妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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二年の新学期になりました。ダブルセブン編です。


ダブルセブン編
ダブルセブン編①


 

最後の来訪者、水波ちゃんはトランク一つを携えてやってきた。

荷物が少ないってことはこっちで買い足していいってことですね。

春休みはまだあるので時間を捻出してお買い物に行きましょうね。

叔母様からのお手紙をお兄様に直接お渡しして直立不動の姿勢を保つ水波ちゃんに、私は興味津々で視線を――向けたいけど我慢です。

水波ちゃんとまともに挨拶もしてないのにそんなことしちゃダメだね。

ただの不審者になっちゃうからちらっと止まりで。というか見つめられたら委縮させちゃうよね。深雪ちゃんだから。気を付けます。

手紙を読み終えたお兄様は、私にも読むようにと手渡しで回してくれました。

内容は知っての通り、水波ちゃんが第一高校に入学するので一緒に暮らしてね、ということとガーディアン教育任せた、という内容。

住み込みメイドとして働かせてあげて、とあるけれど、家事が間に合っていることなんて叔母様が知らぬわけがないのにね。

…料理が趣味なこともばれていた私です。

 

「未熟者ですが、よろしくお願いいたします。奥様のお言いつけ通り、精一杯務めさせていただきます」

 

本邸で会った時のような礼儀正しさ。

ガーディアン候補ではあるが、すでに私を主として仕えるとのこと。

つまり表向き主人は私であり、尽くしてくれるのだそう。こんな可愛い子ちゃんがである。犯罪かな?

いや、私が変なことをお願いしなければそんなことにはならないのだけど、前世の記憶がね。

未成年の美少女がご奉仕って字面だけでアウトー!と叫んでいましてですね。

 

(…さて、どうしたモノでしょうかね)

 

叔母様の言うことはぜったーい!なので断ることなどできるはずもなく、私はさっそく交流を図った。

彼女を空き部屋へと案内する役を買って出たのだ。

掃除はHARがしてくれているのですぐに入居可能だけれど、空気の入れ替えはすぐにした方が良い。先に入室して一目散に窓を開けた。

振り返ると、表情を消して、従順な傍仕えに徹しようとする彼女が控えめに立っている。

顔を見れば見るほど穂波さんにそっくりだ。

彼女を若返らせたらこうなる、と言うほど似ている。

いくら穂波さんと同じ遺伝子を持つ調整体の子だからといって、ここまで似るのは普通ではない。

私の容姿を完璧な左右対称にしたように、彼女の顔に似せたのか、とも穿った考えをしてみたが、彼女の造られた目的にその予定はそもそもない。

彼女の生まれは母のガーディアンに穂波さんが選ばれる前の話だもの。そっくりに作る意味がない。

 

「長い道のり大変だったでしょう?今日はゆっくり休んでもらいたいけれど、水波ちゃん――こう呼んでもいいかしら?」

「はい」

「水波ちゃんはどうしたい?」

「どう、とはどういう…いえ、失礼しました」

 

ここで初めて水波ちゃんが私を見た。

今までは伏し目がちで直接見ないようにしていたけれど、主人の意を汲むのに表情を見なくてはいけないから上げざるを得なかったと言ったところか。

そして一瞬固まったね。

本家でも慣れない人が良くやる、間近で見る私の容姿に驚くってやつです。

この反応は慣れてます。仕方ない。深雪ちゃんだからね。

水波ちゃんは誤魔化せてる方だよ。安心してほしい。

 

「いきなり来て初日に一人で全て任せるのは、大変でしょう」

 

慣れた仕事と言っても初日からワンオペで仕事任されるなんてさせられるわけがない。

まずこの家のことを知ってもらわないとね。

 

「元々この家の管理は私が好きでしていたのだけど、水波ちゃんとしては一人でやりたいのよね?」

「はい。これからはメイドとしても働かせていただきます」

 

