あべこべ女装おねショタウマ男 ~ニコポナデポを添えて~ 作:ビッグバン蓬莱
学園についてから、ボクとメジロドーベルさんは別れた。
ボクは新入生、メジロドーベルさんは在校生。住む場所が違う。
別れのセリフもそこそこに、クラスの説明もほどほどに、ボクは入学式へ向かった。
広い、あまりにも広い講堂。そこにはウマ娘というウマ娘がひしめいていた。
恐ろしい光景だった。覚悟していても、この光景は芯に響く。
ボクは、この学園で生き残らなければならない。なんとしても、何をしても。
【在校生歓迎挨拶。シンボリルドルフさんお願いします】
式もまばらにそう意気込んだボクに、そのアナウンスは聞こえてきた。
ボクは俯いた顔を上げる。その名前は聞いたことがあった。
シンボリルドルフ。茶色と黒と白のトリコロールな髪をしたウマ娘。
やよいさんもたづなさんも言っていた。素晴らしい生徒だと。
……同時に、注意すべきウマ娘とも。だからボクは覚えていた。
彼女が、口を開く。
「桜の花が咲き始め、温かい日差しが降り注ぐようになりました。新入生の皆様、この度は――」
そこで、ぴたりと止まった。
シンボリルドルフさんは、はじめゆったりとした口調で落ち着き払っていた。
威風堂々。そんな様子で、会場を一瞥し、見渡し、そうして止まった。
こっちの方を向いて微動だにしなくなったのだ。
一体どうしたのだろう?その視線は、瞬きすらしていない。
沈黙がざわめきになり、次第にそれが大きくなったころ。
「ん、ゴホン」
シンボリルドルフさんは一度大きく咳き込んで、動き出した。
「――ご入学おめでとうございます在校生一同心より歓迎申し上げますみなさんと一緒に学生生活を送れることをとてもとても楽しみにしていました。私も2年前皆さんと同じように不安と期待に胸を膨らませ緊張しながら入学式を迎えていました今日はそんな、少しだけ早く高校生になった私から学生生活を楽しくする秘訣を教えたいと思います。それは「人それぞれ考えが違う」ことを受け入れることです当たり前のことですが意外と難しいことでもあります。学校生活でも例えば文化祭をとても楽しみにしている子もいれば面倒だと考える子もいますこうした些細な考え方の違いで仲が悪くなることが無いとは言えませんしかし考えが違うことを受け入れられれば何か解決策も見つかるかもしれませんそうすればきっと学生生活を楽しくすることができるはずです」
息もつかせぬ早口だった。滂沱のように、吐き切るように。
彼女はじっとこちらに目を向けたまま、徐々に顔が赤くなっていく。
すぅーっ、と大きく一息吸った後。彼女は言った。
「Eclipse first, the rest nowhere、唯一抜きん出て並ぶ者なし。君が来るのを待っているよ、ここで」
そう言ってこちらにウィンクして、壇上を降りた。
会場は一度しんと静まった後、わっと皆がわきたつ。
よくわからないけど、かっこいい。それがボクの感想だった。
式は続く。立って、お辞儀して、また立って。
おそらくお偉い方々のありがたい言葉を聞き流して。
宴もたけなわ、式ももう終わりかという頃に。
やよいさんが壇上に立って、こう言った。
「報告!今学期より特例の生徒を迎える!」
バッ、と扇子が広がる。
「オリハオリーシュくん!壇上に上がりたまえ!」
ボクの事だった。宣言するやよいさんの傍ら、たづなさんがこちらに手招きする。
右を見て、左を見て、ボクを見ていて。すみません、すみません、ボクは驚きを胸に壇上へむかった。
「ごめんね、でも簡単な挨拶でいいから」
やよいさんはすれ違いざまにそういって、降りていった。
悪戯が成功した、そんな顔をしていたように思う。
ボクはマイクの前に立つ。頭はすでに真っ白だった。
視線があればボクは蜂の巣に鳴っていただろう。
「さ、桜の花が……」
違う。
「あ、温かい日差しが降り注ぎ……」
これも違う。
ボクは何を言っていいかわからなくて、もうどうにもしようがなくて。
逃げるようにちらりと横に目を向ければ、特別席のシンボリルドルフさんと目があった。
目があって、こちらを心配そうに見つめる目によりいっそう羞恥がたたった。
ボクは一体何をしているんだろう……。
「ボクは……ボクは……その……」
俯くボクに観客は次第にざわめきを大きくする。
どうしたんだろう?大丈夫?そんな声が聞こえてくる。
ボクは情けなくて、情けなくて、だから、もうどうにでもなれと思って。
ボクは拙い頭で考えた。これはチャンスなんだと。
全校生に説明できるチャンスなんだ。ボクがどういう存在かを。
ボクの立場は危うい。ウマ娘で、ウマ息子。唯一の男。解剖、種馬。
ボクはどうしようか考えた。考えた末に、こう思った。
――君子危うきに近寄らず。やべーやつには、誰も近寄ってこない。
天啓だ。真っ白な頭でボクはそう思った。なら、やるしかない。
「ボクは……ボクはオリハオリーシュ!8歳!ウマ娘が大好きで、レズのサディスト!!絶賛彼女募集中!よろしくおねがいします!」
言ってやった。言ってやった。ボクは開放感とともに笑顔を晒す。
笑みとは、威嚇だ。そういう意味があると聞いたことがあった。
