「ただいま戻りました」
嫌味抜きで優秀な術士だった。幻覚から抜け出して家に帰るまでに1時間もかかるなんて思いもしなかった。とりあえず、姫様が襲撃された様子はない
「ケガはないようですね」
「ケガをさせられたなら、僕は血まみれですよ。返り血で」
目的が僕でも姫様でもないとなると、別の誰かと間違われたか。もしくは運悪く巻き込まれた。恐らく後者だろう。前者であるなら、僕か姫様のどちらかが襲撃を受けていないと辻褄が合わない
「しばらくは外出を控えた方がよさそうですね」
「気にしなくていいんじゃないですか。なんたって、姫様の護衛はこの僕ですよ?」
気は進まないけど、術士を探すか。となれば情報屋に依頼する必要がある。ああ、幾ら吹っかけられるか考えると憂鬱だ。あれだな、やっぱり探さなくていい気がしてきた
「その頼りになる護衛が術士に惑わされ、反撃もできずに家に帰ってきているのですが」
「姫様の身の安全を優先したんですよ。炎さえ使ってよければ、5分で終わらせれましたよ」
アリアさんが使うなって言うから
「未知の力を使わせるわけにはいきません。お母様も私も同じ考えです」
「制御できますよ。不安なら、武器を使わせてくれれば周りに被害は出しませんし。アリアさんも姫様も心配性ですね」
「それを使えばあなたに謂れない風評がたつことは目に見えてます。武器を使うことも許可できません」
「あれもダメ、これもダメ。しまいにはグレますよ」
当然、武器も炎もいざとなれば使う。日本ではそのいざという時がこないため使えない。護衛なのに武器を使ったらダメって本末転倒だ
「グレたらリーゼントにしないとダメですからね。日本の法律で決まってます」
「勝手な法律作らないでください。リーゼントなんてダサい髪型、風紀委員くらいしかしませんから」
「そうですか?男らしくていいと思いますよ」
「絶対にやらないですから。リーゼントにするくらいなら、そこら辺の泥水でも飲んだ方がマシです」
「泥水を飲むんですか?あまりオススメしませんが、ゼブルがそれを望むなら止めません」
「いつの間に腹黒姫様に進化したんですか。野猿と太猿の影響ですね。これだから猿山の大将も信用出来ない」
お茶目な一面が最近は頻繁に出すぎじゃないですか。まあでも、いい変化だと思いますよ
「γの部下たちですね。3人はよく一緒にいると、前にゼブルが話してくれた気がします」
「猿山の子分と大将だって、僕は話したんですけどね。記憶を捏造しないでください」
「そんなことを言って、またγに怒られますよ」
「γの血糖値があがるだけですから、どうでもいいですよ」
「γの健康を心配してお酒を飲ませないようにしているのに、ゼブルは照れ屋ですね」
え?なんですか、そのデマ。そんなデマを流すなんて、流しているやつはロクな人間じゃない
「違いますから。ジッリョネロの守護者がアル中なんて、格が下がるじゃないですか。僕のために止めているんです。で、そのデマは誰から聞いたんですか」
デマを流す悪人を許してはいけない。もしかしたら、今後姫様の悪評を流す可能性だってある。そう、これは私情ではなく姫様のための行動。断じて私情ではない。私情で人を罰したら怒られるからね
「お母様から聞きましたよ?お母様がゼブルに聞いた時は『ジッリョネロでは安酒しか飲めないのか、なんて噂をされたくない』と言っていたそうですが。不思議なことに理由が違いますね?」
いつになったら優しいエンジェル姫様に戻るんだろうか。くっ、γの影響がここまで強いとは。一生の不覚也
「何を考えているかよく分かりませんが、違いますからね」
「いつの間にエスパー姫様になったんですか。心を読むなんて、プライバシーの侵害ですよ」
人権侵害だー
「心を読ませるなんてセクハラですよ?まさか、ぜブルがあんなことを考えているなんて」
「いやいや、想像上のゼブルくんは何を考えてるんですか。姫様って案外ムッツリですね」
「!!!!!?女性にそんなことを言ってはいけません!!」
ひぇ、怒られた。理不尽だ
「術士を探さないんですか?」
「実害を与えられたわけじゃないですからね。姫様が排除してほしいなら探しますけど」
「いえ、大丈夫です。そのおかげでゼブルがこんなに早く帰ってきましたから」
「....γ式口説き術をいつの間にマスターしたんですか。アイツはロクなことをしませんね」
「姫様姫様、今日のお昼ご飯はこれなんてどうですか?こっそり買っておいたんですよ」
「カップラーメンですか。たまにはいいかもしれま...なんですかこの『世界へ羽ばたけ、カップヌードル〜日本が誇る懐石料理風味〜』明らかに地雷感のあるカップラーメンは」
「姫様知ってますか?これにお湯を入れて3分放置すれば、懐石料理が出来上がるんですよ!!健康に悪そうだし、パッケージも安っぽいし、今までは気にもとめてませんでしたが、3分で懐石料理が出来上がるなんてすごくないですか!日本の食に関する執念が生み出した最高の食事ですよ!」
たったの3分で懐石料理が出来上がるなんて、改めて口に出しても信じられない。しかし、僕はこの国の食に関する拘りを知っている。だからこそ、この嘘のような話を疑わない!3分で懐石料理なんて、テンションが上がる!
