妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編㉔

 

 

大粒の汗が、滴り落ちている。

息も荒く、喘ぎ苦しむ姿のお兄様に、新たな扉を開きそうになるのを必死に厳重に鍵をかけまくって邪念を封じ込めてから、タオルを握りしめて駆け寄った。

 

(無心になるのだ。汗を滴らせ喘ぎ苦しんでいるお兄様を前に、アレなことを考えてはいけない)

 

体と心はお兄様を全身全霊で心配している。それは間違いないのだけど、前世の業がね?やっぱりオタクって魂にまで刻み込まれてるんだねっていうくらい、切り離せない何かがあってですね。

でも、それにしてもお兄様のこの疲労ぶりは異常に見えてしまう。

違うとわかっていても確認せざるを得ないほどに。

先生に尋ねると、先生は心配ないと説明をしてくださる。優しい。

 

「その、これらの術は…副作用のような、危険なものは無いのでしょうか」

「いや、そんなものは無いと思うな」

 

軽いお言葉だけれども、その分信じられる部分もある。

その後に続く解説もわかりやすく、どれほど緻密なことをしているのか教えてくれた。まるでプログラムのようなことを自動ではなく自ら計算して設定して行動に移しているのだから、疲労するのも当然だ。

お兄様もはっきりと否定したことで、肩の力が抜けた。

隣で先生が苦笑するけれど、ごめんなさい。先生の言葉が信じられなかったわけではないのです。

先生もそれがわかっているのか気にするな、とばかりに肩をぽんっと叩かれた。

 

「だけど、この様子では、生まれたばかりの『子』は滅せても、年月を経て存在が固まった『親』が相手だと難しいだろうね」

 

その言葉は、この程度で疲労しているお兄様を打ちのめす言葉ではなく、事実として受け入れるための言葉。

状況を正しく認識することの方が下手な慰めよりもお兄様の欲するものだから。

先生の優しさはきちんと相手に合わせてのモノ。だから先生の言葉は信じられるのだ。…それで安心しきれないのは私の心の弱さです。もっと鍛えないと。

その後場所を移動して。

鞄の中から取り出したのは綺麗にラッピングした小箱。

 

「先生にとっては異教の風習かと思いますが、どうかお受け取り下さい。いつも兄妹共々お世話になっているお礼の気持ちです」

「いやいや、異国異教の風習であろうと、いいものはどんどん取り入れていかなければ」

 

このやり取りも三度目ともなれば、ちょっとお茶目を発揮してわざとらしく大げさな動作でやり取りをする。

皆が見ている前ですからね。先生もチョコを掲げて楽しそう。にんまり笑顔がより一層皆の不信感をあおりますね。こちらもポーズですけども。

 

「色欲は戒律に違反するのでは?」

「肉欲に結びつかなければ構わないんだよ」

 

お兄様が呆れつつ声を掛け、飄々と返す先生のやり取りは見ていて楽しい。

それからもう一つ手提げ袋から大きめの箱を取り出して。

 

「こちらは皆さんへ。いつも兄のお相手を務めて下さりありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

 

こちらは個別包装は難しいので皆さんで分けてもらうように。

皆さん礼儀正しく礼をしてくださるのだけど、訓練したかのような角度ですね。揃っていて素晴らしいです。

 

 

――

 

 

さて、バレンタインの戦いはすでに始まりました。

張り切って乗り切りましょう。

そう気合を入れて家を出る前の玄関にて。

 

「今日は鞄を持たせてはくれないのかい?」

「これは私が運ばなければならない荷物ですので」

「ずいぶんたくさんありそうだが」

「そうですね。それだけたくさんの方にお世話になったということです」

 

お兄様は持ちたそうにしていたけれど、通常の鞄でしたらまだしも、バレンタインチョコの運搬をお兄様にさせるのはちょっと気が引けますので。

ってことで学校に向かう道すがら、美月ちゃんと合流。顔の次に荷物を見られました。いつも持ってないですからね。

今日は行き交う女性が何かしらのバッグを持っています。

経済を動かしてますね。

美月ちゃんも鞄を持ってます。お互いニッコリ笑顔。

 

