妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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入学編⑧

 

真由美視点

 

この場を収めないと、とこの場にいないあーちゃんを呼ぼうとなった時だった。

冷気が漂い始め、その原因が深雪さんだと気づいた時には彼女は悲痛な声で叫んでいた。

 

「二科生に実力がないと、誰が決めたのです?一科生と二科生の差はサイオン情報体を構築する速度か、構築できる情報体の規模か、魔法式がエイドスを書き換える干渉力の強さ。この三つの魔法力の差しかないというのに!」

 

よほど事象干渉力が強いのだろう、彼女を中心に霜が降りている。

物理的に冷やされたことで壇上付近の生徒から静かになっていくが、彼女の言葉を理解すると彼らは皆怪訝な顔になる。

その魔法力の差がこの争いを生んでいるのになぜ彼女はその差を大したことがないという風に言ったのかが、誰にも理解できなかった。

彼女は静かになったことで落ち着き始めたのか霜は徐々に規模を小さくしていく。

まるで何もなかったかのように消え失せた時に、彼女は改めて息を吸った。

 

「失礼いたしました。――ですがやはり私には理解できないのです。なぜ、一科生が絶対二科生より優れているなどという世迷言を妄信しているのか」

「な!?何を言うんだ!君はブルーム、一科生で、それでいて新入生総代だろう?!もしや嫌味で言っているのか!」

「事実です。私は新入生総代ではありますが、成績がすべて優秀だったわけではありません。魔法理論、魔法工学で満点を出す二科生に私は成績で及びませんでした。唯一勝てたのが先ほどの魔法力の差、だけです」

「それがすべてだろう!?実際に重要なのは実力だ!」

「実力とはいったい何を指しているのです?何を成す力を言っているのですか?

優秀な戦闘員になることですか?優れた魔工技師になることですか?」

「それが俺たちに求められていることだろ?!」

「ウィードなんか期待されることさえない!」

 

不満が空間全体に充満していく。

鬱屈した心、鬱憤が、まるで増幅していくようにここぞとばかりに噴出する。

それを受け止めているのは一人の、まだ15歳になったばかりの少女。

また彼女の周囲からエイドスが干渉を受けているのか霜が降りるが、先ほどと違いどうにも不安定に感じた。

彼女の感情が無意識に引き起こしているというのか。

だとしたら彼女の魔法力はとんでもない強さだ。

なんて感心している場合ではない。

無意識にこれほどの力が漏れ出るほど彼女は今、己を制御できていないのだ。

しかしそんな彼女から発せられる声はそんな乱れなど一切感じさせないほど落ち着いたもので、大きな声でもないのに不思議と遠くまで聞こえる声だった。

 

「お、――兄さんは二科生ですが成績は優秀で。

魔法理論は大人も舌を巻くほどすごいのだと、兄さんのアルバイト先の社員の方が自慢するように教えてくださいました。

私のCADは兄さんが調整してくれます。

おかげで私は優秀な成績を残せます。手に馴染むという言葉では足りないほど、体の一部のように馴染むのです。

そして――こんなことを言うのは鼻持ちならない話でしょうが、私は幼少の頃から目立つ容姿でした。

それが原因で誘拐されそうになったことは幾度となくありました。

時には運悪く海外の組織から狙われたこともありましたが、大の大人でも恐れをなす中、兄さんだけが傷だらけになりながら私を救い守り通してくれました。

それでも――そんな実力ある兄さんであっても二科生です。現在基準である魔法力が弱いというだけで、二科生となりました。

二科生に実力がない?私がこうしてここに立てているのは、兄さんがずっと守ってくれたから。

実力とは?一科生全員が魔法師の大人に囲まれても動けるというのですか?人のCADの調整をできますか?いったいどれだけの人が、理論が組み立てられるからとオリジナルの魔法を構築できるというのです?

私にはそんな実力はありません。

でもだからこそ己を磨く努力をしようと思います。兄さんの、隣に並び立てるようになりたいから。いつまでも守られる存在でいたくないから。

誰もが学び、身に着けようとするのが学校であり、カリキュラムこそ違えど一科生も二科生も努力することに変わりはないはずです」

 

誰も何も言えなかった。

彼女は、彼女の方が誰よりもこの現状に不満だったのだ。

己の兄がどれほどすごいか知っているのに二科生として蔑まれなければならないことが。

もし、だけど彼女の言うことが本当なら――達也くん、本当に高校生?しかも二個下??ありえないのだけど。

いったい誰がそんなスーパーマンに勝てるというの?

