妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
文字をメインに切っていくので変なところで切れてしまうこともあるでしょうが、章ごとに投稿予定ですのでよろしくお願いします。
最後におまけとして、完結後のネタばらしの小ネタがございます。結末をまだ読まれていない方は飛ばすことをお勧めします。
プロローグ 目覚め
これは優等生な妹と劣等生な兄の二人が入学した高校で騒動に巻き込まれていく波乱の物語――ではなく、
兄に幸せになってもらうため暗躍する妹と、妹を幸せにしたい兄の
――
激しい衝撃と灼熱を体に受けたような痛み。そして急速に冷える体に私は『目を覚ました』。
今までも痛みや恐怖がなかったわけではなかったが、どこか遠い夢の出来事であり、いずれ覚めて消えるものだと思っていたのだ。
ここは物語の世界で、好きなキャラクターを一番近くで見られる『特等席』。
大好きなラノベ主人公の妹視点から観察できる、都合の良い夢。彼女の幼少期を追憶する妄想を具現化、体験できる夢なのだと。
これがこの時感じた彼女の心情か、と体験して間近で傍観できるアトラクションの気分でいたのだ。
けれど死への恐怖が私を目覚めさせたのか、『夢』だったものが実際は現実だったのだと受け入れざるを得なかった。
私は12年も前から生まれ変わっていたのだという事実を。
ただ、無為に傍観していたのだ。
変えられた過去があったかもしれないのに流れに身を任せてしまっていた愚かしさを死の間際に気付くなんて、なんてもったいない人生を送ってしまったのだろう。
死を迎える間際に走馬灯が流れるというが、この時間はきっと過去の反省を促すものなのではないだろうか。
残り僅かな命のカウントダウンを刻む音を感じながら私は思考する。
この作品が好きだった。
いつだって巻き込まれて窮地に立たされる彼が、その逆境をものともせず淡々と乗り越える姿はとても格好良く、徐々に明かされる彼の素性、立場に怒り、悲しみを覚え、ままならない状態でも一番大切なモノを守ろうとする姿に応援せずにはいられなかった。
どうか彼にハッピーエンドを、と願わずにはいられない。そんなラノベ界でもなかなかの不幸を背負ったヒーローを、私は今唯一救える立場にいるのだと、抜ける力を振り絞り己の意思で握りこぶしをつくり意識を強く保って現状について考える。
ここは原作三年前の沖縄侵攻。
そして私――司波深雪は己の魔法で人を凍結させたこと、人の命を停止させてしまったことに動揺したところ隙を突かれ、母と穂波さんと共に銃の乱射を受けたところ。
なら、もうすぐ現れるはずだ。この世界のヒーローであり大好きな彼が、血相を変えて飛び込んでくる。
(もっと、もう少し早く思い出せれば――)
彼にそんな顔をさせなくて済んだかもしれない。
トラウマを植え付けずに済んだかもしれない。
けれど、起きてしまったことを嘆いても何にもならない。
知識はある。私は、この先に起こるだろう未来を知っている。
だから――
「深雪っ!」
私は『未来』を打ち砕こう。
この、世界中の不幸を一身に背負った少年を幸せにするために。
ふわり、と温かな空気に包まれる――これは少年の奇跡の起こす魔法の力。
(なんて、優しくて心地の良い――)
まるで少年の心そのもののようで涙が溢れそうになる。
(もう、大丈夫)
もう、これ以上何者にも奪わせやしない。
「深雪、大丈夫か!?」
心配でいっぱいの表情を安心させてあげたくて、
「お兄様」
初めて少年に、我が愛しのお兄様に微笑んだ。
少しでもこの喜びを伝えるように。
心入れ替えた私はあなたを全力で幸せにすると、音にできない思いを伝えたくて。
今まで見せたことのない妹の態度にお兄様は虚を突かれたように目を瞬かせていたけどそれは一瞬で、すぐに良かったと安堵されて抱きしめてくれた。
