妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
水波ちゃんにお茶を淹れてもらっている間。
「生徒会の方は順調かい?」
「…そうですね、さっそくトラブルになりそうな予感をさせる新入生の名がありました。単体ではそうでもないのでしょうが、水と油のような」
ええ、ついにきますよ、ダブルセブンが。
厄介の香りしかしませんね。七草先輩と十文字先輩が一年生の時ってどうだったんだろう?
あの学年も面子が濃かったけど。
二人とも十師族だったから問題なかったとか?特に仲の悪い二家でもない。
実力のある彼らが上手くリーダーシップを取っていたら、数字に関わる家同士のトラブルなんてそう無かったのかもしれない。
魔法師界は貴族社会じゃないけれど序列のある世界だから。
今回来る新入生はその中でも因縁ある家同士。
原作を知っているからごたごたが起こることはわかっている。
野心を表立たせるのが悪いとは言わないけれど、もう少しその…上手くやれないものかしらね。
高校生ってこんな感じでしたっけ。
周囲の子たちがいい子過ぎてちょっとよくわからない。
まず七宝君は皆のリーダーになりたかったのなら、せめて写真写りもう少しよくした方がよかったんじゃないかな。
まだ会ってないけど写真を見る限り、すでにギラギラでした。
お兄様は風紀委員でもなければ生徒会役員でもない。
原作ではなし崩しに副会長させられてましたけどね。
現在は去年の雫ちゃんのように手伝いをしてくれたりするけれど、正式な役員ではない。
今後、魔工科からの生徒会役員として入ってもらうかという案が出ているが、今のところは保留扱いになっている。
普通ここまでたった一人の生徒が優遇されていれば不満を抱かれそうなものだが、もう一度言うがお兄様は学校の英雄扱いだ。
なんでも、私の傍に居るのがデフォルトだろう、とのことでお兄様の生徒会参入は賛成の意見ばかりで不満の声も上がらないらしい。
小説の影響を受け過ぎでは?去年の生徒会選挙の騒動は何だったのか。
ああ、小説と言えば、なんと新人のデビュー作としては異例の増刷となったらしい。売れているようでなにより。売れなかったら文句が来そうで怖かったので安心しました。
「七草と、七宝。聞いた話ではかなり確執があるようですね」
「一方的だがな。七草は気にも留めていないだろう」
十師族とその予備。この差はあまりにも大きい。
学校社会は実力メインで見られるとはいえ、実力差がそこまでないからこそ彼にとって余計にあおられる結果になるのだろうけれども。
七宝家当主は虎視眈々とその座を狙っている表向き争いを好まないタイプのようだけど、息子はプライドが高いようだからね。水面下で力を蓄えて、というのは性に合わなそう。
ちなみにこの情報は学校で得たものではない。
今十師族関連で動きがありそうな家だからね。
日本国内の情勢も知っておかないと、いざという時困るかもしれないから。
帝王学の中級編です。
魔法師もめんどくさい柵多いからね。ある程度は把握するようにしています。
お兄様はどこ情報だろうね。藤林さん辺りの世間話かな。彼女も世話焼きさんだから。
「お兄様は生徒会役員になられるのですか?」
「水波は生徒会役員にならないだろうからな。今後のことも考えると、役員という立場でいた方が有利なことも出てくるはずだ」
このまま生徒会に入らないで自分の為に時間を使っていただいてもよかったのだけど、お兄様の意志は固かった。
まあ、生徒会に入るとCADが携帯可能になることと、権限が手に入りますからね。
「…申し訳ありません。私のせいでお兄様の大事なお時間を」
「俺としてはお前といる時間が増えることは良いことでしかないのだから気にしなくていい。学校ではなかなか一緒にいる機会も無いからな」
そうだね。それなのにどうしてあんなに学校で二人セットに扱われるのだろうね。
お昼と登下校しか接点がないのに。
A.小説。
だよね。アレが誤解を助長させている。うん。知ってた。
影響力が高くてお昼の注目度が発売前と違うもの。なのに時々お兄様が突飛な言動をなさるから話が飛躍していくのだ。
皆、妄想力が逞しい。…いや、違うか。燃料投下によって萌えているってところか。
公式からの供給に勝るものなし。オタクはよく知っていますとも。
「達也様と深雪様が生徒会の活動の間、私はクラブ活動をして時間を調節しようかと思うのですが」
何もしないで帰宅時間を合わせるというのももったいない、と水波ちゃんも考えているみたい。時間は有限だからね。有効に使っていきましょう。