単なる力比べなら勝てる人はいるでしょうけど(十文字君とか摩利とか)調整がいきなりできる一年生なんていないし、しかも聞く限りかなりレベル高そうなんだけど?!それに――オリジナルで魔法つくっちゃってるの!?それもうなんで高校生なんてしてるのよってレベルなんじゃない!

ねぇ深雪さん、いろいろ詳しく教えてくれないかしら?

できれば九校戦が始まる前に。

なんて考えているのは現実逃避ね…。反省しなくちゃ。

深雪さんの話はこう締めくくられた。

 

「一科生だってただ魔法力があればすごいわけじゃない。そこに努力を重ねて技術を高めてこそなのです。

二科生も努力し研鑽を重ねているのに、努力するのに一科も二科も無いのにどうして、その努力を踏みにじれるというのです!?」

 

彼女は答辞で述べていたではないか。

皆等しく、と。魔法以外にも、と。

それはただ平等を謳っただけではなかったのだ。

彼女は実例を知った上で注意を促していたのだ、それがすべてではないと。

彼女の演説は説得力があり、ここで拍手が起きてもおかしくないと思った。

むしろ私は率先して拍手をしようとしたけど、この演説を聞いても頭に血が上っている人は抵抗できる力が残っていたようだ。

 

「そ、そんな綺麗ごと言ったところで!聞いたぞ。あんただってウィード、二科生を無視したり避けたりしたって」

「そうだ!上辺だけなんだろ!?」

「そ、それはっ」

 

その場面は私も見ていたので知っている。

指摘された言葉に彼女は初めて口をつぐむ。

不味い、と思った時には既に形勢は逆転してしまっていた。

 

「結局自分だって俺たちのことを蔑んでんじゃねーか!」

「舌先で騙そうだなんて卑怯な真似しやがって!」

 

高まるボルテージに壇上の彼女は、先ほどまで堂々としていた姿の影もなく肩を丸め俯いてしまった。

激高した生徒たちが彼女に襲い掛からんと武器を構える。

その中にはCADもあり――魔法が彼女に向けられて展開される!

しかし俯いている彼女は動かない。

先ほどのすごい干渉力もうまくコントロールできないのか――こんな恐慌状態での魔法は難しいか――私も対抗できそうな魔法を用意して、

 

 

「っ深雪!!」

 

 

会場に響き渡る声は空気を切り裂いた。

――彼の登場と活躍はまるでヒーローのようだった。

闘技場の入り口に一つの影が現れた。

息を弾ませながら現れた彼がCADを付けた左右の腕を交差させたかと思うと、突如脳が揺さぶられるような感覚が私たちを襲う。サイオンの動きから彼が魔法を放ったのだということは分かったが、いったい何が起きたのかわからない。

だがおかげで深雪さんに放たれそうだった魔法はことごとく無力化されていた。

そして彼――達也くんは人垣をかき分けて壇上に向かいながら、今度は左腕のCADを操作して地面を蹴りつけると増幅した揺れが人々の平衡感覚を奪い、あっという間に彼女の元に駆けつけてみせた。

息切れは治まり始めているのか、最後に大きなため息を漏らして落ち着かせた彼は、ゆっくり彼女に近寄ると、その小さくなった体を抱きしめた。

 

「深雪、もういいんだ」

「でもっ」

「深雪がこれ以上無理することはないんだ」

 

そこには仲の悪いはずの兄妹が互いに慈しみ合いながら支え合う姿があった。

 

「深雪」

 

そう言って達也くんが深雪さんの頬に手を当て上向かせると、今まで堪えていたであろう深雪さんの目から大粒の涙が零れ出す。

それはとても尊い光景のようで、誰もが魅入った。

そして彼女はようやく口を開く。

 

「…お兄ちゃんっ…」

 

と。

涙声で。

この瞬間、闘技場内はきっと心が一つになったことでしょう。

すなわち、

 

(((((お兄ちゃん!?!?!?!)))))

 

え、さっきまでっていうか今まで兄さん、て呼んでなかった?

もしかしてお家ではお兄ちゃんって呼んでる?もしかして高校生になってから直した、とか?

さっきまでのヒーローものから急にアットホームな家族モノにチェンジした?

