レンタル彼女【BanG Dream!】   作:山神薙人

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Canto Ⅸ 千聖&花音とドキドキ♡お泊りデート②

 

 

「ツイスターゲームって、私やったことないな……。名前は聞いたことあるけど……」

「そんなに複雑なゲームではないから、一度見れば分かると思うわ」

 

 千聖が箱からマットとルーレットを取り出してゲームの準備を進めている間に、僕は、いまいちピンときていない様子の松原さんに軽くルールを説明した。

 

「あのルーレットには左右の手足と色が書いてあって、針が指し示した通りに、マットの上に自分の手足を乗せていくんだよ。例えば、左足赤、右足青ならこんな感じで――」

 

 ちょうどマットが敷かれたタイミングだったので、実際に丸マークの上に立って実演してみる。

 

「それで、最終的に体勢の崩れた方が負け。一度置いた手足は、次の指示が来るまで動かせないから、出目によってはかなりキツくなると思う。……まぁ、僕もやったことはないんだけどね」

「なるほど……。ルーレットの、この雲とTのマークはなんですか?」

「雲マークはエアーだね、指定の部位を空中に浮かせなきゃいけないってやつ。Tのほうは、回す人が自由に指示していいってマークかな」

「百聞は一見に如かずよ。まずはやってみましょう」

 

 セッティングを終えた千聖がこちらに近づいてきた。

 その視線の向かう先は――

 

「……もしかして、僕?」

「あなた以外に誰がいるのよ。花音はまだルールを把握しきれていないのだし。ほら、一応準備運動はしておきなさい」

 

 呆れたようにそう言って、屈伸、伸脚と四肢を動かしてゆく千聖。

 有無を言わさぬその勢いに、僕も千聖に倣って浅く身体を曲げ始める。

 

「っていうか、なん……っで、ツイスターゲームっ……なのっ?」

「このまえ出演した舞台の打ち上げのビンゴ大会でもらったのよ」

 

 まさか千聖が自主的に購入したわけではないだろうと思っていたが、そういうことか。

 

 ……だけど、なぜツイスターゲームなのだろう。

 千聖の返答は答えになっているようで答えになっていない。

他の人にもらって、たまたま手元にあったから、というのが一つの要因になっているのは分かるが、突発的に決まったデートでもないのだし、他のパーティーゲームを買うとか、そもそも他の遊びにするとか、選択肢はいくらでもあったはずだ。

 

 それでも千聖はこのゲームで遊ぶことを選んだのである。

 僕だって、もしこれが普通のゲームなら、何の疑問も抱かなかった。でも、ツイスターゲームは身体的接触を伴うというその性質上、親しい間柄でしかできない。僕と千聖でプレイするならまだしも、松原さんも参加するとなるとちょっと話が違う。

 

 いや、手まで繋いでいるんだからいいのか? まともな恋愛経験がないから、スキンシップの段階がよく分からない。ツイスターゲームってどの程度仲良くなれば許されるんだろう。

 むしろ――逆、だったりするのだろうか。あえてこういうゲームをやらせることで仲を深めさせよう、みたいな。

 

 結局、いくら考えても答えは出そうになかった。

 あるいは、全て僕の考えすぎで、箪笥の肥やしになること間違いなしのツイスターゲームを、単にやってみたかっただけなのかもしれない。

 

 パスパレでのイメージから誤解されがちだが、千聖は、外出中どこに行こうか迷ったときに率先して行き先を提案するようなタイプだ。もちろん、その場の空気を踏まえてという大前提はつくが、遊びに積極的というか、好奇心旺盛というか、そういう一面がある。

 

 僕の思考を断ち切るように、仕上げに手首をぐぐっと伸ばした千聖が、ぱんっと手を叩いた。

 

「よし、やりましょう。花音は指示役をお願い」

「うん! ルーレットを回して……針が止まったところを読めばいいんだよね?」

「ええ。その通りよ」

 

 マットの横にすらりと立つ千聖。僕も大急ぎで身体をほぐし、向かい合うような位置に構える。

 

「ねぇ。ただゲームをするのも面白いと思うけれど、せっかくなら罰ゲームをつけない?」

「……どんな?」

 

 僕の問いに、千聖はくいっと口角を上げた。

 

「そうね……。勝ったほうは相手に何でも一つだけ命令できるというのはどうかしら?」

「ふえぇ!?」

 

 内心ぎょっとした僕の代わりに、松原さんが盛大にリアクションをとってくれた。ルーレットを落っことしかけて、千聖にまぁまぁと宥められている。

 

