東方奴像劇 ~幻想入りする奴ら~   作:オチンギンデカ男

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紅魔館忍び込む奴 その3

 暫く道なりに進み、やっと見覚えのある場所に着いた魔理沙。

 順当に行けば、目的地たる図書館に余裕で辿り着けるハズだ。

 

 しかしまたしても二人組の声。

 パッと柱の影に身を隠し、声の主らを確認する。間違いなく外来人だ。

 

 

「どんだけいるんだよ……もう軽く異変だぜコレ」

 

 

 うんざりしながらも、その二人組が去るまで隠れる事になった魔理沙。

 まず相方と思われる一人の男が、感慨深そうに話し出した。

 

 

「いやでも、みんなビックリするかもなぁ。あの『リムジン恭介』と『オペラ慎二』が……まさか、幻想郷って別世界でコンビ組むなんてさ」

 

「するかもね」

 

「まぁ、俺さ。リムジン恭介として六年間ピンでやって来たけどさ。どっかでもう無理かも!って思っててさぁ」

 

「分かる分かる、分かるよ。僕もオペラ慎二としてさぁ、ピンでやってたけど……気持ちは分かるよ。不安になるよな」

 

「そうだねぇ」

 

「漫才師さんとか羨ましく見えるよな」

 

「見える!」

 

 

 どうやらこの二人──リムジン恭介とオペラ慎二は、例の余興の為に即席でコンビを組んだようだ。

 

 

「正直、俺たちより長く生きてる妖怪とかのお客さんを笑わせるには、リムジン恭介一人だけじゃ力不足かもって思っていてさ」

 

「まさか僕も……いや、実はリムジン恭介前から良いなと思っていたからさ。だからここで偶然会うなんてさ、もうこれ運命なんだよ」

 

「そうだよね。俺もそう思ってた」

 

「二人なる事でこう……爆発しそうじゃない? エネルギーが」

 

「ねぇ!」

 

「次の余興……僕たちで伝説作ろうよ」

 

「いやもう、そりゃあもう!」

 

 

 意気投合し、固く握手をする二人。

 側から見守っていた魔理沙は苦笑いを浮かべていた。

 

 

「……どいつもこいつも変に自信家なのはなんなんだ……」

 

 

 呆れながらも、ますます楽しみになって来る。絶対に宴会へは呼ばれなくても行こうと決意した。

 次に二人はコンビ名を考えると言う話になり、まずリムジン恭介が提案する。

 

 

「コンビ名ねぇ……なぁーんか、ワードとかくっ付けちゃうかぁ」

 

「あー。そうだねぇ」

 

「それかぁ、リムジン恭介とぉ〜……あっ!」

 

 

 リムジン恭介が、なにか思い出したかのように尋ねた。

 

 

「え? 本名なんだっけ?」

 

「本名?『小田』」

 

「あっ! 小田くんなんだ! じゃあ下の名前が?」

 

「あ、慎二じゃないんだよ」

 

「あっ!? そうなんだ!?」

 

慎三(しんぞう)なんだよ」

 

「あーー! なるほどなるほど!」

 

「『小田山(おだやま) 慎三』」

 

「え?」

 

 

 急に苗字が少し変わったので困惑するリムジン恭介だが、小田山が正しいようだ。

 更にリムジン恭介は、

 

 

「オペラ慎二って何年やってたっけ?」

 

「ピンでは四年。芸歴は六年だけど」

 

「その前はなにやってたの?」

 

「コンビ組んでた。けど相方と上手く行かなくてさ」

 

「あー、分かるなぁ〜……俺もコンビ組もうとした時期あったけどさぁ。相方がピン芸人のやり方を尊重してくれなくてさ」

 

「そうそう。コンビ組むとしたらピン芸人同士が良いよね。尊重し合えるし」

 

 

 オペラ慎二こと小田山のあれこれを聞けたところで、本題のコンビ名の話に戻る。

 

 

「じゃあさ、コンビ名さぁ……名前で言っちゃう?」

 

「あ! いいね! 凄い漫才師っぽい!」

 

「そうでしょ!?」

 

「うん!」

 

「『リムジン恭介と小田山』みたいな!」

 

 

 一瞬、小田山から戸惑いの沈黙が生まれる。

 

 

「……ん?」

 

「まぁあの、『と』を付けるか付けないかだけどね。『リムジン恭介(てん)小田山』みたいな?」

 

「あー……それだったら『オペラ慎二とリムジン恭介』ってコンビ名でいいと思う」

 

「いや! それだったら小田山でいいかもね?『リムジン恭介と小田山』!」

 

「いや……」

 

「それか『小田山とリムジン恭介』でもいいよ?」

 

 

 頑なに自分を本名にさせたがるリムジン恭介に、小田山はたまらず、

 

 

「いやいや。リムジン恭介で来るんだったら、『リムジン恭介とオペラ慎二』でいいんじゃない?」

 

「でもオペラ慎二じゃない訳じゃん?」

 

「え?」

 

「もうピンじゃないんでしょ? コンビ組む訳じゃん?」

 

「そうだけど……」

 

「それだったら新しい自分になった方がいいよ?」

 