ちょっと情緒が追いつかない。

私だけじゃないようで、隣のはんぞーくんはお兄ちゃん、という言葉を繰り返していた。

そんな私たちを置いてけぼりに彼らは語った。

――この悲劇がなぜ起こったのかを。

私たちは悟らざるを得なかった

 

深雪さんはただ一人自己を犠牲にして平穏を守ろうと戦っていたのだと。

 

 

「お兄ちゃんを守るって、頑張るって決めたのにっ」

「お前は十分頑張ったよ」

「私が傍に行ったら、二科生だからって悪く言われるから我慢っ、した」

「わかってるよ。だから避けてくれてたもんな」

「仲良く見えたら、クラスの子が嫌な思いするかもって」

「それくらい一科と二科は壁が厚かったからな。おかげであの時衝突は避けられただろう?」

「でもそのせいで二科生の人に悪いことを…せっかく助けてくれたのに、お礼も言えなかったっ…」

「それならこれから説明すればいい。アイツらは気がいいからすぐ許してくれるさ」

「…ごめんなさい、私…ごめんなさ、」

「お前が謝ることは何もない」

「…私、無力だった。一科生って言っても、新入生総代でも、こんなにも、何もできない」

「そんなことはない。お前は賢くて、優しい俺の自慢の妹だ。――会長、生徒会長」

「ぅえ?!は、はい」

 

急に舞台に呼ばれてうまく反応ができなかったが何とか前に歩み出る。

 

「この場はお任せしてもよろしいですか?深雪を休ませてやりたいので」

「もちろんよ。ゆっくり休ませてあげて」

「すみません。お願いします」

「やめて頂戴。謝らなきゃならないのはこっちの方。私たちの因習が貴方たちを苦しめたのだから――深雪さんもこんなに追い詰めてしまってごめんなさいね」

 

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

彼女はずっと苦しんでいたのだ。

ずっと我慢して気持ちを押し込めて、新入生総代として模範になろうと、風紀を乱してはならないとクラスメイトにも気を配り、兄に悪感情が向かないように一人孤独に奮闘して。

 

「後日また改めて謝罪させてください。生徒会長としても七草真由美個人としても」

 

達也くんは頷くと「帰ろう、深雪」と言って片手で深雪さんのことを抱き上げて(それも軽々!)壇上を降りていく。

その道を開くように人垣が割れていく。

誰も彼らの邪魔をしないように。

深雪さんは慣れているのかバランスを取るため達也くんの肩と首に腕を絡めて。

顔を窺うことはできなかったけどもう悲しみに歪んでいないことを願うばかりだ。

その為にも――

 

「皆さん、私は生徒会長として一つ提案します。

後日公開討論会を行いたいと思います。一科と二科の待遇の差や具体的な要求もあるでしょう。

話し合いましょう。今回のような悲劇を生まないためにも」

 

 

――

 

 

達也視点

 

「深雪」

「深雪」

「深雪さん」

「おーい、深雪?」

 

キャビネットという二人きりの空間になって、深雪をゆっくり下ろしてやってその横に腰を下ろして声を掛けたのだが、反応はなく俯いたまま。

耳は赤いので恥ずかしさで爆発しそう、という状況なのだろうと理解するが、返事がないのは寂しい。

 

「みーゆきさん」

「…どんな顔して明日学校行けばいいのです?」

「だが計画通りなんだろ?」

 

何度か声がけをしてようやく声が聴けて安堵する。

声と身体は可哀想なくらい羞恥で震えているけれど。

 

「ネタばれオーケー範囲でお兄様はこんなにすごいの大公開作戦でしたら成功です」

「…そんな作戦だったのかアレ」

「元々はお兄様ヘイト撲滅キャンペーンだったと思います」

「どっちにしてもひどいな」

「やることは同じです」

 

ようやく元気を取り戻したのは、とりあえずその作戦がある程度成功したのを確認したからか。

 

「メールが来ました。明日まず全校集会で公開討論会の説明をして、一科と二科の在り方について共に考えよう!ってことになったみたいです」

「だが結構な暴論だったな。魔法力の差がなんだ、だったか?なんだも何もそれがすべての世の中だろう」

「それを言ったら身もふたもないですが、例外はいくらでもあるということです。要は二科にだって意地はあって、牙も磨けば骨をも貫けるのだとわかれば奮起するかと」

「まあクラスメイトにもいるな。磨けば光りそうなのと磨かなくても光ってそうなのが」

「一科生の横暴さがより不満を生み出していたのです。その二科生にコテンパンにされたらどうなるか、と。これからは鳴りも潜むことでしょう」

「そんなもんか」

「…でもそのためにお兄様を利用してしまったことが申し訳ないです」

 

