であり、知波単が追い詰められたのも大洗側の作戦の影響ではあるが)

 

 とまあ、そんな玉田の実力は計り知れないものであり、この強さの所以は一体どこにあるのかというのは、私自身が最も不可解に思っているところでもあった。

 今まで突撃一辺倒で目立たなかったものの、練度が明らかに違うのである。そもそも突撃一辺倒ならば、普通の戦い方でいきなりあそこまでの実力を出すのは不可能であろう。

 しかし、それを聞くほど私も野暮ではない。きっと何か言えない事情があるのだと呑み込み、ミーティングを切り上げる。

 

「ようやく私たちにも、本当の勝機というやつが見えてきた。な、玉田」

 

「……」

 

「玉田?」

 

「あ、細見か……」

 

「どうした? まだチトに選ばれことに、実感が湧かないか? ふふっ、羨ましいやつめ」

 

「大丈夫だ、なんでもない」

 

 細見と話す玉田。先程までの笑顔とは打って変わって、彼女の顔は優れた表情ではなかった。

 やはり何かがある。そんな彼女の隠された秘密を知るのは、そう遠いことではなかった。

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