妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
そして三日後。
一度駅で解散して着替えてからまた駅に集合してウチに来ることになった。
私はお兄様が迎えに行っている間に準備を整えて出迎えるため急ピッチで料理を仕上げていく。
大皿で取り分けスタイルの方がわいわい楽しいよね。ということで取り分けやすいものをチョイス。
見栄えは拘り過ぎないようにした。気取って緊張させてもしょうがないから。色味は気にするけどね。
食べ応えのあるものからさっぱりしたものまで。各種取り揃えましたとも。
昨日の夜のうちに大抵のものは仕込み、朝には八割方出来ていた。後は火を入れて完成するものもあるけど大抵は盛り付けるだけ。
お兄様が時折様子を見に来ては一口食べてもらって味を確認してもらう。お兄様美味いしか言わないけどね。せっかく傍に居るから。
とまあそんなこんなで昨日の準備のおかげで思ったよりも早く完成してしまった。
魔法で保温しているからいつでも出来立てほやほや。
部屋に充満していた匂いについてはもう換気できてるはず。だけどずっと作ってたから鼻がおかしくなってるかも。
部屋を見回して最終確認を――あ、忘れてた。母の写真は片付けておかなくちゃ。お部屋に避難していてくださいませね。
でも写真がないとぽっかり空いてしまった空間がなんとなく寂しいね。うーん、お花でも摘んできて飾る?
だけど今からだと、いくら魔法で綺麗にできるからって土を触った手で食事を提供するのもねぇ。といろいろ考えて、良い案も浮かばないのでお部屋から適当にレース編みで作った花瓶敷を。何も無いよりましかなって。
いざ置いてみるとこう、何か乗せたくなるね。籐で編んだかご?チョイスは間違ってないと思うけど今度は何か入れたくなるね。ってことで冬らしいものということで毛糸玉を。
なんでそんなものがあるのかって?あみぐるみでぬいのボディ作ったらどうなるかやってみたのだがその結果、ちょっと理想に合わなかったんだよね。
それで余らすのももったいなくって普通に動物のあみぐるみを作ったりしたんだけど、まあ毛糸って余るよね。って、あれ?…毛糸玉よりもそっちの方が良いかな。
確かぬいの箱に一緒に入っているはず、と何度目かの往復を。誰かをこうして招いたことが無いから浮かれちゃって落ち着きがないね。
そしてありました。手乗りサイズの小鳥のあみぐるみたち。毛糸玉を少し解して乗せればあら不思議。巣にいるみたいになりました。
まるで初めから考えられたかのようなフィット感。可愛いね。ようやく納得いく形ができたところでチャイムが。
玄関に向かったところでお兄様が開けて下さいました。タイミングばっちり。
「いらっしゃい」
おじゃまします、とそれぞれの個性あふれる言い方で入ってくる皆に寒かったでしょう、と出迎える。
「あれ、深雪さんそのエプロン」
美月ちゃんがエプロンに触れる。私が今つけているのはシンプルなモノトーンのエプロンだった。
以前一緒に買ったものじゃない、って思ったのだろうけど、流石にお友達の前であのエプロンはちょっと。
「アレは俺以外に見せたくないからそれでいいんだ」
お兄様…、妹は複雑です。見てくださいこの美月ちゃんを。お顔真っ赤。
寒さによるものじゃないね。すまない。うちのお兄様が。
「え、あの新妻風エプロン使ってるの?」
ああ、エリカちゃんもその場に居ましたね。そして言っちゃうんだ…せっかくぼかしたのに。
ぎょっとした二人にうわあって顔したエリカちゃん、きょとん顔一人に驚愕顔がお一人。
…ほのかちゃん、そんなに真っ赤になって驚かなくても。
リーナちゃんはピンと来てない模様。新妻エプロンって海外にはない?むしろそっちの国から来てる気がするけど、まあ知らなくていいことってあるよ。
「買ったら使わないともったいないでしょう。物に罪はないのだから。兄さんもいつまでも玄関で遊ばないの」
「悪かったよ」
コートや手荷物は玄関のクローゼットに。
二階に興味津々のエリカちゃんを抑えてリビングへ。
「え、すご…コレ深雪が全部作ったの?!」
「結構な量ありますよ!」
まあ八人いるからねぇ。その内食べ盛りの男子が三人もいるのだから、たっぷり作りましたとも。
足りないよりかは余るくらいでちょうどいいから。
余っても冷凍できるし、何ならタッパーだって用意があります!