きりっとしたお顔。

うーん、この年齢にしてすでにプロ意識が高い。

腕前は自信があると見えて問題ないのだと思う。四葉でも堂に入ってたように見えたから。

高校生になる前だというのにしっかり者です。

 

「わかったわ。できるだけ水波ちゃんに任せる。だけど今日のところは私にも案内がてら手伝わせてくれないかしら?」

「…深雪様にしていただくわけにはまいりません。場所をお教えいただければ私が」

 

さっそく拒否られました。まあ、想定内ですがね。

 

「腕を信用してないとか、そういうことじゃないの。二人の世話くらい貴女ならこなせるだろうから、叔母様が貴女に派遣をお命じになったのだとわかっているつもりよ。――そうね、コミュニケーションの一環かしら。貴女がどういう子か知りたいのよ」

 

そう言うと、水波ちゃんは少し顎を引いた。もしかしたら過干渉を嫌うタイプかもしれない。

もしくは仕事にプライドを持っていて、主人にそんなことをさせるのは、と悩んでいるのかも。

どちらにしても申し訳ないけれど、諦めてほしい。

あのお兄様も母も諦めさせた私だ。

今後付き合いが長くなるだろう水波ちゃんとずっと遠慮し合う仲になるのは嫌だった。

 

「一目見ていい子だってわかったわ。貴女は自分の仕事に誇りを持って努めようとしてくれている。だから尊重はしてあげたい。けど、同時に歳も近いのですもの。仲良くありたいとも思うのよ。ガーディアンとミストレスの関係だけでなく、そうね…心を許せるような関係を築けたら、と思うのだけど――それは業務外になってしまうかしら?」

 

卑怯な言い方だとわかっている。彼女にはどのみち選択肢などない。

彼女の望みが通ることなどないのだ。…美少女に圧力で押し通すってやっぱり犯罪の匂いがするぅ。

 

「……私にそのような大役が務まるかわかりませんが、精一杯務めさせていただければと思います」

 

ここが、最大限の譲歩かな。

疲れているのにこれ以上無理はさせちゃいけないものね。

 

「ありがとう。これからたくさん迷惑をかけるでしょうけれど、貴女の主として相応しい人物で在れるよう、私も頑張るわ」

 

差し伸べた手を、彼女は主に恥をかかせないためにすぐに手に取り頭を下げた。

この距離感が切ないけれど、急に詰め過ぎてもダメよね。主として相応しくすると言ったのだから。

彼女の手は少女らしく細く小さなものだった。

ただ彼女も冷え性なのか、私と同じ温度という共通項を見つけてちょっと嬉しい。

 

「なら色々の取り決めはここを整えた後にしましょう。足りない物含め色々聞きたいから一時間後にリビングでいいかしら?」

「これくらいでしたら十分もかからず終わります」

「なら三十分後にしましょう。休憩して頂戴。来たばかりでまだ座ってもないのよ。少しでも休んで、その後でまたおしゃべりしましょう」

 

まだ何か言いたげの水波ちゃんを残して振り返ることなく部屋を後にする。

いきなり来た家で休憩なんてし辛いでしょうけど、我慢してほしい。お兄様との打ち合わせ時間も必要なのです。

 

 

――

 

 

ってことでリビングへ。

お兄様はソファでお待ちでした。素早くお兄様の隣に腰を下ろします。

 

「急な決定ですね」

「…本邸で会った時には恐らく決まっていたことなのだろうな」

 

でしょうねぇ。叔母様のことですから。

 

「深雪はいいのかい?」

 

これは恐らく私が仕切っていた台所や庭のことを言っているのだろう。

 

「そうですね。料理は任せてあげた方が恐らく彼女には気が楽なのでしょうが、時折作る日が欲しいところです」

 

料理作りは私のストレスの捌け口でもある。全く無くなるのはちょっと困る。

でも主人の作った食事など、緊張して食べられないとかありそうよね。

そんなストレスを感じながら食事なんてしたら消化に悪いから無理はさせたくない。

 