「もちろん、常識的な範囲内で、本当に相手が嫌がるようなことはダメよ」

「……そ、そうだよね。私、ビックリしちゃった」

 

 「でも」と首をひねる松原さん。

 

「相手が嫌がらない罰ゲームって考えるのがちょっと難しいかも……。千聖ちゃんは何をお願いするつもりなの?」

「私のお願いは、勝敗がついた後のお楽しみよ。だけど、例を挙げるとするなら……マッサージなんかがいいんじゃないかしら」

 

 運悪く、僕がお願いしようと思っていたやつが出てしまった。例として出されたやつを実際にお願いするのは、なんかなぁ……無難ではあるだろうけど、面白みはないかもしれない。

 

 挑発的な目でこちらを見つめる千聖――。

 最悪、わざと負ければいいかなと思いつつ、その視線を受け止める。

 

 足が滑らないよう互いに靴下を脱いで、いよいよ勝負開始だ。

 

 ツイスターゲームには大富豪のようにローカルルールがたくさんあるのだが、今回は自分の番ごとに指示を受けるターン制を採用したので、じゃんけんをして先攻後攻を決める。

 

 結果、先攻は僕になった。

 松原さんがルーレットを回し、針の止まった先は『左足:青』。

 

 どこに足を置こうかと、足元のマットを見下ろしてみる。

 マットには緑、黄、青、赤の順で丸マークが並んでいて、それが一列につき6個ある。都合4×6のマークで作られたそのフィールドの端――僕から見て一番手前にある青マークに、僕は左足をちょこんと乗せた。

 

 そこでいいの? とでも言いたげな千聖の眼差し――。

 

 分かっている。僕のこの置き方は、たぶん悪手に分類されるものだ。

 ツイスターゲームをやるのは初めてだから予測でしかないが、普通に考えれば、周囲にマークの多い中央に陣取るほうがいいのだろう。

 

 だけど、中央に行くということは、それだけ相手との距離が縮まってしまうということで……。

 キスまでしているのに何を今更という気もするが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしかった。

 こっちは、未だに会っただけでもドキドキしているのだ。千聖の可愛さ、綺麗さには一向に慣れる気がしない。

 

「千聖ちゃんは……右足、赤だね」

 

 指示を受けた千聖は僕とは対照的にすいと中央へ進み出て、端から2個目のマークの上に右足を下ろした。

 

 初めて見る千聖の裸足に、思わず目が奪われる。

 さらさらの白い肌、なだらかなアーチを描く足裏、煌めく淡いピンク色の爪……。

 

 それは、全体重を受け止めているとは到底信じられないほどに華奢で、陶器のように繊細で。

 昔、過激な恋愛漫画で、足の甲にキスするシーンを見たことがあったが、この足にならキスしてもいいかなと思えるような――そんな足だった。

 

「えーっと、次は……右手、青です」

 

 松原さんの声ではっと我に返る。大して思考もしないまま、反射的にしゃがんで目の前の青に手を置いた。

 

 続けて千聖。出目は『左足:黄』。

 

 千聖が、やる気あるのかしらという顔を僕に向けながら、ばっと足を開く。とはいえ、赤と黄で一列飛ばしだから、肩幅より少し広いくらいの距離でだいぶ余裕がありそうだ。

 

 三ターン目は、僕が『右足:青』、千聖が『左手:黄』。

 

 適当に置いたのが仇となって、僕は青の列に、足、手、足と交互に並べるような捻れた体勢になってしまった。一方で千聖はまだ立ったまま、前屈みたいな格好で左手を黄色に置いている。手足さえ指定の位置にあればどういう姿勢でもいいので、別にしゃがんでもいいのだが、それが千聖の戦略なのだろう。

 

「じゃあ回しますね。……あっ、また青。左手、青です」

 

 青に偏りすぎじゃないかと思いつつ、僕は左手を伸ばしてマークの上に置いた。

これで青の列に6個あるマークのうち4個を僕が占有していることになる。

 

 気づけば、千聖がかなり近い。千聖が足を広げている赤と黄色の間に青の列があるから、まるでその股のトンネルをくぐろうとする形だ。髪がだらりと垂れ下がった千聖の頭も近くて、甘い香りがふわりと漂ってくる。

 

 千聖の次の指示は、『左手:エアー』。

 

 左手が上げられて、同じように顔も地面から離れてゆく。これで千聖が一歩リードだろうか。僕が四肢を地面に縫い付けられている中で、千聖はほぼ普通に立っているだけだ。

 