そう言うとちょっと呆れられた。用意がよすぎるって。ごめんね。張り切っちゃった。
「シャンパングラスって、酒でも飲むのか?」
「レオ。冗談でも酒の話は禁止だ」
冗談で言った西城くんに、しかしお兄様は真剣な表情と低いトーンで返した。
お兄様の必死さに、皆が驚いてます。
まるで私が酒乱のようじゃないですか。
私のお酒の楽しみ方はちょっと頭がふわふわしてるくらいで暴れまわるタイプじゃないと思うのだけど、どうにも様子を聞いてもお兄様は教えてくれないんだよね。
「深雪ってそんな酒癖悪いの?」
「確かお正月のお参りの時も達也さん止めてたよね」
ほらー。皆から変な目で見られてる。
「弱いのは事実だけど、…そんなに迷惑かけてるの?」
何度も質問するのだけど、お兄様の答えはいつも一緒。
「迷惑じゃないよ。…ただ危ないだけで」
「だから、何が危ないの?」
ここからお兄様はただ首を振るだけ。何も言わなくなる。
「危ないって何がでしょう?」
「もしかして魔法の制御が甘くなるとか?」
「絡み酒とか?」
「もしかしたら脱ぎだすとか?」
エリカちゃんの発言に赤くなる人がいるけども、お兄様が一切否定しない。
われ関せず、というよりこの話題に触れようとすると、どうにも反応が悪くなる。
「もう、その話はお終い。飲み物は全てジュースだから安心して。シロップはジンジャーとハニーレモン、ジャム系を溶かしても美味しいけど初めはシンプルなのをお勧めするわ。普通にアイスコーヒーとアイスティーもあるから好きなものを選んで」
「…嘘でしょう?シロップも自家製?」
驚きよりも引かれる反応。
申し訳ない。…こだわりだすと色々作っちゃう系のオタクです。
「モノ作りは深雪の趣味だな。そのおかげで俺はいつも美味しいものを食べられる」
お兄様は慣れた手つきでジンジャーシロップを入れて炭酸で割る。はちみつはお好みだけどお兄様は辛いのが好きなので追加することはない。
男子はお兄様に倣って同じように、女子は色々興味深げに見て試している。こういうのって男女で分かれるよね。面白い。ドリンクバーを見ている気分になる。
全員に行き渡って席に着く。ドア側にリーナちゃん、私、美月ちゃん、吉田くん。反対側のドア側からほのかちゃん、お兄様、エリカちゃん、そして本日の主役の西城くんが座っている。
「じゃあレオの完全復帰と、事件解決を祝って――乾杯」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
音頭を取ったお兄様に続けて皆グラスを掲げた。
ここからは食べ盛りの高校生。会話よりも目の前の食事だった。
「うお!この唐揚げかなりヒット。ウマいな!ガーリックが効いてる」
「あれ?塩唐揚げじゃないの?」
「唐揚げはしょうゆを含めて3種類あるわね」
「このエビにかかってるタルタルも美味しい」
「この見た目変わった餃子、中身がさっきの餡と違いますね!」
「好きな具材を選べるように折りたたんでるだけだから、はみ出た具材で好きなものをチョイスして」
「こっちの一口サイズのホットサンドも中身がチーズ入りとそうじゃないのがあるわね」
「このお肉、中にライスが入ってるの?不思議な味付け。辛いのに甘いわ」
「ああ、それは肉巻きおにぎりね。兄さんが好きなの。甘辛い、または甘じょっぱいっていうのよ」
「達也さんの好物…!」
「アレはボリュームがあったけどこの小さいサイズでもいいな。食べやすい」
皆思い思いにいろんなものに手を付けてくれているようで嬉しいね。喜んでもらえているようでなにより。
前菜も主菜も関係ない。食べたいモノを好きな順番で召し上がれ。
「リーナは嫌いなものはない?」
「あまり考えたこともないわ。食べられる物なら何でも食べられるんじゃないかしら」
ああ、勝手なイメージだけどアメリカって偏ってそうだものね。
「…このキッシュは美味しいわ。素朴な味なんだけど、なんだか懐かしい気分」
嬉しくなって微笑むと、リーナちゃんはちょっぴり恥ずかしそうに下を向いて口を動かしていた。可愛い。
彼女の私服は以前と違って時代に見合った服だった。むしろ前回の服はどうやって選んだんだろう?不思議だ。一体どこで手に入ったというのか。
シャンパングラスはとっくに空で、普通のグラスに変えてそれぞれ好きなものを注いで飲んでいた。
変わり種を狙いに行く人もいれば冒険をしない人もいる。個性だね。
