妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
一晩経ってから情報を整理して気づいたことがある。
トラウマの話だけど、お兄様にも十分当てはまる話だった。
(そうだよ、守りたいのに守れなかったってお兄様には地雷級の特大トラウマだったじゃない)
なんで忘れてたのだろう。沖縄での一件でお兄様は最大のトラウマを植え付けられた。
私を守れなかった、という、どでかいトラウマを。
それが今回の傍に居ても守れないかもしれないパラサイトを相手にしたことで刺激されていたのか。
パラサイトの波動から身を守れなかったと思ったお兄様が、やけに苦しまれている理由にようやく気付いた。…遅すぎだ、私。
離れるのが怖い、は失う恐怖を思い出してしまったから。
言葉にすることもできないから離れる、というマイルドな言い方になっていたのか。
そのタイミングで私がお昼をお兄様と一緒にしない、と聞けば、守れなかった=離れるとなって無意識にトラウマスイッチも刺激されてしまった、となってもおかしくない。
…これは、しばらくお兄様を甘やかさないといけない案件だね。
申し訳ございませんでした。
お兄様を幸せにしたいとあれだけ言っていたのに、お兄様を苦しめる原因になってました。
気付いてないトラウマ、か。
今回の件、私もだけど、お兄様の方もあったのね。気を付けないと。
朝の鍛錬から戻ってきたお兄様の様子はすでにおかしかった。
とはいっても普通なら気付かないレベルだろう。深雪ちゃんだからこそ気付けた。
お兄様をつぶさに見てきたから気付けたわずかな変化。
けれどそれを指摘することはなく、いつも通りに出迎えて、朝食の準備に取り掛かった。
片手でも食べられるホットサンドとミネストローネスープはマグカップに。
作業をしながらでも食べられる、見栄えよりも手早くを考えた食事に、シャワーから出てきたお兄様は虚を突かれていた。
ふふん!お兄様の妹ですもの。これくらいできて当然です。
なんて心の中でふざけつつ、表面では訳知り顔の微笑みを浮かべて。
「…困ったな。心の中まで覗かれそうだ」
「まあ。見られて困ることでも?」
「知ったら深雪が逃げてしまいそうなことまで色々、な」
ワァ。ソレハ大変ダ。見ないようにしないとね。
気を付けますからお色気たっぷりに微笑まないでくださいませ。
お兄様は朝食を乗せたお盆を持って地下へと移動した。
あれだけ動いているのにスープの一滴も零してないよ。すごいね。私なら魔法に頼らないとそんな芸当できない。
普通精密機械のある部屋で飲食なんてしちゃいけないだろうけど、そこはそれ、便利な魔法というものがあってだな。
スープをこぼしたところでお兄様の再生がある限り壊れることなんてないのだよ。…こんなことで使っていいわけはないので気を付けますけどね。
食べかすも零れないようにペーパーに包まれてるから大丈夫なはず。いざって時は魔法でちょちょいとね。
ってことで今日の朝食はここで調べ物をしながらいただきます。お兄様は遅刻してもいいとお思いだろうけど、これでも一応生徒会副会長なもので。
間に合うことは知っているのですがね。余裕はいくらあってもいいから。
そしてお兄様の長い指が正確無比な動きでキーボードの上を滑っていく。
審査員がいたら皆10点を付けていくほど美しいタッチに見惚れてしまう。
お兄様はどこもかしこも素敵要素が詰まっているけれど、指もまた特筆すべき美しさを持っている。
実に男性らしい節くれだった指なのに、とても細やかな動きを見せる。特にこの無駄一つない指捌きは何度見ても見飽きることが無い。
一流、超一流の人間の見せる技量とは得てしてそう見えるもの。
つい、食べるのも忘れて見入っていたが、お兄様が見本を見せるように片手だけで操作しつつ豪快にホットサンドを噛み千切った。
わ、ワイルドっ。かっこいい。どうしよう。今朝はお兄様にハートを撃ち抜かれすぎている。かっこいい。語彙力が死んでいく。
このままではいつまで経っても朝食を終えられない、と視線を外し流れていくモニターの数字を見ながら食べ始める。早く食べなければ。
流石にあのシーンを見ながら食事はできないからね。
シリアスなシーンで深雪ちゃんが唇にソース付けたままなんて、神様どころかファンの人にも殺されちゃう。気を付けねば。
と、お兄様がサンドを食べきり、ミネストローネに口を付け、私が食べ終わる頃、その映像が映し出された。
…ハッキングを片手で気軽に…いえ、それだけ藤林さんのハッキングツールが素晴らしかったのと、お兄様の技量があってこそだと思うのだけど、大丈夫か日本。第三課も精鋭なんだよね?