ここまでが深雪の計画だった。

俺にはイマイチこれによってどこまで一科生と二科生の関係が変わるのかわからないが、会長から送られてきたメールから何かが動き出すらしいことは分かった。

しゅん、と縮こまる深雪に手を伸ばし肩を抱き寄せる。

温かいこのぬくもりが確かにここに深雪がいるのだと教えてくれる。

 

「随分手の内を明かしたが、大抵は大法螺だと思われたんじゃないか?」

「フィジカルを疑う人は少ないのでは?みんな魔法を受けては道を譲らされたりしてましたから。それにあの時使われた魔法を誰も何だったかもわからない様子でしたからオリジナル魔法の信ぴょう性はあったかと。調整に関してはこの後生徒会長がお兄様確保に乗り出すでしょうね。一高は調整ができる技術スタッフが足りないはずですから」

「…九校戦か」

「目立つのはよくないことですが私がエントリーされないことはまずないでしょうし、そのCADをお兄様以外に触らせるのは」

「ありえないからな」

 

他人に深雪の調整を?そんなことを許せるはずもない。

 

「不安なんです、と続く予定だったのですが」

「俺が担当だ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

笑う妹の顔には赤い、涙を流した後がくっきり残っていて。

 

「深雪に泣かれると、俺は自分を抑えられない」

 

それでも深雪が望むように動けたのは、深雪の目がそうあれと願ったからだ。

なぞると深雪はくすぐったそうに身を捩るが撥ね退けることはしない。

…だからこそ調子に乗るのだが。

 

「お兄ちゃん、か」

 

途端びくりと体を震わせる。

 

「ああああのですね、あれは何と言いますか」

「わかっているよ。効果はあったようだな」

「え、ええ。動揺させてからの方がよく聞いてもらえますから」

 

…つまり隙を生んで止めを刺した、ということだ。

その『よく聞く』も『効く』がかかっているのだろうな。

本当に末恐ろしい妹である。

 

「で」

「え」

「もう呼んではくれないのかい?」

「お、お兄様でしたらいくらでも」

「だめか?」

「ダメ、というかあの時の状況の方が稀と言いますか」

「深雪」

「あの、もう高校生ですし」

「俺が行くのが遅かったのが悪かったか?」

「いえ、タイミングはこれ以上ないくらい完璧でした!」

「なら、深雪…いいだろう?」

 

ずるい言い方だとはわかっているが、もらえるものはもらいたい。

お兄ちゃん、など呼ばれたことなど無く、そのように呼ばれたいなど考えたことも無かった。だが、あの時そう呼ばれたことでなかなかいい響きだと心が揺さぶられたのは事実。

常に呼んでほしいとは思わないが、偶になら聞かせてほしい。

深雪は視線をさまよわせ逃げ道を探すがそんなものどこにもない。

観念した深雪は覚悟を決めると平静を取り戻した顔を作ったのち、下から覗き込むようにして『にぱっ』と笑う。

 

「おにーちゃんだぁいすき!」

 

………。

 

「やり直しを要求する」

「え!?ダメでした?!」

 

何がいけなかったんだろう、じゃない。

なぜそんな引きだしを持っているんだ?

…じゃない。いくつ年下な想定をしているんだ。確かに可愛いが、それは犯罪臭がする。

 

「…お兄ちゃんはわがままだなぁ」

 

しょうがないな、という顔でさらりと言う妹はもう主演女優賞とやらをもらうべきなんじゃないだろうか。

よく知らないが毎年そんなことをニュースでやっていたのを思い出した。

 

「お兄様?」

「…深雪は恐ろしいな」

「私はそう言いつつも抱きしめるお兄様が恐ろしいです。今そんな流れがありました?」

 

どうあっても妹を抱きしめるシーンだと思う。異論は認めない。

そうこうしているうちにもう家のそばに来ていた。

 

「さ、お手をどうぞ」

「お兄様は妹をどうしたいのです?」

 

いつぞや言った俺の言葉をもじったのだろう。

恥ずかしそうに手を取る深雪に俺は決まった言葉を返す。

 