「お菓子作りくらいなら交渉の余地があるかと」

「…こんなに早く深雪のご飯が食べられなくなるとは思わなかったよ」

 

あら、お兄様が笑みもなく落ち込んでいるご様子。

私としては今年度までだな、と知っていただけに申し訳なく思うけれど、もし水波ちゃんが来なかったとしても、四葉に戻れば料理なんてさせてもらえるわけがないからどのみち期間限定の趣味ではあった。

 

「そのように惜しんでいただけて嬉しゅうございます」

「今までがどれだけ贅沢な暮らしだったか思い知ったよ」

 

項垂れるお兄様。落ち込んでいるところ申し訳ないけれど、惜しんでもらえるというのは何とも嬉しいものだ。

抑えようとしても頬が緩んでしまう。

 

「そうですね。夢のようなひと時でした」

 

お兄様とこうして並んで過ごす日々は、時に緊張を強いられる場面も多々あったけれど総じて幸福な時間だった。

今後どのようになるかわからないけれど、将来、未来のパートナーの前でこのように密着するようなことはないだろうから。

お兄様の肩に頭を乗せると、お兄様も肩を抱き寄せた。

いつもなら恥ずかしがったり、心臓が激しく動くのだけど、今は穏やかだ。

この温もりが心も温めてくれるよう。

 

「水波の存在は深雪を守るためにも必要だ。叔母上の考えは正しい。このところきな臭い動きも増えてきたしな」

 

それは水面下で活動を活発化させつつある人間主義者のことを指しているのだろう。

アメリカの吸血鬼事件により政府とUSNA軍は騒ぎの早期終息を図ったけれど、初動の遅さと下手に情報を隠していたことにより暴露や誤情報などが不信感を煽る結果となり、下火になった今も消えることなく燻ぶり続けているようだ。

そしてその波は当然海を越え、日本にもやってきていた。

ただ幸いなことに、こちらは被害者の数を表沙汰にすることなく、初動で十師族含め魔法師が動いたことにより早く終息したことで一時的な騒ぎで落ち着いた。

だがそれも表面的なこと。

裏ではこそこそ動きがあることは、お兄様が指摘したように軍でもいくつか把握済みらしい。

これからの動きに注意していかなければ、とお兄様が考えるのも無理からぬことだった。

 

「大丈夫ですよ、お兄様。お兄様がいて、水波ちゃんがいれば、私に怖いものなどございませんとも」

「…すまないな。だが、これからも俺が傍に居られない場面は度々起こるだろう」

 

今までもお兄様との別行動はあった。一人で夜を過ごすことは何度もある。

お兄様は学生の身でありながらお忙しいのだ。

好きな研究に没頭してもらいたいけれど、軍とFLTのお仕事を蔑ろにもできない。

これでガーディアンも務めているのだから体がいくつあっても足りないくらいのハードさ。

そこに水波ちゃんが来てくれた。

彼女がいれば、私が一人で留守番をすることも無く、もし外出したくなっても水波ちゃんがついてきてくれる。

お兄様の時間を無理に私に割くようなことが減るはずなのだ。

 

(つまり、お兄様が私以外と交流する機会がもっと増え、いろんなチャンスに巡り合えるということ!)

 

そのチャンスが恋愛に活かせるとは限らないけれど、私から離れることのメリットがたくさんあるはずだ。

このところ学校でも距離が近すぎて、周囲が遠巻きになっていることには気づいていた。

妹といる時は近づいてはならない、とでもいうように仲間内しか近寄れない状況になっていたのだ。

だけど水波ちゃんがいればお兄様との距離も物理的にも一人分の余裕ができて、皆がお兄様に近づきやすくなるはず。

お兄様は今や学校では時の人、人気者だ。

何故なら新学期から新設される科が、お兄様の功績によってつくられ、二科生にも一科生にも新たな道を作り出してくれたからだ。

それなのに私のせいで遠慮されて距離を空けられてるなんておかしな話だ。

 

