妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
結局お兄様を困らせるどころか、ひたすら私が困るばかりで、キャビネットを降りてからも話は終わらず、今朝はひときわ大きなBGMを聞きながら登校した。
「み、深雪!ナイトが、達也さんの猛攻がヤバかったって噂になってるんだけど」
何があったの!?と詰め寄られたけれど、ほのかちゃん、どんな情報を聞いたのかすでに顔が赤いです。
そして本を発売日に購入してすでに読破した人間が多いのか、今朝も早くからクラスを覗きに来る先輩たちの姿があります。女子も男子も関係ないですね。お兄様のクラスでもそうなのかな。
おかげで私たちが近くを通るだけでちらほらプリンセスが、ナイトがとの声が聞こえている。隠語にもなってないね。
「…私が朝余計なことを言ったせいで変なスイッチが入っちゃったみたいで」
本当、なんでリーナちゃんの話をしていたはずなのに、お兄様が私を甘やかしたいって話になったのだろう。
元は四葉の工作ってスゲー、のニュースが発端だったんだけどね。
「それがいったいどうしてその、人前でイチャイチャになるの!?」
「…どうしてなのかしらね…?って、そんなに触れられては無いのよ?今朝は言葉の方が問題だったと思うわ」
イチャイチャを否定できないのが辛い。兄妹でいちゃついていると思われるなんて…。
手も繋がなければ抱き寄せられることもなく、触れられたのは確か髪をひと房くらいだったと思う。
ただね、掛けられる言葉がね…。
「あの、学校を恐怖に陥れられた時並みの語録がいっぱいだったわ…」
「!!あれ並み!?深雪、よく耐えられるね…やっぱり一つ屋根の下だから」
「変な言い方しないで頂戴!家族なんだから当たり前でしょう」
まったく。ほのかちゃんはちょっと油断すると変な妄想をする。
あと、何度も言うけれど、耐えられてないからね?毎回瀕死まで追い詰められてるんだから。
「…ねぇ、やっぱりバレンタインはちょ、チョコレートあげたの?」
「え、ええ」
「ど、どうだった?!」
「どう、って…。ほのか、もう一度言うけれど私たちは家族なのよ?兄妹なんだからそんなに期待されるようなことは何もないわよ」
「き、期待じゃないよ!で、でもほら、深雪に渡されたら達也さんだって…」
「妹にチョコを渡されたからって兄さんがどうこうなるわけないじゃない。普通にお礼を言ってくれてお終いよ」
撫でられもしなければ抱きしめられたわけでもない。そこまで言ってようやくほのかちゃんは大きな胸を撫でおろした。
「……なら、結局変なスイッチって何だったの?」
「確か甘やかさないで、って注意したらもっと俺を困らせてみろって要求されたのよ。酷い話でしょう?」
どうして好きなお兄様を困らせなきゃならないのか。
愚痴のように零したら、ほのかちゃんがぼん、と音を立てて真っ赤になった。周囲からもきゃー!と声が上がる。
え、何事!?
驚いて尋ねようとしたらチャイムが。もう授業の時間でした。
流石A組の子はお行儀よくすぐに席についてお勉強を始めるのだけれど、そわそわとした空気はしばらくその場に停滞していた。…なんだというの?
放課後の生徒会室にお兄様の姿が。迎え以外でここにいるのは珍しいことであった。
「夜間入構許可証、ですか?」
「はい。ピクシーの件で。日中の活動は確認できますが、夜間はまた変化があるかもしれませんので」
という名目で、らしい。
中条会長は疑ってないようで、確かにそれもありますね、と申請書を作成し始めた。
うん、可愛い。会長はぜひそのままでいて欲しい。
…もしこれで裏があってもそれはそれで美味しいと思う私はちょっと会長から離れましょうかね。物理的にも。
「この場合、生徒会役員もついていた方が良いと思いますので、私の分も発行していただけますか?」
「深雪、それは」
「ピクシーの件は学校のトラブルです。生徒会役員か風紀委員がついて当然かと」
お兄様は現在どちらでもないですからね。
置いていくつもりだったのでしょうけど、ごめんなさい。ここは付いていかないといけない場面だと思います。だから――
「そ、それなら私も!同じ生徒会役員ですから!!」
ほのかちゃんが立候補。理由がおかしいけれど、先輩方の生暖かい目が向けられてます。お兄様と一緒に居たいというのがバレバレですね。
結局お兄様が折れて三人分許可証を発行してもらった。皆がいる前で申請したのが運の尽きでしたね。
――
「しかし、ほのかが一緒では訓練はできなさそうですね」