「お前を幸せにすることが俺にとっての喜びだ」

 

その為ならば共に道化にでもなろう。

お前が望むならなんだって、――この兄が叶えてやる。

 

「私を幸せにしたいならまずお兄様が幸せになってくださいませ」

「もちろんだ、俺のお姫様」

 

エスコートして玄関の扉を閉める。

長い一日が終わろうとしていた。

 

 

NEXT→

 





おまけ


『さて、入学編も折り返し地点まで参りましたが、ついに深雪ちゃんの努力が実を結ぶ瞬間ですね。最優秀主演女優賞が貰えるであろう名演技の瞬間です』
「その賞は俺が贈ろう。商品は何が良い?こういう時はジュエリーを贈るのが定番か?」
「お兄様ストップです!こういう賞は大抵名誉のみですので」
「それは残念だ」
『隙あらば貢ごうとしますね。そしてそれを躱そうとする深雪ちゃん、必死です』
「…だって、お兄様のことですもの。きっととても驚くようなお値段のするジュエリーをご用意されるのでしょう?」
「せっかくのプレゼントの機会だしな。それに最優秀の賞に見合うだけの贈り物でないと」
「…そもそも内輪での受賞ネタですので。それこそ折り紙のメダルで十分です」
「…おりがみ…?」
『おっと、お兄様の闇が出てきちゃいますね。話題を戻しましょう。深雪ちゃんによる独演会ですが、まあ好き勝手やりましたね』
「それはもう!ここではっきりエンブレムの真実を公表してしまえばよかったのですよ」
「エンブレムの真実とは?」
「ああ、生徒会で教えてもらいましたが、そもそもあのエンブレムが一科生と二科生で違うのは単純な発注ミスによるものだったのです。それを生徒たちが早とちりして格差を象徴するものだと」
「…それはまた。以前のままの状態でこの真実を明かせば二科生から不満が噴出したんじゃないか?」
「ええ。ですからこの二つの溝が浅くなるころ会長に教えてもらいました」
『でも、ここではお兄様のことを暴露成された、と』
「アルバイトの件は一応学校に申請はしておりますから。それに、九校戦がありますからね。初めから明かしておけばその後が楽になるかと。そして何より――この後のお兄様の登場でそれが嘘ではないかもしれないと思わせられるのではないかと」
「…そこまで計算していたのか」
「なんて。流石にここまで上手くいくとは思っておりませんでしたよ。出来過ぎなほど上手くいきました」
『そうですねぇ。予期していない展開が後に待ち構えていますし』
「…演劇部のことですね。まさか本まで出版されるとは思ってもおりませんでした」
『まあ、これも一つの分岐点(原作との乖離)ですね。ですが、今回何よりインパクトがあったのは『お兄ちゃん』ですよね』
「!!」
「ああ、あの深雪は後で思い返せば大変可愛らしかった」
『後で…ああ。この時は衝動の方が大きくてじっくり観察ができなかったんですね』
「記憶にはしっかり焼き付けてはいたんだがな。この時はそれどころではなかった」
「うう、申し訳ないと思うのに、とても恥ずかしい…。お兄様が完全記憶をお持ちなばっかりに」
「すまないな。お前の記録はすべてここにある」
『…お兄様でなかったらヤバい発g…(いや、お兄様でもヤバいな)その後の妹のネタ晴らしの発言で観客――ではなく生徒たちは事情を察したわけですが』
「そもそも一科生と二科生に分かれているからといって兄妹だろうと離れるべきだという考えがおかしいんだ」
「『それはそう』」
『兄妹クラス違うからって別々に帰宅する意味わかりませんよねぇ』
「クラス違うだけで兄妹を嫌いになることなんてありえませんのにねぇ」
『何はともあれ、スムーズに退場の流れになり、二人共やらかすだけやらかして帰っていきましたね』
「七草会長に丸投げしてしまいました」
「あの場を治めるのは会長の仕事だ。気にすることは無い」
『…事の発端である桐原先輩たちはすでに退場していましたしね。混乱を治めるのは確かに彼女の仕事でしょうし、この混乱に乗じて彼女が掲げていた公約を守るにはうってつけの舞台が整ったことわけですから二人が退場したところで問題なかったんでしょうね』
「…でもまさかお兄様に抱きかかえられたまま退場することになろうとは…」
『しかもお姫様抱っこで』
「横抱きです!」
『人はそれをプリンセスホールドと呼びます』
「うぅ…」
『お兄様、こちらの深雪さんを如何思います?』
「照れている深雪も可愛いよ」
「っ!」
「そちらから振ったということは構っていいんだな?」
『あ、いえ、そこまでは』
「……」
『お兄様、妹の前では舌打ちしない縛りでもあります?それにしても――とても鋭い視線でございました調子に乗ってすいません!』
「それにしても、あの時の深雪も可愛かった。まるで熟れたリンゴの様に真っ赤になって、震えて縮こまって」
「……もうお許しくださいませ」
『その続きはお話終わったら思う存分お二人でゆっくりとラブラブしてくださってけっこうですので。あれで学校の意識改革計画は無事完遂したわけですね』
「…そうです」
「そういえば最近は全くお兄ちゃんとは呼んでくれなくなったね」
「アレはあの場だけのつもりでしたのに」
「しかし、あの時は何故あのように言ったんだい?」
「…普通のままでは言い辛かったので(素面で言えないですよ…)」
『でもアレもなかなかなセリフでしたけど、キャラが違えばセーフ、みたいな?』
「何か演じていれば大丈夫かと…。それでも十分恥ずかしかったですが」
「深雪であって深雪でないようだったな。――だが、この頃に片鱗は見えていたんだな」
「片鱗、ですか?」
「深雪が、俺の幸せにしようとしてくれていたのは」
「……裏話をそのように明かしてはだめですよ」
「遡らないとわからないものだな。それも俺の記憶だけではだめだった」
『伏線回収も、理解を深めないと出来ないことですからね。当事者と会話することも時には大事でしょう』
「…私は隠し事が見つかって恥ずかしいです」
「俺は深雪がどれだけ俺の為に尽くしてくれていたのかを知って、よりお前が愛おしいよ」
『(…無言で目の圧が!)ではまた次回お会いしましょう』
「さ、話は終わったね」
「わ、私は次回のことでこの人と相談が――」
『大丈夫です!その場のフィーリングで、ノリで行きましょう!』
「だそうだ。では行こうか」
「(…うぅ…お兄様とてもいい笑顔ぉ…。添えられた手が強く感じないのに逃げられないぃ…)はい」