 

 納得できない小田山は「おかしいおかしい」と否定。

 

 

「なんで僕だけ小田山なの?」

 

「だって、オペラ慎二じゃないよね? コンビ組むから」

 

「リムジン恭介じゃないじゃん? コンビ組むし」

 

「いや俺はリムジン恭介だよ?」

 

「は?」

 

 

 唖然とする小田山。

 ここまで話してやっと議論の理由に気付いたリムジン恭介は、「あっ!」と納得したように声を上げた。

 

 

 

 

「俺、捨てねぇよ? 俺、リムジン恭介捨てねぇよ?」

 

 

 思わず絶句する小田山。

 

 

「……いや。今言ったじゃん? コンビ組むんだったら僕、オペラ慎二捨てなきゃならないだろ?」

 

「捨てたらいいじゃん。捨てれるじゃん」

 

「じゃあリムジン恭介捨ててよ」

 

「捨てねぇよ?」

 

「いや」

 

「あのかけがえのない六年間ぜっっっってぇ捨てねぇよ?」

 

「じゃあ僕も捨てねぇよ」

 

「捨てろよあんな四年間!」

 

「なんでだよッ!!」

 

 

 とうとう声を荒げる小田山。

 ここに来て両者の結束に綻びが生まれてしまった。

 

 

「僕だってかけがえないよッ! 四年間やってたんだオペラ慎二として!」

 

「なにがかけがえないんだよッ!」

 

 

 リムジン恭介の口調も荒っぽくなる。

 完全に両者、喧嘩腰だ。

 

 

「なにがかけがえないってんだよ! 言ってみろよッ!」

 

「四年間オペラ芸やってたんだもん!」

 

「あんなのかけがえのなにもないよッ!! 誰でも出来るよッ!!」

 

「なんて事言うんだッ!?」

 

 

 それだったらと小田山は言ってやる。

 

 

「君のだって誰だって出来るよッ!! 全部リムジンに例えて『長い長い』って言うだけだろッ!?」

 

「は!?」

 

「僕は声出してんだ! ハァーーーーッ!!!!」

 

 

 煽るようなオペラ芸を披露する小田山に「馬鹿にすんな!」とリムジン恭介は怒鳴る。

 

 

「リムジン恭介としてのかけがえのない六年間馬鹿にすんなッ!!」

 

「君だってオペラ慎二のかけがえのない四年間馬鹿にしたじゃないか!」

 

「馬鹿にする価値があるから馬鹿にしてんじゃないかッ!!」

 

「それに君のリムジンネタッ! 車もなにもない幻想郷で通用する訳ないじゃないかッ!!」

 

「オペラ芸だって通用しねぇよッ!! 妖怪がオペラなんか知ってる訳ないだろッ!!」

 

「通用するよッ!! 少なくともリムジンよりッ!!」

 

「そもそもなんで慎三なのに慎二なんだよ!」

 

「画数の問題だよッ!!」

 

「なんだよッ!! しょーもねぇなぁッ!!」

 

 

 とうとう罵倒合戦に発展してしまった二人。

 静聴に徹していた魔理沙だったが、さすがにこれ以上ヒートアップしたら血を見そうになると判断。

 意を決して柱から飛び出し、仲裁に入った。

 

 

「待った待ったお二人さん! とりあえず落ち着けって!」

 

「誰だよ! 急にリムジンみたいな長い柱から出て来て!」

 

「りむじんは分からないけどこれ以上喧嘩すんな! 命かかってるステージに出るんだろ? 妥協しなきゃ駄目だぜ」

 

 

 小田山が「そうだそうだ!」と囃し立てる。

 しかしリムジン恭介は、

 

 

「第三者がしゃしゃり出て来るんじゃねぇよ! これは小田山とリムジン恭介の問題なんだよ!」

 

「ホントにそのりむじんっての捨てるつもりないんだな……」

 

「当たり前だろッ!! 俺のリムジンみたいに長い気も限界なんだよ!」

 

「だからりむじんが私分かんないんだよ!」

 

 

 それを聞いて小田山は得意げに、

 

 

「ほら僕が言った通りじゃないか! リムジン通用しないんだよ! そもそも面白くないし!」

 

「見た事ねぇだろ俺のネタッ!!」

 

「見た事あるよッ!! 全部リムジンに例えて『長い長い』言ってッ!! リムジンに乗った事もないくせに!」

 

 

 それを言われてリムジン恭介は押し黙る。痛い所を突かれたようだ。

 一向に言い争いをやめない二人に辟易しながらも、魔理沙はつい気になった事をリムジン恭介に聞く。

 

 

「じゃあさ……おたくの本名はなんてだ?」

 

「なんで言わないと駄目なんだよッ!」

 

「純粋にフェアじゃないからだぜ。あっ、私は霧雨魔理沙」

 

「リムジンみてぇに長い名前だな!」

 

「それやめろ。てか長くないし……ほら。私も名乗ったんだしさ、あんたも名乗りなよ。レディーから先に名乗らせて、そりゃああんた失礼だぜ?」

 

 

 逡巡する様を見せるリムジン恭介。

 

