妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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来訪者編㊳

 

玄関に入って扉が閉まると抱きしめられる。

 

「今日はお疲れ様」

「楽しすぎて疲れた気がしませんが、お兄様もお疲れさまでした」

 

ホストとして回してくれてましたからね。

 

「俺も十分楽しませてもらった」

「ならよかったです」

 

すり、と胸に擦り寄ると、お兄様は最近気にいったのか髪を梳くように指を間に入れて撫でる。

二巡もすれば三十秒はあっという間で、お兄様の背を叩くと名残惜しむようにゆっくりと離された。

 

「そういえば写真立てはどうした?」

「私の部屋に」

「あのあみぐるみというのも深雪が作ったんだな。昔母さんの枕元にあったのも」

 

よく覚えてますね。お母様可愛いモノ好きなの隠してたからお兄様の前ではしまっていたりしたのだけど、時折そのまま寝ることもあったからね。

 

「ずっと仕舞っていたのですが、飼い主が見つかってよかったです」

 

皆でお揃いのものを持つって特別感があっていいよね。カラフルに文鳥やらセキセイインコやらオカメインコやらバラエティに富んで作った甲斐があったというもの。

 

「残りの一羽は雫か」

「貰ってくれると良いのですが」

「貰うだろうな。深雪の手作りなんだから」

 

だといいのだけど、お兄様断言しますね。なら信じましょう。

 

「お兄様も欲しいですか?」

「…俺はお前が可愛がる一羽を一緒に愛でさせてもらおう」

 

つまりお兄様は可愛いモノは見るのはいいけど持つのはちょっと、という思春期男子ですね。わかりました。

体よくいらないと言われたのを勝手に変換しておく。

中に入ってお片づけを。けれどそこまで手間はかからないだろう。

なぜなら、片付けるはずの食べ物が何一つきれいさっぱり残っていないからだ。

 

「あれだけあった食事がまさかこんなに綺麗になくなるとは驚きです。無理して食べたりしていないといいのですが」

「それは無いと思うぞ。デザートを楽しむ余裕もあったし」

 

それは凄い。もしや逆に足らなかったのでは、と不安になるが、それもないとお兄様が。

お兄様が言うのなら大丈夫なのかな。次ある時はもう少し作ろう。

 

「――リーナは」

「ん?」

「あの日お兄様が言った言葉を受け止められたでしょうか」

 

お兄様がシリウスを、軍を辞めたくなったら手助けできるとの言葉を。

考えたこともない彼女にとってその言葉は青天の霹靂だっただろう。

また何か企んでいるのでは、と疑いを掛けていてもおかしくない。だが、そんな素振りを彼女は見せなかった。お兄様に疑念を抱いているような、そんな視線は無かった。

 

「さあな。そればっかりは本人次第だ」

 

お兄様はあっさりとしていた。どちらでも構わないということか。ただ、それでも提示をした。別の道があると示した。

それは彼女に少なからず衝撃を与えたことだろう。

 

「お兄様にとっても、リーナは特別だったのですね」

「特別、のつもりはないが」

「そうでなければ、あのように手を差し伸べることはないでしょう」

「それは…」

 

珍しく言い澱むお兄様。

おっと、ここにきてようやくお兄様のラブフラグが!?そう思ったのだけど。

 

「俺には深雪がいた。…さっきの話じゃないが、俺にはお前がいたから思考を止めずにいられた。全てを諦めることもなく、お前が幸せになるために俺に何ができるかを考えることができた。だが、リーナには居なかった。――だからだろうな。以前深雪が言った通りだ。彼女は深雪のいない俺の分岐先なのではないか、とな。だから気にかけてしまったのだろう」

 

違いましたね。お兄様は真剣にリーナと向き合ってました。邪でごめんなさい。

 

「余計なお世話だったようだがな」

 

あの時最後に彼女が怒ってた様子でそう思ったのだろうけれど。

 

「そんなことございません。お兄様の掛けた情けはきっと無駄にはなりません」

 

今度は私が断言すると、お兄様はそうだといいなと苦笑した。

 

「ところで、今日は猫の日だったんだな」

「ええ。あ、お兄様もクッキー召しあがります?」

「せっかくだから前に見た映画でも見ながら食べないか?今日はもう勉強する気分でもないだろう」

 