「やっぱりイベントは一緒に楽しみたいですよね」

 

その意見には大賛成です。お兄様は、そんなものなのかというお顔です。

いつも私が何かしらのイベントを企画しているのを不思議そうに見てましたものね。

世の中結構イベント好きですよ。私が異常なわけじゃない。何かしら理由を見つけてお酒を飲みたいと歌を歌う人種です。何かしら見つけては騒ぎたいのです。

だけどね、お祭り騒ぎもいいけれど、真剣勝負をする子もいるわけで。

というわけでほのかちゃんが仁王立ち――はしてなかったけれど待ち構えておりました。気合が違うね。

美月ちゃんの裾をそっと引っ張って。

 

「美月、私E組に用事があるから連れてって」

「え?このまま三人で…あ、ああ。そうですね」

 

ちらっと私が向けた視線の先に気付いた美月ちゃんはコクコクと頷いた。

 

「じゃあ兄さん、私は美月とE組にいるからゆっくり来てね。あまり配ってるところを見られると恥ずかしいから」

「…そんなにあるのか?」

「そんなには無いけれど、そもそも来ているかまだ分からないし」

 

お兄様のそんなにってどんなに?E組と言えば西城くんと吉田くんだけど、西城くん、今日来るかな。

退院の予定なんて私たちは聞いていないけれど、原作知識では今日でしたからね。

 

「お、おはようございます、達也さん」

「おはよう、ほのか」

 

すすす、と美月ちゃんとお兄様から離れれば、恋する乙女にはもうお兄様しか見えてなくて。私たちは顔を見合わせて苦笑し合うと、そそくさとこの場から離れた。

背中に視線を感じなくもなかったけれど、私にはどうしようもないので。お兄様、しっかり。

 

「その、深雪さんは…達也さんにチョコをあげたんですか?」

「朝はバタバタしているし、学校で渡すのもおかしいでしょう?帰ってゆっくりできるようになってから渡すつもり」

 

誤魔化すこともないので正直に。まあ兄妹で渡すのっておかしいかもしれないけれどね。

余りに自然に答えたからなのか美月ちゃんはたいして違和感を覚えなかったようだ。

いつもと違う道のりで、校内を歩く。今日は色々注目されますね。こんな袋を下げているから余計に、でしょうが。

 

「皆深雪さんが誰にチョコレートをあげるのか気になっているのでしょうね」

「美月も気になる?」

「気になってましたけれど、その袋を見る限り、本命じゃないってことはわかりますから」

「ふふ。正解。でも本命用には作っていないけれど全部手作りではあるわよ」

「え!?それ全部ですか?!この間頂いたクッキーもそうでしたけど、深雪さんお菓子作りも上手なんですね」

「上手っていうか、何か考え事をしたり難しいことに直面したりすると手を動かしたくなるっていうか。一種の現実逃避かしら。無性に作りたくなるのよ。あれね。試験が近づくと勉強中に掃除がしたくなるような」

「あ!それわかります。急に気になっちゃうんですよね」

 

学生あるあるだね。

そんな話をしていたらあっという間にE組です。

扉が開いた瞬間音が消えましたね。おはようございます。雑音泥棒です。朝の喧騒を盗んで申し訳ない。

と、目的の人は…あ、いましたね。良かった。

 

「千秋」

「…珍しいわね。あんたがこっちに来るなんて」

「おはよう」

「…おはよ」

 

うーん。今日もツンツン絶好調だね。ってことでハイ。

 

「ナニコレ」

「チョコよ」

「チョコ?!なんで!?」

「なんでって、今日はバレンタインでしょう?だから、友チョコ」

「友チョコ?!」

 

そんな驚く?友チョコってそんなおかしなものじゃないでしょうに。

 

「わ、私何にも用意してないわよ?!」

「いいじゃない。別に見返りが欲しくてあげるわけじゃないんだから。お祭り騒ぎがしたくて配ってるのよ。だから貰って」

「…ほ、ほんとにお返しなんてしないわよ」

「捨てられてないだけ十分よ」

「捨てるって、私を何だと思ってるのよ!」

「私の大切なお友達」

「なっ!?バ?!」

 

