妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
やっぱりほのかちゃんは今日も仕事にならなかった。
昨日よりはミスが無かったのだけど、時折夢の世界に飛んでっちゃってたから。
これにはさすがの会長も苦笑い。五十里先輩?今日は予告通りお休みです。その分昨日頑張ってらしたので。
愛され彼氏も大変ですね。いいですとも。
イベントを全力で楽しむ方のためのサポートなら任せて!裏方であっても立派な祭りエンジョイ勢だから。支えてみせますとも。
リーナちゃんを巻き込んでお仕事を頑張った。
帰り際、そそくさと一人帰りそうな中条会長を捕まえてそっとチョコレートを渡したら、喜んでもらえました。
いつもご迷惑おかけしてます。これからも引き続きよろしくお願いします。
「深雪ー」
ほのかちゃんに呼ばれて会長とお別れ。
あれ?リーナちゃんは?と思ったら教室に忘れ物をしたらしい。
いつもは無い荷物がリーナちゃんにもあるのかな?口元が緩みそうになるのを手で押さえつつ、ほのかちゃんと二人きりならちょうどいい。
「ほのか、これ受け取って」
「何――って、これ!」
「友チョコよ。貰ってくれると嬉しい」
「も、もちろん貰うけど!ええー。まさか貰えると思わなかったから…私、用意してない」
ほのかちゃん、お兄様まっしぐらだから用意していないことはわかってましたとも。
というか、この時代結構友チョコ文化は薄れているように思う。女子同士でのプレゼント交換あまり見かけなかった。
小中と、周囲を見てなかったからなぁ。気づかなかった。でもせっかく用意したなら渡したい。
「見返りが欲しくてやってるんじゃないから。日頃お世話になってるお礼」
「それなら私の方が贈らなきゃなのに。今日だって、それに昨日も…」
「借りを返してくれるっていうのなら、これからもお友達として仲良くしてねってことで」
ほのかちゃんにとって私ってとっても複雑な存在だと思う。
憧れの女子から友人になれたけど、好きな人の妹で、しかもその好きな人の愛を一身に受けているようにしか見えないライバルのような存在。
だけど、私から見たら純粋に可愛い友人の一人で。これからも仲良くしてもらいたい大事な友人。
ほのかちゃんは唸ってからぎゅっと抱きついてきた。…おおう、やわらかいマシュマロボディ。まだコート来てないから制服越し。
ダイレクトに感じてヤバいですね。女の子の体ってふわふわ。
「わ、私の方こそ!よろしくっていうか」
いい具合に混乱してますね。早口で捲し立てられてるけど申し訳ない。抱きつかれている感触に意識を持って行かれているので馬の耳に念仏状態。
一応脳を通っているので記憶には留まっているはずだけどね。好きだの仲良くしてねだのも聞こえるから、うん、喜んでもらえてるならなによりです。
「……何してるんだ?」
「ミユキ…アナタ…」
おおっと、友情を深めていたらお兄様とリーナちゃんが揃って登場。
…しかし、お二人とも、どうしてそんな目でこちらを見るのです?
お兄様の声にびくっと反応したほのかちゃんはパッと離れて身だしなみを整えだした。友情より恋だよね。知ってた。
「友情を深めていたの。――大漁ね、兄さん」
大量ではなく大漁。たくさん釣れたようでよかった。九校戦効果か、はたまたナイト効果か。
あ、そういえば本は無事出版された。恋愛モノだからなのか発売日はつい先日、バレンタイン直前だった。
予約して購入したのだけど、部長からも献本されたので、うちには計3冊ある。当然のようにサイン付きでした。売れないね。…売る気ないけれど。
ハードカバーの、装丁もしっかりしたいい本でした。この時代に電子書籍でなく紙で出すって…これ、四葉パワー働いてない?と疑いたくなるほど力の入ったものでしたけれど、売れ行きはどうなるのでしょうね。
売れ残ったらこっちにまで被害が来そうなのだけど。
と、そんな話はさておいて。お兄様の持つ手提げが思っていたより大きかった。
くれた人の名前はちゃんと残しておかないと来月困りそうですね。お兄様の記憶力ならいらない心配なのだけど。
私の言葉にお兄様は苦笑、ほのかちゃんは…まあ面白くはないよね。というか焦り?申し訳ない。話題の選択ミス。
そそくさとコートを着て帰る支度を整える。
帰り道は駅まで4人。E組の皆は先に帰ってしまった。恐らくほのかちゃんのために遠慮したのかな。
ほのかちゃんとお兄様が並んで歩き、私はリーナちゃんとおしゃべりしながら帰る。
リーナちゃんは会話の途中、何度もくっつきそうでくっつけないほのかちゃんをちらちらと見ていた。
私たちお邪魔かな?と思うけど、お兄様がこちらを時折確認するように視線を向けるので離れることはできない。