 5ターン目。ルーレットの回る音。松原さんが漏らした驚愕にまさかと思いながらその手元を見れば――針の指す先は『右手:青』。

 

 5回連続同じマークなんてことが有り得るのだろうか。しかも、エアーとスピナーズチョイスの特殊マークもあるのに。……まぁ実際、今目の前で起きてしまっているわけなのだが。松原さんに限って不正はないだろうし、まさに確率の深淵を覗いているような気がする。

 

 しかしいくら嘆いてもルールはルール。僕は足の間にあった右手を抜いて、前方の残った二つの青マークのうちの手前側――千聖の真下にあるマークの上に置いた。

 

 まるで千聖の股下に潜りこむかのような体勢で、かなり気まずい。

 一方的に見下ろされていると思うと、背筋に悪寒が走った。彼女の股下に這いつくばる彼氏って……絵面的には最悪に近いんじゃないだろうか。

 

 千聖のターンを冷や汗をかきながら待つ。

 カラカラと回るルーレット。松原さんがコールしたのは、『右手:青』だった。

 

 また青か。逆にもう驚かないというレベルになってきた。もしかすると、松原さんの回す力が一定すぎて、同じところに止まりやすいのかもしれない。

 

 頭上でもぞもぞと千聖が動いている。一体どこに手をつくんだろうと僕は脳内でイメージして――瞬間、稲妻のような閃きが頭蓋を貫いた。

 

 ……このターン、千聖がその手を置くことのできる位置は一つだけだ。

 

 状況を整理しよう。

 千聖の受けた指示は『青:右手』。だけど、青は僕が散々手足を置いてきた色で、例えば4ターン目には僕の両手両足だけで端から4つを使ってしまっていた。

 さらにそこから5ターン目に、僕は右手を千聖の股下にある新しいマークへと置いている。

 

 だから、いま空いている青のマークは、以前僕が右手を置いていた、僕の足の間にあるやつと、千聖の後方にある一番端のやつしかないのだ。僕の足元まで手が届くわけがないから、選べるのは必然的に後者だけ。

 

 もしもしゃがむことができたなら、後方の青に手を置くことなんて簡単だ。だけど、股の間に僕の頭があるので、それができない。身体を前に倒して、自分の股をくぐって後方へ手を伸ばすのも僕が邪魔でできない。ということはつまり、残された体勢は――。

 

 千聖が地面との距離を縮めようと、足を開いたまま膝を曲げて上半身を落としてゆく。じりじりと僕の額に迫る千聖の腰は、しかし、ぎりぎりでぴたと止まった。

 

 彼女的にも、これ以上は下げることができないはずだ。ここからさらに落とすと、僕の顔面が股間に――当たりはしないが、僕がすっころんでしまえば終わりぐらいの位置関係になってしまう。

 

 ちら、と何とか顔を上げて千聖を見ると、恨みがましげにじとっと睨まれた。

 

「もう少し頭を下げてもらえるかしら?」

「そうしたいのは山々なんだけど……ごめん、これが限界で……」

 

 僕の答えに口元をひくひくと引きつらせる千聖。

 後ろに回された手も、まだ地面までかなりの距離がある。

 

 さすがに無理かもなと誰もが思うような状態で、しかし千聖は諦めていなかった。

 

 気合を入れ直すようにふっと息を一つ吐く。腹筋と腿に力が入って強張るのが分かる。

 

 どうするんだろう……と訝しむ僕の眼前で、千聖は、中腰のままぐっと背を反らし、まるでリンボーダンスみたいに、その上半身をゆっくりゆっくり後方へ傾かせ始めた。

 

 地平線へ消える太陽のように、徐々に下げられる千聖の頭が、背を反らしたことで強調された二つの双丘の向こうへ沈んで見えなくなる。口から洩れる苦し気な吐息……。僕だったらすぐに尻もちをついてしまうような体勢を、アイドル業で鍛えたその体幹でどうにか保っている。

 

 段々と傾きが急になるにつれて、バランスをとるために腰が前に突き出てきた。僕の斜め前にあったはずの千聖の腰が、急速に空を覆う雲みたいに僕の頭上にやってくる。瑞々しい腿の肉がぷるぷると震えている。

 

 突然、千聖の身体がガクンと落ちた。

 体勢を崩したのでは断じてない。どすんという音に顔を上げると、トンネルの先、マットの端の青マークに右手がしっかりと突き刺さっているのが見えた。

 

 苦難の果てについに千聖は、その右手を着陸させることに成功したのである。

 