お茶を私たちの前に置きながら提案する水波ちゃんに、私たちも頷いて肯定した。
「いいわね。文化部も運動部もいろんな種類があるからじっくり選んで決めてみて。私も興味があったからどんな活動をするのか教えてくれると嬉しいわ」
「…参考までに、深雪様はどのような部活動をされたかったのですか?」
「そうねぇ、皆で青春できるようなことに憧れるわ。何か作品を一緒に作ったり、自分を鍛えるために運動してもいいかもしれないわね」
部活動で青春は学生の醍醐味よね。皆で何かを成しえた達成感はその瞬間でしか味わえない。
水波ちゃんもせっかく四葉を出られたのだから、そういう経験もいいと思う。
私は初めから生徒会に入ると思っていたのでクラブ活動がどういったものがあるのか調べもしなかったけど、エイミィちゃんみたいに特殊な部活動から壬生先輩みたいに馴染みの部活動まで幅が広いのは知っている。
水波ちゃんが原作通り西城くんと同じ山岳部と料理部に入るかはわからないけれど、好きなものを選んでくれたらいい。
学校にいる時くらいは自分のために時間を使ってほしい。
遠慮がちに一人掛けのソファに腰を下ろし、お茶を飲む水波ちゃん。
まだ慣れないようだけれど、何も言わずにこうしてお茶に付き合ってくれるようになったのは嬉しいね。
二人でお茶して水波ちゃんが立ってるって、使用人としては正しい在り方だと思うけど、私にとっては美少女とお茶した方が幸せなのでね。
主が喜ぶことをしてもらいます。主の特権です。
くらえ!職権乱用!
「クッキーがお茶請けだから濃い目に入れてくれたのね。ありがとう」
「深雪様の焼かれたクッキーがバターの風味が強いようでしたので」
いい組み合わせ。お兄様も感心しております。
だいぶこの生活に馴染んできたみたいで嬉しい。
こんな時間がずっと続けばいいのにと思わずにいられない、それほど幸せな時間。
だけど今日はこの後、パーティーという戦場に向かうことになる。
雫ちゃんのお祝いパーティーだから純粋にお祝いしたいのだけど、お金持ちの家ってそれだけで済むわけないからね。家族間でも腹の探り合いだから。嫌になっちゃう。
でも素敵な恰好の雫ちゃん達を見るためなら頑張っちゃう!
もちろんカッコ良くキメたお兄様もね!!
「先ほどの話に戻すけど、今度の総代はその七宝なのだろう?男子がなるのは四年ぶりになるのか?」
「五年ぶりだそうですよ。前評判では七草家のどちらかがなるものかと言われてましたけれども。入学前からすでに意識していて努力した結果ならば、彼は相当な努力家なのかもしれませんね」
というか、七草は元々一高に入ることは決まっていただろうから、狙って一高に来たということ。すごいね。ヤル気に満ちてる。
七宝もわかっていて息子を送り出しているということは実力は認めているんだろう。
送り出す前に性格矯正や、計画指南でもしておけばよかったのにね。
子供にそこまでの影響力は無いと踏んでいたのか、はたまた息子の荒療治で放り込んだか。
うん。どうでもいいかな。
「今の水波ちゃんなら、きっと総代を狙えたでしょうけど、下手に目立つのもよくないでしょうから」
「いえ…流石にそこまでは」
恐縮する水波ちゃんだけど、ここ最近の勉強の吸収率は目を見張るものがある。
今試験を受けたならもっと成績は上がっていたはずだ。魔法力も申し分ないから力をセーブしなければ一位を狙えたと思う。
「深雪がつきっきりで教えてたからな。水波も優秀な生徒だったみたいだし」
「それはもう。教えがいと褒めがいのある良い生徒でした」
教えることをドンドン吸収していってもらえるって嬉しいものだ。思わずお兄様に注意されるくらい撫で過ぎてしまった。
撫で過ぎ良くないってことでハグに変えたら途中勉強にならなくなったりと、邪魔をしてしまったりもした。
「深雪様の教え方が的確でしたので」
顔を赤らめてちびちびお茶を飲む水波ちゃん可愛いね。距離のせいですぐに撫でられないのが残念であります。
ほっこりしちゃうね。お茶も美味しい。
「恐らくですが、彼らの衝突は避けられないでしょうから、私たちの親戚として水波ちゃんが注目を浴びること自体は最小限に収まると思います」
「…だろうな。十八家の、しかも七宝と七草の因縁は根深いだろうからな」
正直、私としてはお兄様が絡まれなければ構わないのだけれど、彼は選民意識が強いみたいだからね。
お兄様にも原作通り食って掛かりそう。
早いうちに杭は打っとこうかな。
「深雪、何を考えている?」
あらま。表情に出してないつもりだけれど、お兄様気付いちゃいました?