「現実を教えてあげるのが優しさでしょうか。それとも、このまま3分間は楽しませてあげるべきでしょうか?」
「?よくわかりませんが、姫様の分もお湯入れときましたよ」
「....!...!?」
何かを無言でアピールされている。頬をつついたら空気が抜けた。なにこれ、可愛い
「仕方ありませんね。苦痛も共に味わえば思い出になります。今回はゼブルの勘違いに付き合ってあげます」
「どうして、そんなに不吉なことを言うんですか?」
「ゼブルの口に合わない気がしているだけです」
「心配しなくとも、僕は懐石料理が好きですよ」
「こういう系統の食べ物は、元となった料理が好きであるほど好みにくいといいますか、そもそも何故カップラーメンを知らないんですか」
「恥ずかしながら、僕が食べるものじゃないと思ってました。ですが、これが懐石料理に化けるなら話は別です」
「.......なんですか、この明らかに美味しくなさそうなラーメンは。僕の懐石料理はどこに?」
「大事なのは味です」
「いや、そうじゃなくて、僕の懐石料理はどこに?」
見当たらない。美味しくなさそうな麺しか見えない
「現実を見なさい。カップラーメンは懐石料理にはなりません」
「う、嘘だ...確かに懐石料理って書いてましたもん」
「風味と小さく書かれているでしょう。こんな勘違いをするのは、ゼブルくらいだと思います」
「──この会社、潰してきます」
「私情で動いたらダメです。メッですよ」
「赤ん坊扱いしてます?」
「和ませようと思って」
「姫様じゃなかったら血祭りに上げてますからね」
「思ったことはそのまま口に出しなさいって、ゼブルが言ったじゃありませんか」
「いっ...てますね。昔の僕は余計なことを言ったみたいです」
「作った以上は食べるしかありません。ゼブル、口を開けてください。アーンしてあげますよ、アーン」
「いやいや、レディーファーストって言葉がありますから。僕が食べさせてあげますよ。ほら、ちっちゃい口を開けてください」
明らかに美味しくない匂い。全然食べたくない。姫様と一緒にいなかったら捨ててるレベル
「風邪を引いた時に私に甘えたこと、守護者達には内緒にしてあけます。はい、あーん」
「姫様が怖い夢を見て1人でトイレに行けなかったこと、まだ誰にも言ってませんよ。ほら、口を開けてください」
「二度とカップラーメンなんて買いません。やっぱり、姫様の手料理が1番です」
「そう言いながら、よく食べましたね。偉いですよ。ご褒美に、ゼブルが隠し持っている高級プリンを食べましょう」
「なんで知ってるんですか」
端っこの方に隠しておいたのに。僕が買ったものを食べるだけだから、ご褒美ではないのでは?
「隠し場所が甘いです。冷蔵庫にある物で、私が把握してないものはありません」
「半分こですからね」
「それでこそ私の護衛です」
「もっと感動する場面で言ってもらっていいですか?」
万が一を考えて、今日からはしばらく引きこもり生活か。食料がなくなっても、最悪ネットで注文すればいい
「ゼブルが選んだものにハズレはありませんからね。楽しみです」
「たった今、ハズレを引いたばかりですけどね」
って、聞いてない。楽しそうでなによりです。あ、ちょっと、半分こですからね。全部食べないでくださいよ
『なんですか、僕の声を聞かないと安心して眠れないんですか?ストーカー並に気持ち悪いですよ』
数ヶ月の間は術士の襲撃を警戒したが、何も無かった。既に僕と姫様は引きこもるのをやめて、健康的な生活を送っている
『相変わらず可愛くねぇガキだ。アリアが喜んでるぜ、お前がマメに姫様の写真やら動画を送ってくれて嬉しいってな』
『おっと、まさか姫様に嫉妬してます?百戦錬磨のナンパ師γ様が子どもに負けるなんて最高に面白いですね』
『僕は微笑ましい家族愛は眺めたくなる質でな。嫉妬なんかしねぇよ』
『えぇー?ほんとうにござるかぁ?』
『いつからお前は侍になったんだ。あんまり舐めた口聞いてると、泣かせるぞ』
『電話越しに?』
『あーあー、ウザってぇ。お前の茶番に付き合ってたら、いつまで経っても本題に入れねぇ』
『γの茶番の間違いだ』
『γさんだ、クソガキ』
『で、今日はなんの用?』
週一で連絡してくるんだから、この暇人は
『──
『ってことは、姫様をお披露目するってこと?』
守護者然り、他のファミリーのメンバー達にも。そして、姫様が表舞台に立つということは、アリアさんが表舞台から──舞台から降りることを意味する
『ああ、そうだ。ようやく、ようやく僕たち守護者も姫様とご対面ってこった』
『あったことも無い女の子を姫様って呼ぶの頭がおかしいと思う』
へんたいふしんしゃさんめ
