妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
ふう、と一息つくと、お兄様からも重い溜息が。…もしかしなくても我慢させてましたよね。
お兄様にとって私を害するものは何においても排除対象だっただろうから。
それを私の我侭で黙って見ていろとお願いしていたのだから、手出しできない状態にやきもきされていたはず。申し訳ない。
「お兄様、ご心配おかけしました」
「…いや。お前には必要なことだったのは理解しているつもりだよ」
それを隠すように苦笑してみせて、お兄様がぽん、と私の頭に手を置いた。
「俺にはどうにもできないということがこれほど苦痛だとはな」
だが、すべてを隠すのではなく言葉にして伝えてくれた。以前ならきっとこんなこと言ってくれなかった。
兄の余裕を見せることよりも、冗談めかしているとはいえ本音を語ってくれるとは。
ぎゅっと胸が苦しくなった。
「申し訳ありませんでした」
謝罪すると手がするりと滑り落ちて頬を撫でる。
「少しだけ、抱きしめさせてくれないか」
辛いのを堪えるように眉を下げているお兄様にお願いされれば、たとえこの場がほのかちゃんの家であろうとも聞かざるを得ない。
「そんな顔をさせてしまってごめんなさい」
腕を前に出すと、お兄様が引っ張って抱きしめる。座ったままなので崩れてしな垂れかかる様な形になってしまったけれど、それをさらに掻き抱くように引き寄せて。
「深雪がよく俺に言う気持ちがわかったよ。心配だけはさせてくれ。お前の体に傷が無いとわかっていてもお前が不快に感じたのは事実。…辛かったな」
うう、お兄様が優しすぎて辛い。ぎゅうっと抱きついて返事にするのだけど、――ちょ、ちょっと待とうかピクシーちゃん!?
このタイミングでなぜ私を見た?!
「ふ、んんっ!」
突然襲う感覚にくぐもった声を出して、感覚から逃れるようにお兄様の胸に頭を擦り付けながらしがみつく。
「ピクシー。もう深雪を視なくていい」
『畏まりました』
…そういえばお兄様のいいという号令が無かったですもんね。
堪えきれず変な声を出してしまい、恥ずかしくて顔があげられない…。私は一体友人の家で何をしているのだろう?
「深雪、大丈夫か?」
「…申し訳ありません」
正直言えば大丈夫じゃないです。
どういうわけかお兄様が触れている箇所にまとわりつかれてですね、感覚が少し残っている。
もしかしてお兄様から引きはがしたいとか考えていたり?今の触手の動きがどういったものかわからなかった。
お兄様にはどこに触れられたかわからないはずなのに、動かないでいてくれているおかげで、何とか平静を保てていた。ありがとうお兄様。
しばらくして落ち着いたので腕の力を弱めると、お兄様もゆっくりと体を解放してくれた。
冷めたお茶が火照った体にちょうどいい。
「ピクシーはこんなに可愛いのに…」
どうして素直に撫で繰り回せない仕様になってしまったのか…。
「深雪は無機物でも可愛がりたいのか?」
「?ピクシーにはすでに意思がありますでしょう?それに、無機物であればその方が好きに撫でられますよね」
お兄様から変わった疑問が。確かにパラサイトが寄生前でしたら無機物と呼べたでしょうけどね。
ぬいは嫌がらない。思うままに撫でくり回せます。だからといって雑に扱ったりしないけど。
そう言ったらお兄様は複雑なお顔で納得いかない模様。
「お人形遊びで人形を愛でる子供と同じです」
気分的には同じでも、それをおっきいお友達がすると意味合い変わっちゃいますけどね。撫でる側も、撫でる相手も女の子同士ならいいでしょう。
「…深雪の範囲は広いな」
すみません。基本的には広く浅くなタイプです。手あたり次第の雑食なんです。
「ということでお兄様、まだ時間があるのでしたらピクシーの髪を梳いてもよろしいでしょうか?」
「…深雪のそのポーチにはそんなものも入っているのか」
お人形さん用ではなく自分用ですけどね。身嗜みをいつでも整えられるようにポーチはいつでも持っております。
しかし、ピクシーのその人工毛はどこに拘っているのかというくらいサラサラです。キューティクルっぽいモノも見えますね。だから外を出歩いても違和感ないのだけど。