(ああ、生きている)
私は二重の意味で喜んだ。
私は生きている。深雪として、生きている。
お兄様のために、生きられる。
そっとお兄様の体が離れる。
母と、穂波さんを救うために。
それを邪魔しないよう息を潜めて見守った。
信じられないくらい大量のサイオンがお兄様の体に巡っているのが見える。
そこからは魔法――否、神の御業としか呼べない現象が起きた。
自分の身で体験したとはいえ第三者視点で見るとまたその凄さがわかる、ような気がした。
アニメで見るより一層輝いて見えるのは通す目が変わったからなのか。
倒れていた母が血の跡も穴の開いた服も嘘だったかのように元通りになり、続いて穂波さんも同様に『復元』されていた。
瞬く間に三人の命を救ったお兄様はすでに通常に戻っているように見えるが、しかし私は知っている。
今この時お兄様は冷静に状況を分析しているように見えて内心荒れ狂っているのだと。
(――そう、この話は深雪がお兄様を知るきっかけの物語だった)
ここから物語が動き出す、スタート地点。
私たち兄妹の転換期。
物語の通り、お兄様は風間大尉と前線に加わると部屋を後にする。
本来のストーリー上、ここで追いかけてお兄様から母に事情を尋ねるように言われるのだが――
「お兄様!」
母はまだ気を失っている。だから穂波さんだけが驚いた視線を背後から向けているのがわかったが私は構わなかった。
立ち止まり振り返るお兄様に、手短に伝える。
(いかないで、と伝えることは簡単だ。けれどお兄様は初めて憤りを感じ、初めての激情に身を委ねようとしている。それも理性を働かせながら。
果たしてそれを邪魔することが彼の幸福に繋がるだろうか?――そもそも命令でもしない限り、きっとお兄様は止まらない。そして私にはやっぱり止められない。だから)
「戻ってきたら、たくさんお話ししたいことがあります!」
だからどうか、ご無事で。
願いを込めて伝えるとお兄様は口元を綻ばせて、「ああ」と短く答えて行ってしまった。
「深雪さん?」
「桜井さん、お母様は」
目覚める前と後での私の変化は大きすぎて、気配りの上手な彼女が気づかないはずもなく、穂波さんが声をかけてくれたけど、それに応えることはできそうになかった。私もまだ、どこか夢うつつなところがあった。
何かを聞かれる前に彼女の言葉を遮って母の容態を聞いた直後、母は目を覚ました。
目を覚まして自分の体を見下ろした彼女が口にしたのは現状ではなくお兄様のこと。
不在の理由を答えると、原作通りの言葉が返ってきた。
「そんな勝手な真似をするなんて・・・やっぱりあの子は不良品ね」
原作を知らなければ正面から受け取り母を非難していたかもしれない。
でも、さっきもそうだ。自分の置かれた状況よりもお兄様の所在を訊ねるとは、そういうことなのだ。
この切り捨てるようなセリフにはどれほど複雑な思いが込められているか。
何も知らず聞いていたなら考えもしなかっただろう。
音だけを聞けば淡々と、温度のない声色だったが辛辣な言葉に隠された真実に私は密かに興奮していた。
安全な場所へ避難する際見上げた母の表情は感情が一切見えない。
真直ぐと、ただ前を向く姿勢は美しく、気高いものだった。
「盗聴器や監視カメラの類のものは見当たりません」
案内された部屋をくまなくチェックして、問題なしと穂波さんは母の元へ戻る。
そしてパネルを操作しているのを遠めで見ながら、私は口を開いた。
「お母様。お兄様のことを教えていただけますか?」
あえてお兄様、と強調して言えば、予想通り母は麗しいかんばせに深い溝をつくって見せた。
「達也をそのように呼ぶのは控えなさい。他人の耳目のある所ではある程度仕方のないことでしょうけど四葉の者しかいない場所で兄として扱うべきではないわ。貴女は次期四葉の当主なのです。もしあのような出来損ないを兄と慕って依存しているなどと見られたら貴女にとってひどくマイナスになります」