だからボクは盛大に笑う。少しでも獰猛に、やべーやつに見えるように。
頬を釣り上げ、眉を逆立て、牙を向いて笑うのだ。
隣に目を落とす。シンボリルドルフさんはなぜか頬を赤く染め、眉尻を下げている。
隣の女性、名札にはミスターシービーとあった。彼女は腹を抱えて大笑いしている。
視線を前に戻す。どうだ、とばかりに観客を睨めつける。
引いただろう、怖いだろう。ボクはレズのサディストだ。向かう所敵はない。
「うおおおおおおお!!」
大地が、吠えた。
ボクの宣言に、シンと静まり返っていたそれは、轟音となって会場を揺らす。
なんだ、なんだ?何が起こった、これはどういうことだ。
次の瞬間、生徒という生徒が壇上へ突撃してきた。
皆目が血走って、脇目もふらずにこちらへかけてくる。
ボクは逃げた。とっさの判断を盛大に褒めてほしかった。
【落ち着いてください!落ち着いてください!押さないで!】
アナウンスが響く。教員や大人達が迫りくる生徒達押し止める。
ボクは逃げた。脇目を振らずに裸足で逃げた。
「逃げるなぁ!まてえ!まちなさいいい!」
背中に何重という絶叫が届く。怖い。どうしてこんなことに。
走って、走って、また走って。
ウマ娘対策本部が発令され、部隊が展開するまで。
ボクは学園を逃げ回ったのだ。
◆
平和だ、ボクは桜散る学園の並木道を歩きながら考える。
入学式は大変な騒ぎになった。なんでかわからないけれど、騒ぎになった。
何が原因かはよくわからない。いや、ボクの発言が原因なのはわかるけど。
それのどこがどうしてあぁなったのか、未だにボクはわからないでいた。
わからないまま、学園はあの騒ぎが嘘のように沈静化した。
何気ない日常、そんなふうに言える毎日が訪れていた。
「あっ、レズちゃん、おはよー!」
そう言ってまた声をかけられる。
「おはようございます……」
声をかけたウマ娘の子は、一声かけた後列に並んだ。
そう、列だ。ボクの歩く後ろには、ウマ娘の長蛇の列ができている。
寮に入って、寮から出て。そこから申し合わせたようにやってくる。
大名行列のようだと思った。先頭に立つボクは、気が気ではない。
ボクが歩くと、列もまた歩く。ボクが止まると、列もまた止まる。
ボクがさっと振り返れば、皆それぞれが別々の方を向いて仕草する。
「あの、お先にどうぞ……」
声は届かない。髪をいじる者、口笛を吹く者、本を読む者、皆様々で。
おかしいだろう、どうしてこうなった。ボクはレズのサディストだぞ。
ウマ娘達はボクにそろりそろりと近寄って、別段話しかけては来ない。
ただ近くによって、群れて、ちらちらと脇目をふってきて。
一体何がしたいのかボクにはわからない。わからないから、怖い。
「ボクにどうしろって言うんだよ……」
ボクの前途は多難だった。
◆
「それはね~、皆レズちゃんと仲良くしたいんだよ」
いやーモテるね、このこの、とそのウマ娘は言った。
黒い耳、茶色いオカッパに白い前髪を一房たらしたウマ娘。
トランセンドと彼女は言った。ゾクゾクワクワクすること、いっしょに探しに行こーぜいと。
机にだらしなくその体を伏せて、横目でボクに教えてくれる。
「ボクはレズのサディストだよ?どうして仲良くしたいと思えるんだよ……」
本心だった。ボクだったらそんな奴、近寄りもしない。
トランセンドさんはにやにや笑って答えてくれない。
「ほーんと罪なレズちゃんだよね~。ウチの予測、ぽーんと超えてくれちゃってさ。このこの~」
そういってボクの頬をつつくトランセンドさん。
すると彼女は突然ぶるりと身震いして、その耳を逆立てた。
「うぉ、さぶっ!ゾクゾクは求めてるけど、こういうんじゃないんだよね~」
「なんのこと?」
「こっちの事~」
そうにへらと笑うから、ボクはまた機嫌が悪くなる。
「そんなことよりさ、ほらこれ、どうよ?」
なんのことだろう、と視線を向ければ、そこに赤があって。
トランセンドさんは、その胸に指をかけてずり下ろしていた。
白い谷間と、赤い布地がちらりと見える。
ボクは慌てて視線を切る。突然なんだというのか。
「レズちゃんのえっち」
エッチなのはお前だろう、そう言えたらいいものの、羞恥で言葉が出ない。
そうするうちに、周りからガサゴソともの音が響き始めた。
視界に映る青、緑、ピンク。下着、下着、下着。
右を見る。ポニーテールのウマ娘が、指先でスカートをつまみあげている。
前を見る。ツインテールのウマ娘が、盛大に背中を晒している。
左を見る。トランセンドさんが、両手でシャツをめくってお腹を見せていた。
舌をだし、言う。
「次、体育だよ」
ボクは慌てて席を立ち、着替えを掴んで教室を出た。
向かう先はトイレだ。トイレなら、この桃色は存在しない。
「そういう所がカワイイんだけどね~」
耳に届くのは嘲りか、嘲笑か。ボクは逃げるしかなかった。
なんかあんまり他の作者さんて1日に何話も投稿しないんですね……
新着とかの関係上、やっぱ1日1話ぐらいなんでしょうか
私浮かんだ時だーっと書いて休むんで、毎日コツコツする人とかすごすぎるわ
次は生徒会肉椅子と風呂どぼめじろうです。