「傍に居なくとも、お兄様の守護は感じられます。だから、安心できるのです」

 

だから大丈夫、と伝えたつもりなのだけれど、抱き寄せる腕に力が籠る。

 

「どこにいてもお前を見守れるのが俺の強みではあるが、俺としてはこうして腕の中で閉じ込めていることの方が安心なんだ」

「もう、冗談はおっしゃらないで。お兄様ならどこにいても私の危機に駆けつけて下さるでしょう?」

 

お兄様の傍が一番安全なのはわかるけど、腕の中が安心とは限らない。主に私の心臓がね。

時々悲鳴を上げているのがお兄様には聞こえませんか?

 

「もちろん。お前の信頼は裏切らない」

 

絶対守ってみせるよ、と囁いてからお兄様が顔を寄せてくる気配を察知して、その前にお兄様の胸に顔を埋める。

 

(くっつけちゃえばキスなんてできないからね!)

 

お兄様はどういうわけか、あれから隙あらばキスをするようになってしまった。

おかげでいつも警戒しなければならなくなり、お兄様の隣が気の休まるところではなくなってしまったのだ。

なぜお兄様はこんなことをするようになったのだろうね。

昔はスキンシップされるのも戸惑っておいでだったのに、今では率先して触れ合うようになった。

そして高校に入ってから、お兄様の触れ合いは徐々に頻度を増して、ついには疲れが酷くなると人前でも触れる時期もあった影響か、学校でも大胆な触れ方も増えてきた。

おかげでBGMも倍増。ウォッチャーまで現れ、組織的に情報共有するようになった。由々しき事態である。

そのこともあって、今このタイミングで水波ちゃんが来てくれたのは助かった。

べたべた兄妹にならないよう気を付けていたのに、気が付けば原作以上のべたべたっぷりになってしまっていた。

原作では深雪ちゃんからアクションを起こす度に、お兄様は苦笑して受け流していたはずなのにどうしてこうなったのか。

 

(…もしかして私がアクションを何かしら起こしていたら変わったんだろうか?)

 

そう思うと体がふるりと震えた。

例えば、ちょっと煽情的な恰好をしたり、過剰にお兄様に好き好きアピールしたり?そうしたら何か違っただろうか。

妹だから、家族だから距離感が狂ったのだとしたら――。

深雪ちゃんは異性と認識させることで、触れ合いを遠ざけることに結果的に繋がっていたんじゃないだろうか…?

気になったので顔を上げてお兄様と視線を合わせて質問してみた。

 

「…お兄様、たとえば、の話なのですが」

「なんだい?」

「私が…小野先生のような恰好をしていたらどうします?」

 

流石にお兄様に「煽情的な」やら「肌を見せるような」だとか「絶対領域が」等の言葉は言えなかったので、女性的な肢体を武器にもしている小野先生を例えにさせてもらった。

彼女の姿は正にお色気漂わせる恰好ですから伝わるかな、と。

だけれど…やっぱり不審だった?じっとこちらを見られてますね。

 

「……なぜ?」

「え?」

「なぜ深雪がそんな恰好をする必要がある?」

 

お兄様を誘惑するためですね、とは言えない。

っていうか今更だけどお兄様を誘惑しようとする妹ってすごいね。

もし万が一にも成功したらどうするつもりだったのだろう。

深雪ちゃん、お兄様のことだから絶対成功しないってわかっててやってたよね。

反対にお兄様からのアクションには動揺しまくってたし。

 

「ん~、お兄様を困らせる、ためでしょうか」

「…俺に見せるために?深雪がああいった恰好をするのか?」

 

ああ、外に着ていくと思われてたのか。脈絡のない質問でしたからね。

 

「そうですね」

 

肯定するとお兄様は目を細め思案顔。

そんな長考すること?と思ったけど、妹が困らせるために過激な恰好したらどうする?なんて質問どう答えていいかわからないものね。長考もするよ。

 

「…とりあえず上着を羽織っていたら着せるかな」

 

紳士だね。見なかった振りや自然体を装うとかじゃないんだ。

 

「兄として忠告もするだろう」

 

原作よりもお兄様度が高い!