(やっぱり、今までの『深雪』では気づくことはできなかった。この母の想いがどこに向けられたものなのか)
否、知っていなければ気づけないほど些細なシグナル。それを12歳の子供に気付けという方が酷なのだ。
それほど母の言動は徹底していた。
(本当に四葉は愛が深い)
たとえ感情を失っていても、根源を見失っていてもそれでも――
「申し訳ございませんでしたお母様」
しっかりと目を見て頭を下げた私に部屋に走った緊張は緩み、穂波さんも操作が完了したのかモニターには戦地の最前線が映し出された。
ちょうど、お兄様が空から『投下』された場面だった。
「あなたもそろそろ知った方がよいでしょうし、そうね、どこから話そうかしら」
語られるお兄様誕生の物語。
母の様子に嘆きも悲しみもない。
ただ悲劇が報告書のように温度のない声で流れてゆく。
そして、
「あの子に残った唯一の衝動は、兄妹愛。つまり妹、貴方を愛し守ろうとする感情。それだけがあの子に残された、本物の感情なのですよ」
それだけがお兄様の原動力の源なのだと母は言う。
だからこそ今モニターに映る小さな背中は戦場を駆けているのだと。
お兄様が魔法を放つ。
敵の武器はばらばらになり、人は陽炎を残して消える。
お兄様が魔法を放つ。
傷だらけで倒れた兵士が息を吹き返し前進する。
お兄様が魔法を放つ。放つ。放つ。
戦況は不利な状況から一変。一気にひっくり返った。
画面では敵方が白旗を振り、降参を訴えているのにまだ攻撃しようとしたお兄様がちょっと手荒に止められていた。
――相手もここで、大人しく引き下がり終わればよかったのに。
「あの子はあれで常識に拘っているところがありますからね。親に愛情を抱けないなんてつまらないことで悩む必要はありませんから」
そうしたらこの母の言葉にだって今すぐ返してあげられたのに。
指令室から慌ただしさが伝わる。
モニターには兄を含めた三名の姿。
知っている。この後に起こる悲劇を。
解っている。私が止めねばそうなることも。
(だけどそれはいったい誰の幸せのために?)
手が震えた。いや、手だけではない。肩も震えている。
情けないと思った。
こんな安全地でこれから起こる悲劇をただ嘆くしかできない。
――力が欲しい。
この悲劇を防ぐために必要な知識も権力も、ましてや奇跡を起こす力なんて持っていなかった。
「奥様、お願いがあります」
その声に過剰に反応してしまう。
行かせたくない。
伝えたことはないけれど深雪に、私にとって彼女は親戚のお姉さんのような、憧れの大人の女性だった。
だから、母が傍を離れる許可を与え、彼女が了承した瞬間穂波さんに抱き着いていた。
「深雪さん?」
普段ならあり得ない私の行動に、けれど穂波さんは少し身を屈め抱き留めながら優しく肩を撫でてくれた。
その優しさに私は何も返せない。
「桜井さん、いえ・・・穂波さん!」
母に聞こえないよう耳元で小さくありがとう、と。
そして少し体を離して、
「いってらっしゃい」
笑顔で言ったつもりだ。
口元は引きつって、目は潤んでいた気もするけれど。
そんなおかしな行動を取る私に、けれど穂波さんはそのことに触れずに笑みで返してくれた。
少し離れて身を屈めて一言「奥様のそばにいてあげてくださいね」、と。
耐えきれなかった涙が頬を伝う。
それを拭うことはせず彼女は颯爽と部屋を出ていった。
「深雪」
呼ばれるままに母のそばに戻ると少し困惑したように眉尻を下げた母の顔があった。
「貴女には私のような直感はなかったはずだけど、貴女も何か感じたのかしら」
つまりは母も解っているのだ。
もう彼女が自分の下に戻らないことを。
そう思うとまた涙が零れ落ちた。
「お母様。私たくさん誤解をしておりました」
今、このタイミングしかない。