 まさに奇跡ともいうべき芸当。

 だが一方で、僕のほうではとんでもないことになっていた。

 

 実は――さっき右手を着陸させたときの衝撃で腰が下がって――千聖のお尻が、僕の頭の上にのっかってしまったのである。

 

 いや、一応のっかっているといっても、僕の髪の毛がショーパンの生地に触れているのかなというくらいで、ガッツリ接触しているわけではない。

 でも、それなら問題ないというわけでもないだろう。現にはたから見ればとんでもない体勢になっているはずだ。

 

 ……頭にかかる重量が俄かに増える。

 あっちも相当キツいらしく、少しずつお尻が下がってきていた。

 このままいけば、物理的に尻に敷かれることになってしまうだろう。

 

 この状況を打破するには松原さんがルーレットを回して体勢を変えるしかないのだが、当の松原さんは見ていられないとばかりに両手で顔を覆ってしまっていて、頼りになりそうもない。

 

 どうしようと悩む間にも事態は悪くなっていくばかり。

 ずし、と頭の上に柔らかい何かを感じ始めたところで――僕は四肢の力を緩め、マットの上に倒れ込んだ。

 

「……あっ! 千聖ちゃんの、勝ち……です!」

 

 決着を知らせる松原さんの声に、千聖もくるんと身体を回して、僕の真横にうつ伏せで寝転ぶ。お互いマラソンの後みたいに息が荒い。

 

 しばらく二人で息を整えて、ようやく落ち着いた頃に千聖がすいと立ち上がった。

 

「勝ちは……勝ちよ。あなたには罰ゲームを受けてもらうわ」

 

 どこか煮え切らないような表情でそう言った千聖は、僕が同じように腰をあげたときには、すっかり勝利者の顔つきになっていた。

 

「さて……どうしようかしら」

「お、お手柔らかに……」

 

 顎に手をあてて、考え込むような素振りをみせる千聖。

 

 何をやらされるんだろう。全然予想ができない。

 この感じだと恥ずかしい系だろうか? 宴会の無茶ぶりみたいに、モノマネなんかをリクエストされると、かなり困ってしまうかもしれない。

 

 罰ゲームをもう決めてあるはずなのに、たっぷり僕を焦らした千聖は、まるで何でもない普通のことのような平坦さで「じゃあ、キスでもしてもらおうかしら」と言った。

 

「「え!?」」

 

 思いもよらぬその言葉に、僕と松原さんの声がぴたりと重なる。

 

「花音はともかく、あなたはそこまで驚かなくてもいいでしょうに」

 

 千聖は呆れたように肩をすくめてから、ひたひたと近寄ってきた。

 

 いつかの夜にした濃厚なキスの感触が僕の脳内を駆け巡る。痺れるような快楽の記憶が心臓を強く叩いて、血管がどくどくと波打つ。

 

 本当にここでするの? とパニックになる僕の横で、松原さんはあまりの衝撃にフリーズしてしまっていた。……無理もない。これも千聖の想定の範囲内なのだろうか?

 

 「ほら」と甘い声で催促され腹を括る。

 

 真正面から顔をそろそろと近づけ、首を伸ばし、唇がすれ違わないよう肩に手を添えようとして――。

 

 パチン、とおでこを指で弾かれた。

 

 え、え、と困惑する僕を見てくすっと笑った千聖が、デコピンをしたその指で自分の頬をとんとんと叩く。

 

 あ、そっちね。

 勝手に先走ってしまった気恥ずかしさで顔がかぁっと熱くなった。

 

 今度は正面からではなく横手に回って、ほっぺに唇を寄せる。

 唇に肌が触れる感触――。

 ちゅ、と軽く触れてから僕はすぐに飛びのいた。

 

「ふふ、ありがとう」

 

 さらりと髪をかき上げながらはにかむ千聖。

 まだ余裕の見えるその所作が、ちょっとだけ悔しかった。

 

「次は2回戦ね。私はもう勝ってしまったから――今度はあなたと花音よ」

「……ふえぇ!?」

 

 “え”の口のまま固まっていた松原さんが、また驚きの力でこっちの世界へと帰ってきた。

 

 ……このツイスターゲームは、どうやらまだ続くらしい。

 

 





こんにちは、山神薙人です。

いかがでしたか?
作者的には書いていて楽しかったので、たまにはこういう話もいいかなと。

次回は白鷺千聖編?(この後もまだまだ出てきますが)のラストとなるお話です。めちゃくちゃキスをします。
お楽しみに!!!!!!!!!!!

ではまた!!!!!
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