何言ってるの、バカじゃないの、かな。ありがたや。その罵倒は我々にはご褒美です。

相変わらず可愛い反応ありがとう。これからもよろしくね。

そして吉田くんがやってきました。席に着いてから美月ちゃんを引っ張って。

 

「はい、美月と吉田くんも。いつもありがとう」

 

吉田くんは貰えると思ってなかったのか真ん丸お目目。吉田くんも綺麗系なお顔立ちですよね。美人さんタイプ。

肌も白くてきめ細やかで…女装似合いそうだよね。たれ目の泣き黒子なんて色っぽいの代名詞。

 

「え、あ、ありがとうございます。っていうか貰っていいのかな」

 

なんできょろきょろしてるの?ああ、男子で一人貰うのが恥ずかしいとかかな。西城くんが来ればいいのだけど。

あ、きた。

おーっす、と入ってきてこっちに気付いてちょっと驚いてるね。私いるの珍しいっていうか初めてだものね。お兄様が近くにいないで一人ここにいるのって。

ということで驚かせついでにはいっ、と手渡す。

 

「西城くん退院おめでとう。これは退院祝いじゃなくてバレンタインのチョコなのだけど、受け取ってもらえるかしら」

「え!?お、おお。ありがとな。…へぇー。こういうの貰うの初めてだわ」

 

箱をしげしげと見つめる西城くん。意外だ。

西城くんくらいカッコよくて気遣いもできる人がチョコを貰えないなんて。でもきっと何らかの事情があるのでしょうね。

 

「…よくそんな普通に受け取れるね」

「いやー、驚きすぎて逆に?みたいな。つーか達也は?」

「それが、見当たらなくて」

「…これ見つかったらヤバいと思うか?」

「…どこまで許容範囲か読めないからね…」

 

なんか男子だけでこそこそお話していますが、エリカちゃんが来ない。どうしよう、そろそろお兄様が教室に向かわれている気配がある。

 

「エリカは、今日は遅いみたいね。本当は直接渡したかったのだけど、美月頼んでもいい?」

「ええ。エリカちゃんもきっと喜んでくれると思いますよ」

「だと良いのだけど、そろそろ戻るわね。――お騒がせしました」

 

一応皆に一礼して教室を後にする。

急がなきゃ。ほのかちゃんより先に教室へ。できるだけ優雅に。それでいて足早に向かえば――よかった。間に合ったみたい。教室中が浮足立ってますね。

皆とおはようの挨拶をして席に着くと、あら、ジャストタイミング。ほのかちゃんが来ました。

そして挨拶もそこそこにトイレに連れ込まれます。事案です?違うね。ただの混乱です。

恋する乙女は必死です。

いつでも全身全霊で頑張ってる。鏡の前で、つい先ほどお兄様から頂いた髪飾りで髪を結わう。可愛らしい。

飾りもだけれど何よりもこの行動が可愛い。幸せいっぱい、と見ているだけで伝わってくる。

――だから、お兄様はプレゼントしたことに罪悪感など抱かなくていいのだ。

たとえそこに計算が絡んでいようとも。そもそも女の子は皆計算して恋の駆け引きをしているのだから。

お兄様が何も言わないのを、拒絶しないことをいいことに好き勝手しているのは私たちだ。

この甘い夢に浸っていたいと望んでいるのはほのかちゃん自身なのだから。

丁重な手つきで髪飾りを触れてチェックしているけど、その扱いは正しい。正直高校生が贈るにはお高い品ですからね。本物の水晶でできた真球です。

魔法師にとっての補助アイテムでもあるそれ。ほのかちゃんには本当に役に立つものですので大事になさってください。

 

「ねっ、深雪、どうかな?おかしくない?似合ってる?」

「もちろんよ。とてもよく似合っているし、なによりほのかは可愛いからより一層輝いて見えるわね」

「…それは流石に言い過ぎだよ…」

「そんなことないわ。良く似合ってる」

 