盗聴器もカメラも無く、他人に聞かれないこのタイミング。
(――聞かれてはいけない秘密の話をしようではないですか)
涙をぬぐい、母を見上げた。
「お母様はとても愛情深く私たち兄妹を慈しんでくれていた。そのことに今更ながら気づきました。
たとえ感情が表立たなくてもお母様は、お兄様を嫌ってなどいなかった。冷遇など表向きでしかなかった」
母がお兄様の手術の際無理をして感情を失っているなんて知らなかった。ただ、淑女として感情を表に出さないだけなのだと、そう思い違いをしていた。
だけどこの人はそこまで器用な人ではない。
そしてあえて私たち兄妹を、と言ったけど本当に母が愛しているのはお兄様の方なのだと知っている。
私はお兄様の為につくられた調整体だから。――この十二年間、全く愛されていないとは思わないけれど、お兄様とは比重が違うことくらいわかる。・・・わかってしまった。
いつだって母は一番にお兄様を探している。悪態をつこうとも必ず一番に目を向けるのはお兄様だった。
だけどここは気づいていないふりをして、等しく愛されているということにして、私は話を続ける。
「お気づきでないようですが、お兄様に親しく話しかけた男性のことを面白く思っていなかったようでした。それにさっきも穂波さんにお兄様の自慢をなさってましたし」
マテリアルバーストを使うのだと予測した母は、それがどれほど難しい魔法かを知った上でお兄様なら初めてでもうまくやるだろうと言い切ったのだ。これが自慢でないならなんだというのか。
無意識だったのですねとの指摘に母はまた眉間に皺を寄せたが、口を開いても音が出ない。
上手く言葉にまとまらないようだった。
「そして私にも傷つかないよういつだって諭してくださっていた。私はいつもそれを意地悪だと思ってましたけどそれも私の為だった。――そしてお兄様の為だった」
兄と親しくさせないのは、私が感情的になってお兄様を止めないため。それはお兄様の為でもあるけれど、少しは残される私の為だと思いたい。
そこまで言うと母の表情は困惑からすとんと感情が抜け落ちた。
(改めて思うけど美人の無表情ってめっちゃ怖い!)
目を覚ましてからずっとシリアスな場面だったから何とか踏ん張っていたけれど素の自分がひょっこりと飛び出てしまった。
元々私自身にシリアスは無理な人間だった。見た目は大人しそうでも内心がうるさいタイプ。オタクによくいる人種です。
自分でもここまでよく頑張ったと思う。
元来の自分は真面目な空気など長時間吸うことさえできない。
ボディが深雪ちゃんなおかげか、はたまた無意識に12年間四葉と共に育った影響か、だいぶシリアス耐性が付いているようだけど、やっぱり私にはここまでが限界だった。
何より、
(これ以上はただお母様を悲しませるだけになってしまう)
そのことが耐えられそうになかった。
先がない母をこれ以上苦しめるなんて、私にはできそうにない。
だって私は、
「お母様、私もお母様の事大好きです」
この十二年、ずっとこの母に嫌われないよう、好かれようと思うほどに母が大切だった。
手を取って、胸に抱いて真直ぐに想いを伝える。
突然の告白に、母は微動だにせず無表情のままではあるのだけれど。
「先ほどから何をおっしゃっているの?もしかして達也に修復された際におかしくなってしまったのかしら?」
「正確にはその前、です」
おかしくなった自覚はある。だって12歳だった深雪ちゃんに、その倍以上生きたOLの精神が合わさってしまったのだから。でもそれは母の言うお兄様に再構築してもらってからではない。
「死を前にして未練が過ったのです。声に出して伝えたい、と。遠慮していては何も伝わらないのだと。もちろん誰に対してもというわけではありません。けれど家族になら、外部を気にせず伝えたいと思ったのです」
深雪ちゃんはいつだって自分の気持ちを伝えることができなかった。
