妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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ダブルセブン編⑤

 

 

周囲も騒音が戻ってきたようで安心したところで、雫ちゃんの留学話や、三日後に控える入学式のこと、航君の学校生活について話していたら、雫ちゃんに声がかかった。

今日の主賓だから挨拶をされるのは当然だけれど、それにしてもちょっと馴れ馴れしい声色だ。

まあ、身内なのだからそれくらい親し気でもいいのだろうけれどね。

二十代男性、体格は標準より細身だろうか。いかにもお坊ちゃんです、という一流のものを身に付け慣れている青年だった。

顔も悪くないのだろうけれど、なんというか印象が薄い?記憶に留めるには個性のない顔立ちだった。

むしろその半歩後ろの女性の方が気になりますね。

オーラを隠しているようだけれどにじみ出てしまっているものはしまえない、という大人の魅力あふれる素敵な女性です。

お坊ちゃんのアクセサリーとしてなら十分だろうけど、彼女の全てを手に入れられると思っているなら確実に貴方では手に負えないタイプの女性だね。

すぐに返却することをお勧めします。

 

「あ、俺さ、年内に結婚するんだよ。彼女と」

 

浮かれながら紹介された雫ちゃんと航君の冷静な表情を見てください。

続く、まだエンゲージリングを受け取ってもらえていない発言に表情を変えなかったのは凄いけど、後ろのほのかちゃんは、アレは内心うわぁ、って思っているね。ちょっとお顔が引きつってる。

受け取ってもらえてない時点であかんってわかるもんね。

水波ちゃんは興味なし、と様子だけ窺っている模様。

芸能面には疎い感じ?私も詳しくないけどね。彼女のことは一応チェックはした。

チェックと言ってもちらっと見ただけで動向の調査等はさせてない。する理由がなかったのもあるけれど、単純に彼女のことはどうでもよかったから。

そこまで引っ掻き回すほどでもないし、動きとしては魔法師にとって悪くない動きだったのでいいかなって。

お兄様が彼女に気付き、彼女もその視線に促されるようにお兄様を見つめる。

ほんのわずかな時間、絡み合う視線。

流れとしてはおかしくないけれど、その視線は秋波とまではいかないが意味ありげな視線に見える。

 

(…お兄様を利用しようっていうのは気にすべき理由だったかな)

 

流れを知っていても若干面白くない。

目の前ではその女性が卒なく雫ちゃんに自己紹介する姿が。

だけど詳しく素性を語らずともわかるでしょう?という堂々とした態度には自信が見て取れた。

雫ちゃんとほのかちゃんの様子を見てわかったのだろうけれど。

ほのかちゃんが自己紹介の後少しテンション高く声を掛けていた。

彼女の主演映画を絶賛している。話題になっていたことは知っているけれど、映画は見ていなかった。これがあの、というくらい。…普通の女子高生らしくするならチェックしておくべきだったかな。

でもああいった映画よりコメディやほのぼのしたモノの方が好きなので、超大作系にあまり興味がない。

付き合いでもなければ見ないだろうな、とどうでもいいことを思っていると、彼女の視線がこちらに向いた。

もし違っていたら、なんて不安に揺れた目を向けて言う様は、嘘の無いように見えるけれど、逆にそれが嘘だと確信させた。

自慢じゃないが深雪ちゃんの容姿は抜群にいい。自慢じゃないと言ったのは純然たる事実だから誇ることではないのだ。

当然、自然の摂理。神が創り給うた傑作だから。美しくあれと生み出されたものだから。

よって記憶違いなど起こらない。起こりようもない唯一無二の絶対的美少女。わざわざ違っていたら、等の前置きなどいらないのだ。

しかも、

 

「司波深雪さんと司波達也君ではありませんか?」

 

なんて。有名人の自分が貴方たちを知っていますアピールをしたら舞い上がるのではないかと計算されていたのかと思うと一層面白くない。

警戒心しか上がらないよ。

お兄様が一歩前に出て庇うように立った。

さりげなくない、目に見えてのけん制である。水波ちゃんも私の半歩後ろに控えた。

 