お兄様から魅力的なお誘い!ぜひ!と飛びついて準備に取り掛かる。

ぴったりと寄り添いながら映画鑑賞。

どうやらこの映画を見るとお兄様はアニマルセラピーを求めるのか、撫でたり抱きしめたりとスキンシップが激しい。

映画に夢中なので恥ずかしいと思うことはないのだけど、その手つき、ちょっと集中できない。

 

「お兄様、いっそ初めから抱きかかえて見てくださいませ」

 

ちょっかいに耐えられなくなったので映像を止めてお兄様の足の間に納まって、お兄様をシートにして再生。

お兄様はお腹にシートベルトよろしく腕を回して大人しくなった。これで万事解決。

映画を楽しみ大満足――だったのは映画が終わって一枚のクッキーを食べ終わった瞬間だった。

 

(…ワタシハ一体何ヲ…?)

 

硬直する私に構わずお兄様は私を抱き込んで肩に頭を乗せたまま動かない。

 

「お、お兄様、映画、終わりましたよ」

「そうだね」

「そろそろお放しくださいませ」

「どうして?」

 

どうして、じゃありません!何この格好!恥ずかしい!!

思わず顔を覆って俯くと、お兄様は離れた分を取り戻そうと体を抱き寄せた。

さっきより!密着面が多い!!

 

「さっきまで皆に深雪を独占されていたんだ。不足分を摂取しないと」

 

不足したとは⁇妹を抱きしめて何が摂取できるというのです?

というか皆に独占されたって。

 

「甘やかしてくれるんだろう?」

「これは甘やかしになるのですか?」

「これ以上ない甘やかしだな」

 

左様ですか。ドキドキ通り越すともう何も考えられなくなるよね。

 

「…夜に甘いものの取り過ぎはよくないので少しだけですからね」

「わかった」

 

とりあえず抵抗を試みたけれど、すぐに解放されたかといえば…まあ、お察しですよね。

ぐったりとした私を部屋まで運んだお兄様はつやつやと輝いていた。元気が一番ですよ。うん。

 

 

――

 

 

生徒会って忙しいのね。

ここしばらくずっと遅くまで残って卒業準備に追われてました。

手配することが多くて、漏れがないかのチェックするだけでも大変な量。

猫の手も借りたい。

 

「いるか?」

 

お兄様が手伝いたそうにこちらを見ている、仲間にしますか?とする、しないのコマンドが出てくるけれど、しない方向で。

でないと七草先輩との恋愛フラグがね?皆の前でちょっかいかけるより少人数の方が印象に残るだろうし。

切なそうな瞳で見つめられるけど、お兄様はこっちよりもやることがおありなのでね。そっちを頑張ってください。

ある程度目途が立ち、ようやく余裕が出てきてほのかちゃんと抱き合ったのはいい思い出。ふわふわだね。マシュマロみたい。特にどこが、とは言わないけど。

そして時間ができたのでお兄様にお願いしてピクシーの元へ。

久しぶりに会った気がする。パチッと目を開いたピクシーはお兄様を見た後、私に視線を向けて――おおっと、全身に絡みついてくる。

 

「なかなか会いにこれなくてごめんなさいね」

 

結界張っといてよかった。全身舐め回すように動いてる。ちょっと怖い。

 

「ピクシー、何をしている」

「ヘルスチェックを、行っています」

 

…ああ、それで全身を隈なく触手を這わせているのか。心配してくれているのだからここは我慢。

お兄様が私の腰が引けたことに気付いてピクシーに確認してくれたおかげで、何が起きているのかがわかってよかった。

寂しがってるのかと構いに行くところでした。恥ずかしい。

でも心配してチェックしてくれているので感謝として頭をなでなで。いい子。

 

「ストレス値が・上昇・しています。疲労を・確認。休息を・お勧めします」

「ありがとう。心配してくれたのね。嬉しいわ」

 

撫でる手がスピードアップしたよね。ついでにハグも。

温度はないけれど、柔らかさも人とは違うけれど。

 

「感謝のハグよ。嬉しいから貴女にハグをするの」

 

ピクシーは私の行動がどのような気持ちで行われるのかを知りたがった。

だから聞かれる前にどういう気持ちだからこうしているのだと伝えるようにしている。

 

「感謝のハグ・は、前回とは・理由が違います」

「そうね。前回は髪をいじらせてもらったからの感謝のハグだったわね」

 