なぜならそれはけして望む通りに返っては来ないモノだったから。
大好きな母にも、嫌いどころか気になって仕方なかった兄にも伝えることのできなかったモノ。
いつだって言うことはできたはずなのに伝えてしまえば叱られたり、遠ざけられてしまうのではないかと怯えていたのだ。
だけど母の過去を知っている今の私なら彼女の脆く崩れそうな心が見える。
兄の過去を知り、未来をも知っている私には兄の心の成長を、伸びしろを信じられる。
(私ができることは乾燥した大地に愛情という名の水を注ぐこと。
風を運びお日様を浴びさせて、育むことが今、私にできることだと)
恥ずかしいことを言っているのは重々承知だ。
でも前世オタクだった私はこういう時の対処法を知っている。
どんな世界であろうとも愛は不幸への特効薬、いや劇物だと。
果たしてそれがいい方向に転ぶのか、超展開をもってして破滅へと進むのかは分からない。
けれど事態を好転させるためには親子愛でも兄妹愛でも『愛』がなければはじまらない。
少し前までこの世界は圧倒的に愛が見えていなかった。
感情を失ってまでも子を守ろうとするなんてそれこそ愛でなくて何だというのだ。
四葉という一族の結束の力の源だってそもそも愛じゃないか。
そして今なおこの瞬間戦場に留まっているだろうお兄様は妹への愛のため、体を張っている。
「お母様、お兄様は確かに激しい感情、衝動を無くしたかもしれません。けれど情は残っているのです。ならばそれを成長させれば良いだけのこと。兄妹愛という愛を受け止める器があるのです。その器をちょっと広げれば家族愛になるでしょう。――お兄様に愛されるのは、情を向けられるのはお嫌ですか?」
「深雪、貴女は何を言っているのです?あの子にはもうそういった感情は」
信じられないだろう。母は手術を施術した本人。お兄様から感情をほとんど失わせたことを悔いて苦しんでいるのだから。
でもね、私は知っているのだ。この後、お兄様が高校に進学して友人をつくり、私と二人だけだった世界をちょっぴり広げられることを。
「心はあります。確かにお兄様は理性が働いて割り切るでしょう。でも割り切るだけなんです。想いはきちんと持っているのです。私にはわかります」
「それは貴女だからです。貴女にはそれが向けられているから――」
「他ならぬ私だからです。お母様、私はお兄様に幸せになってもらいたいのです」
言い切るとはっと母は気づいたようだった。
それは直感が働いたのか、それとも私の決意に何かを見たのかわからない。
けれど母ははっきりと私の意図に気付いた。
「深雪、貴女――」
「私が何者であろうとも構いません。私の意思には変わりないのです」
だからきっぱりはっきりと私も伝えようと思う。
「お兄様を幸せにしたい。でもね、お母様」
あえて言葉を崩して、
「私はもっと欲張りたいの」
深雪がしたことのない子供らしい、けれど心からの笑みで、
「大好きなお母様にだって幸せになってもらいたいし、当然私だって幸せになりたい」
だからね、お母様――
「一緒に運命に抗いましょう!」
一人では難しくても二人でなら変えられることがきっとあるから。
沈黙は長くは続かなかった。
母は私に向かって手を伸ばすと――
「いたっ」
ぺちっと額を叩いた。
声を出してしまったけど実際痛みなんて全くなかった。反射でうっかりポロリと出た。
でもそれがよかったのか母はくすり、と笑う。
「いくらここが耳目のない場所だとしてもそのように感情を晒すなど淑女としては以ての外ですよ。それにこのようにみだりに触れるものでもありません。
…せめてプライベート空間になさい」
拒絶の言葉は、ない。
それどころか今まであった壁のような空気が薄くなっていた。
完全になくなっていないのはきっとこの場所が外のせいだ、と思う。