そして美月ちゃん思ったよりチャレンジャー。いきなりミックス行きますか。反対にエリカちゃんは意外と保守派。人のにはちょっかいかけるけどね。
私は唐揚げを追加したり、ポテサラを新たに出したりとキッチンと行き来していた。
途中ほのかちゃんが手伝いに来つつ、お兄様が好きなもの調査したりする場面があったりと、忙しく動き回った。
二人きりの食事もいいけどこういった賑やかなのもまたいいものだ。
テーブルの上にあったたくさんの料理はほぼ空になっていた。
流石男の子が三人いると違うね。女子はもうそろそろいっぱいみたいだけど、男子はまだいけそう。
混ぜご飯の詰まったお稲荷さんと唐揚げの組み合わせって良くない?私は好き。
卵焼きもつければ食べ応えのあるお弁当のラインナップだよね。
ってことでだし巻き卵も付けたらお兄様が目の色を変えた。…好きだよね、だし巻き卵。
いつの間にか席は男子三人が固まって食べ続け、残った女子たちはさっぱりデザートタイム。ミックスベリーのゼリーです。お供には香り立つ紅茶を。
「…料理まで完璧とは、おそるべし深雪のスペック」
「完璧じゃないわよ。それだったらもっと見栄えを気にするでしょ。これはせいぜい趣味の範囲」
「趣味でこのクオリティはちょっと…」
「あのだし巻き卵もレシピ教えて~」
「はいはい。あとで送るわ」
「――なんで、こんなことができるの…?」
――
最後の言葉は質問というより呟きのようなものだった。
リーナちゃんが、項垂れている。本人は呟いたことにも気づいていないかもしれない。
茫然と呟かれた彼女の言葉の指しているものが料理のことではないことはわかっていた。
そうだよね。彼女には奇妙に映っただろう。
魔法力もあり、サイオン量も多く、特殊な固有魔法まで会得している魔法師が、こんな一般家庭(にしては色々おかしいけど)で平和的に暮らしているとは思わないだろう。
魔法科高校で成績も優秀で学年一位。
それどころかルールが決められていたとはいえ、USNA最強部隊の総隊長と互角にやり合う実力があるのに、戦場に出ることも無く料理が趣味だという。
どこにもいないようなパーフェクト女子高生が、こんなところでのうのうと静かに暮らしているなんて、力を有しているからこそ普通の生活を送れない彼女が信じられるわけがない。
深雪ちゃんほどの能力ある人間が、なにも巻き込まれずに生活しているなんておかしいものね。
事実、実際は隠しているからそう見えているだけなのだけれど、それにしても彼女にしてみれば、さぞ自由に柵なく暮らして見えていることだろう。
彼女の、大人たちに檻に入れられ指示を待つ暮らしとはかけ離れている。
「兄さんがね、いるから」
私がこうして自由でいられるのは、お兄様がいるからだ。
お兄様が守ってくれるから、好きにさせてもらえる。
もしお兄様以外のガーディアンだったなら、まず何もさせてもらえない。料理なんてもってのほか。
キッチンにも立たせてもらえないだろう。紅茶もコーヒーも好き勝手淹れられない。ただ、用意されるのを待つのみ。
「料理を作っても食べてくれる人がいないと、料理って楽しさが半減するの」
作ることは楽しい。味を追求するのも楽しみの一つ。
けれどやっぱり誰かに美味しいって食べてもらえることが、料理の醍醐味だと思うから。
リーナの言いたいことが料理のことじゃないってことはわかっていても、ここで彼女の正体を、立場を踏まえて話すことはできないから。
だからぼかしてぼかして伝える。
『お兄様がいるから』――それがすべての答え。リーナちゃんは気付けただろうか。
「だから今日はとても楽しかったわ。美味しいって、いろんな喜びの声が聞けて嬉しかった」
このメンバーが揃って笑顔で食卓を囲める日が来るなんて夢のようだ。こんなシーン、オリジナルアニメにだって無い。
あとはここに雫ちゃんがいれば完璧だったのに。それだけが心残りだ。
写真はきっと諸事情で撮らせてもらえないけれど、何か記念に…と思ったところで写真立てのあった場所に目が行った。ああ、ちょうど六羽いたわね。
席を立って籐かごを持ってくる。
「入った時から気になってました!そのあみぐるみ可愛いですよね」
「あみぐるみ?ぬいぐるみじゃないの?」
「編んで作ったからあみぐるみっていうのよ。ぬいぐるみは縫うでしょ」
好きな子を選んで、と差し出すと皆疑問符を浮かべていた。