なんだろう、久々のこの育成している感じ。胸が温かくなる。これが母性?久しぶりに子育てをしている気持ちです。

最近うちの子は成長しすぎて手に負えなくなってしまったので、このピュアな反応が懐かしい。

始めの頃は母もお兄様も同じように戸惑っていたものね。

 

「深雪」

 

成長しすぎたお兄様からのお声が。

ピクシーの体を解放してあげて、最後に頭を撫でる。

彼女の瞳は感情を映すことはないけれど、じっと見つめられれば何か伝えたいのでは、と思うわけで。

 

「どうしたの、ピクシー」

「…わかりません。異常は・ないはず・ですが、体が・意思に関係なく・動こうと・しました」

 

……あら、まあ。

 

「お兄様」

「…人でなくとも関係ないのか」

 

お兄様が額を押さえてしまった。この場合、ロボットに取り憑いて、ほのかちゃんの祈りを取り込んだことで感情が芽生えた、と思っていいのかしら。

パラサイトの親玉に強い拒絶する意思を見せた彼女は、続いて何らかの感情を得た、と?

少女ロボットが愛を知る!成長するなんて、なんて素敵な王道的ストーリー!大好物です。

お兄様はもっと(ハーレム的な意味で)喜んでいいはずなのに、どうして頭を抱えるようなニュアンスなのだろう。

この感動を伝えたくてもう一度ハグをして今度こそお別れ。

 

「ピクシーの親がほのかだから、このような奇跡が起こるのでしょうか?」

「そうだと良いんだがな」

 

お兄様は何やら別の原因にも思い当たるみたいだけど、確証がないからか言葉が続かない。

もしや私の愛の力!?なんて、流石にそこまで調子に乗りませんよ。

ご都合主義だと油断してるとどこかから痛いしっぺ返しが来そうだから。

 

その晩、疲れているのだろう?と長めのハグと甘やかしを受けて気が付けば眠っていた。疲れてたのかな。

…お兄様の甘やかしに耐え切れずに気絶したなんて事実は知らない。記憶にないのでわからない。

 

 

――

 

 

卒業式当日。

式は厳かに行われ、終盤は涙と喜びで彩られたいい式になったと思う。

一科生と二科生は分かれているけれど、入学当初に見たギスギス感は薄まっていた。

全くないと言えないのは、それまで二年以上も分厚くて高い壁で仕切られ、時に敵対の構図の間柄だったのだ。

いきなりその壁が取っ払われたからといって、傷つけられた者は忘れないだろうし、傷つけた人も謝罪をしたとしても、関係修復までは至らない。

壁、というより溝、かな。深い溝を埋めるには一年では短すぎたのだ。

それでも緩和されたことは彼らにとっても喜ばしいのだろう、最後ということもあって声を掛け合う姿もちらほら見かけた。

その姿に中条会長が涙を流し、更に場が和んだりもして、素敵な空間だった。

式が終わって卒業パーティーは配慮により一科と二科は別々にセッティングしたけれど、お互い気兼ねせず楽しめてこれはこれでよかったと思う。

 

(それにしても、リーナちゃんのステージは圧巻。最高でした!)

 

心の中でペンライトをぶんぶん振り回してましたよ。歌上手いし、魅せ方を知っているので会場のボルテージは最高潮!

実に良いライブだった。伝説に残るね。

動画が残せないのが残念だったけど――彼女はあれでもUSNAが誇る総隊長さんですからね。下手に映像残せません。

勘違いから生まれた余興だったけれど、これ以上ない素敵な余興でした。ありがとうリーナちゃん。

貴女のそのポンコツ具合、初めはどうしてそんな…と憐れんでいたけれど、むしろ愛しさしか湧かない。

ポンコツ可愛いよリーナちゃん。最後までやり切ってくれてありがとうね。

宴もたけなわ、楽しい時間とはあっという間に過ぎてしまうもの。パーティーにも終わりは来るのです。

生徒会役員として撤収作業に奔走して、指示を飛ばしたり自分で動いたり。

イベントは片付けまできっちりと。

今日は魔法を使ってもいいそうなので、ここは豪快に椅子やら机やらテーブルクロスやらをまとめたり、汚れをささっと落としたり、バンバン使いまくった。ら、ドン引きされた。

魔法をこんな風に使って、しかもエネルギー切れしないところが異常に思えたそう。

…すまない。深雪ちゃんスペックではこれくらい息を吸うくらい簡単なことなのだ。

七草先輩だってこれくらい余裕でしょう?と視線を向けたけれどぶんぶんと首を振られた。

サイオン量も繊細な魔法操作もお得意でしょうに。

ねえリーナちゃん、と視線を向ければ…なんて顔してこちらを見ているの?