…直に見なくても確認できるお兄様が、わざわざ視線を向けてくるのはそう言う理由。お察しするけれど、ほのかちゃん、ごめんよ。
リーナちゃんが耳打ちで居心地悪いことを伝えてくるけど、私もです、としか返せない。すまない。力不足で。
気を紛らわせてあげようと手を繋いでみたら、リーナちゃんは戸惑ったけど仕方ないわね、と振り払わずに付き合ってくれた。優しい。好き。
「リーナは優しいわね。ますます好きになっちゃう」
「~~~アナタね!その紛らわしい言い方何とかしなさい!さっきもホノカ真っ赤だったじゃない」
「あれは感謝のお返し、みたいなことだから…赤くなるのはあったかくなったからじゃないかしら。リーナの国ではハグってよくするのよね?」
「それはっ、そうだけど!あんな長く触れ合わないし、そもそもハグなんて一瞬で温かくならないし、赤くなんてならないわよ!」
…まあ、それはそうね。赤くなって抱き合ったら別の意味が生まれちゃう。
ただの友情のハグだったはずなんだけどね。
「ほのかは感激屋さんでもあるから」
「……確かに、顔に出やすいようだけど」
今もお兄様の横顔に見惚れて真っ赤になってますからね。ぼぅっとして会話もままならないみたい。でも幸せいっぱいっていうのは伝わってくる。
だけど残念。それもここまで。駅に到着してしまいました。
ほのかちゃんとは上下線で別れてしまうのでここで三人でお見送り。気を付けて帰ってね。乗り過ごしちゃダメよ~、と言いそうになるが、キャビネットは前世の電車と違い、乗り過ごすことはない。親切な乗り物です。
ばいばい、と別れた後、私たちの乗るキャビネット待ちのわずかな時間。
「どうした?」
「な、何でもないわ」
リーナちゃんが、不自然にお兄様から顔を背ける。
あああ~、もどかしい。渡せるのか、渡せないのかの、せめぎ合い。キュンキュンします。
…それを無粋な視線に邪魔されるっていうのもいやね。
ぐるぐる悩んでいるリーナちゃんがこのことに気付いているかは別にして、監視されている事実は分かっているだろうし、私が気付く視線にお兄様が気付かないはずもない。
お兄様が視線をちらりと周囲に向けたタイミングで私は鞄から最後の小箱を取り出した。
「リーナ、受け取って」
「…え…ええ!?」
白い肌に寒さ以外の要素で赤く染まる頬。可愛いね。
「本命と義理だけじゃなくて、友チョコっていう文化もあるのよ」
そう言うと、ああ、そういうコト?と、ちょっと落ち着いたリーナちゃん。
…あれ、私ソッチの気があると思われた?…すまない。それは私のオタク成分のせいですね。
「この前の勝負、リーナは引き分けに思ってくれたみたいだけど、私は負けたと思ってる」
「!?どういうこと?!あれはむしろ」
「連戦後の貴女のコンディションは百パーセントじゃなかった。そうでしょう?」
「……だけど、本気だったわ」
「本気で戦ってくれて嬉しかった。リーナがちゃんと私を見てくれて、向き合ってくれて。――貴女にとってあの戦いは屈辱に思えたかもしれない。でもね、私はリーナと少しでも近づけた気がして、いい思い出なの」
リーナちゃんにしたら、たかが一高校生に負けたのだ。屈辱でしかない敗北に思えただろう。
不利な状況であっても総隊長が負けるわけにはいかないから。
だけど、あれははっきり言えば無効試合だ。あんな一方的に不利な状況、フェアとは言えない。
命懸けの闘いならそんなこと言えることじゃないけれど、私たちの戦いはそうではなかったのだから。
「…アナタ、おかしいわ」
「そうね。きっと私はおかしいわ」
否定はしない。できない。きっとなどではなく、私はそもそもおかしな存在だから。
「ありがとう、友達として付き合ってくれて」
こんな私にも優しくしてくれる彼女に感謝を。
微笑んでお礼を述べると、キャビネットがやってきた。タイミングが良いったら。
リーナちゃんは俯いてしまったけれど、ごめんね、困らせてしまって。そう心の中で謝るしかできない。
到着したキャビネットが開く瞬間、リーナちゃんは鞄から取り出したモノを、突き出した――私に向けて。
「え…」
「貰いっぱなしは嫌なのよ!受け取りなさい!!」
「でも、これ」
「友チョコよ!早く」
ええー…、これ絶対お兄様に用意した奴ぅ…。
真っ赤になって顔を背けるリーナちゃんは、恥ずかしさに震えていてとってもキュートだった。
受け取らないわけにはいかないらしい。
「…ありがとう、うれしい。友チョコくれたのはリーナだけよ」
「!か、感謝なさい!わ、ワタシがチョコをあげたの、アナタだけなんだから!じゃあね!!」
言い逃げるようにキャビネットに飛び乗って、彼女は行ってしまった。
「………リーナちゃん可愛すぎぃ…」
「よかったな」
は!しまった。お兄様がいたのについうっかり零してしまった…。誓ってまだ二月しか経っていないのに…。