「そうですが、失礼ながら以前お目にかかったことが?」

 

ミーハーな反応を示さないことに肩透かしを食らったはずだがおくびにも出さずに九校戦を見た、と説明した。

だとしても、私に注目するのはわかるが、いくら雫ちゃんが好きだというモノリスコードでも、魔法師でもない人がお兄様の名前を覚えるほど見るかと言われると、それほど印象には残らないはずだ。あの戦いは異質ではあったが魔法を知らない人間が見たら地味でしかなかったはずだから。

むしろ一条くんばかりに目が行くのではないかな。彼は使う魔法もさることながら本人の容姿も派手だからね。

更に、顔を近づけてわざわざとても絵になる二人だったから、なんて付け加えられればお兄様がさらに目を鋭くさせた。

彼女は中継を見たと言った。それなのに私たちがまるで二人並んでいるところを見たような発言。絵になる発言もよろしくない。

お兄様の容姿は飛び切り目立つわけではない。…もちろん私にとっては別だけどね。

一般的にお兄様自身も目立たないようにしていることもあって、彼女の発言は解せないものでもあった。

 

「そうですか。妹はともかく、私の方はそれほど絵になるとは思えませんが」

 

おお。お兄様の一人称が私!滅多に聞けるものじゃないのでこの点は彼女を評価してもいい。

つまりそれ以外はマイナス評価なのだけど。

 

「ご謙遜ね、お二人に華があることは、私だけの意見ではありませんのよ?私のお友達も皆、同じ意見でした」

 

そう言って並べられた監督たちや共演者の名前にここまで無反応だとは思わなかっただろうね。

名だたる人たちだと言っても興味ない人には全く響かないものです。

ほのかちゃんはとても興奮していたけれどね。お兄様が有名な人の目に留まって嬉しいですか。

でもお兄様は目立つことを嫌うので…というか立場上よろしくないのでどんどん気分が降下している。

関わりたくない、とその背が語っていた。

女優というのは場の空気も読めるものだと思っていたけれど、自分の空気に塗り替えられる自信でもあったのかな。

来週末のサロンに誘われたけれど、芸能人だからと誰も彼も誘いに乗ると思わない方が良い。

お兄様がすっぱり断り、矛先が私へ。

 

「では、妹さん…深雪さんだけでもいかがですか?」

「申し訳ありません。ご迷惑をかけるわけにはまいりませんので私も辞退させていただきます」

「迷惑?それはどういう…?」

 

ちょっとね、私たちを利用する気でいるというのなら反撃してもいいかな、と思いまして。

 

「女優でいらっしゃる方の前で言うのも烏滸がましいのですが、私もこの容姿なので目立たない移動というのができません。その、サロンというものがどういうものかは存じ上げませんが、その場を一般の方に知られるのもよろしくないのではありませんか?警備体制が整えられているとしても、あまりよろしくないことだと推測します」

 

要約すれば、深雪ちゃんの容姿の注目度半端ないよ?秘密のサロンの場所バレたくないでしょう、という脅しである。

 

「…送迎はもちろんつけさせていただきますわ」

 

あら、粘りますわねぇ。目元が若干震えたの誤魔化せませんわよ、ほほほ。

容姿に自信のある人に深雪ちゃんの美貌は毒にもなるからね。雫ちゃんのお母様が、私が近寄ると少し離れるのが良い例だと思います。

だからあえて私もこっそりと顔を寄せて、物憂い気に。

 

「監視するような目がありまして。しかるべきところに動いてもらっているのです」

 

嘘は言ってない。

監視の目はいつでもどこでもあるのでね。

お兄様の見守る視線に、四葉の定期的に管理する視線、常にあるわけではないが軍からも監督する視線が、その他もろもろの視線も。

もちろんそれらは私一人に向けられるものだけではない。

あとたまにある七草のはもう少し自然に溶け込むべきだと思いますけどね。

だけど、監視という言い方こそしてみたが、私が悲しそうに「見られているんです」、なんて言えば普通ストーカーなどを連想するよね。

ましてや彼女は売れっ子女優だ。迷惑を掛けられてないなんてことは無いだろう。

しかるべきところに動いてもらっている、は別に警察だとは言ってない。

監視している組織はそれぞれの組織の仕事をするため動いているのだから嘘ではない。

ただまあ、勘違いはするよね。

 