貴重な魔法をこんなことに、と驚愕の表情。

そう言えばアメリカではこんな使い方しないんだっけ。

もっと魔法は崇高なもので、使い渋る、みたいな。…ちょっと違うか。

でもね、お兄様をお待たせしているのですよ。巻きでいきますよ。

本当はこの作業私がするべき作業じゃないのだけどね。

今日は皆お疲れなんだからサクッと終わらせてもいいでしょう。魔法の大盤振る舞いといきましょう!

 

 

 

 

…やり過ぎましたね。でも早く終わったのです。いいじゃないですか。

十文字先輩にも驚いていただけて私としては満足です。

行き先が見つからなかったら家で歓迎しようと言われたけれど、就職先で迷ったらってことかな。

だとしたら間に合ってますので大丈夫です。

でも嬉しかったので感謝を伝えたら、あの!十文字先輩が笑ってくれました!!めっちゃ珍しい!すごい!先輩の方が大盤振る舞いでした。

思わずニコニコしたら七草先輩と渡辺先輩が変な顔をしてた。なんで?

リーナちゃんも不思議そう。なんでだろうね?

そんなこんなでぞろぞろとお兄様の元へ。

十文字先輩は途中、桐原先輩たち後輩に囲まれて離脱。

服部先輩もいて、七草先輩のことをチラチラ見ていたけど、十文字先輩も蔑ろにできないのでこっちには来ませんでした。

ヘタレじゃなくて律義なんです。真面目で目の前のことをスルーできない人なんです。

待ち合わせ場所に向かうと、お兄様は端末を操作していた。

それだけで画になる。かっこいい。

声を掛けるより早く、お兄様は顔をあげて立ち上がった。

なんというか、お兄様ってこの状況によく平然としていられるよね。

女子に囲まれてるんですよ。一人身内とは言え美少女軍団に男子が一人。ハーレムです。

なのに気後れすることなく堂々と主役級美少女とやり合ってます。すごい。

別れを惜しむように七草先輩はややオーバーに、渡辺先輩は呆れ気味にお兄様に声を掛け、学園生活最後のお兄様との会話を楽しんでいる。

タイプの違う美少女と会話をしているのに、何故お兄様はいつもと変わらずいられるのか。

慣れてる?気にしてない?

…まだそういった情緒が育ってない?

いや、でも花音先輩たちの関係性とかには気づいてたし、エリカちゃん達のことを揶揄ってたりするのだから、恋愛模様についてはそれなりに学習できたと思うのだけど。

他人のだけなのかな?自分のことにはまだ疎い、とか。

お兄様、そっち系は全く読めないようだ。

…ほのかちゃんのことには気づいてたと思うのだけど、先輩からの秋波は無いと思ってる?

七草先輩のこのちょっかいの掛け方は、服部先輩を揶揄うのとはまた別の種類だと思うのだけどね。

私の後ろにいるリーナちゃんがこそっと耳打ち。

 

「彼女、タツヤに気があるの?」

 

距離の詰め方や仕草に、七草先輩がモーションを掛けているように映ったみたい。

私たち在校生は見慣れたものだけど、短期留学生にとっては珍しかったのね。

 

「そう見えるわよね。ああやって翻弄する魅惑の先輩なのよ」

 

本心はけして見せない誘惑系お姉さんなんです、と伝えると不思議そうにもう一度七草先輩を見た。

 

「…その割には好意が見えるけれど」

 

あら、リーナちゃん鋭い観察眼。お兄様、付き合いの短いリーナちゃんの方が読むの上手ですよ。頑張って。

この後二次会があるでしょう、と七草先輩たちにお兄様が問うたその時、十文字先輩も再合流。

お兄様と挨拶したかったみたい。

先輩の方から来てくださるなんて、流石お兄様。

 

「あ、そうだ!達也くん大変よ」

 

ぱちん、と手を叩く七草先輩は下からのぞき込むように、計算された角度での小悪魔ポーズでお兄様を挑発して。

 

「十文字君ったらさっき深雪さんに告白、いえ、プロポーズしたんだから!」

 

………はい?