 

「……イタズラしねぇよな?」

 

「しないしない。名前で遊ぶんが私の一番嫌いな事だぜ。あんたもしないよな?」

 

「僕もしないよ。しようものなら僕がオペラで掻き消してあげるよ。ハァーーーーッ!!」

 

 

 癖の強い二人に、「仲裁に入らなきゃ良かった」と後悔する魔理沙。

 再三「イタズラするなよ」と念を押した後、やっとリムジン恭介はおずおずと、まず苗字から名乗る。

 

 

「……『佐々木』だよ」

 

「佐々木? じゃあ、佐々木恭介か?」

 

「ちげぇよ!」

 

「じゃあなんて名前なのさ」

 

「『大樹(だいき)』だよ」

 

「え?」

 

「……『佐々木 大樹』だよ」

 

 

 彼の本名を聞いた途端、小田山は吹き出す。

 

 

「じゃあ恭介ってなんなんだよ」

 

「画数の問題だよッ!!」

 

「僕と同じじゃないかッ!! 良くしょうもないって言えたなッ!?」

 

「うるせぇよッ!!」

 

「だったらコンビ名は、『佐々木大樹とオペラ慎二』でいいよな?」

 

「てめぇにリムジンの名前預ける訳ねぇだろッ!! 勝手に強盗すんなよッ!!」

 

「なんだよもうッ!!」

 

「ちゃっかりオペラ慎二に戻りやがってッ!!」

 

 

 また口喧嘩しそうになり、魔理沙が制止させる為提案を入れる。

 

 

「じゃあもう『佐々木と小田山』にしたら良くないか?」

 

「良くねぇよ。俺ぜっっっってぇリムジン恭介捨てねぇから」

 

「もういい、分かったぜ」

 

 

 魔理沙はもう諦めた。

 

 

「横槍入れた私が悪かった。マジで悪かった。あとは勝手にやってくれ」

 

「リムジンみてぇに長い横槍だったなぁッ!!」

 

「こいつにマスタースパークかましてやりてぇ〜」

 

 

 心底めんどくさくなり、魔理沙はその場を離脱した。

 後ろでは延々と二人の口喧嘩が聞こえる。たまに小田山のオペラ声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかいつも忍び込むより倍の疲労感を抱きながら、やっとの事魔理沙は目的地「大図書館」に到着する。

 

 ここは紅魔館の地下にある、ホールほどもある広大な書庫だ。

 天井まで届かんばかりの巨大な本棚が規則正しく、延々と並び、その中には膨大な量の書物が仕舞われている。

 主に、幻想入りして来た外の世界の本。忘れられたグリモワールから絶版となった小説、漫画まで、その種類は幅広い。

 

 魔法使いである魔理沙は、魔導書や暇潰しに読める娯楽本を求めて、度々この大図書館に忍び込んでいる。

 盗みではない。あくまで借りているだけだ──自分が死ぬまで。

 

 

「んー……今日はどんなの借りてこっかなぁ〜」

 

 

 本棚を巡り、適当に目を通す魔理沙。

 

 

「えーっと……おっ。この本面白そうだな。ええと……『今日の空が一番好」

 

「なにやってるのかしら」

 

「うぉわッ!?」

 

 

 後ろから声をかけられ飛び上がる魔理沙。

 振り返るとそこには、薄紫のネグリジェ姿の、顔色の悪い少女がジトっとこちらを睨み付けていた。

 彼女を確認すると、魔理沙は苦笑いを浮かべながら、

 

 

「……や、やぁ『パチュリー』。元気そうだな」

 

「元気に見えるとしたあなた、一回『永琳(えいりん)』に診て貰った方がいいわね。私より重症だから」

 

「ははっ……」

 

 

 彼女の名は「パチュリー・ノーレッジ」。

 この大図書館を管理している魔女だ。見た目は少女だが、その年齢は百は超えている。

 パチュリーは小脇に抱えた本を持ち直し、呆れたような溜め息を吐きながら、

 

 

「今日も今日とて忙しそうね。泥棒稼業で」

 

「泥棒じゃない! 借りてるだけだ! 私が」

 

「死ぬまででしょ……何回も聞いてる」

 

 

 いつもなら見つかった途端、追い出しにかかるパチュリー。

 しかし今日の彼女からは積極的に追い出そうとする気概が見えない。

 寧ろ魔理沙を見て、

 

 

「ふぅん……まぁ、今日は許してあげるわ」

 

「……え? いいのか!?」

 

「本も三冊ぐらいまでなら待って行って構わないわよ」

 

「…………さてはなにか私に頼むつもりだな?」

 

「あら鋭い。春の陽気で脳が溶けてたと思ってたのにね。私の不調に気付けないくらいは」

 

 

 いちいち言葉に棘があるパチュリー。とりあえず彼女は付いて来てと顎で示す。

 逃げても良かったのだが、好奇心が勝った魔理沙はおずおずと彼女の後に続く。

 

 

 

 

 大図書館の開けたスペースに二人はいた。

 椅子に座って本を読み、あれこれ魔理沙に指示を出すパチュリー。

 その指示に従って、魔理沙は床にダガーナイフでガリガリと魔法陣を描かされていた。

 