「ピクシーに聞いていただいてもよろしいですか?」
意志ある者に勝手に触れるのも失礼な話だからね。
「…ピクシー、深雪に付き合ってやってくれ。その際けして視線を向けないように」
『畏まりました』
わーい。お兄様公認でお人形遊びの許可が出た。
「わぁ。見た目だけでなく本当にサラサラですねぇ。職人さんのこだわりを感じます。可愛い。本物の女の子みたいですね」
後頭部の曲線も前髪のかかるおでこもそれっぽく作っているのではなく、本物に見えるようにという強いこだわりを感じる。それなのにボディはあれなのか、と思わなくもないけれど、服を着せてしまえば見えない場所ですしね。
「髪型を時折変えてあげるのもいいですね。両サイド編み込みにしても似合うでしょうし」
その時ブブッと羽音が通り抜ける。テレパシーだね。ちょっと驚いた。
「…深雪、ピクシーがお前に聞きたいことがあるそうだ」
「なんでしょう?」
「どうしてこんなことをするのか、と」
「どうして、ですか?可愛い子を可愛く着飾りたいという欲求は女の子に多い特有の思考かもしれませんね。――ピクシーはとても可愛いから、もっと魅力的にしたくなってしまうのよ」
後半はピクシー本人に返した。お兄様の口からとはいえ、ピクシーからもらった質問でしたから。
「…深雪は可愛いモノに目が無いからな。ピクシーはお眼鏡にかなったということか」
お兄様の言葉にブンッとまた音が。
しかしそれにはお兄様は顔を顰めて。
「ノーコメントだ」
…いったい何を聞かれたのでしょうか?気になる、というところでほのかちゃんが出てきてこの話は終了。
うむ。ほのかちゃん可愛らしい恰好。それでいてちゃんとあったかくて動きやすい恰好みたいだね。可愛い姿にテンション上がります。
さて、それでは気合を入れなおして参りましょうかね。
――
まさか人の視線に安心する日が来るとは思わなかった。
彼らの視線には何も付きまとったりしないからね。緊張しなくて済む。
それにしてもたくさんの視線を感じますね。素人ですかと言いたくなるけれど、悲しいことに彼らはこの国所属のプロだ。
大丈夫ですか?結構バレバレですけれど。お兄様もちょっぴり呆れ顔。
でもこれから向かう青山霊園に彼らが付いてくることはよろしくない。
だからお兄様はほのかちゃんに期待の声を掛けていた。
もしも誰かに見咎められた時は、ほのかちゃんが何とかしてくれるだろう?と。
しかし決定的に言葉が足りない。重要な部分が抜け落ちていた。
このままではお兄様のためにと張り切った彼女に不利益が生じてしまうかもしれないから。
だからちょっとばかし付け足しを。
「ええ、あの時のほのかの光学迷彩の技術は素晴らしかったから。ほのか、今回も期待しているわよ」
「うん、任せて!」
…これで自然にフォローできたかな。
ほのかちゃんには負担を掛けちゃうかもしれないけれど、その分ピクシーが守ってくれるから。
イビル・アイ使ったほうが、相手の意識を刈り取るから動きやすいのは確かだけれど、今後妙に警戒されるようなことは減らした方が良いと思うわけでして。
(軍の方も合法まがいの手段だから逮捕までしないだろうけど、ブラックリストに載らないとは限らないから)
少しでも綺麗なままの貴女でいてほしい。私の我侭です。
『マスター、パラサイトが三体、接近中です』
青山霊園近くまで来たところでピクシーの警告が。
私の方もクッション圧と共にぞわっとした感触が同時にきた。複数いると感じ方が変わるね。
多少動揺はしたけれど、すぐに結界を発動。先ほどの訓練のお陰で加減の調整ができるようになりました。
お兄様がほのかちゃんに合図を送って光学迷彩の魔法が構築された。パラサイトたちの眼は欺けないけれど、軍部の目と防犯システムのカメラの目は誤魔化せた模様。…これってかなりすごい技術だよ。吉田くんの結界もそうだけど、皆レベル高い。
「ありがとう、ほのか」
お兄様も感心して褒めます。よかったね。ほのかちゃん喜びたいけど状況が状況だから抑え気味。
それでも身を捩って喜んでるから、抑えてなかったらどうなっちゃってたんだろうね。
(わあ、見失った大人たちの右往左往している感じが伝わってくるね。視線が錯綜してます。やーい、見失ってやんのー)