と、ふざけられたのはここまで。
画面には画質こそ荒いものの、アンジー・シリウスのものらしき姿が堂々と映っており、厳重警備体制の敷かれた施設にあっさり侵入し、兵士たちを昏倒させた後、パラサイトを処刑する姿が流れていた。
シリウスの吐息は白く、パラサイトたちが容れられていた部屋は温度が冷凍庫並みに下げられ仮死状態にしていたのだろう。
その上拘束衣で身動きが取れなくされていたところ、彼女に銃で撃たれ、燃え上がり、絶命した。
…リーナちゃん、パラサイトのこと知っていたはずなのに、攻撃したのは物理だけ。
つまりガワだけを処理させられていた。その体が、彼女たちの国のものであったがための、処分――処刑だった。
その後、彼女は警報音に慌てることもなく、実にスマートにその場を後にした。
お兄様がため息を吐いている。
この光景に、お兄様が何を思ったか。どう、映ったのか。
「リーナ、ですよね」
痛いほど伝わってきた。お兄様の想いが。感情が薄いなどと、どの口が言うのだろう。
お兄様の心はしっかりとこの映像を見て反応をみせていた。怒り、嘆き、呆れ、――憐み。複雑に絡み合っている。
「多分」
はっきりと言わなかったのは、お兄様の優しさだ。
私にわかるものがお兄様にわからないわけがないから。こんな時でさえ、私を慮ってくれる。
そして、リーナちゃんの現状を嘆き憐れんでいる。憤りも感じているのだろう。拳が固く握られていた。
その拳にそっと触れる。固くて、大きな拳は片手では覆うことができない。両の手で包み込んで、腕に寄り添った。
言葉にしたところで伝わらない想いもある。
「深雪…」
名を呼ばれるだけで、伝わる想いもある。
お兄様の頭が私の頭にのせられ寄り添い合ったところで、モニターが勝手に切り替わった。
(ついに来たか!私の敵!!)
くわっと目が開いた。
雫ちゃんを誑かそうとした男がにこやかに挨拶をして現れた。
怒りがお兄様に伝わらないよう驚いたふりをして体を離す。
うむ、敵ながら綺麗な顔立ち。胸までしか見えないから全体像はわからないけれど、ここまで将来を約束された美少年であるからして、見えなくともそれなりな等身を持ち合わせていることだろうと推測できる。
でもね、そのアメリカンなオーバーリアクションが癇に障るのですよ。静の雫ちゃんの横に合わない!
がるるるるる、と内心牙をむきつつ、画面を睨みつける。
雫ちゃんのことをティアと馴れ馴れしく呼ぶ男は、ここにお兄様一人でいると思い違いをしているらしい。
もしくは私などいてもどうでもいいと思っているのか。お兄様に興味があるのだものね。
いやだ…雫ちゃん狙いのくせにお兄様にもちょっかいを…?要警戒人物から絶拒の敵に認定。
一方的な通信であることを告げて独演会を始める男に、好印象など持つはずもないが、話される内容もね。
有益な情報ではあるのだけど憶測も交えてくるわけで、信憑性が薄い。
お兄様も微妙な反応。…いくらあちらに見えていないからと言って結構表情豊かねお兄様。お兄様も苦手なタイプなのかな。
パラサイトの場所をリーナちゃんに教えたこと。でも教える前に知られてたこと。
…リーナちゃんのところの指揮官に四葉が繋ぎを取りましたからね。
それは調べなかったのか、そこに彼にとっての脅威が無いのか。
同じ七賢人だから知っていても言わない…はちがうか。このタイプはひけらかすだろうから。
愉快犯はこれだから始末に負えない。
ただで情報を教えてあげるよ、と上から目線で言う少年に、お兄様は律義に頼んだ覚えはないと返していた。
独り言にしてあげない優しさ、お兄様は天使だった?慈悲深過ぎない⁇
そしてもたらされる魔法師排斥運動の主導者であり七賢人のジード・セイジ・ヘイグの情報。
黒幕大好きおじさんの存在を明らかにした。
追加されるフリズスキャルヴのオペレーターという存在。全世界傍受システムってそれだけでかなり卑怯なアイテムだよね。
それの拡張版って、元を知らないから拡張されたと聞かされても、上位版?すごいんだね、くらいしか思わない。
でも、おそらく彼にとっては全知全能の能力を好き勝手使える無敵のアイテムのようなものなのだろうね。
ネットに上がったものすべてをのぞき見できるシステムなのだから現代最強のアイテムと言っても過言ではない。