 

 彼女の持つダガーナイフは「アセイミー」と呼ばれる代物。材質は黒曜石。

 魔女が儀式で魔法陣を描く際は、このアセイミーを使い、床を削って描くそうだ。

 勿論、チョークなどで描くより重労働だ。

 

 

「…………パチュリぃ〜。これ床傷むぜぇ。チョークで良かったんじゃ……」

 

「駄目。魔力を吸った黒曜石のアセイミーを使う事に意味があるの」

 

「通りでこれ、握っててビリビリすると思ったぜ」

 

「床の事は心配しなくていいわ。事が済んだら魔法で直すし……あっ、書けた? じゃあ次はそこの線と線を繋げるように描いて」

 

 

 魔法陣を書く傍ら、魔理沙は屋敷での事を聞く。

 

 

「そういやレミリアの奴、宴会やるって?」

 

「あぁ、言ってたわね……ほら。去年の冬に博麗神社で宴会やってたじゃない」

 

「あぁ。やったやった」

 

「その時にレミィったら……『私だったらもっと豪勢に出来る』って、酒の席で(ゆかり)霊夢(れいむ)に言っちゃったみたいでね」

 

「ははは……んで後に引けなくなって、宴会主催するってか……あいつらしいぜ」

 

「私はパスするけどね。そもそもどんちゃん騒ぎは好きじゃないのよ」

 

「いや、でもレミリアのやる宴会、ちょっと面白そうじゃないか? 特に外来人集めて余興させるみたいだしさ」

 

 

 それを聞いてパチュリーは頭痛がする思いになったのか、額に手を置く。

 

 

「全く……どこから流れ込んで来たんだか……上に行ったら屋敷のあちこちに変なのいて……それにたまに図書館にも入って来るのよ……一回凄い奴が来て、腰抜けたわ」

 

「パチュリーが腰抜かすほどって…………あ。多分、歯ぁ光ってる奴じゃないか?」

 

「あなたも会ったの……本読み終わって顔上げたらアレがいてひっくり返っちゃったわよ」

 

「あいつは仕方ない。私も怖かった」

 

「ふふっ……あ。もう描けた? 良しっ」

 

 

 魔法陣が完全したと見ると、パチュリーは本を持って椅子から立ち上がり、その魔法陣の傍らに立つ。

 

 

「なぁパチュリー。これ、召喚魔法だよな?」

 

「なまじウチから本を盗んでいるだけあるわね。予習済みで感心するわ」

 

「それほどでもないぜ」

 

「褒めてない」

 

「で……なに召喚すんだ?」

 

「悪魔よ」

 

「いや……もう悪魔はこの図書館にいるだろ……」

 

「『小悪魔』とは違うわ。もっと……格上よ」

 

 

 呪文を唱えようとしたパチュリーだったが、チラリと魔理沙を見て、

 

 

「……うん、そうね。あなたが召喚してみる?」

 

 

 と言って本を差し出す。

 魔理沙の目が輝く。

 

 

「え!? いいのか!?」

 

「魔法陣だって描いてくれたんだし」

 

「……いや待て。その悪魔って……ヤバい奴だったりする?」

 

「いや? 大丈夫よ?」

 

「ホントか?」

 

「さぁ。この本の……ここに書いてある呪文を唱えて」

 

 

 呪文の箇所を指差しながら、本を魔理沙に渡した。

 釈然としない様子ながらも、意を決して魔理沙は呪文を唱え始める。

 

 

「パズブ・レラク・キャリオゼベ・チェナモ・レホーテ・ヤナサパリ!」

 

 

 唱え終えた途端、魔法陣が輝き出し、辺りが揺れる。

 空気が一変し、不穏なものになる。

 尋常ではない雰囲気を感じた魔理沙はパチュリーにもう一度聞いた。

 

 

「な、なぁ!? 大丈夫な悪魔なんだよな!?」

 

「えぇ。願いを叶える代わりに命持って行く悪魔よ」

 

「大丈夫じゃない!!!!」

 

 

 呼んだ以上、もうどうする事も出来ない。

 魔法陣がフラッシュを放ち、薄暗い図書館が白光に染まる。

 

 

 

 その光に目を眩まされた二人。

 やっと視界が戻ると、辺りは霧に包まれていた。

 

 

 そしてその霧の中──魔法陣の中心に、誰かが佇んでいた。

 

 

「……どうやら成功ね」

 

 

 パチュリーは満足そうに微笑む。

 そこにいるのは間違いない。魔導書にあった、「悪魔」だ。

 

 

 

 

「──俺を呼んだのはお前か」

 

 

 霧の中の人影が、雄々しい声で話しかける。

 呆然としていた魔理沙だったが、パチュリーに小突かれて我にかえった。

 

 

「え!? あ、は、はい!」

 

「良し……」

 

 

 霧が晴れ始め、悪魔の姿が鮮明になり始める。

 

 

「お前の願いを……一つ、叶えてやろう」

 

 

 悪魔は続けて、

 

 