もしくは自身の慣れない行動に戸惑っているのかもしれない。
「はい。申し訳ございませんお母様」
少し大げさに頭を下げて見せれば顔はまだ微笑みを湛えていて。
(正直気味悪がられたりとか距離を置かれたりとか、お兄様を叱ったりするんじゃないかって心配だったんだけど)
どうやらそういった心配事は取り越し苦労だったようだ。
やっぱりこの母は感情が表に出せないだけで懐が広く、優しい。
内心胸をなでおろしたところで外から今度は歓声が轟く。
「!お兄様が」
「どうやらアレは成功したようですね」
敵の攻撃は沈黙し、今度こそすべて終わったらしい。
つまり――穂波さんは帰って、こない……。
母の手を握る。
そっと手を重ねる母の表情はすべてわかっているようだった。
運命に抗おうと決めたけれど、私はこの運命を変えなかった。
穂波さんが好きだった。憧れだった。
確かに穂波さん自身こうなることがわかっていたと原作を読んだ私にはわかっている。
このことがきっかけとなってお兄様は軍に属するようになる。
だけど考えてしまう。知っていて見送ったのであれば彼女を見殺したことになる――
「彼女は選んだのですよ。本来彼女の立場なら選ぶことなんて許されないのに。それは幸せなことなのではなくて?」
…確かにそういう描写はあった。
それが彼女の救いでもあり、そしてお兄様への救いでもあった。
「それに、最後に見た彼女は笑っていました」
その笑みがついさっきのことでもあったので鮮明に思い出せた。
彼女はどうなってしまうか決意して応援に行ったはずなのに、あんなに綺麗に笑ってくれた。
私の言葉は少しでも彼女への餞別になっただろうか。
NEXT→
以下、本作シリーズの盛大なネタバレがございます。
一周読了後推奨の会話文式座談会小話です。
お読みになっていない方は以下すっ飛ばしたほうがよろしいかと。
よろしいですか?
では、第一回『座談会』を始めます。
『と、いうわけで座談会進行を務めさせていただきます作者です。本日のゲストはお兄様を幸せにしようとしてうっかりお兄様を早々に目覚めさせてしまった深雪成主こと、当家深雪ちゃんに来ていただきました!』
「紹介に悪意がありませんか?」
『悪意なんてあったら即分解されちゃうじゃないですか。無いです無いです。死にたくないので』
「…人の兄をそのように物騒な人扱いされるのは私も気分が良くはないのですが(にっこり)」
『すみませんっした!』
「わかっていただけたのならいいのです。それで、何を話せばいいのです?」
『この時の心情やあれやこれの裏話です』
「とはいえ、この時は本当に目覚めて数時間の間なのでここにある以上に語ることが無いのですけれど」
『目を覚ました時の心境とか、完結した今だから言える事とか』
「メタいですね。でもそういうことでしたら。正直もっと早く深雪ちゃんに成り代わっていることに気付けていたらもっと未来は変わってたんじゃないかな、と」
『例えば?』
「小学生になる前からお兄様は過酷な生活を強いられてました。本格的な訓練こそ体ができてから、ということでしたがその前からすでに非情とも言える訓練は行われてましたから。…何とかできなかったんですか?」
『まあ、考えなくも無かったんですけどね。過去描かれてる場面少なすぎて…私の妄想力じゃとてもとても。わかりやすい沖縄から頑張ってもらうことに。というかその前から捏造しちゃうと本編始まる前に終わっちゃうから』
「穂波さんは救えなかったのですか?」
『それは無理でした。救っちゃうと水波ちゃん難しい。そもそもお兄様自身原作のままなので防壁ないと無理。それに完全オリジナルストーリーを書くだけの力は持ってないのでこれが精一杯でした』
「完全オリジナルになると私の知識ありの意味も無くなってしまいますものね」
『そゆことです』
「…でも、もっと前に記憶があればもっと幼少期のお兄様が堪能できましたのに!」