なんか、とんでもない爆弾を落とされましたね?

もしや生徒会選挙の逆襲です?あの時そっち方面で揶揄うように冗談言いましたから。でも、相手が十文字先輩とは。ミスチョイスでは?

七草先輩の発言に便乗するように肩に手を掛ける渡辺先輩。その表情は悪乗りする気満々のお顔です。

類友な悪友さんたちですこと。

 

「ああ。アレは紛れもないプロポーズだったな。しかも彼女は危機感もなくお礼を述べていたぞ。脈有りと取られたんじゃないか」

 

楽しそうですねぇ先輩方。

最後だからね、お兄様を盛大に揶揄いたいんだろうけれど――弄るネタを間違えましたね。

 

「――十文字先輩。それは事実ですか」

「そう取ってもらっても構わない」

 

十文字先輩もまさかの参戦。でも先輩は笑ってないから冗談とはわかりにくいね。

お兄様の低い声に、自分に向けられたわけではないのだけど、身体の奥底が震えだします。

 

「あの、就職の話でしたよね」

 

とりあえず場を和ませようと試みてみるのだけれど。

 

「就職は就職でも永久就職の方だな」

 

行き先=嫁ぎ先でしたかー。…じゃなくて。

 

「その言い方は女性軽視に繋がりますので、あまり使われますと先輩の品格に関わるでしょうからお気を付けくださいませ」

「そうか。気をつけるとしよう」

 

お兄様と違って先輩はいつもと変わらない重厚感あるお声。相変わらず豊かに響きますね。いいお声。

 

「申し訳ございませんが、妹の結婚につきましてはまず俺を倒してからにしてください」

「お、兄さん!?」

 

うっかりお兄様と呼びそうになりましたが、何を言ってるんです⁇

ちょっと妹は混乱しています。それに対して不動の十文字先輩も堂々と。

 

「司波を倒すのは骨が折れそうだな」

「そう簡単に倒れるようでは深雪の兄は務まりませんから」

 

一触即発の空気に、その原因を作った二人はというと、…顔が引きつってます。

こんな事態は予定してませんでしたか。収拾付かないじゃないですか。やだー。

なんて思ってましたが、その空気はすぐに一変した。

お兄様と十文字先輩が同時にふっと笑って口角をあげたのだ。

 

「随分妹を高く評価していただいているようで」

「それはそうだろう。九校戦での活躍も目覚ましく、学内の成績も優秀となればそれだけでも引く手数多だ。サイオン量も魔法力も申し分ないどころかこの国有数の能力だろう。先ほどのホールでの後片付けの様子には度肝を抜かれた。魔法をあれだけ細やかに、且つそれでいて大胆に使う人間は初めて見た」

 

こんなに饒舌にしゃべる先輩もこちらは初めて見ましたよ。かなり高評価を頂けているようですね。

お兄様はそうだろう、と言わんばかりに頷いてます。照れるのでそんなに褒めないでいただきたい。

 

「それに個人的に言えば、九校戦で彼女が見せた落ち込む男子たちへの気配りやフォローする姿は好感が持てたからな。何よりも――俺に対して怯えを見せない」

 

そう言って視線を私に向けられるけど、十文字先輩に怯え?畏怖を覚えるとかそういうことだろうか。

尊敬はするけれど怯えはしないね。気迫が凄くて緊張させられるって場面もないし、怒られたこともないので怖がる理由がない。

堂々とする姿は貫禄があって堂々としているし、…あ、強面とかそういうこと?

 

「…深雪にとっては鋭い目つきの桐原先輩も好感が持てるようでしたので」

 

お兄様、まだあの事引きずってる?そんな苦々しく言わなくても。

さっきまで困ってたはずの七草先輩たちはお兄様の発言に目を輝かせた。面白いおもちゃを見つけましたか。

 

「ええ!そうなの?深雪さんはあまり顔にこだわりのないタイプ?」

「桐原も別に悪くはないが…系統で言えば達也くんと似たタイプではあるか?」

 

え、そうかな。お兄様と似てる箇所なんてあった?鋭い目つきのところ⁇

お兄様はお兄様という特別枠と考えているので、誰かと一緒のカテゴライズなんてできないし。

 