…だから四葉は古典的な書類だったり特殊暗号文だったりで情報回してるんだよね。アナログが一番安全で最強です。
続けて暗躍大好きおじさん――あれ?黒幕だっけ?どっちでもいいけど――の目的と推測できる目標をつらつら並べたてる。
ブランシュ日本支部を壊滅させられ、無頭竜が日本を撤退したことで拠点を失ったことによりパラサイトを日本に送り付け、混乱に乗じて再度拠点を作り直す目的。
魔法を社会的に葬ろうという目標。
後者に関しては、彼の憶測がだいぶ組み込まれているけれど、結果としてはニアピン賞。
これは単なる復讐劇だから理論だけでは成り立たない部分があるから推理にずれが生じるのだろうけど。
「…ロマンチストと笑ってくれていいけど、魔法は人類の革新に繋がるものだと僕は思っているんだ」
付け加えられたこの言葉に、お兄様は噴出していた。…いい意味ではないのは分かっていてもこんな反応を引き出したレイモンド少年にちょっぴり嫉妬してしまう。この反応は私には引き出せないものだ。
しかし、この後の言葉も頂けない。
彼が付けたお兄様への名前が『ザ・デストロイ』。破壊神だ。ダサい。ダサすぎる。アメリカ人らしくプロレスリスペクトか?元祖厨か⁇
何よりお兄様が破壊神というのに納得いかない。お兄様は破壊もできるけれど再生も得意中の得意だが⁇破壊と再生を司ってますが⁇
やっぱりレイモンド少年とは気が合わない。
最後に、彼は特大の注文をリクエストした。パラサイトを時間指定で送り付けるから、
とんだ着払いもあったものである。
一方通行だから拒否もできない。…それも元々こちらが断らないとわかった上で言っていることも腹立たしい。
…リーナちゃんは一体どんな言葉で煽られたんだろうね。
あれだけ毛嫌いされているのだから絶対に煽っただろうレイモンド少年。
可哀想なリーナちゃん。また何か差し入れ考えよう。
通信は切れ、真っ黒な画面に私たちの表情が写った。
お兄様も私も朝から疲れた顔だ。
何も言わず身を寄せ合い、どちらかともなくハグをした。
――
嵐の前の静けさか。
つつがなく授業を終え、放課後の生徒会の仕事も予定通りに片付いた。
バレンタインの残り香か、出来立てほやほやのカップルたちがちらほらいる下校風景を、青春だなぁ、と眺めながらお兄様のお迎えを待つ。
会長と五十里先輩は先に帰っていった。ここには私とほのかちゃんだけである。
リーナちゃんは用事があって生徒会の仕事はお休み。むしろよく学校に来たね、と言ってあげたい。明日に備えてゆっくり休んでほしい。
作ったチョコチップマフィンは朝のうちに渡しておいた。もちろん目の前で毒見はしたよ。…少しでも癒されたくて甘いものが我慢できなかったのですよ。
リーナちゃんの髪色を見たらレイモンド少年を思い出してしまったので。
お兄様に何かされたのか心配されたけど、お兄様が原因じゃないので殴り込みに行こうとしないで。リーナちゃんもちょっと心配性になってしまった。すまない、前の戦いの時変なことを言ったせいで。
「達也さんが実習の居残りなんて珍しいね」
「このところバタバタしてたから、集中できなかったのかもしれないわね」
青木さんが叔母様のお使いでやってきてたり、リーナちゃんに絡まれたりが原因だけど、私は何も知らないので適当に。
すまないねほのかちゃん。有益な情報をあげられなくて。
迎えに来たお兄様は、自分の都合で待たせたことで少し申し訳なさそうだけど、ほのかちゃんは大ぶりに、私は控え目に気にしないでと伝えて帰路に着く。
三人で帰るのも悪くないけれど、エリカちゃん達とも帰りたいなぁ。また喫茶店に寄り道したりして。…なんて、わがままになったものだね。
ほのかちゃんの背にぶんぶん振られる尻尾を幻視しながら後に続く。吐き出す息が白くて、まだ春は先だなぁと実感しながら。
恋する乙女は春爛漫だけど、横を歩くお兄様はまだ雪解けはしていない。
降る雪は無いけれど、何年も積もった雪はまだ彼に春の訪れを告げられないまま。
友愛は感じられるようになったけれど、恋愛はまた違うのだろうか。
こればかりは手助けすることはできないから、お兄様自身に育んでもらわなければならないのだけれど、難しいね。
あれだけ妹に甘いセリフを言ったり行動したりしているのだから、恋人にはもっと甘々になると思うのだけど――あれ以上って何ができる…?