「やはり言い出したのはそれが理由か」
一度家に帰ってから服を動きやすい恰好に着替えてから、夜道を歩く。
夜の学校に向かうなんてちょっぴりわくわくしますね。いつも見ている景色と変わって見えます。
「恐らく対峙することになるぞ」
「足手まといにならぬよう気を付けます」
先に訓練がしたいところだけれど、パラサイトの件を早く片付けたいお兄様の気持ちもわかる。
いきなり実戦になるけど、これくらい熟せるようにならなければ、いつまで経っても守られるだけの存在になってしまうから。
自分の身ぐらい自分で何とかしなければ。決意を新たにしたところでほのかちゃんが現れた。
時間は問題なかったのだけれど――制服ですね。こんな時間に制服だと目立っちゃう。
色も明るいというのもあるけれど、学生さんが夜出歩くのは印象に残りやすい。
ということで、ピクシーを連れ出してからほのかちゃんの家に一旦寄って、着替えてから活動を開始することになった。
あわあわ取り乱しているほのかちゃん、可愛いよ。大丈夫、具体的に何をするか細かく説明しなかった私たちが悪いのだから。
夜の学校はやっぱり一味違う。節電もしているのでほとんどが暗い。
魔法使っていい?けど戦いの前に無駄遣いはしちゃダメよね。うーん、出るわけじゃなくても怖い雰囲気。
すでにほのかちゃんはお兄様の腕にしがみついている。羨ましい。
邪魔しちゃ悪いから私は最近定位置になっている二人の間の後方を歩いているのだけど、怖い。
背後に何もなかろうとも、何かいる気がして振り向けない。ホラー苦手なんですよ。
そういう時は目の前の二人で妄想しようか。「きゃーこわーい、達也さーん」「大丈夫だほのか、俺が付いている」…終了。
あ、だめ。怖くて脳が動かない。早く目的地についてー。
内心震えながら、けれど表向きは凛とした姿で目的地へ。ここまでで結構な疲労感。
お兄様が端末を操作するとシャッターが開いた。
この間テレパシーで会話しているらしく、小さな羽音が耳を掠める。もうこれくらいなら怖くない。
メイド服姿のピクシーは真直ぐとお兄様の姿だけを捉えて指示を待つ。
よくできたメイドさんだ。ロボメイド。これに恋心まで付いてくるの?美味しすぎやしないかね。
まだ独立した彼女自身の感情ではないけれども、お兄様ハーレム計画待ったなし。
そしてお兄様は持っていた紙袋を差し出して、中身の服に着替えるよう指示をした。
着替える、という動作は服の構造上人間と同じ動きの方がスムーズに着られるというので、その動作が組み込まれているから、まるで女の子が着替えを始めたような動きだった。
だというのにお兄様は無感動にそれを見つめている。
流石にコレには注意せざるを得ない。
「兄さん、ロボットとはいえ女の子の着替えよ」
「女の子って…ロボットだぞ?」
「体は機械だけど、心は乙女なんだから。ほのか、兄さんを見張ってて」
心は乙女、と言った時点でお兄様からいぶかしむ視線が向けられたけど、ほのかちゃんを写し取ったパラサイトなんだから女の子で間違いじゃないはず。
ほのかちゃんもピクシーの着替えを見ていたお兄様に不満だったみたいで、お兄様を強引に半回転させて背を向けさせた。
そして私はというと。
「一人で着替えると時間がかかってしまうから手伝うわ。まず腕を前に出して。そう、上手ね」
ロボット一人で着替えさせたら時間がかかるのでお手伝いを。
いくら細かな作業ができるようになったといってもボディは機械が組み込まれている。どうしてもぎこちなく動いてしまう箇所があるのだ。
指示を出せば素直に従ったのは、お兄様の言葉があったから。
ピクシーがなんと伝えたのかはわからないけれど、深雪の指示通りに動け、との短い命令に彼女はすんなりと従った。
女性らしい丸みを帯びた作りだけれど、見かけだけなのね。中を見れば人形よりもロボット感が強かった。
「足を一歩ずつ前に出して、そう。次はこれに足を通して。左から、うん。その調子よ。次は、っみぎを」
おかしい。スカートを履かせようと屈んで見上げたら、ピクシーと目が合って、途端に背筋を撫でるように触手が動いた。
先ほどまで従順に指示に従っていたはずなのに。
視線を向けられただけのはず。魔法は使っていないのに、急にパラサイトとしての気配が強まった。
「深雪、どうした?」
「いえ、何でもありません」
言葉が不自然に詰まったことでお兄様が不審に気づいたのか。しかしここで心配されることがあってはならない。
