聖戦士ダンバイン聖戦士伝説「アルダム開発秘話」 作:早起き三文
サァ、ン……
「シュンジ王」
早朝のトルール城天守、それは常ならば、爽やかなそよ風と、蒼く輝く空を楽しめる場所だ。
「ん、何ですザン団長?」
「あっ、いえ……」
以前のガロウ・ラン残党の討伐の最中、リの王城「トルール」を、よりにもよってその防衛の責任者たる、ザン・ブラス騎士団長自らが、スジャータでシュンジ達の元へ駆けつけたのは。
「俺の職務放棄とも取れる行動、本当に不問でいいのですかい?」
「何ですか、いまさらに……」
リの首都、この王都の市街に、ガロウ・ラン達が侵入したからであったらしい。
「それよりも、今はトルールの復旧に専念すべきです」
「すみません、シュンジ王」
この王城の最上階から見渡すトルールの街並み、決して無惨という程ではないが、それでも崩れた街並み、そして復旧作業に勤しむ住人達の姿が、シュンジの気を重くする。
「まさか、拡張工事中である下水の作業通路が、外部の者に知られていたとは……」
「貴方がスジャータで駆け付けてこなかったら、レンの奴は死んでいましたよ?」
「全くあのバカ息子、栄光あるアルダム第一号機を、オシャカ寸前にしやがって……」
「ハハ……」
と、シュンジの笑みを向けられたこの壮年の騎士団長は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ、年季の入った精悍さを感じさせるその、白髪混じりの己の短髪を、その手でガシガシと、強く掻いた。
「さて、後は見張り塔の様子ですが……」
「いの一番に、ガロウ・ランどもによって爆薬で壊されましてね、あそこは……」
「なるほど」
その潜入したガロウ・ラン達は守備隊によって退けられたが、この想定外の事態に、ザン団長は残党討伐に赴いているシュンジ達の連絡に、あえて重要な戦力である、オーラ・ボムを使用したらしい。
「えーと、じゃあその修理に連絡を……」
「本当に申し訳ありません、シュンジ王」
「ドウダ、よし」
まだ続くザンの謝罪の言葉を聞きながら、彼シュンジはその手に握られたエツ、その頭部を持つと節くれた身体が硬直し、まさしく「杖」となる虫が、彼の言葉を記憶し。
ブブッ……!!
見張り塔修理の担当者である、騎士バラフの元へ、翅を揺るがせて翔んでいく、ようだ。
「……変な生き物だな」
まあシュンジは、大雑把にこの「エツ」という生き物の習性は、伝書鳩みたいな物だと思っている。
「ああ、もう気にしないで下さいよ、ザン団長」
「は、はい」
「では、俺はこれで……」
その天守閣から立ち去るシュンジの背中にも、まだ平謝りをするザン団長の、先の戦いの判断では。
――王の軍勢が優勢なら、そのまま加勢して、一気に残党ガロウ・ランに止めを刺す――
――なるほど――
――膠着状態、あるいは劣勢ならば、リに帰還して頂く、シュンジ王達のしんがりを、このスジャータで務める――
――どのみち、すぐに俺は奇襲されたトルールに、帰還しなければいけなかった訳だからな――
――どちらにしろ、連絡は出さないといけませんし、だったらトルールを手薄にしてでも、飛竜と同じ位の速度である、スジャータを使うべきだったかと――
――なるほど、確かに――
という説明は、充分シュンジにも納得が出来る物であったからだ。
ザァ……!!
「陽が上がって来たな……」
ガロウ・ラン残党の討伐が成功したは良いが、この事態で帰還したシュンジの軍勢を迎える、戦勝祝いなどあるはずもない。
「暑くなりそうだ……」
「シュンジさん」
「おう、フィナ」
「ここにいましたか、探しましたよぅ」
一、二日のみ休んでから、シュンジ達の遠征軍もまた、王城トルールが受けたゲリラ攻撃、それの後始末に追われる日々だ。
「昼から、共同墓地で葬儀が行われます」
「ン、そうだな……」
「結構、トルールの人達に犠牲が出たようです」
「……」
これは、彼シュンジが王位に就いてから、初めて出合う苦難。
「……そうか」
「気を落とさないで下さい、シュンジさん……」
「ありがとう、フィナ」
「王」としての力が及ばなかった出来事、かもしれない。
////////////////
そのトルールの中央広場、この場所はガロウ・ランによる襲撃を免れ、色とりどりの花壇に囲まれた先王ゴート王の彫像、そして戦没者達の慰霊碑も無事であったが。
「……ハア」
「いつまでウダウダ、辛気臭い顔をしてんのよ、全く……」
つい最近まで、ここで誇らしく飾られていた、リの国国産オーラバトラー第一号「アルダム」を任され、そして。
「ほら、街の人達を手伝いに行くわよ、レン!!」
「ゴート王、お許し下さい……」
それを先の戦いで半壊させてしまった、騎士見習いのレン・ブラス、そのズンと落ち込んでいる彼を同じ、見習いの騎士であるエフア少女、彼女と共に。
チュン、チィ……
広場に集う小鳥達と、真昼の輝く青天が、少年を慰める。
////////////////
「ギブン家?」
その名前だけは、シュンジも聴いたことがある。
「確か、アの国大領主の一人で、ドレイク殿の政敵と……」
「へ、へい!!」
夕陽が強く挿し込み。
シィ、イィ……
橙色に染まった謁見の間でかしこまる、リの密偵組織に雇われたガロウ・ラン、薄汚く、ネズミのような顔つきをした、この小男の言う。
「サーラのおかしらがまとめた、確かな情報でゲス」
「なるほど、ご苦労でした」
との報告を聴いた時、またシュンジ王の癖が。
ゴゥ、ホン!!
