「なに?···ここはどこ?」
地下洞窟。9号の居城──を模した風景。
亜白ミナは、幼年時代の姿で立ち尽くしていた。
「私···何か大事なことを忘れてるような···」
「亜白ミナ」
彼女が振り返るとそこには、岩でできた歪な椅子に背を預ける、一人の男がいた。
「おじさん、誰?」
「ん?···あー、ちょッと記憶が飛んでるんダね」
「この姿なら分かるかな」
そう言うと、男の身体がボコボコと膨れ上がり、悍ましい変形をしていく。
「あ······あ···!?」
その男の姿を見た瞬間、激しく頭が痛む。
それと同時に頭が冴えていき、記憶が還ってくる。
「お前は······怪獣9号!!」
「君の救けが来るマで、多分あと少し···その間、僕の話を聞いてくレないか?」
◆◆
「8号···!頼む、行ってくれ!!俺達が死んでも代わりはいる!!亜白隊長を失うわけにはいかない!!」
「(そうだ行かなきゃ···ミナの所へ···!)」
他人を見捨てない──それは間違いなく、英雄の資質だ。しかしそれでは──“一番大切な人を失う”。
彼は分かっている。
戦況も共有されている。
ミナが9号によって倒されたことも、全部。
今すぐにでも行かなきゃいけない···だけど!!
彼には英雄の資質があった。哀しいほどに。
誰にも頼らず、一人で背負おうとしてしまう。
だからこれからの出来事は全部、彼の自業自得なのだろう···。
“8号の力”が、巨大な──今戦っている相手よりもずっと強い怪獣の存在を感知した。
「(嘘だろ、何だよこのデカい反応···!?これ以上何が来るんだ───)」
次の瞬間、目の前の怪獣群が──
「(氷結···冷気!?てことは···)」
「先輩、行って下さい。ここは俺が引き受けます」
「市川!!」
日比野カフカは誰にも頼らず、全てを一人で背負おうとする。そんな彼だからこそ、彼のために、市川レノは強くなった。
かつての厄災たる、識別怪獣兵器6号をその身に宿して戦えるほどに。
これもまた、ある種の自業自得。
日比野カフカは、独りじゃない!
「俺はまた、一人で戦おうとしてたのか······
目ぇ覚めたぜ。ここは頼んだ、相棒!!」
「はいっ!!」
◆◆
「これはアくまでも仮定の話だが、僕が元々一人の人間だったとしたら、君はどんな行動をとる?」
「何が言いたい?そのような有り得ない仮定など、何の意味も無いだろう」
「いや···8号と他の怪獣の違いはナんだろうな、と思ってね」
「日比野カフカは人間であって怪獣ではない。貴様らと同じ括りで捉えるなッ!!」
対話をしている間も、亜白ミナは9号にハンドガンを向け続ける。そこに一切の油断はない。
「ふむ···では、人と怪獣が共存出来る可能性はあるト思うかい?」
「·········怪獣が人を襲う限り、共存は絶対に不可能だろう」
「怪獣が人を襲わなくなレば、共存出来る可能性はある、といウことかな?」
「なんだ?なんなんだお前は···何が言いたい?高い知能を持つお前さえもが人間に牙を剥いているんだ、人と怪獣は、どうあっても分かり合えない」
亜白ミナの怒りは、ごく正当なものだ。
怪獣が──9号が余りにも多くの苦しみを与えている以上、同じように“正当な怒り”をもって“報復”する人類が大多数だろう。
やはり、人と怪獣の和解は不可能。
両者にとってこの対話は、ひたすらにその認識を深める結果となった。
「亜白ミナ、ありがとう。君のおかげで私もようやく覚悟が決まった。私は、“
彼女を閉じ込めていた精神世界がひび割れていく。
目覚めの時が近いのだろう。
「待っていろ、
「やれるものならやってみろ」
◆◆
「ミナ───!!!」
裂帛の気合をもって繰り出した
9号は大きく吹き飛び、大量の瓦礫に埋もれる。
「カフカくん」
「起きたか、ミナ───」
「嘘つき」
ようやく救けられた幼馴染からの第一声がこれである。カフカは「ええ···」って思った。
「すぐに追いつくって、防衛隊に入るんだって言ってたのに···一生来ないかと思ってた」
「···すまねえ」
「屋上で話したときも、私の力当てにしてなかった。一人でなんとかするつもりだったでしょ」
「う······ああ。それじゃダメだって、市川が分からせてくれた」
「ふーん。市川がね···ふーん」
「ごめんな。遅くなった上に俺、ガキの頃に思ってたのと違う、こんな姿でよ」
「あの頃に思い描いてた大人になんか、私もなれてないよ。───それでも、進まなきゃいけない」
そうして何度目かの“決意”を固めた瞬間、9号に覆い被さっていた大量の瓦礫が轟音と共に吹っ飛び、9号が再び姿を現した。
「いこう、カフカくん」
「ああ」
「「怪獣9号、討伐します」」
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*“岩でできた歪な椅子に背を預ける、一人の男”というのは、9号が前世を模した姿です。
日比野カフカの姿ではありません。
次回、最終話。
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