結構お兄様がやってることってラブラブカップルでもなかなかハードル高いことだと思う。
もしや妹で予行練習でもしているとか?お兄様の将来の恋人が心臓強い人だと良いね。
でないと彼女さん早死にしそう。心臓への負担が凄すぎて。死因が恋人に愛されすぎて、なんてことになりかねない。
その場合ほのかちゃんは耐えられるかな?…お兄様が抑えればワンチャン?
…そもそも妹相手と恋人相手の扱いがイコールとも限らないし、恋人にはさっぱり大人なお付き合いかもしれない。
うーん。わからない。謎過ぎるお兄様。
私生活を共にしているはずなのにプライベートが謎ってどういうこと?実はお兄様にプライベートの概念が無いのでは?四六時中ガーディアンしているから…。私の知らないプライベートなお兄様の姿とかあるのかな?
もしあるのだとしたら、見てみたい。
気づいてないだけで実は見せてもらえてたりしてるのだろうか。
あの仲良し(?)生活が妹のためだけの演出だったとは思いたくないなぁ。
(私、そんなに高望みなんてしてないはずなのだけど)
何でも完璧にスマートに熟すお兄様は確かに素晴らしいけれど、ごく普通の、適度な距離感の兄妹の生活でも構わないのに。
欲が無く小さなつづらを選んだら、特に望んでなかった金銀財宝が手に入ってしまった、みたいな気分。
あの御伽噺のその後って結構危険だと思うのよね。あの金銀財宝を狙って変な事件が起きそうじゃない?幸福をプレゼントしたつもりが不幸招いたりしない⁇なんて、シンデレラのその先を考えるようなお話は無し無し。
「深雪、考え事もいいけれど、没頭すると危ないよ」
頭を小さく振ったらお兄様から注意が。気を付けます。
って、もう駅でしたね。ほのかちゃんの頭の上のお耳が垂れ下がってます。かわいそう。でもゴメンね。うちに連れて帰れないんだ。
(あ、でも。この件が片付けば一緒に夕食とかどうだろう?雫ちゃんがいないからほのかちゃんも寂しいだろうし、何ならリーナちゃんも呼んで――)
とまで考えるけど、リーナちゃんは難しいかな?一応お兄様を探りに来てるんだし、何か家に仕掛けられても困っちゃうね。
でも夕食ぐらいでもダメかしら?
ちょっとお兄様に相談してみよう。
ほのかちゃんを見送ってキャビネットへ。
「さて、俺のお姫様は一体何を考えていたのかな?」
隣に座って長い足を組み、膝の上に頬杖をついて見上げてくるお兄様が恐ろしい。
なんてあざとカッコイイポーズ…お兄様に完全にツボを刺激されて悶えそうになるのを必死に抑えているのだけど、顔が赤くなってるの絶対隠せてない。お兄様目が笑っているもの。
「そうやって揶揄うお兄様には教えません」
震え出しそうになるのを誤魔化すためにも顔を背けて口を閉ざすと、お兄様はくすくす笑ってすまない、と姿勢を正した。
まったく。お兄様は妹をすぐ揶揄う。
楽しそうだけれど、心臓に悪いのですから揶揄うにしてももっと別の方法で揶揄ってください。
この件が片付いたらなのですが、と前置きをしてから。
「まだ雫も帰ってこないことですし、ほのかを家に招いて夕食でも如何だろう、と思ったのです。雫の家で夕食を共にすることもあったと言ってましたから、今はずっと一人で食事をしているのかと思うと」
多分寂しいと思うんだよね。慣れていても、無性に寂しくなる時もある。
前世独り暮らししていた私にはオタ活があったからお一人様でもエンジョイできていたけれど、彼女にそういった趣味は無い。
普通にドラマを見たり、音楽を聴いたり、女子高生の一人暮らしだ。恋しがる家族がいなかったとしても、人恋しくはなる。
「家族ぐるみで仲良くしていると言っていたからな」
「それで、…なのですが、流石にほのか一人を呼ぶのは…その、気まずいかもしれないので、他の皆にも声を掛けてみたりもしたら如何かと」
この場合気まずいのはお兄様である。…気にしないようにしているけれど、バレンタインの時のこともあってちょっとほのかちゃんに遠慮してるところがあるんだよね。
申し訳ない、って罪悪感があるというか。
お兄様としてはお断りしている相手だしね。いくらお兄様とはいえ気まずくもなるだろう。
「エリカ達か。いいんじゃないか。きっと声をかけたら来てくれるだろう。ただ、準備が大変なんじゃないか?」
「デリバリーでもいいですし、さほど手間のかかるものでなければ手料理でも構いません。そこは皆に聞いてみた方が良いかもしれませんね」
皆で何を食べるか選ぶのも楽しいだろうから。
手料理だとしても下ごしらえをしておけば、そんなに手間もないから問題ない。
「その…流石にリーナは、無理ですよね」
「…悩んでいると思ったが、リーナのことだったか」
お兄様は何でもお見通しですね。…私がわかりやすいのか。
だがお兄様も即答はしない。無理もないよね。彼女は任務できているのだ。…あれ?そういえば。
(確か亜夜子ちゃんが交渉して正体不明の魔法師の詮索ストップさせたんだっけ)
その時にこの間リストアップした資料も持って行ってもらったんだった。有効活用してくれればいいのだけど。
って、そうじゃない。それならば家に招いても問題ないのでは…?