――深雪が退出しました――
――達也が退出しました――


――

彼ら視点ではなく初めての第三者視点で始まりました今回ですが、成主妹のお芝居が開幕しました。
お兄様の幸せのためには学校での軋轢は少ない方がいいですからね。お兄様にはたくさん青春をしてほしかった。友情もだけど恋愛もね☆…まあ、そっちは一人限定なのですが。
この勢いに巻き込まれて流されていく一高生徒たち…純粋なのか、はたまた関係性に疲れていたのか。彼らも何かきっかけが欲しかった…というのは流石に無いでしょうが、きっとこの後の七草会長の手腕(その後の工作等)により綺麗に纏まったのかもしれませんね。
しかし…お兄様妹が悪感情に晒されたことでハリネズミ状態でしたから早くこの場から去って妹を愛でたかったのでしょうね。恥ずかしがる妹が大変愛らしかったようです。同時に癒されたことでしょう。
お兄様の「深雪さん」呼びが好きです。ちょいちょい入れてしまいます。
…あと、この時腕につけているCADは風紀委員のではありません。こんな時の為にお兄様が用意していたと思われる一般CADに偽装したオリジナルCADです。お兄様特殊型しか持っていないと突かれますからね。一応一般向けのものも普段所持している設定で。
そして伝説のお兄ちゃん呼びです。お兄様呼ばれたことなかったでしょうから新鮮だったことでしょう。
妹はすべてはお兄様の為、と羞恥を堪えて熱演しました。賞を差し上げたい。よく頑張ったで賞。
その後もお兄様にお姫様抱っこをされて校内を歩き、キャビネットまでそのままとは…羞恥で燃え尽きなくて本当によかった。お兄様は本当にひどい男です。
とりあえずこれにて一科生と二科生との関係性に亀裂が走り、もう少しで壁は崩れていきます。報われてよかったです。
しかし…どんな妹でも受け入れるお兄様が、まさかにこぱっと笑う幼女系妹にダメ出しするとは思いませんでした。
幼い雰囲気の妹相手にはお兄様もたじたじになるようです。…ロリコンではなかったと安堵するところか悩みますね。

お粗末様でした。

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