「悪だくみを少々」
「……ほどほどにな」
ええ。その予定です。
私たちのやり取りを水波ちゃんが静かに見つめていた。
――
ドレスに着替え、メイクアップも水波ちゃんと一緒に意見を出し合い作り上げ、玄関で待つお兄様の元へ。
お兄様のスーツ姿は控えめな出で立ちで、一般家庭の範囲内で年相応な仕立てに見えるものだった。
それでも髪は整えられていて、いつもの雰囲気よりも大人な印象だ。
そのお兄様の視線がしっかりとこちらを捉え、口元を綻ばせる。
「ドレスを見た時は地味だと思ったが、深雪が着るとそれだけで輝いてしまうのか」
そんなことない、と言いたいところだけれど、水波ちゃんも頷いているように地味だったはずがシックなドレスに変わってしまった。
「綺麗だよ。いつもより落ち着いている分大人びて見えるな。お酒を勧められても絶対に手に取ってはいけないよ」
お兄様から伸ばされた手を掴んで引き寄せられて腰に手を添えられた。
流れるような動作に、果たして一般の高校生だと信じてもらえるか、お兄様の方こそ不安になる。
「お兄様こそ。目立たない恰好のつもりでしょうが、私の目にはお兄様しか映りません。素敵です」
「そうだといいが、今日は雫のパーティーだからな。きっとそちらに目移りするんだろう?」
お兄様が頬に手を添えてさっそく浮気の疑いを掛けられてしまった。
…確かに、雫ちゃんやほのかちゃんのドレス姿は大変興味があります。絶対綺麗だし可愛い。
「お兄様だけを見つめて、以前のように倒れたら困りますでしょう?」
「そういうことにしておいてあげよう」
お兄様は仕方ない、と笑ってから水波ちゃんへと顔を向けた。
「水波も良く似合っている。――深雪を地味にしようとした努力は凄いと思うぞ」
「ありがとうございます…力不足で申し訳ありません」
水波ちゃんは本気で悔しがっているけれど、多分プロでも深雪ちゃんを地味にするのは難しいと思うよ。
お兄様の言う通り大人しめのメイクができただけ上出来だと思う。
お兄様にエスコートされ、私たちは車に乗り込んだ。
さて、やって参りました三度目の雫ちゃんちの、初めてのホームパーティー。
すごーい。とっても煌びやかな空間です。皆の恰好も豪華です。
身内だけのパーティーなのよね?派手だね。世の中はこれをホームパーティーとは呼ばないと思うけれども。
私たちが入場すると、それだけでBGMがよく聞こえるようになった。
生演奏じゃなくてよかったね。生の場合止まることがあるから。
会場中の視線が集まる。それを気にしていない、目にも入らないという態度で主催者へ挨拶に。
雫ちゃんとそのご両親が揃っていたので一回で済むのはありがたい。
「本日はお招きに預かり――」
「身内のパーティーだ。もっと気楽にしてくれてかまわないよ。よく来てくれたね」
口上もすっ飛ばすことを許されるとは。
親しいことを周囲にアピールしてくださっているのだとわからぬ私たちではない。
雫ちゃんもその辺を理解しているのだろう。彼女の方からこちらに近づいて。
「深雪、今日はいつもと雰囲気が違うね。とても綺麗」
「ありがとう。雫も、とても可愛らしいわ。まるで花の妖精ね」
雫ちゃんのドレスは頭と胸に大きな花のコサージュが付いていた。ドレスもフリルが幾重にも広がっていて蕾が開いたよう。
つまり可愛い。
「深雪、今日は雫のパーティーなのだからあまり二人の世界を作るんじゃないよ」
は!うっかり。雫ちゃんの余りの可愛さに見蕩れてしまっていた。