別にパラサイトに、ピクシーに私を攻撃する意図はない。お兄様がそれを許さないことはすでに命令していたから。
この場に居る三人に攻撃をしてはならない、と。
だからただ観察をしているだけだとわかっているのだけれど、視線を感じるだけで体を撫でまわすような感覚が。
ちょこっとだけ感度を下げようか?でもいくら学校ではなく青山墓地で強襲を受ける原作を知っていても、もしかしたらずれが生じているかもしれない可能性も捨てきれない。
遮断するのは怖かった。ならば練習した成果を今出すべきなのか?だがそれもほのかちゃんの前でするとなると説明しなければならなくなる。それはできない。
…我慢一択か。
「次は両手を上に伸ばして。そのままで待っていてね。――っ、袖が通ったわ。もう動いて大丈夫よ。あ、あとはジャケットね。もう少しだから我慢してね、っ」
私も我慢するから~、と内心泣きながら震える指先を叱咤して服を着せていく。
なんの拷問なんだろう。半泣きである。表ですら半泣きが抑えられなかった。
二人共背を向けているので見ているのはピクシーだけだ。
彼女は観察はしていても余計なことは言わないので助かった。
しかし、いったい何をそんなに観察されているというのか。おかしなところあったかな。
オーバージャケットも羽織らせて、最後の仕上げにマフラーをしてあげれば、可愛い女の子の出来上がりだ。
これなら街中を歩いていても紛れられる恰好。
流石プロフェッショナルの選んだ服は違うね。
…お兄様の部隊にもそういうのに詳しい人がいるってことはやっぱりそう言った活動もされるのだろうか――なんて考えてはいけない。
お兄様はやっぱりロミトラの技術が仕込まれているとか、そんなこと考えちゃいけないのだ。
「兄さん、もう振り向いて大丈夫。ほのかもありがとう」
ほのかちゃんの場合、役得だったと思うけれどお礼はちゃんと言っておかないとね。口実を私が与えたなんて思われるとちょっと都合が悪いと思うので。
着替えが終わり、お兄様がピクシーに向き直ったことで彼女の視線が外れて、身体を這いまわっていたモノは無くなった。ほっ。
こうしてお忍びの恰好へチェンジして、私たちは学校を後にした。
――
ほのかちゃんは一人暮らしだ。自活できてえらいね。
部屋に上がらせてもらって、お茶を淹れる際、ピクシーとのひと悶着があったりしたけど、キッチンの主として勝利を勝ち取ったほのかちゃんの元にちょっとお邪魔して。
「ほのか、お茶をゆっくり飲むぐらいの時間は確保するから、ちゃんと実用性も兼ねた服を選んで頂戴」
「!…ありがとう」
私の言いたいことが通じたらしい。
恋する乙女だものね。可愛い服を5分で選べなんて焦っておかしくなってしまうかもしれない。
じっくり選んできて。時間は私が稼ぐから、と。
ちょっと騙しているようで心苦しいけれどウィンウィンということで許してほしい。
バタン、と扉が閉まると同時に、お兄様に小声で話しかけた。
「あの、少しよろしいでしょうか」
「さっき様子がおかしかったことについてか?」
「…お見通しだったのですね」
うわーん、やっぱり気付かれてた。
お兄様が私の変化に気付かないわけなかったけれど、こういう時困る。
「テレパシーは使っていたが、魔法を使っている痕跡は見えなかった」
「それは、はい。私もそう思います。だからピクシーに確認しようと思ったのですが。反応があったのは視線を向けられた時です」
ピクシーは現在無表情でお兄様だけを見つめている。
だから今はクッションが背中に当たっているような感覚だけで済んでいるのだけど。
「お兄様、ほのかには少しゆっくり着替えてくるようにお願いしました。この時間で実験をしたいのですが」
「…仕方ない、か。ピクシー」
『はい』
口も動かない返事は私には聞こえていない。けどテレパシーは聴覚で羽音として捉えているので何か言ったということはわかっている。
「深雪にもテレパシーを同時に飛ばすことは可能か?」
『はい』
「では一時的に深雪にも聞こえるように。俺がいいと言うまで深雪の指示に従え」
『畏まりました』
おお。聞こえた。可愛い声。癒し系。
「よろしくねピクシー、」
おっと、さっそく視線が向いてでろん、と撫でられる感覚が。
早いよ。もう少し余裕が欲しかった。
「深雪、今の反応は?」
「え、と…その、撫でられた感覚、と言いますか」
いちいち確認されるの?それはちょっと勘弁願いたい。
「私もいろいろ把握したいので、あとで纏めてでもよろしいですか?」
そしてできればそのままなあなあになって消えていくことを希望します!