ああ、でも個人で結んだ協定だから、リーナちゃんは知らないのか。だとしたら余計な気を揉ませることになっちゃうのかしら…。
また思考の海に沈みこんでいると、頭にポン、と手が置かれた。
顔をあげると、お兄様の困った顔が。うう、どうして私はこうしてお兄様を困らせてしまうのだろう。
「一応声を掛けてみたらどうだ?」
「え?」
「彼女自身の正体はバレているんだ。下手に動くこともないだろう。しかもリーナにとっては敵地で囲まれた状況。表向きは学友との食事でもある。そこにスターズがどうやって襲撃を掛けられる?」
…ああ~。お兄様が一人で襲撃受けたのは、行きずり強盗に成りすましての計画的犯行だったっけ。
それを考えると、うん。一般家庭にいきなり強盗は来ないだろうしね。ピンポイントにウチに来たら如何な強引な手段を使うUSNA特殊部隊であろうとも誤魔化しようがない。
「それより問題はエリカじゃないか?」
!ああ、大事なお兄さんがリーナちゃんにやられちゃってお冠でしたものね。…その問題もあったか。
そっちの方が難しいかも。
「…とりあえずこの件が片付いてから、ですね」
「だな」
おかしいな。パラサイトの問題の方が頭を抱える問題のはずなのに、無いかもしれない祝勝会に頭を悩ませるなんて。
お兄様に寄りかかって頭を肩にのせる。
頭に置かれたままだった手はするりと滑り落ちて肩に腕ごと回された。
「お兄様には、いつも甘えてばかりですね」
「これくらい甘えにならないんだが、それこそ甘えられるのも妹の特権じゃないか?」
「もう十分甘えすぎていると思うのですが。こうして寄り添うなんて、年齢的にもおかしいでしょうし」
「年齢なんて関係ないさ。妹はいつだって兄に甘える権利がある。そして兄にはいつまでも妹を可愛がる権利があるのだから」
そんな権利あるわけないだろ、というツッコミをオブラートに包んで言いたいけれど、お兄様が真剣過ぎてツッコめない。なんてこった。お兄様は本心で言っている。
「困りました。これではいつまでも兄離れのできない妹になってしまいます」
「兄の困った我儘を聞くのも妹の役目だとも言っていただろう?俺はまだお前を離すつもりはない」
何と言うことでしょう。逆手に取られてしまった。
しかし、まだとはまた曖昧な。長いのか短いのかよくわからないね。
「困りましたねぇ」
「こんな我儘な兄貴は嫌いかい?」
「…困ったことに好きなままです」
たくさん困らされてるんですがね、どうあっても好きでしかないわけで。
ぎゅっと抱きしめられて最寄りの駅に。
降りますよ、離してください、とお願いしたのだけれど、肩から腰に回された腕が力強くて抱き寄せられたままキャビネットを肩を並べた状態で降りた。
コミューターは流石に横並びで入れない。腕は離れるはず、と思ったのだけどくるっと反転されて抱き合う形に抱き込まれてドアを潜ることに。
どうあっても離す気が無いね。本当、困ったお兄様だ。
寒い季節なのに熱くてたまりませんよ…。心臓さん、全速力で全身に血液回さないで。もう少しゆっくり目にお願いします。
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