「その代償として……お前の思い出を一つ、頂く」

 

 

 

 

 霧が晴れた。

 

 

「──お前の願いはなんだ?」

 

 

 そう聞く悪魔の見て呉れは、黒タイツでツノの生えた、なんだか安っぽい姿をしていた。

 魔理沙は目を瞬せながら、

 

 

「……一つ? 一つだけ?」

 

「あぁ」

 

「……こう言うのって三つじゃないのか?」

 

「一つだ」

 

「……え。代償は魂……じゃ、ないのか?」

 

「いいや、思い出だ。お前の願いを一つ叶える代わりに、お前の思い出を一つ頂く」

 

「ちょっと待って魔理沙、読ませて」

 

 

 パチュリーが魔理沙から本を引ったくる。

 そこに書かれている呪文を読み、

 

 

「魔理沙……ちゃんと詠唱したわよね?」

 

「し、したぜ! お前も聞いてたろ! えーっと……パズブ・レラク・キャリオゼベ・チェナモ・レホーテ・ヤナサパリ。覚えたぜ!」

 

「ええと……パズブ・ラレ……」

 

 

 パチュリーは頭を抱えた。

 

 

「なにやってんのよ魔理沙……パズブ・()()クじゃなくて!…………パズブ・()()クじゃない!」

 

「へ?…………あ。間違えちゃってた?」

 

 

 つまり詠唱ミスだ。

 パチュリーは落胆してのけぞり、

 

 

「もぉ〜!……違う悪魔呼んじゃったじゃないの!」

 

「お前の願いはなんだ! 願いを一つ叶える代わりに思い出を一つ頂く!」

 

「めっちゃアピールしてくるぜこいつ」

 

 

 魔理沙の言う通り、悪魔は何度も契約内容を言う。

 改めて悪魔の姿を眺めて、パチュリーはまた頭を抱え、

 

 

「全然威厳ないじゃない! 格好とかほぼ虫歯菌よ!」

 

「願いを……叶えて……一つ……」

 

「ハァ……私がやれば良かった……違う悪魔呼んじゃってる……」

 

「…………そんなん言わんといて」

 

 

 無理して作っていた声を甲高いものに戻し、悪魔は泣きそうな顔で訴える。

 魔理沙も悪魔を見て、

 

 

「……いやちょっと……せめて見た目はちゃんとしようぜ。『ヘカーティア』よりダサいのはヤバいって」

 

「そんなん言わんといて……ヘカーティア知らんけど……」

 

「いや……え? 地獄の女神だぜ? なんで悪魔が知らないんだよ。やっぱこの悪魔変だって!」

 

「そんなん言わんといて……」

 

 

 パチュリーが渋い表情で、

 

 

「最悪ね……上位存在を知らないなんてかなり格下じゃない」

 

「そんなん言わんといてや……ちゃんと悪魔やから……」

 

「どうしようかしら……魔法陣の効力も飛んじゃったし、アセイミーも魔力込め直さなきゃだし……て言うかなんなのよ、代償は思い出一つって」

 

「思い出も大事やん……」

 

 

 魔理沙が言う。

 

 

「普通さぁ……ほら。願い事は三つで、死んだら魂取りに来るって奴だろ?」

 

「魂奪われたら……死後の世界がホンマ、真っ暗闇になるから……思い出ぐらいがちょうどいいよ」

 

「なんで悪魔のくせに良心的なんだよ!……うーん。確かにパチュリーの言う通り、こいつ違う悪魔だなぁ」

 

「そんなん言わんといて!」

 

 

 パチュリーが溜め息混じりに、

 

 

「はぁ……帰って欲しいわね」

 

「そんなん言わんといて……そんな……悩ましく言わんといて……」

 

「すこぶる帰って欲しいわ」

 

「そんなん言わんといて……すこぶるってわざわざ付けんといて……本読む人しか使わんような表現で言わんとって……」

 

「寝ている時に耳元で飛んでる羽虫くらい邪魔ね……」

 

「……せめて邪魔だけにして……もう、羽虫の例えいらんから……虫で例えられんのが一番ダメージ来るから……」

 

「……あなたのせいで違う悪魔呼んでしまったじゃない」

 

「ちゃう悪魔言うのやめて……」

 

「すまん、パチュリー……」

 

「お前も謝らんといて……」

 

 

 素直に頭を下げる魔理沙に、悪魔は泣きそうな顔と声で訴えた。

 しかしそれでも挽回したい思いはあるそうで、また声を低く作ると、

 

 

「お前が俺を召喚したのだな? とりあえずお前の願いを、一つ言え」

 

「良く見たら顔デカいなお前」

 

「そんなん言わんといて!」

 

 

 しかしすぐにまた泣きそうな感じに戻る。

 どうしようかと考え込むパチュリーだが、魔法陣にまだ魔力が残っている事を感じ取り、

 

 

「……あ。良かったわ。この悪魔が格下過ぎたからまだ魔法陣使えそうね」

 

「え!? そうなのか!? そりゃ不幸中の幸いって奴だぜ!」

 

「そんなん言わんといて!」

 

 

