過去の英傑を召喚するタイプの世界に転生した事を知らずにチート無双してしまった場合 作:ガチャガチャ
――そして、一つの宴が開かれようとしていた。
そこは一見古びた……どころではなく朽ち果てたという言葉が正しい程にボロボロの屋敷であった。
しかしながらその規模自体はかなりのものであり、恐らく建てられた当時は極めて豪華絢爛であった事が容易に想像出来た。
あるいは、それを見た者はこうも考えるかもしれない。
これほどボロボロになるほど時間が経ったのに、なぜこの建物は撤去されていないのだろうか、と。
そしてその理由に関しては、現在内部にいる二人の男女が大きな答えであった。
その男女の特徴は極めて単純明快。
シックではあるが如何にも高そうなワンピースドレスに身を包んだ少女、そして同じく如何にも高そうな燕尾服に身を包んだ男。
つまり、従者と貴人のような二人組だった。
……小さくウェーブ掛かった金の長髪の少女はそのボロボロの屋敷の中央にある広いホールの中央に立ち、今から――そう、一つの儀式を行おうとしていた。
如何にもといった雰囲気の魔法陣が何らかの顔料によってホールの床に描かれている。
正しく何かをこれから儀式を執り行おうと言わんばかりの、ありていに言ってしまえば「ベタ」な光景だったが、しかしその魔法陣の中央に置かれているのはあまりにも小さく、そしてこの屋敷と同じくらいにボロボロのモノだった。
それは――コインだ。
あるいはそう、チップと表現出来るかもしれない。
掌に載せるとあまりの小ささと軽さに驚くであろうそれを、まるで貴重な宝物であると言わんばかりに柔らかなハンカチの上に載せている。
そして、あるいはそれを「儀式」の供物として捧げると言わんばかりでも、あった。
「では、【英傑召喚】を現時刻より行うわ」
少女は言う。
恐らく背後にいる燕尾服の男に言ったのかもしれないが、その言葉はあまりにも小さかったが故にほとんど独り言に近かった。
そして、実際少女は返答を求めてはいないのだろう。
この世で最も難易度の高い、形容表現を使うのならば『超一流の証左』である魔術――【英傑召喚】。
それを簡単に説明するのならば、かつてこの世にいたとされる歴史上の存在を召喚する儀式。
……現在の学問的に『ある』とされている、この世で起きた歴史のすべてが記録されているという【クロノコード】から情報を投影し、仮初の存在を一つのしもべとしてテイムする。
一応、便宜上はテイム系の魔術の枠組みとされている、そんな魔術。
しかしそれには一瞬で莫大な魔力を消費する必要があり、かつ召喚する英傑を指定するためには縁のある贄が必要となる。
だから――そのコインこそが少女が『その英傑』を召喚するために必要な供物なのだ。
「――我らが進むは未踏の大地」
少女は云う。
「過去の道筋を踏破せし者を焚べ、光なき道筋を照らさん」
少女は続ける。
「ただ在る事のみでその存在を証明せし者よ、出でよ――出でよ。道筋を照らす篝火となる為に、姿を現せ」
きらり、と少女の手に握られた『それ』が輝く。
銀の、ナイフ。
それで腕を「ざっくり」と切り裂いた少女は、そこから滴り落ちる赤い血を魔法陣に垂らし、痛みに表情を強張らせながら、続ける。
「――我が血族の血、そして『この世で最も価値のない金貨』を代価とし――出でよ! 我が英傑よ!!」
少女はそう叫び――、そして魔法陣は完成する。
真っ赤な光が視界を焼き、思わず目を瞑った二人。
……その眼下の先で、一つの気配が現れたのを感じる。
慌てて少女が目を開くと、そこには一人のくたびれた男が立っていた。
「あな、た……は。ブルードット・アプド、様……?」
「あ゛?」
男は一度胡乱げに首を傾げ、それから「ああ」と手を叩く。
「あんた、さてはあの方を召喚するつもりだったのか? いや、しかしそれなら俺の事をどうしてあの方と勘違いする?」
「……え?」
少女は呆然と呟く。
「そ、そんな……そんな! ど、どうして――儀式は完全だった筈!」
「んー、ああ。なるほど、まさかあの方の血族が【英傑召喚】を行おうってしてたのか。ある意味歴史的な出来事だなこりゃあ」
混乱する少女に対し、男はにやりと笑い手を差し出す。
「ま、とはいえこうして出会っちまったんだ。ひとまずはこれから頼むぜ、お嬢ちゃん」
「あ……なたは。誰なのですか?」
「俺、俺か?」
男は「にやり」と笑い、答える。
「俺は、そうだな。かつてロマンを追い求めて『ブルードットの遺産』を収集していた男、その名もドナルド・アインハルトだ」