お兄様も時間が無いことはわかっているのでそれ以上口を挟むことは無かった。
一つ、大きく深呼吸をして彼女に向き直る。
うう、うねらないで。
「ピクシー、そのまま私を見ていて」
じっとこちらを見つめて動いていないのに、触手は動く。
「んっ、ピクシー。今あなたが見ているのは私の全体?」
『はい』
ブブッと耳元で鳴ると同時に返答。このタイミングで音が届くのね。
全体を見ているからつま先からてっぺんまで動くのかしら。幾本の触手が前から後ろから纏わりつく感じ。
気色悪いのになんだろう、相手がピクシーだからか恐怖は和らいだ気がする。害意が無いことも影響しているのかな。現金だね。
相手の正体が枯れすすきだってわかったら気分が和らいじゃう。…だからだろうか、動きは変わってないはずなのに、なぜか嫌悪感も薄らいできた。
…つまり、その…感じ方が変わってきたというか…
(っええい、前世の無駄な記憶が私を苦しませる!)
煩悩を払わねば。検証できる時間が限られているのだから。
「右腕だけを見ることはできる?」
そう言って腕を掲げると全体を這いまわっていた触手が一気に右腕に集中した。
やっぱり、視線を向けた個所に絡むみたい。
…腕だけなら大丈夫かな、と思ったのだけど右腕全体をまさぐられて、自身の弱い部分を知る。
二の腕の内側と脇の辺りは特にくすぐったく、手のひらも、指の股を擦るように往復されるとなんとも言えない気持ちにさせられる。
はっきり言うと、うん。まずい。変な声が出そうになるのを左手で押さえて身を捩って横を向く。
概念が相手なので触れることも敵わず、よって引きはがすこともできない。
指示を出したくても口を開くわけにもいかず、ここでようやく私は魔法を使うことにした。
CADを震える指で操作して、円の結界を構築する。体の内から右腕側に向けて徐々に円を広げて腕全体を覆っていく。
すると腕から触手が剥がれた。…助かった…色々と。
「ふ、う…。な、何とか特訓の成果が」
ヤバかった。もう少し遅ければ正常な判断もできなくなりそうなくらいには追い詰められていた。安心してほう、と息が漏れた。
吐息が若干熱っぽいことに気付かれていないことを祈りつつ解放された腕を擦る。
…実際に触手に触れてないのだから濡れてないはずなのに、どうしてこんなにしっとりと、と思ったら私が緊張して汗が出ていたらしい。
今もなおピクシーは右腕を見つめている。その動きは感じることはできるけれど、先ほどまでの直接的な刺激は無い。
これなら見られている箇所も安心して確認できる。
では次のステップに進もう。
「ランダムに視線を動かすことはできる?例えば右腕の次は左腕、とか足とか」
こちらで指示を出さなくても視線を移動してもらえるか聞くと、答えるより早く彼女は視線を動かしたらしい。
「ちょ、ま――んんっ?!や…だめっ」
右腕しか守っていなかったので無防備なところを――そのまま視線をスライドさせたのだろう、いきなり胸に触手が這った。
思わず両腕でそこを抑えて蹲る。衝撃で右腕の結界も外れてしまい、慌ててCADで再構築する。今度は部分ではなく全身に。
そして剥がれていく触手たち。…気まずい。
こらえきれずに変な声が出てしまった。お兄様の方に視線を向けられない。無言がありがたくもあるけれど、反面とても怖かった。
ピクシーはお構いなしに視線をいろんなところに飛ばしてくるが、何とかガードできている。
できているけれど、物理法則は無視なのね。正座しているのに脛も撫でられた。床と密着していようとも関係ないのか。
「…ありがとうピクシー。視線はもう普通に戻してくれていいわ」
こう言ったのは、彼女の普通の視線を知りたかったから。
案の定、彼女の普通は普通じゃなかった。全身を俯瞰して見えるのか。
正面も背後も関係なしに触手が這いまわる。超生物の視点ってすごい。
うーん、焦ったから体感長く感じたけれど、そんなに時間が経っていなかった。
ならもう少し踏み込むべき、よね。もう結構精神が疲れたのだけど、こんな機会いつ巡ってくるかわからないから。
「ピクシー、次は敵対するつもりで見てもらえる?」
すると私の描く円が歪んだ。一気に力強くうねりだす触手。情報強化して円を保とうとするけれど、情報思念体である彼女らの方が干渉が浸透しやすいのか、領域を侵されそうになる。
抵抗するようにさらに結界を強めてようやく形を保つことに成功。
このくらいの制御が必要なのね。息を吸うレベルで、というほど楽ではないが、ちょっと意識すれば問題ないくらい。
これに実際魔法を使用されたらもっと強化しないといけないだろうけれど、長時間相手することもない。短期決戦なら余裕で持ちこたえることができるだろう。
「助かったわ、ピクシー。実験は終了よ。お兄様、ピクシーをお貸しいただいてありがとうございました」
「もういいんだな」
「はい。恐らく掴めたと思います」
ご静観というご協力ありがとうございました。
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