『あ~、…番外編でよければお兄様幼児化でもしま――』
「それはぜひ!」
『…検討します』
「できるなら私が傷つく前に思い出せていたら何か違ってました?」
『お兄様のトラウマ回避と思っているならそれは無理。貴女オタク精神持ってるだけの一般人だから、人を殺すことにはどうしても躊躇いがあるから攻撃が来るとわかっていてもすぐ第二射が打てたかと言うと多分無理だった』
「…うう、私が一般人オタクだったばっかりに」
『特に目覚めたばっかりだしね。一般人の思考からは抜けられなかったはず』
「…まあ未だに庶民の感覚抜けないですしね」
『そこがウリです。諦めて。箱入りだけど雑草魂持ってる勤勉オタク』
「そんなキャラ設定だったの!?」
『徐々に深雪ちゃんに同化していったのでお上品な皮を被ったオタクになりました』
「…オタク成分は生まれ変わっても持ち越すんだ」
『業だから仕方ない』
「それがあるから頑張れたってことね。深雪ちゃん初め空っぽだったもの。周囲の期待に応えようとしていたけど、肝心の自分の願いが無かった。燃料も無くよく頑張ってたよ」
『原作ではこの後お兄様という燃料で張り切るんだけどね』
「でもお兄様しか見えてないと、お兄様を幸せにするのは大変だものね」
『お兄様が奮闘して、深雪ちゃんを守るだけで外には出さないようにしていたから幸せになるまでがちょっと遠い?協力プレイができていればもう少し違ったはずじゃないかな、と』
「そこで大人だった私が広い視野で深雪ちゃんレベル1を鍛えまくって立派なレディにさせようとした、と」
『と、思っていたのだけど気が付けばパラメ上げばかり楽しんでミニゲームに力を入れて本編ゲームを進め忘れた主人公みたいになってしまいまして』
「…つまり?」
『恋愛鈍感系主人公。ストーリーやってないから誰も落ちないんだけど、パラメーターがやたらと高いからすぐ親密度が上がって好感度だけは高い、みたいな残念ヒロイン?』
「…ちょっとお兄様呼んできますね」
『え!?ちょ、待って?!元々深雪ちゃんはお兄様が恋愛できるキャラだと思ってなかったら想いに気付けなかっただけでっ!ねえ待って!?』
―深雪が退場しましたー
『って感じで次回からはお兄様を交えてトークをしたいと思います!あの時お兄様は何を思っていたのか、深雪ちゃんの行動をどう思っていたのか、根掘り葉掘り聞ければ、と!ではここまでお付き合いありがとうございましたっ(逃)』
――
昔懐かし座談会風小話、でした。
第一弾は主に主人公のキャラ説明ですね。
ゲームアニメ漫画小説何でも手を出す一般的なオタク。ちょっとゲーム寄りの思考持ち。
ポテンシャルを基礎値とか言っちゃう。ステータス上げやレベリングが好き。伸びしろがありまくる深雪ちゃんに興奮しすぎて上げ過ぎてしまった。
でもお兄様と肩を並べる為!と思っているようだけれど、お兄様からしたらちょっと鍛えすぎじゃないだろうか(特に美貌)とか思われてそう。
イベントは熟してないのでストーリーは進まないのに告白成功させちゃったりするタイプの主人公。昔はイベント通らなくても最低限を熟していればエンディングを迎えられる恋愛ゲームがあったんですよ。今は手順を踏まないと絶対無理だけどね。ひとつでもイベント逃すとクリアできない。
この深雪成主は後者のゲームしかやってこなかったので、お兄様のイベントを熟さなければその分岐に行かないと盲信していた。ゲームではないし、何なら原作のイベントもこの二人なりに熟していたのでクリアしていた。夜のイベントを徹底的に避けていても代わりのイベントやクエストはあったのです。むしろそっちの方が親密度が上がるっていうね。
シナリオから外れているから大丈夫と思っていたら裏シナリオで最短クリアしてた。残念。どうあってもお兄様から逃れられない運命でした。
お粗末様でした。