「今日の記念。女子の分しかないけれど、こういうのって興味ないだろうし」
「…もしかしなくてもなんですが、これも深雪さんの?」
「本当は別のものを作る予定だったのだけど、うまくいかなくて。もったいないから手慰みに。可愛いでしょ?」
「……アナタ、いったい何ならできないの!?」
え、できることを聞かれるならわかるけどできないこと⁇
「えっと。世界平和?」
「そんなの誰だってできないわよ!!」
「リーナ、落ち着いて」
「深雪ってこういう時ボケるよね」
「でもリーナさんの気持ちもわかります。深雪さんって完璧すぎて」
おおう、流石深雪ちゃん。高評価。でも実際できないこと多すぎて困ってるのだけどね。
「私、皆が思ってるほど完璧じゃないわ」
もちろん嫌味でも謙遜でもなく、私にできることは限られている。
「一人じゃ何もできないもの」
こうして紅茶を楽しめるのも、淹れたい相手がいてこそ。
前世ではおひとりさまを満喫していた。
あの頃の自分は一人だとティーバッグどころかイベントグッズで買ったお茶を消費するくらい。あの時代、グッズは多種多様。色々あった。
楽しむ、というよりせっかく買ったしもったいないから消費しなきゃ、だった気がする。
これがキャラのイメージかぁ、くらいで味の違いなんてわからなかった。
ご飯だって、課金は家賃までとは冗談だけど、それなりに使ってたから食費は削ってもやしが多かった。
腹が満たされればそれで十分。外食はもっぱらコラボカフェ巡り。コースターのためにお腹はジュースのちゃんぽんで大変なことになっていたっけ。
おひとりさまは自由だ。好き勝手出来る。
だけど、食事を楽しんだ記憶はない。家で一人で食べたって面白みもないし、作るのだって作業になる。
オタ活は楽しかったし、おかげで身に付いたことも多かった。それなりに充実もしていたと思う。それでも何か成せたかと言えば――
深雪ちゃんになって、人のために、お兄様のために生きると決めて初めて何か行動を起こそうと思った。
前世とは違う生まれと育ちに、初めは何でもできるような気がした。
けれどスペックがいくら高くても一人でできる範囲はとても狭かった。
できると思っていたことが何一つできない不自由さ。不器用さ。恐れて動けないこともあった。
「まず、一人で初詣に行けないわ」
「それは…」
「無理でしょうね」
「え、どうして⁇」
リーナちゃんは一人で行っていたから余計疑問だろうけど皆は納得した。
「聞いたわよ、大変だったんでしょ。渋滞起きたとか」
「すごかったんですよ。深雪さんが通るたび人が凍り付いたように動かなくなるんです。皆見惚れちゃって魂が抜けたように立ち止まって」
「あの時の深雪、神々しくて綺麗だったもんね。…私も美月みたいに洋服にすればよかったよ」
リーナちゃんは思い当たるシーンでもあったのかな、納得した。
「なんでか甘酒も外で飲んじゃいけないらしいし」
「…お酒は体質でしょ」
できないこととは違うじゃない、とツッコまれるけどお酒で楽しむのは大人の嗜みだったり楽しみだったりすると思うんだよね。
「多分だけど一人っ子だったならだらしなく生活してたと思うわ。自立なんてきっとしていなかった。したいこともなかった。意外と思われるかもしれないけれど私大雑把なの」
深雪ちゃんって結構思考放棄型。魔法力もサイオンも人並み以上にあるから細かい小技より大技で潰しちゃうし。
お兄様に助けてもらうまでの深雪ちゃんを思い出してほしい。
人の言うことを鵜呑みにして、お兄様が気になるのに壁を作って近づけないでいた。
多分沖縄での出来事がなかったらツンデレどころじゃなく、思春期のお父さんと娘ばりにお兄様を避けていた可能性が大だ。
周囲に影響されまくってガーディアンとして仕方なく使ってあげてる、くらいに思っていたかもしれない。気になるくせにね。
…そう思うとぞっとするね。あの出来事は心に傷を負ったけど、性格矯正には必要不可欠のイベントだった。
「それは大雑把っていうより、無気力なのではないですか?」
「そうかもしれないわ。そっちの方がしっくりくる」
流石文系女子。表現が上手いね。
「そもそも初詣に行こうなんて思わず家にいただろうし、甘酒も無ければ飲もうとも思わないわね」
一緒に行く人がいるから行くのであって、一人ではその気も起きなかっただろう。