主役を独り占めしてはいけないと注意が。お兄様、今日はガーディアンというよりお兄様してます。
「相変わらず仲が良いようだ。これからも雫のことをよろしく頼むよ、深雪嬢、達也君。それから――」
流石雫ちゃんのお父様。実にスマート。
水波ちゃんのことをお兄様が説明し、合わせて水波ちゃんが頭を下げる。
きちんと挨拶できたことに好感を持ってもらえたようで、ウェルカムな空気が流れた。…のだけれど。
お兄様が雫ちゃんのお母様、旧姓鳴瀬紅緒さんにロックオンされてしまった。
厄介な気配にお兄様が雫ちゃんにアイコンタクトをし、雫ちゃんが頷いた。
「こっち」
お兄様たちっていつの間にツーカーの仲に?ほのかちゃん嫉妬しない⁇
なんかほのかちゃんよりも雫ちゃんの方が仲良さげな気がするのだけれど。
「深雪!」
「ほのか。こんばんは。ほのかは大人っぽいわね。良く似合っているわ、素敵よ」
「み、深雪もすっごく綺麗!会場入ってきたのすぐにわかったよ。ざわめきが消えたもん」
皆の声泥棒です。楽しく歓談していた方ごめんなさいね。
ちらっとほのかちゃんの目が私の二歩後ろを捉えたのでほのかちゃんにもご紹介を。
水波ちゃんもペコっと頭を下げる。TPOをちゃんとわかって融通も利いちゃう、柔軟さを持っているいい子です。
「可愛い上にとってもいい子なのよ。よろしくね」
「み、深雪姉様!」
慌てる水波ちゃん、可愛いね。
「姉様呼びなんだ」
「ってことは達也さんは、」
「達也兄様と呼ばれているわね」
ほのかちゃん、そこが気になりましたか。
とりあえず適当に作り上げた幼少期エピソード的な設定を説明。
「…深雪も結構いたずらっ子」
「子供の時決めたあだ名ってずっと残るよね」
すんなり受け入れられてなにより。
私が兄さん呼びなのに、兄様姉様はちょっと目立つからね。
配られるドリンクを受け取りながらお兄様の方を見る。
お兄様の無表情に変化はないけれど、雫ちゃんのお母様は…ちょっと強気なレディですね。カッコイイ系のお姉様タイプ。
仕事できるウーマンで迫力があるけれど、お兄様をいじめないでくださいな。
ただでさえ女難の相のあるお兄様なんですから、これ以上厄介事を増やさないでほしい。
「…ほのか」
「え、何?」
私の呟きにほのかちゃんが反応する。
「今、多分だけど兄さんと雫のお母様がほのかの話をしているみたい」
「え、ええ!?」
「この距離じゃ聞こえないと思うけど」
「ああ、読唇術よ。ちょっとした特技なの」
よく狙われるから必須スキル、と言えば雫ちゃんが私も学ぼうかなって。
雫ちゃんも大企業の令嬢だものね。覚えておいて損はない。
「完全に読めるわけじゃないのだけど、雫のお母様、ほのかの想い人が兄さんだって知って問い詰められてるみた、い」
「いやあああああ!」
言葉の途中でほのかちゃんが耐えられなくてお兄様たちの元へ行ってしまった。
友達のお母さんに好きな人との恋の斡旋されると思ったら恥ずかしくもなるよね。
そのままその勢いでお兄様を追い詰めちゃう美魔女さんを何とかしてくださいな。
それが一番どこにも角を立てずにお兄様を救い出す方法です。
「…ごめんなさい、うちの母が」
「家族同然でほのかのことを大事に思っているということでしょう」
お兄様を凄いと言う割に娘を薦めない辺り、身内カウントしていてもかなり差があるようだけども。
美女は裏がなきゃいけないという決まりでもあるのかしらね。それが若さを保つ秘訣とか?