王として「相応しくない」言葉使いが出た時、傍らに控えていたオウエン大臣が、とってもわざとらしく、咳払いをしたのを受けて、シュンジは。
「御苦労」
「ヘイ、有り難きお言葉!!」
と、即座に王が「下賤」に口を開く時の台詞、それに言い直す。
「シュンジ王、これをでゲス……」
スゥウ……
その密偵が懐から、ゴソゴソを取り出した数枚の羊皮紙、薄汚れたそれを、シュンジより先にザン団長が彼に歩み寄って、そして彼から受けとり。
「……」
鋭い、ザン騎士団長の瞳が、ざっとその紙をよぎった後。
「王、サーラ直筆の報告書のようです」
「ン……」
団長は、その羊皮紙の束をシュンジ王に手渡す。
「……フム」
スゥ、ペラァ……
シュンジは無言で立ったまま、その報告書を読んでいたが。
「……なるほど」
ラフスケッチ、報告書の最後の一枚に描かれていた、大雑把なオーラバトラーの姿は、確かに先の戦いでレン機と戦いを繰り広げた「悪魔もどき」と良く似ている。
「ギブン家が、密かにガロウ・ランに手を貸し、リを攻めたと言うのか?」
「まさか、シュンジ王」
「ですよね」
そうだろう、そんな事をしたら、もはや国際問題である。
「する理由もありませんね、オウエン殿」
「いくら、我らリの国が、ドレイク殿と懇意であるとはいえ……」
「ありえません、普通は」
政敵を失脚させるために、大領主とはいえ家臣が独断で他国に攻め込むなど、そうなったら、もはやその家臣の方が失脚どころでは済まない。
「……サーラはこれから、密偵隊を二つに分け、そして彼女の隊はラウに行くと?」
ラウというのは、アの国の北東に位置する列強国、オーラマシン戦力さえ無視すれば、アと国力は互角とも言える強国だ。
「ギブンの家、だけではなく、ラウの国が関わっているのか?」
「へい、サーラの頭が言うには、自分がラウの国から戻るまで、迂闊に結論を出さないで欲しいと……」
「ラウ、という事はミの国を経由してか、密偵よ?」
「ミの国にも、もう半分の密偵たちが調査に向かうでゲス、シュンジ王様」
「なるほど、解った」
そして、ミの国というはアの国の東に位置するギブン家領地と、ラウの国南端に挟まれた小国である。
「そして、これは未確認の噂であるのでゲスが、王……」
「申せ」
「そのギブン家は、ミの国とラウの国に、自分で作ったマシンを譲り渡しているという噂も、あるでゲス」
「まことか?」
その直立不動であるシュンジの目が、横に立つオウエン大臣、そしてザン騎士団長へと交互に向き、その三者はお互いに、目だけで頷き合う。
「俺は聴いておりますぜ、シュンジ王」
「まあ、本当でも、一機か二機程度であるとは思われますが、でゲス」
「ああ、あくまでも完全な、噂でありますがな……」
ザン団長の、その吐き捨てるような言葉と、共に。
スゥ……
「……何か」
謁見の間が、天窓から煌めく夕陽が雲で翳ったが為に、薄暗く、シュンジ王の顔色と共に沈む。
「何か、得体の知れない、不気味な気持ちだよ、俺は……」
「私もです、王」
そのオウエンは、ザン団長に目配せし、そして一つ頷いてみせた彼が。
「よくやった、下がってよい」
「ヘイ、でゲス」
「僅かだが、褒美だ」
「ヘヘッ、かたじけないでゲス……」
そのザンが、ガロウ・ランの密偵に金貨数枚を渡しているのを尻目に、オウエン大臣は。
「ドレイク殿に知らせますか、王?」
「いや、それこそラウの国からサーラさんが……」
「ああ、確かに」
と、シュンジはオウエン大臣に言った後、玉座に音を立てて腰掛け、その腕を組みながら、そして。
「……王、民間レベルでの交易を取り仕切っている部署の者に、少し話してきます」
「何か、解るとよいな」
「では……」
両目を堅く閉じ始めた、シュンジ・イザワ王の前から、静かに立ち去る。
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……サァ
「……リの国は」
まるで、鮮血の様な紅き満月、その月光が。
「……何かに、巻き込まれているのか?」
バルコニーの、寝間着姿のシュンジを、血の深紅に染める。