「だからまあ、私が完璧に見えるなら、それを一緒に楽しんでくれる人や、見ていてくれる人がいるからやる気になってるだけなのよ。私にはその相手が兄さんで、兄さんが頑張っているのを見て頑張ろうって気になったり、何かしてあげたいって思ったり。
って、上手くまとまらないわね。リーナ、ごめんなさい」
「ううん、なんとなくだけど、わかった気がする」
途中から何の話だっけ、と思い返してリーナちゃんからの質問だったことを思い出した。
こんなのでリーナちゃんの疑問に答えられたかはわからないけれど、それでも彼女には何か伝わったらしい。
と、ここでずっと食べていたお兄様がおもむろに立ち上がって私の後ろに立った。
直前までお稲荷さんを食べていたからだろう。指に付着していた油をぺろりと舐める。
お兄様ったらお行儀悪いですよ。ほら見てください、ほのかちゃんが息してません。お顔が真っ赤です。戦犯。
私?ポーカーフェイスの下ではえらいこっちゃですよ。指ペロなんてエロいことしないでいただきたい。
「おしぼりあったでしょう」
「美味しくてつい、な」
つい、で友達を撃沈させないでください。
「深雪は何も初めから完璧だったわけじゃない。卵焼きも最初は不格好だったしな」
「そうね。焦げてしまって見た目どころか味もイマイチだった。それを兄さんは美味しいと言ったから、不満を言ったのを覚えているわ」
同居し始めの頃のお兄様は、味にこだわりが無かったので妹の一生懸命作ったものを美味しいと言ってくれたのだけど、アレで心に火が付いたのよね。
絶対心から美味しいと思えるものを作りたい、って。
「料理だけじゃない。深雪にとっては及第点ではあっても完璧ではないんだろう?」
「できないことが多すぎるもの」
本当に、お兄様は私のことをよくわかっている。
そう、そもそも私は完璧じゃない。完璧だったなら救えないだの後悔だの悩むはずがない。
未来を大まかに知っていても、できないことがたくさんあり過ぎる。
若干拗ねたように返すと、お兄様は私の頭に手を置いた。
「それでいい。お前が完璧になってしまったら、俺は傍に居る意味がなくなってしまうから」
「そんなこと、」
ない、と否定したかったのだけれどお兄様がその先を封じる。
「兄妹支え合ってここまで来たんだ。これで深雪が完璧になってしまったら支えるバランスがおかしくなってしまうだろう?今でさえ、俺はお前に甘やかされているんだから」
「それを言うなら私こそ、こうして甘やかされっぱなしじゃない」
今だってこうして慰められているというのに。
「自分に厳しすぎるお前だから、俺がその分甘やかすんだ」
「…それこそ私のセリフよ」
向けられる視線の甘さで砂糖を入れてない紅茶まで甘くなってしまった。
全然口直しした気にならない。
「おーい、すぐに飲めるアイスコーヒーまだあるぞー」
「店員さん一杯お願い」
「誰が店員か」
今日の主役だぞと笑いながら皆にコーヒー注いであげる西城くん優しいね。
全員にコーヒーが行き渡った。すまないね。今日は飛び切りのコーヒー淹れたから味わって。マスターには及ばないけどね。
それからソファでくつろいでしゃべったり、探検に行こうとするエリカちゃんを止めたりとそれなりにあったけれど割愛。
でもほのかちゃん、いつもお兄様がどこに座ってるかとか、本人いるんだから席にドキドキしなくていいと思うよ。
恋する乙女の暴走もなかなかだ。
あっという間に楽しい時間は過ぎていく。
玄関までのお見送りにて。
「お土産にこれ貰ってくれる?」
「なぁに?クッキー?」
「わあ。可愛い」
「猫ちゃんのクッキーですね」
そう、渡したのは透明な袋に包んだクッキー。
猫の顔の形をしたものとすらっとした全身タイプの二種類。
「今日は猫の日だから」
「…本当にマメね~。ありがと」
「なんで猫?」
「2月22日だから猫の日。ニャーニャーニャーってね」
「ほー」
昔はメジャーでも今はそこまで認知度がないのかな。
エリカちゃんのニャーが頂けて今日はこれ以上ないくらい最高にいい日になった。ありがとう。
本当は駅まで送ろうかと言ったのだけど、今日はもう休めって断られちゃった。テンション高くてまったく疲れてないんだけどな。
楽しそうな帰り道を姿が見えなくなるまで見送った。
リーナちゃんとエリカちゃんは横に並ぶことはないけれど、邪険にもしてない普通の態度に見えた。
内心はわからないけれど、彼女たちもいろいろと経験をしているからか。大人だね。
「さ、もう中に入ろう」
「そうですね」
NEXT→