私も深雪ちゃんの基礎能力より上がっているけれど、お兄様の兄力も上がっていたのですね!

一緒にレベルが上がっているようで嬉しいです。

でもそれが兄妹べたべたに繋がっているのだとしたら大問題。

 

「なら、私が意識してもらいたくて、自分のことを刷り込むようにお兄様をお慕いしていたらどう思います?」

「………すまない、意味が理解できない」

 

お兄様を更に困惑させてしまった。

単に原作の深雪ちゃんのような行動を取ったらお兄様がどう思うか聞きたかったのだけど、説明難しい。

 

「『深雪はお兄様を敬愛しております』」

 

とりあえず、深雪ちゃんのセリフを深雪ちゃんに成りきって、お兄様の胸に両手を添えて、熱い視線を向けてみる。

するとお兄様は困惑顔から一転、すっと、表情が抜け落ちた。

…その反応は想定外です。

 

「深雪」

 

掴まれたままだった肩に添えられた手が、逃がさないとばかりに力が込められる。

同時に視線も鋭くなった気がしますね。

 

「遊び半分で兄を揶揄うのは感心しないよ」

「…申し訳ございません」

 

お声もちょっぴし低めです。

揶揄ったつもりは無く、純粋に深雪ちゃん相手にどう反応するかが気になっただけだったのだけど、お兄様の気分を害することになるとは思わなかった。

しゅん、として謝ると、お兄様はそのまま腕の中に倒すように私を抱き寄せた。

 

「俺は面白みのない人間だから、冗談を冗談として受け取れなくなる」

 

当てられた耳から聞こえる胸の鼓動が少し早い気がした。これ、お兄様の音だよね…お兄様が動揺している?

 

(すごい…流石本家深雪ちゃんのお言葉…。お兄様に表面上動揺するような変化なかったけど深雪ちゃんの猛攻ってちゃんとお兄様に届いてた。効いてたんだ)

 

でも冗談として受け取れないって、お兄様を敬愛しているって言葉を真に受けたところでどうなるというのか。

 

「お前にあんな視線を向けられたら、兄であろうとも勘違いしてしまいそうになる」

 

あ、熱視線の方が問題でした。

まあそうね。深雪ちゃんは勘違い、というか気づいてもらうために隠しもしなかったから、私もそのつもりで見つめてしまっていた。

妹に向けられるはずのない感情を向けられたら、いくらお兄様でも戸惑うんだね。

だけど結局話を聞いてみても――もし深雪ちゃん張りにアクションを起こそうとして、お兄様から避けられるってことになるのかはちょっと微妙?

避けられるというか、ひたすら注意される残念な妹扱い⁇

とりあえずお兄様は気苦労が絶えなさそうなので、その路線は無しでよかった気がします。

 

「揶揄ったつもりは無かったのですが、申し訳ございません。ただ急に、私が違うアクションを起こしていたらお兄様がどうなるのか気になって」

「よくわからないが、…それは水波が来たからか?」

「そうではありません」

 

水波ちゃんが来たからといって、別段変わった変化を求めたわけではない。

生活は今までとは変わるだろうけど、ここに引っ越してきた当初のような距離感に戻そうと思ったくらいか。

以前は急に離れようとしてお兄様を不安にさせてしまったけれど、水波ちゃんという間に入ってくれる子がいれば自ずと変化するのはおかしくない流れ。

それに新学期ともなればまた生活スタイルに変化をもたらす切っ掛けにもなるだろう。

 

「ただ、そういう未来もあり得たなと思ったのです。私がお兄様の都合も考えず、心赴くままにお兄様をお慕いしていたらきっとそうなっていたでしょうから」

 