…七草家の息のかかった人たちってあまり好きになれないのでね。心の中であっかんべーを。
と遊んでいる場合じゃなかったのでした。
ピクシーの言葉通り、パラサイト憑きが三体現れた。
ここからが本番です。
お兄様が携帯端末をささっと操作した後、懐から愛機『トライデント』を抜いて腕を垂らして待ち構える姿勢を取った。
その後ろを守るように私がCADを手の中に収めて立ち、その中間、お兄様寄りに立ってほのかちゃんはブレスレット型CADに手を掛けながら周囲を警戒していた。
けれどほのかちゃんは防御よりも光学迷彩頑張って――と思ったらあらラッキー。そちらの視線は完全に無くなってるね。別の場所へ捜索に回ったらしい。
藤林さんたちの監視の目は逃れられなくなるだろうけれど、むしろそっちはサポートしてくれる人たちでもあるからね。
お兄様も周囲の監視が外れたことに気付いたので、ほのかちゃんに解除させる。魔法の多重展開は難しいから。ここでそんな余裕はないだろうしね。授業ならまだしも、これは実戦。極度の緊張のある中での魔法はきっとほのかちゃんは経験がない。横浜でも後方支援だったから。
お兄様の先ほどの端末操作は恐らくエリカちゃん達への招待状かな。早く来てくれるといいのだけど。
顔が見える位置まで近寄ってきた彼らの顔は、どう見ても生きているように見えた。
でも生命力があるかと聞かれると、それはyesとは言いづらい。目に光が見えないのだ。
親し気な空気を装っていても、乾いているような、そんな印象。
マルテと名乗った男とお兄様はいくつか言葉を交わすうちに、空気はどんどん悪くなっていく。
男の空気に同調するように前後を挟むように立つモノたちの気配も変わる。
一触即発の中、お兄様の発言は止まらない。
ピクシーに対して、自身はどうしたいかを訊ね、彼女は強く反発してみせた。
パラサイトにとって宿主自体のことはそんなに大事なもののようには思えなかった。
壊れたら他の器へ、程度のはずだったはずだ。目の前のマルテ含め、彼らにとっては正にその考えによる提案だったのだろう。同胞本体に傷はつかないのだから。
けれど彼女は拒絶した。自己を失うことを恐れた。植え付けられた彼らの自我とは一味違う執着を見せたのだ。
その反応はマルテたちにとって予想外だっただろう。
救うつもりの同胞にまさか強い拒絶を向けられるなど、思いもよらなかったに違いない。
彼らの宿主の祈りは、救いを求めるものではなく、恨み憎しみの負のエネルギーの詰まったもののようだったから、余計にその執着が理解できなかったかもしれない。
今彼らを突き動かしている理念は、宿主から読み取った知識による抑圧からの解放、虐げてきたモノたちへの復讐心によって構成されたものだ。
緊張した国家間の中、何処の国でも抱えている闇の部分。
非道な実験はいくら表で人道に反すると謳ったところで人の欲は無くならない。
宿主が壊れてもすぐに同じ思想の宿主は見つかるだろう。
(――だけどこれがもし、ほのかちゃんのように誰かを想う心だったり、幸せを望むものであったならば――)
このように対峙することは無かったのではないだろうか。
きっとこんな騒ぎにも――と思ったけれど、吸血鬼騒ぎが無くなるわけじゃない。
彼らはどうあっても宿主が必要で、仲間を増やそうとするのだから。
そのために依り代が、寄生先が必要だから。どうあっても共存は難しい。今回のピクシーのような例外を除いて。
交渉は初めから破綻していた。
お兄様はパラサイトを初めから許すつもりなどなかったし、彼らも仲間の解放が目的だったから、その仲間が魔法師とは言え人間の所有物に成り下がった時点で許し難い存在になったことだろう。
宿主の人間が軍人ということもあり、彼らの思考に基づいての行動は読みやすかった。
すぐに一対一の構図に分散された。
ほのかちゃんにピクシーが付いたのはお兄様の指示だ。私にまでなら眼が行くけれどほのかちゃんのカバーまでは難しいとの判断によるものだろう。
一人で戦わせてくれるだけ、信頼されていると思いたい。
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