 魔法陣が使えると知るや否や、パチュリーはその中心に立つ悪魔に対し、

 

 

「どいて」

 

「どいてとかそんなん言わんといて……」

 

「じゃあ……どきなさい」

 

「言い方の問題ちゃうから……と言うかどきなさいの方がダメージ来るから……」

 

「いいからどいて」

 

 

 悪魔はキッとパチュリーを睨み付け、低い声で、

 

 

「どかない」

 

「どいて」

 

 

 たじろぐ悪魔だが、なんとか持ち堪えて提案する。

 

 

「ならばこうしよう……その、召喚者の娘にどくよう願わせるのだ」

 

「いやいや。そんなんで願い事使う訳ないだろ」

 

 

 魔理沙に提案を蹴られる。

 業を煮やしたパチュリーはスペルカードを取り出し、

 

 

「さっさとどいて。でないと弾幕で吹っ飛ばすわよ」

 

「むっちゃ武力やん……」

 

「三秒以内にどく事ね」

 

「せめて十秒にしてや……三秒早いて……」

 

「さーん、にーぃ」

 

「あぁもう! どくってどくって!」

 

 

 脅しに負け、渋々自ら魔法陣を明け渡す悪魔。

 魔法陣が空いた事を確認すると、今度はパチュリーが呪文を唱えようとする。

 

 

「ええと……パズブ・ラレク」

 

「ここに悪魔おんのに! ちゃう悪魔呼ばんといてや!」

 

 

 ごねながらパチュリーに詰め寄ろうとしたので、魔理沙が止めに入る。

 

 

「詠唱中だから邪魔すんなって!」

 

「お願いお願いお願い! 俺に願い叶えさせて!」

 

「だーかーらー! 邪魔すんなっつの!」

 

「……それが、お前の願いだ」

 

「そう言うのいいってば。はいはいはい、邪魔邪魔邪魔」

 

「そんなん言わんといて! 三回も言わんといて!」

 

 

 気を取り直し、続きを詠唱するパチュリー。

 

 

「キャリオゼベ・チェナモ」

 

「……えっ!? キャリオゼベ!? チェナモ!?」

 

 

 悪魔が反応したので、魔理沙は聞いた。

 

 

「なんだ? 知ってんのか?」

 

「ヤバい奴やって! 辞めさせて辞めさせて!」

 

 

 しかしもう遅い。

 彼女はもう、呪文を一気に言い切った。

 

 

「レホーテ・ヤナサパリ!」

 

 

 次の瞬間、また最初の時のように辺りが揺れた。

 魔法陣が明滅を初め、中心から稲妻が発生する。

 

 禍々しいオーラが大図書館中を包み込み、次いで黒煙が吹き出した。

 

 

 

 その吹き出した黒煙の中。

 稲妻を纏い、立つ、妖しい人影。

 

 

「──俺を呼び出したのは貴様か」

 

 

 黒煙が晴れる。

 そこに立っていたのは、赤いローブを身に纏った男。

 フードの下より覗く口が、邪悪に歪んでいた。

 

 

 男は顔を上げ、召喚者であるパチュリーを下目遣いで見やる。

 

 

「……ほぉ。これはこれは……これほどの魔女に呼び出されるとは、俺の格も上がったものだ」

 

 

 満足そうにそう言うと、男はパチュリーを指差し、

 

 

「さぁ……お前の願いを三つ、叶えてやろう……」

 

「これよ! 私が召喚したかった悪魔はこれなのよ! おまけに私の力量も見抜いているし!」

 

「なんでも言うが良い。富、名声、権力ッ!!……どんな願いも自由だ」

 

「……代償は?」

 

「ふふふ……決まっているだろう?……貴様の死後……その魂を頂くッ!!」

 

「おぉ」

 

「悪くない契約だと思うがな……? フハハハハハハーーッ!!!!」

 

「良しっ! 決まった! これよ魔理沙! これが本物の悪魔よ!」

 

 

 喜ぶパチュリーと、悪魔を見てわーと手を叩く魔理沙。

 その隣で、違う方の悪魔だけあわあわと慌てていた。

 

 

「ホンマに悪い悪魔やん! アカンアカンアカン!」

 

「いやぁ……やっぱ威厳と貫禄が違うぜ……違う悪魔と全然だな」

 

「ちゃう悪魔アカンアカンアカン! ちょっと止めたって! こいつホンマに悪い悪魔やから!」

 

 

 必死にパチュリーに訴える、違う悪魔。

 

 

「こいつはアカンアカン! ホンマにアカン!」

 

「さぁ……願いを言え! どんな願いも三つ、叶えてやろう……!」

 

「下手したら自分の魂だけ持ってかれるで!?」

 

「貴様ほどの魔女が、俺に何を望む? んー? 新たな知識か? それとも最強の魔法か?」

 

「耳貸したらアカン! ホンマにヤバいからこいつ! 俺の言う事信じて!?」

 

 

 パチュリーは少し考え込む。

 

 

「んー……召喚術の検証が目的だから願いとかは……本当に叶えてくれるのか試したいけど……」

 

 

 その時なにか思い付いたのか、パチュリーは違う方の悪魔を指差し、

 