『喧嘩売ってんのか?てめぇが姫様ってよんでっから、俺らもそれに習ってやったんだろ』
『とりあえず、すぐに姫様とそっちに戻ります。最期に親子で会話する時間くらいはあってもいいでしょ』
『誰がお前も戻って来いって言ったよ。お前は姫様を送ったあとも、並盛に残ってボンゴレを監視してろ』
ボケてんのか、このボケ。姫様の護衛として渡航した僕が姫様がいない日本に残るって、頭沸いてる。さっさと病院に行け
『ボケてんのか、クソジジイ』
『まあ、お前の気持ちも分かる。今回は俺もお前の意見寄りだ』
『僕だって、アリアさんの死に目に会うくらいの権利はあると思いますけど』
『俺もそう思う。が、これもアリアからの命令だ。必ずなにか意味がある』
『──ま、いいですよ。元々僕は部外者ですしね』
姫様ともこれでお別れか。長かったような短かったような、割かし充実した日々を過ごしてきたなぁ
『バカなこと言うな、バーカ。そんなんだから、お前はいつまで経ってもガキなんだよ、クソガキ』
『僕のことはどうでもいいとして、しっかり姫様のこと支えてくださいよ。いきなり組織のトップなんて大役を担うことになるんですから。本当に、頼みますよ』
そのために姫様の動画や写真を守護者達に送り続けた。知らない人間をボスと仰ぐわけじゃない。全く情報のない知らない子どもを支えるわけじゃない。しっかり支えろよ、お前たち大人が。ボスになるとはいえ、姫様は年相応の子どもなんだから
『頼まれるまでもねぇ。アリアの娘だ、何があっても支えてやるよ』
『あんたがそう言うなら信じます。僕の信頼、裏切らないでくださいね』
『【電光のγ】の名前にかけて、必ず姫様を支える。お前は余計な心配せずに、残りの期間任務をこなせ』
『りょーかいです。短い間でしょうけど、残りの期間頑張りまーす』
アリアさんが亡くなったら、僕は自由の身。ジッリョネロファミリーとは関係の無い、唯の1人のヒットマン。それがアリアさんとの約束だから
『ったくよ、アリアもバカとバカな約束したもんだ。残っても誰も文句言わねぇのによ』
泣かせてやろうか?人の事バカバカ言いやがって。まあ、多分これが最後だから見逃してあげますか
『姫様のこと、本当によろしく頼みます。信じてますから、
『──ああ、任された』
私とゼブルは空港にいる
「本当に、ついてこないんですか」
ゼブルからイタリアへの帰国指示を聞いた時、お母様の寿命が長くないことを察した。それはつまり、私がジッリョネロファミリーのボスになるということ。悲しみと同じくらい、大きな重圧が背中にのしかかってきました
「このまま日本に残りますよ。アリアさんからの命令もありますしね」
「ですが、あなたは私の護衛です。最後まで私を守り抜く義務があるはずです」
お母様が何を考えているのか、私には分からない。ゼブルは掛け値なしに強く、絶対に裏切らない人間。そんな人を、わざわざ日本に残す意味がわからない
「護衛の任務は姫様が飛行機に乗るのを見届けたら終わりです」
「でも、守護者として
「守護者は僕以外にもいますから。むしろ、イタリアには僕以外の守護者全員いますし。困り事があれば、γを遠慮なく使ってください」
ここで別れれば、ゼブルがどこか遠くに行ってしまう気がする。そんな予感がする
「私は、あなたを頼りたいんです。困った時に相談にのってくれるのも、一緒に悩んでくれるのも、あなたがいいんです」
長い時間を共に過ごした。もしかすると、人生で1番長くいるのはゼブルだったかもしれない。そう思えるくらいには、同じ時間を共有した。当たり前のように隣にいてくれる人。それがゼブルだった
「んー、まるでプロポーズですね。大丈夫、僕がいなくても守護者たちが姫様を支えてくれます。それに、本当に困った時は呼んでくれれば駆けつけますから」
「困ってから呼ばないと来てくれないんですか?」
「あれですよ、独り立ちってやつ。でも、呼んでくれれば海の中マグマの中、森の中宇宙の果てまで、どこまでも助けに行きますから安心してください」
「腑に落ちませんが、分かりました。ゼブルが私に同行する気がないということは」
「僕が居なくても、姫様は大丈夫ですよ」
「──約束ですよ」
「?」
「私が呼んだら、宇宙の果てでも絶対に来てくださいね」
「僕の誇りにかけて、約束します。身体には気をつけてください、姫様」
「──いずれまた、会いましょう」
離陸する飛行機の席に座る私の隣には、いつもいた少年の姿はなかった
「僕と君で、一世一代の大勝負をしよう。この大博打に勝つことが出来れば、呪いの解呪に一歩近づくんだ!もちろん、僕だけじゃなくて、アリアからユニに引き継がれた呪いだって!!」
「──協力しよう、