「す、すみません…。騒がしくしてしまいました」
「気にしなくていいんじゃないか、リーナも喜んでいたみたいだし。――お前も、随分と嬉しそうだ」
ぽんぽん、と頭に触れられるのだけれど…なんでしょうこの空気。声も顔も微笑ましそうに見えるのに、なぜかひんやりしています。
…冬、ですし?日も落ちて真っ暗ですからね。寒くて当然なのですが…。
「…お見苦しい所をお見せしました」
浮かれ過ぎである。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「深雪が見苦しいことなんてあるはずもないよ。どんな深雪も人目を奪う可憐さだ」
キャビネットが到着した。身を丸くしている私を、お兄様が背中に手を回して誘導する。
キャビネットの中は静かで、久しぶりに居心地の悪さを覚えた。
この個室が怖い。
「寒いのかな?もう少し寄るといい」
寒いのか怖いのかもうよくわからない。お兄様の言われるまま密着するように座り、家路についた。
――
家に入ってハグをして。
その頃にはお兄様は普通に戻っていた。ええ。コミューターの中でもぴったりくっついていたからでしょうか。寒さが和らぎました。
キャビネットの空調温度が低かったのかもしれない。そうに違いない。
「お兄様、お手提げのモノは冷蔵庫へしまいますか?」
「頼んでいいか?しばらくコーヒーのお供には困らなそうだな」
「私もご相伴に預かってよろしいのですか?」
お兄様へのチョコレートですのに。いいのだろうか。
「渡された時に言われた。チョコレート、彼女たちにもあげたんだろう?」
「ああ。エイミィ達ですか。一緒に九校戦を戦い抜いた仲ですから」
あんな形にはなったけれど、温泉に一緒に入った、裸の付き合いもしたお友達ですからね。
「彼女たちはお前に用意していなかったから一緒に食べてくれ、とのことだ」
「まあ…。そんなつもりで渡したわけではなかったのですが」
「俺一人で食べても味気ないからな。深雪が一緒に食べてくれた方が俺も助かる」
「…お兄様がそうおっしゃるなら」
でもあの量、私があげたエイミィちゃん達だけじゃないと思うのだけどなぁ。
「それにしても、お兄様からまだカカオの匂いがするのが不思議なのですが、召し上がられたのって結構前ですよね?」
香水かってくらい香りがします。近づかないとわからない程度だけれど。
「…やはり匂うか。俺はすでにマヒしてわからないのだが」
それはつまり七草先輩の想いの詰まったチョコレートを召し上がられたということですね!お兄様、順調にイベントを熟されているようで安心しました。
…文字通り苦い思い出なのか、お兄様のお顔に深い皺が。眉間の谷が深いですね。
離れていると気付かなかったけれど、ハグすると流石にわかりましたね。濃い匂いがしました。
「夕食は入りますか?」
「そんなに食べてないよ。むしろ深雪の美味しいご飯を食べて早く払しょくしたいくらいだ」
「一体何があったというのです?」
一応知らないふりはしておきますね。実際その時間、生徒会室でお仕事をしていたので何があったかは知りようがない。
ちょこっとニアミスしたほのかちゃんは何も言わなかったしね。戻ってきた時、少しだけ様子がおかしかった。
七草先輩の存在は、ほのかちゃんにとっては自分にないモノを持つ素敵な先輩、ですからね。恋する乙女としては気になるところなのだろうけど。
「世の中知らない方が幸せなこともある」
そのようですね。では知らないままでいましょう。
チョコレートの入った手提げを受け取って、キッチンへ。一、二、三…あら、結構ありますね。お兄様モテモテ。
メッセージカードは流石に抜いてあるみたい。後でお返しするのにも必要ですしね。
皆義理ということもあり買った商品ばかり。ふむ…多分ここにほのかちゃんのは無いね。
多分彼女のは手作りだろうから。流石に本命は一緒くたに冷蔵庫へ入れるようなことはないみたいで安心しました。
とりあえず一旦着替えてから夕食作りだ。…もちろん普通の家着でね。
給仕の恰好なんてしません。バレンタインだからとあそこまでのサービスは過剰だと思います。食事だって普通でいいのです。渡すのはチョコだけで十分。
兄妹でいったい何を張り切るというのか。
今回は七草先輩とほのかちゃんが張り切ったのです。そこに私まで参戦することはない。本当はそこにリーナちゃんがいたはずだったのだけど、それは私が頂いてしまった。渡すタイミングが悪かったかな。
チョコレート掛けのフルコースはしないけど、お兄様のお好きなメニューにはする。
せっかくのバレンタインだもの。良いイベントだった、で終わらせてあげたいから。
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