その言葉に、ほのかちゃんはもう一度鏡を見て、うっとりと水晶を眺めていた。

きっと今日は一日この状態だろうね。

 

 

――

 

 

はい、来ましたね。ラノベの不思議。女子更衣室ですよ。

どうして皆堂々と下着になって着替えるのかしらね。…セクシーショットですね。お色気回。わかってますとも。嫌いじゃないですしね。

でもね、私が思い描いているものと違う気がするのですよ。

何で皆、私が着替え出すとため息を漏らしながら見つめるの?頬を赤らめるの?手をワキワキするの?!

気付かぬふりで着替えるけれど、気付いてるからね?

今日は皆浮ついた雰囲気だし、私に注目もされないかな、と思って着替え始めたのだけど…ちらちらあるね。イベントは関係ないのか。

そんなことを考えていたらリーナちゃんがこっちに来ました。いつもは入り口付近なのにね。質問攻めに疲れたらしい。

私の傍にいたら質問されることは無いからね。

 

「リーナ、お疲れ様ね」

「…どうしてミユキは質問攻めに遭わない…のよ」

 

あら、言葉に詰まって。私に見惚れてくれた?なんちゃって。そんな赤くなって目を逸らさなくてもいいのに。変に勘違いしちゃうよ。

 

「私にそんな色気のある話が無いからじゃないかしら?ほら、私って本命あげそうに見えないでしょう?」

 

女子の中で誰が気になる?みたいな話もほとんど振られない私です。

皆興味ないみたいよ。温泉でタイプ聞かれたくらいじゃないかな。恋バナ好きだけどね。

そもそも話せるだけのネタを持っていないと皆構ってくれないのよ。…ボッチのつもりはないんだけど、ちょっとさみしい。

ので。ここは神のお望み通り動いて差し上げようではないか。たまにはサービスです。自棄になったともいう。

 

「リーナ、スタイル良いわね。羨ましいわ」

 

勢いよく脱いだリーナちゃんは、なんとも健康的な体つきをしていた。

程よく筋肉に包まれつつも、女性らしいボディラインが眩しい。思わず頬に手を当てて見入ってしまう。

 

「な、なに言ってるのよ?ミユキのどこにワタシを羨む理由があるっていうの。これだけ周囲を魅了しておいて」

「まあ。この視線は私だけのものじゃないわよ。リーナの腰からお尻にかけてのライン、とっても綺麗…。良く引き締まっていてセクシーだわ。細い印象なのに決して痩せているわけじゃなくて…とても健康的な美なのね」

 

引き寄せられるようにその腰に手を這わせる。

あらやだ。なんてきめ細かいお肌。手を滑らせると、リーナちゃんが身震いして名前を呼ばれてはっとした。ご、ごめんなさい。途中から完全に無意識でした。

若干涙目のリーナちゃんは悔しかったのか、今度は私に触れてきた。

お、触れるのね。私も触っちゃったから遠慮なくどうぞ!と思ったのだけど、緊張してるの?指先が震えているから擽ったい。少しくらいなら我慢できてたんだけど。

 

「っん、りぃな、くすぐったいわっ…」

「ご、ゴメン!」

 

今度はリーナちゃんがはっと気づいて謝るけれど、それと同時期にがたがたん、と周囲から複数の物音が。ほのかちゃんのみならず、幾人かが腰を抜かしたように崩れ落ちていた。

ようやく周囲を見る余裕ができました。というより現実逃避かな。

下着の見本市かっていうくらい皆の下着もいろいろあって可愛いよ。スポーティーもいいよね。私も偶には白以外、レース以外を検討してみようかしら。

…あと、今日はちらほら勝負下着っぽいモノもありますね。皆大胆。お話聞きたい。

私?いつも通りですよ。何の変哲もない下着ですとも。…ただ常態ボディが大変アレなだけで。

 

「…早く着替えてしまいましょうか」

「ええ」

 

皆のためにもこの危険物はしまっちゃいましょうね。

イチャイチャはほどほどに。本日の教訓です。

 

 

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