「それに先ほどおっしゃっていただきましたでしょう?九校戦で目立っていたと。それはすなわち魔法師として知名度を上げたことになりますので、少しの外出が事件に発展しないとも限らないのです」

 

お兄様がいる限りそんなことにはならないけどね。

誘拐を臭わせると今度こそ彼女の表情は強張った。

申し訳ない。美しいだけでなく才能も溢れているものでして。各所から狙われ放題なのですよ。

お誘いいただいたのに申し訳ありません、と謝罪してお兄様共々下がる。

彼女は引き留めることは無かったけれどちらりとグラスに映った背後の彼女の形相は、女優さんとしてあまり人に見せない方が良いのではという類のものだった。

水波ちゃんが視線を向けたら消えたけどね。うっかりしすぎでは?それともわざと⁇…それは無いか。

美味しい食事を頂きながら、今度これを作ってみようかしらと水波ちゃんと話し、シェフを呼ぼうかという雫ちゃんを止めて、ほのかちゃんが慌てて話を変えたりしながら楽しい時間を過ごした。

 

 

――

 

 

「深雪は、彼女が苦手なのかい?」

 

帰宅して、お兄様が開口一番に問うたのは女優さんのことについてだった。

 

「苦手、ですか?いいえ。特にそのようなことを思った覚えはありませんが、…ただ、そうですね。彼女は人を利用することを当然のようにする方だな、と思ったので近寄りたくないと避けたかもしれません」

「魔法も使えない人間が俺たちをどう利用するつもりだったのか」

「彼女自身誰かに利用されているのか、誰かと協力しているのか定かではありませんが、――残念ながら雫の従兄の結婚はなさそうですね」

 

そう考えると女優さんってすごいね。

踏み台にしても北方グループから睨まれることなく良好のまま別れられる自信があるって相当度胸があることだと思う。

婚約を勘違いさせるって普通なら不興を買っておかしくない話題だと思うんだけどね。

 

「警戒するに越したことはないか」

 

お兄様に警戒対象にされてしまいましたね。

…まあ、初めから女優さんとお兄様の掛け算が成立するわけがないのでそういう意味でも彼女には興味がなかったのですけど。

彼女とお兄様では舞台が違いすぎますからね。

 

「深雪が彼女を気に入らなくてよかった」

「…そこまで無節操に綺麗なモノを愛でたりはしていませんよ」

 

どうやらお兄様としては美女に靡かなかった私に違和感があったらしい。

確かに綺麗でしたけどね。好みかと言われるとまた別。お兄様には違いが判らないみたい。

 

「俺には深雪という唯一の美があるから他に目が行くということ自体がわからない」

 

……左様でございますか。

 

「お前が俺に微笑んでくれた時には、目立たないようにと考えていたにもかかわらず抱きしめそうになってしまった。あまり誘惑しないでくれ」

 

そう言いながらふんわりと抱きしめられた。

お兄様、水波ちゃんがいますよ。…と見たら水波ちゃんは顔を背けて見ないふり。

 

「…お疲れですか、お兄様」

「ああ、そうだね。癒してくれるかい?」

「ではまずドレスを着替えてきませんと。これでは存分に抱き返せませんでしょう?」

「悪いがそこは魔法で何とかしてくれ」

 

あら、お兄様ったら強引。

…なんて余裕あるように呟いてみたけど内心大変な大騒ぎ中です。

お兄様が私の都合を無視して抱きしめるなんて!相当お疲れなの?

もしや雫ちゃんのお母様との一対一は思った以上のストレスだった!?