「私が怖がるとしたら、何を考えているかわからないプレッシャーを感じた時でしょうか」

 

人の顔の造形に対して口出すのは、と話題を避けてその前に戻す。以前の二の舞は避けたいので。

最近何を怖がったか思い返してみて思いつくのは、車内で先生にプレッシャー掛けられた時かな。

あの時はガタブルでしたもの。先生怖かった。糸目で飄々としている人の圧ほど怖いものはないよね。

 

「…それなら十文字君を怖く思ってもおかしくないんじゃないの?」

「?十文字先輩は考えがはっきりされてるじゃないですか。常にどのように行動すべきか、どう動けば目的を達成できるか、何のために行動するか、のように見据える先がきちんとしているので、何を考えているかわからないなんてことはありませんから」

「「……」」

 

答えたら黙られてしまった。え、なんかごめんね。楽しんでたところに空気読まずに真面目に返してしまって。

でもこれって面白い返しあったかな。ボケって難しいよね。

 

「そう言われたのは初めてだな」

 

見た目で損してるってことかな。先輩って実直でわかりやすいと思うけど。

お兄様を見ると、なんだかちょっと諦めモード?何に対して?何か呆れられるようなこと言ったかな。

 

「感情が読みにくい人を見分けるのは俺で鍛えられたでしょうから」

 

お兄様の言葉に一同納得。そういえばお兄様も内心読みにくい系男子でしたね。

勝手に誤解されるタイプ。今回の件ではエリカちゃんにだいぶ誤解されてましたもんね。

七草先輩もやきもきさせられてましたし。

空気がさらに緩和したところで、話はガラッと変わっていい式だったわ、と感謝を述べられた。

 

「深雪さんも、そして盛り上げてくれたシールズさんも。感謝するわ」

「…盛り上げる?」

 

おっと、お兄様そこに引っかかりを覚えてしまうのですか。リーナちゃんがびくぅっ!と体を震わせた。

そんなに怯えないで大丈夫だよ~、とリーナちゃんを慰める気持ちで背を撫でてあげると縋るような目つきをされてきゅんと来てしまった。

可愛い。ぎゅっと抱きしめていい?っていうか抱きしめるね。

 

「ミ、ミミミユキ!?」

「ごめんなさいね。私がちゃんと伝えられなかったから」

 

動揺するリーナちゃんを落ち着かせるように背に回した腕でぽんぽんする。どさくさに紛れて抱きしめちゃったけどいい匂いがするね。

 

「どういうことだ、深雪」

「臨時で生徒会役員になってもらった手前、手伝ってもらうことにしたのですが、学外の手配は流石に難しいということで生徒間の手配をお願いしようと、当日の余興の準備を手伝ってもらおうとしたのです。ただ、私もそこでどのようにと詳しい説明をしなかったので、在校生や卒業生が自主的に行う余興をリーナが一手に引き受けてくれて」

 

おかげで十曲も披露するなかなか本格的なライブ空間に。最高でした。むしろあれ以上の余興は無かった。

先輩たちも同意なのか、素晴らしい演奏だったと褒めたたえる。

腕の中でリーナちゃんが縮こまるけれど、大成功だったので問題ないよ。

 

「皆喜んでたわ。前例は無かったけれど、こうして外部からアーティストを連れてくるのも盛り上げるにはいいのかもしれないと気付かせてくれたおかげで、今後の余興の幅が広がったわ」

 

一般の学校は文化祭に芸能人を呼んだりしてたものね。卒業式だってありでしょう。予算があれば、だけど。

この学校に文化祭は無いから新鮮に映ったことだろうし、本当に検討してもいいかもしれないね。…ただ、魔法師の学校に来てくれるかは別だけど。エンタメ系に魔法が進出したら、幅が広がっていいと思うのだけどね。

 

「先輩たちもですが、リーナにも良い思い出になったみたいだな」

 

お兄様の声は、表情には出ていないけれどとても穏やかなもので。

リーナちゃんが学校生活を少しでも満喫できたことが微笑ましく思えたのかもしれない。

リーナちゃんもそれを敏感に察知したのか恥ずかしそう。照れちゃう姿も可愛いね。

私たち一年生のじゃれ合いを、先輩たちも微笑ましく見つめていた。

 

こうして国立魔法大学付属第一高校の卒業式は幕を下ろした。

 

 

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