そう。それは一つの未来の形。

本来あっただろう、関係性。

深雪ちゃんは環境のせいもあり、心が成長しきれていなかった。

お兄様が好きすぎて、お兄様の為にと頑張るあまりに周りを見る余裕がなく。

お兄様を好きという一心で突き進んでいたから、肝心のお兄様が困っていても、ごめんなさいと思う反面、反応してくれることに喜びを感じてしまっていた。

それはある種好きな子を困らせて喜んでしまう、自分勝手な愛し方。

相手を試して、こちらを好きでいてくれるか幼子が親を試すような、そんな愛。

――ずっと、不安だったのだ、深雪ちゃんは。

自信が無かった。お兄様に愛し続けてもらえるかどうかが。

いくらお兄様の唯一残された感情だと知っていても、いつか離れなければならないと――四葉家次期当主として誰かと結婚しなければならず、愛する兄と一生添い遂げることができないことが彼女を追い詰めた。

お兄様を異性として愛していたからこそ苦しんだ。

深雪ちゃんとの差はそこだ。私はお兄様が好きという一心で進んできたわけじゃない。

お兄様が好きだから、幸せにしてあげたいという一心でここまで突き進んできた。

この二つには大きな隔たりがある。

 

――だからこそ、道は分かたれたのだ。

 

 

「お兄様は我侭になれ、とおっしゃってくださいますけれど、私が言われるままに我侭になってしまったら、お兄様はきっと私を重荷に思ったことでしょう」

「そんなことはない。俺がお前を重荷になんて、思うはずがない」

 

すかさず否定するお兄様。

そうだね、きっとお兄様にはそれを感じられない。原作のように妹の可愛い我侭と受け入れてしまうのだ。

 

「ええ。お兄様なら自覚しないで過ごしてしまう。…私だけが残された感情だからこそ、比べようがないのです」

 

重さっていうのは他を知らなければ比べることなどできない。

お兄様に残された感情が私だけだった頃なら余計、気付けるわけがない。

高校に通って、周囲に感化されて初めてお兄様は戸惑いを覚え、困惑し、ただ受け入れるだけでなく妹に対しどうしてあげるべきかと悩むことになる。

二人だけの世界では済まされないことをお兄様の方が気付いて、妹の最善を考えるようになる。

妹のアンバランスに気づいて、支えてあげようとするのだ。

それが兄の務めであると、そう考えるから。

普通なら人一人分の人生を背負うなんて重荷のはずだ。だけど、お兄様にはこの生き方しか知らない。

この愛しか知らない。

ぎゅっと、責めるように抱きしめる力が強くなる。

違うと、否定する気持ちを込めているのかもしれない。

 

「お兄様、これは架空のお話、初めに言った通り例え話です。あったかもしれない物語(じんせい)であって、すでに閉ざされた道なのですよ」

 

お兄様にとってどちらが幸せかなんて、まだわからないけれど。

この先私が選んだ道に何が待ち受けているかなんてわからないけれど――もう、その道に戻ることはできない。

 

「おかしな質問をして申し訳ございませんでした」

「…いや、俺もきちんと答えてあげられなくてすまなかった」

 

お兄様は真面目だね。例え話にもこんな真剣に考えてしまうなんて。

無駄に悩ませてしまって本当に申し訳ない。

 

「いつもと違う恰好などしなくともお兄様を困らせてしまいましたね」

「…お前なら着こなせるだろうが、いくら俺でも理性には限界があるんだ。危ない目に遭いたくなかったら、その手の恰好をしてくれるなよ」

 

……お兄様の目が冗談を言っているように見えないのはなんででしょうね。

 

「気を付けます」

 

まずどのあたりからお兄様的危険域なのか見極めないと。

そんなことを思っていたらお兄様の腕の力が弱まって体を解放された。…ああ、水波ちゃんが来たのね。

 

 

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