終末週末紀行   作:WASA-B

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違います。


其の聲は、我が友、李徴子ではないか?

腹が減った。

そういえばさっきタムラ事務次官、食堂使ってもいいって言ってたな。

サイド16の食事は美味しいというのは誰でも知っている話だ。ザフストの食堂の料理もそうかどうかはわからないが、少なくともドライキューブ以上のものが出てくることは確実だろう。

しかしこの自分(佐藤)のエゴだけで決めてしまうと絶対に禍根が残る。絶対に玲華かあわよくば西本さんの意見が欲しい。

 

「西本さん、この後どうします? このまま戻ってもいいですけど、折角食堂が使えるらしいので行きませんか?」

分厚い顎をさすりながら考えている。食欲か人情か。

「ふむ。連中には悪いが行ってみようか」

食欲つよい。流石三大欲求。

「わーい。本物のお肉あるかも」

後ろで呑気に喜ぶ玲華。まあいいか。

悪いな皆の者、我々はうまいものを食う。いやこれはかったるい会議を乗り越えた報酬、正当な対価だ。悪く思うな。

誰に対してかも判らない言い訳をし、隣の建物の食堂へと向かう。

 

今はちょうど午前と午後の昼ご飯の間の時間(16時くらい)の為か、広い食堂も比較的閑散としている。

加工肉とはいえちゃんと加熱調理されている料理が2種類も選べるようだ。自分が選んだものは、パン生地のようなものにつつまれたチキンらしきお肉と何かの葉っぱが入っている。

西本さんと玲華が選んだのはとろみのついたスープとパンのようなものだ。

適当に席を確保し、食べ始める。

調理された食事というのは悪くないな。家で今度やってみるか?

いや面倒だな。ドライキューブで自分は満足だ。

スープにパンを浸してむしゃむしゃ食べていた西本さんがおもむろに口を開く。

 

「佐藤、先程の資料は見たか?」

「あの巫山戯た再編計画のことですか?」

「……まあ、言葉を選ばずに言うとそうなるか」

「言葉も何も絵に描いた餅よりも酷いですよあんなの。どうやってシフト回すんですか」

「そうだな。我々は既に俸給基準限界まで出ているからルーキー組に出て貰う必要があるな」

限界どころか隊長、西本さん、中居さん、月島、井上あたりは計画的(・・・)時間外労働(・・・・・)をしているのが現状だ。

これは新規募集掛ける必要があるか……?

頭の中で俸給基準表と手当配当とシフト表をこねくり回していると、後ろから聞き覚えのない声に話しかけられた。

 

「あ、あのっ! 不躾な質問ですが、20年前、旧エシア東南統括区に勤務されていらっしゃいましたか!?」

「私か?」

「あっ、いえっ。そちらのあなたです」

20年前の俺? まだ5歳にもならぬ子供だが?

何はともあれ誰だろう。

 

「えーと。失礼ですがお名前を訊いても?」

「あっ! 失礼しました! 南部第四中隊本部所属、サーシャ・アディソイです。……そちらの方の声が、とても聞き覚えがあったもので……」

やはり知らない名前だな。一応返礼はしておこう。

「北部第三支部駐屯部隊所属、佐藤大地だ。ハンバルに知り合いは居ないがね」

「おや、もしかして音に聞く第三“支部”の方々ですか? お会いできて光栄です。噂は予予伺っております」

「はあ、それはどうも」

「ではなくてですね! 佐藤さん! 20年前に旧エシア東南統括区にいらっしゃいませんでしたか?」

うーん。この子俺が何歳に見えてるんだろう。

「えーと、ですね。自分何歳に見えます?」

「えっ。あっ。あれっ、そうですね。僕よりすこし上くらいに見えます」

「まあ、そういうことだ。だが今思い出したが、旧エシア東南統括区というとラシャサ市があったところか?」

「……えっと、わからないです」

すると黙って聴いていた西本さんが口を開いた。いつの間にか器は空だ。

「ああ、そのはずだ。あとケリマハル市とチントン市とホントゥ市があった筈だ」

「あっ! わたしはケリマハル市出身なんです!」

なるほど。それにしても西本さんは、なんでこんなことを知っているのだろう。確かに何でも知っている感はあるが、別にネクリュースとはゆかりのない地域だし、今のサイド経済圏としてもギリギリ関わりはない範囲だ。

「よく御存じですね、西本さん」

「あぁ。お袋がホントゥ市出身だからな。それだけさ」

そういうことか。

で、だ。

「昔自分の親父殿がラシャサ市の駐屯部隊に所属していた筈だ。声がとか言うなら、もしかしたら親父殿かもしれないな」

「!!!! ……なる、ほど、そうでしたか。失礼ながらお父様は……?」

「10年前に死んだよ」

「っ!! 失礼しました。そして勝手ではありますが言わせてください。遅ればせながら御礼申し上げます。あの時は命を救っていただきありがとうございました」

 

唐突に深々とお辞儀し、とても満足した表情をされるとこちらとしても如何とも言い難い。

「まあ、何であれ。生きているということはそれだけで価値があるからね」

「はい!」

きらきらと輝くような笑顔はこの世界で久しく見ることがなかった純粋なもののように思えた。それだけにそれが儚く砕かれたことには相応の怒りを覚えることになる。

 

「おいアディソイ書記官! なに油売ってんだ!」

 

またなんか出てきたぞ。

 

 




続きます。
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