 

「魔理沙。その悪魔に願いを言いなさい」

 

「え? こいつに?」

 

「よっっしッ!!」

 

 

 ガッツポーズする、違う方の悪魔。

 すぐ魔理沙に向き直り、声を低く作って、

 

 

「さぁ……お前の願いを一つ、言え。その代わりお前の思い出を一つ、貰って行く」

 

「それ定型文なのかよ」

 

「おい、そこの悪魔。選ばれたのは、俺だー。お前はさっさとどっか行けー」

 

「悪魔が悪魔煽るなよお前……てか、えぇ……え? なんてお願いすりゃいいんだ……?」

 

 

 魔理沙が尋ねると、すぐに彼女は「こう願いなさい」と言って、

 

 

「この本物の悪魔に、自分の願いを三つ言いなさい」

 

「実験台に使わせるなやぁ!!」

 

 

 パチュリーに食ってかかるので、魔理沙が止めてやる。

 

 

「実験台に使わせるなやぁあ!!!!」

 

「昔から検証したかったのよ。悪魔が悪魔と契約したらどうなるのかを」

 

「それ面白そうだな!!」

 

「面白がるなやぁ!!」

 

 

 魔理沙も乗り気のようだ。

 すぐに違う方の悪魔に向き直ると、

 

 

「よし……じゃあ、パチュリーの代わりに、この悪魔に願い事三つ言え!」

 

「モルモットちゃうねん! もうお前らの方が悪魔やん!!!!」

 

 

 悪魔の方に目を向けると、彼はにんまりしながら違う方の悪魔を指差し、

 

 

「さぁ……お前の願いを三つ言え……!!」

 

「おー! 悪魔VS違う悪魔だぜ!!」

 

「ちゃう悪魔言うのやめてや! 正真正銘の悪魔やから!!」

 

 

 魔理沙に食ってかかる、違う悪魔。

 

 

「ちょっとやめさせてぇや!」

 

「いいから早く願い事言えって!」

 

「嫌や嫌や! 契約成立してないもん!」

 

「だったらほら、ハイ。思い出やるぜ」

 

 

 魔理沙が頭を差し出すと、一瞬その頭が光り、次に丸い光球──思い出が現れ、違う悪魔の手に渡る。

 思い出を抜かれた後遺症か、魔理沙はふらふらしている。一方の違う悪魔は大焦りだ。

 

 

「契約成立してもうたやん!!」

 

「あー……あー、クラクラした……ほら。じゃあ、願い事言えよな。私の願い事叶えてくれよな!」

 

「お前の願いちゃうやん! そこの魔女の願いやん!」

 

「あいつの願いは私の願いだぜ!」

 

「主人公みたいな事言わんといてや!」

 

「とにかく契約成立したんだ! 叶えて貰うぜー!!」

 

「うぅう……!」

 

 

 違う悪魔はおろおろし、「どないしたらええねん」と何度も呟く。

 その内なにか閃いたのか、したり顔を浮かべ、本物の悪魔に指差して言う。

 

 

「おい悪魔っ! 一つ目の願いだっ!!」

 

「言ってみろ……?」

 

「俺の魂を奪いに来るなっ!!」」

 

 

 本物の悪魔は感心したように「ほぉ」と呟くと、低くおぞましい笑い声をあげ、

 

 

「良かろう! その願い、聞き入れた! これで貴様の魂を、俺が回収する事はないだろう……!」

 

「やった!! どうだ見たか魔女コンビ!!」

 

 

 そう言って魔理沙とパチュリーに交互に指差し向ける、違う悪魔。

 しかしパチュリーは彼を諭すように、

 

 

「……えーっと。今のはね、魂を回収するのが『彼じゃない』って話なのよ」

 

「それがなんや!」

 

「つまり……彼じゃなく、『彼以外の誰か』が回収しに来るって事じゃないかしら?」

 

 

 本物の悪魔の高笑いが響く。

 

 

「その通りッ!! 俺には多くの配下がいるッ!! 貴様の魂は、その配下に回収させよう……つまりッ!! 俺()貴様の魂を奪わない事になる。よってッ!!……願いは叶ったなぁあ?」

 

「なにやってんだぜ悪魔ぁ!!」

 

 

 魔理沙が違う方の悪魔をしばく。

 

 

「願い一つ無駄にしただけじゃねーか!!」

 

「あああ!! ホンマやん! もぉおーー!!」

 

「もうホント……狡猾さで負けてんじゃん!! 本当に違う悪魔なんだな!!」

 

「つかお前最初、俺の事ダサい言うたよな!? あいつも俺の事虫歯菌言うたよな!? アレなんやねん!!」

 

「もう過ぎた事だぜ!! 次やれ次やれ!」

 

 

 本物の悪魔が再び、違う悪魔を指差す。

 

 

「さぁ虫歯菌……二つ目の願いを言え……!」

 

「お前ーーっ!!」

 

「本物の悪魔はアドリブも効くのね……」

 

 

 変な所に感心するパチュリー。

 それはそれとして再び悩む、違う悪魔。

 その場をウロウロし、考え抜き、そしてとうとう思い付いたのかまたニヤッと笑った。

 