そっと背に手を回してみると、お兄様はさらに強く抱きしめた。ああ、これは確実に皺になる。

 

「こんなに美しい深雪を抱きしめられるなんて、俺は幸せ者だな」

「それでしたら、大好きなお兄様に大事にしていただいている私も、幸せ者の妹です」

 

しばらく抱き合ったのち、二人の服の皺を直して解散となった。

水波ちゃんは気を悪くしたかな、と心配になったけれど特に変化はない。

悪く思われてはいないようだ、と私は思っていたのだけれど、どうやら後でお兄様個人に注意したらしい。

お兄様も苦笑して話してくれたので悪く思ってないみたいだけど、たった二週間で懐かれたな、とは何故に?

 

「お前を困らせるなと忠告された。リーナ同様、庇護欲を刺激されたのかもな」

 

…リーナちゃんの時も思ったけど、私そんなにか弱く思われてるのかな。今度会ったら是非訊いてみよう。

 

 

――

 

 

新学期が始まり登校初日。通学中、皆他に見るものがないのかというほど視線を感じる。

今や学校では知らない者はいないというほど有名人になってしまったから注目を浴びるのもわからないでもないけれど、その視線が何か期待されているような気がするというのはあながち勘違いじゃないと思う。

お兄様だってその視線の意味に気付いてないわけは無いと思うのに。

 

「、兄さん!」

「久しぶりに人の多い登校だからね」

 

人が多いからぶつからないように、と腰を引き寄せるように腕を回された途端、近所迷惑じゃないかなというほど大きなBGMが。

皆久しぶり過ぎて反応がおかしくなっている。

 

「…サービス精神が旺盛ね」

「俺はしたいからするだけだ」

 

…水波ちゃんが来てからはほとんどこういった絡みはしてなかったのに。

久し振りに人の多い登校だからなのか。

 

「新入生が見たら誤解されてしまうんじゃないかしら」

「誤解されて困ることもないだろう。いい虫除けになる」

 

虫除けとは…。今日はまだ入学式前。

皆私たちが兄妹であると知っている生徒がほとんでしょうに、その必要ありましたか?

 

「もう、兄さんったら。兄さんの出会いだって減ってしまうかもしれないのよ?」

「それこそどうでもいいね。お前がいてくれれば、それで十分だ」

 

あれー?お兄様ストレス酷かったっけ?ちょっとねじが緩んでいますね。

怖くなってきた。あの日の再来かな。

これからもっとストレスがかかるのだけど…どうしよう。

その時、ぴりっと視線が。

お兄様はすでに気付いていて視線の送り先――七宝君に向けていた。

お兄様が対応するなら私は目を向けることもない。すぐに視線は切れて感じなくなった。

背後から駆け寄ってきてオハヨ~と元気に挨拶してくれたエリカににこやかに返しながら、続いて美月ちゃん、西城くん吉田くんにほのかちゃんと雫ちゃんが合流。

去年以来の全員揃っての登下校だ。

 

「雫、おはよう」

「ん、おはよう、深雪」

「また一緒に登校できて嬉しい」

「私も」

「ほーらほら。すぐ二人の世界作んないの!」

 

エリカちゃんに注意されて私たちは繋いだ手を離した。

いやあ、気づいたら手を繋いでたよね。だって久しぶりの制服姿の雫ちゃんです。

1クールは長いよ!アニメ12話分だよ?!

雫ちゃんもいつもより表情が柔らかい。やっぱり皆で登校できるっていいよね。

お兄様と吉田くんが互いの制服について会話を交わしていた。

吉田くんは一科生の制服に、お兄様は歯車のエンブレムに。

吉田くんは嬉しそうにはにかむけれどお兄様は別段、変わりない感じ。

美月ちゃんみたいに喜んだっていいのに、なんて西城くんたちに揶揄われていた。

うんうん、素敵な登校風景。嬉しくなっちゃう。

 

「深雪、また表情が緩んでる」

「ふふ、だって嬉しいんだもの」

「そう」

 

幸せだなぁ。

ほぼ満開の桜を背景に、お兄様たちの登校姿を目に焼き付けた。

 

 

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