あ、ほのかちゃんがお兄様を連れてこちらに向かっている。
真っ赤になっちゃって、可哀想に涙も浮かんでるね。
そして――、うん、雫ちゃんのお母様は消化不良みたいだけど、お兄様を不快にさせる話なんて無くなっていい。
相手を探ろうと話題を持って行くために娘と同様可愛がっている子を餌にするのはちょっとどうかな、と思わなくもないわけでお邪魔させてもらいました。
おっと、旦那様が慰めにいきましたね。ここの夫婦は仲がいい。
戻ってきたほのかちゃんはまだ落ち着かないのか、お兄様の手を掴んだまま真っ赤で涙目。混乱中だね。
「ほのか、大丈夫…じゃないね」
「私がもう少し早く気付ければよかったのだけど、ごめんなさいね」
「深雪が謝ることじゃないよ。これは母が悪い。ほのかも、そして達也さんもごめんなさい」
雫ちゃんのお母様見てますか?貴女の尻拭いに娘が頭を下げてます。雫ちゃんこそ謝ることないのに。
雫ちゃんがほのかちゃんに向けて腕を広げ、その中にほのかちゃんが飛び込みます。
ドレスが皺になっちゃうけどしょうがない。アレは心が耐えられない。
「兄さん、お疲れ様」
「俺は何ともなかったけれど、…ほのかは可哀想だったな」
本当にね。
お兄様が私の横に立つことでいくつか鋭い視線が飛んできたけれど、兄さん、と話しかけたことで和らいだ。
それからみんなでほのかちゃんを慰め、落ち着いた頃に彼はやってきた。
「あの、」
小さな紳士の掛け声に、先に私が振り向くと、一瞬目が合ったのに反発するように逸らされた。どこかで見た反応ですね。
だけど少年は目的を見失うことなくもう一度果敢に声を掛けた。
「あの、司波達也さんですよね」
今度こそお兄様が振り返る。お兄様も初めに気付いていただろうに、自分に向けられたものだとどうにも流す傾向にある。
良くないですよ。好意的な視線だとわかっていたでしょうに。
肯定したところで雫ちゃんが名前を呼んだ。
「航」
「姉さん、ゴメン、邪魔だった?」
「ううん、でも、ちゃんとご挨拶して」
わあ!雫ちゃんがお姉ちゃんしてる!口調こそ嗜めるようだけれどその目はとても優しい。
可愛がっているのがよくわかる。雫ちゃんちは本当に理想の家族像というか、仲が良い。
少年改め雫ちゃんの弟、航君は背筋をピンと伸ばして折り目正しく一礼した。
「初めまして、北山航です。今年小学六年生になります」
きちんとご挨拶できました。
偉いね、褒めてあげたいけれど人様の弟を勝手に撫でちゃいけないわよね。疼く手を握ることで押しとどめる。
お兄様に続いて私も自己紹介するのだけれど、うーん、視線がずれてるね。お姉さんは悲しい。
でもしょうがないね。初対面で緊張させるのも私の特技です。
大丈夫、耳が赤いのわかっているから。微笑ましい。
お兄様もちょっと苦笑気味。水波ちゃんはむっとしている。
主が蔑ろにされたからってことみたいだけど、お手柔らかにね。
少しとげのある自己紹介を披露されたことに航君は、幼いながらも空気を読み取ったらしく動揺し、すかさずほのかちゃんがフォローに入る。
私も水波ちゃんの手を取って微笑む。
私のために怒ってくれてありがとう、と囁けば水波ちゃんはやり過ぎに気付いたのか少し頬を赤らめて恐縮してしまった。
航君のお兄様に対しての問いかけは雫ちゃん達を驚かせる内容で、曰く、魔法が使えなくても魔工技師になれるか、ということだった。
瞬時に意図を読み取ったお兄様は丁寧に魔工技師とは何か、という説明から魔法が使えなくても魔法工学を学べ、CADを作ることはできると可能性まで提示した。
雫ちゃんのために何かしたい、という弟心を汲んだのだ。
(お兄様、優しい!そういうところホント好き!!)
周囲が身内しかいないこともあって淑女の仮面を外してお兄様を見つめる。
視線に気づいたお兄様は少し照れたように微笑まれて、更ににっこりしてしまった。
水波ちゃんが少し前に出る。…あ、人影で隠してくれたのね。雫ちゃん達も同様に動いてくれていた。
「深雪、私たち以外に見せるのは危険」
「…つい、嬉しくて。ごめんなさい」
雫ちゃんの傍には航君が隠れてしまっていた。直視してしまったらしい。
普通に見るのでも精いっぱいだったのに全力の笑顔は危険物だったね。反省します。
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