 

「おい悪魔っ!!」

 

「んん〜?」

 

「いますぐ……この世界から消えろっ!!」

 

 

 そう言いつけると、本物の悪魔をゆっくりと頷いた。

 

 

「良かろう……その願い、聞き入れた……」

 

 

 次の瞬間、悪魔の足元から黒煙が吹き上がり、彼を包んだ。

 それから煙が晴れると、悪魔はいなくなっていた。喜ぶ違う悪魔。

 

 

「よっしゃ!! やった!! 消えた!!」

 

『さぁ……俺は消えたぞぉ?』

 

「え?」

 

 

 しかし喜んだのも束の間、本物の悪魔の声だけが大図書館中に響く。

 

 

『今、俺はそことは違う世界……魔界からテレパシーで語りかけている。つまりッ!!……貴様の世界にはいない。よってッ!!……二つ目の願いも叶ったと言う事になる……!!』

 

「なにやってんだってお前ーーッ!!」

 

 

 また悪魔をしばく魔理沙。

 

 

「魔界からテレパシーでって……帰る手間省いてやっただけじゃねぇかっ!!」

 

「ホンマやん!? リモートワークにさせてもうた!?」

 

「え、なにお前? 裏かいたつもりなのか今の??」

 

「そ、そうやけど……」

 

「かけてないって!! もぉー! 何もかも違うじゃんかよー! 私の呼んだ悪魔ーー!」

 

「そんなん言わんといて! てか! 自分が呪文ミスったんが原因やんけ!!」

 

 

 思っていた以上に彼の程度が低く、パチュリーも溜め息が止まらない。

 とは言え、まだ願い事は残っている。悪魔がテレパシー越しに、

 

 

『さぁ!! さぁさぁさぁッ!! 三つ目の願いを言えッ!!』

 

「もう最後だぜ!! なんか……なんかないのか!?」

 

 

 魔理沙に急かされ、またしてもオロオロする違う悪魔。

 なにか、なにかないかと目を泳がせ、焦り、取り乱し──ある時にふっと、落ち着いた。

 

 

「…………おい悪魔。三つ目の願いや」

 

 

 大きく深呼吸し、晴れ晴れとした表情で言う。

 

 

 

 

 

「俺を含めた、世界中の『ちゃう奴』に──勇気を与えてくれ」

 

「……っ!!」

 

 

 その願いを聞いた途端、魔理沙とパチュリーの表情に驚きが現れた。

 何か言おうとする魔理沙だったが、悪魔はそれを制し、

 

 

「俺……正直しんどいねん! どこ行っても『ちゃう奴来た』ってさ!……分かってんねん、自分でもポテンシャル低い事ぐらいは」

 

「……あなた……」

 

「願いは一つだけやし……駆け引きは下手やし……分かってんねん。自分が……ちゃう悪魔やって事ぐらい」

 

 

 パチュリーを見ながら悪魔は訴えるように、

 

 

「しんどいねん!……でも、世の中のちゃう奴に分かって欲しいねん……誰かにとってのちゃう奴は──」

 

 

 次に魔理沙を見やる。

 

 

「──誰かにとって、必要な奴やねん」

 

 

 そう言う悪魔の表情は、とても優しかった。

 

 

「たまたま目の前にいた奴が『ちゃう奴』……そう思っただけで……絶対誰かにとっては必要な奴やねん」

 

「…………お前……」

 

「ほら、お前もそうやろ?」

 

 

 魔理沙に言う。

 

 

「親父さんと喧嘩して、絶縁して、家飛び出して……自分では未練ないように思い込んでた」

 

「………………」

 

「でも……ホンマは心残りあるんやろ? 自分が霧雨道具店の跡取りなって、店大きくする未来もあったんかなって!!」

 

「……そうだったの。あなた……」

 

 

 この話はパチュリーも初めて聞いたようで、魔理沙に何とも言えない眼差しを向けていた。

 彼女は今、物思いに耽るように俯いている。

 悪魔は続けた。

 

 

「でも……そうならへんかった。お前は自分が『ちゃう奴』になってもうたと思ってもうた……」

 

「…………」

 

「苦しいよな? 辛かったよな?」

 

「…………」

 

 

 暫く俯いていた魔理沙だったが──そこでやっと、顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然覚えてないぜ。え? なにそれ?」

 

 

 本当に何も覚えていない間抜け面の魔理沙。

 悪魔がのけぞる。

 

 

「俺が思い出頂いたんやったーー!! 忘れてたーーっ!!」

 

「ぜんっぜん覚えてない。なにそれぇ?」

 

 

 結局、この違う悪魔とはパチュリーが契約し直し、自身のいらない思い出一つと引き換えに魔理沙の思い出を返してあげた。

 

 

 

 

 魂を奪われる話についてだが、違うと言っても悪魔は悪魔で元から死んでいるので、当分本物の悪魔にこき使われる羽目となった。




【幻想郷に来てもお互い譲らない「リムジン恭介」と「オペラ慎二」って奴】

【ちゃう悪魔呼んでもた奴】
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