妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
帰りのコミューターの中。
「よく我慢したね」
お兄様に撫でられてます。…膝の上で。
「…対立は何も解決しないですから」
それは嫌でも四葉で学んだ。
お兄様を見下す目を正面から叩き潰しても根っこを引っこ抜かない限りその芽はいくら摘んでも意味がない。
むしろ踏みつけられたことで根を強くして繁殖するのだ。
かといって何もしないのもただ蔓延らせるだけ。
だから私は遠くの方から除草剤を染込ませるようにしている。徐々に、徐々に生息域を狭めて一気に根絶やしにするために。
「いい子だ」
耳元でとてもいい声で囁かれて一気に顔が熱くなる。
ただでさえ水波ちゃんがきてから触れ合いが減った今、久しぶりの色男モードからの甘々攻撃に淑女の仮面の耐久性が下がっていた。つまり耐えられない。
羞恥で体が震えそうになるのを何とか堪えてお兄様に抗議する。
「お兄様。子供ではないのですから、このように褒められても恥ずかしいです」
「子供扱いしているつもりはないよ。お前を甘やかしたいからこうなっている」
いや、こうなっている、じゃないですよ。
「…お兄様の甘やかし方は、変です」
「そうかな」
「そうです」
「だめか?」
…久々のだめか、がきました。
どう考えても年頃の兄妹でこれはアウトだと思いますよ。
お兄様もわかっているからこそ人目のあるところではやらないのでしょうに。人前でやられたとしたら私は死ぬ。恥ずか死ぬ。
「…だめ、です」
「だめか?」
あ、これ『いいえ』を選択してもずっと聞き直されるヤツ。絶対引き下がらないヤツ。
「…もう、お兄様ったら」
この言葉はお兄様の翻訳によって都合よく了承と捉えられて、家に着くまでご機嫌なお兄様に撫でまわされ続けた。
真っ赤になって帰宅した私に、水波ちゃんは驚いて看病しようと慌てふためいたけど、原因がお兄様だと知ると、対物理防御のバリアまで張ってお兄様を引きはがした。
「深雪様、いくら兄君で在ろうとも拒絶すべきところは拒絶しないと、図に乗られて困るのは深雪様です!」
全く持ってその通りだと思います。
ぷりぷり怒る水波ちゃんに癒される心地です。
お兄様は笑っていい判断だ、と水波ちゃんを褒めているけど、どのお立場で⁇
本日の夕食は洋食でした。水波ちゃん和食が得意なのにね。でも苦手でもなくとっても美味しい。いつお嫁さんに行っても喜ばれるレベルです。まだ出さないけど。
「それにしても七宝のあの態度は妙だな」
「…お兄様も感じましたか」
「深雪の容姿に驚きはあったようだが見惚れないということは、おん、パートナーがいるか、なんらかの深雪の情報を前もって持っているかのようだったな」
今はっきりと女と言いかけましたね。
気を使われなくてもいいと思うけれど、こういう紳士な気遣い素敵だと思います。
「去年の総代として己との差を比べている、というわけでも無さそうでしたが、お兄様や私に対して見下すだけでなく敵愾心を持っているようでした」
「そうだな。彼は俺たちを警戒していた」
七草の回し者と思いこんでいるみたいだしね。
でも、彼は一体何を吹き込まれたのだろう?
あの女優さんから私たちが七草先輩と懇意にしていることを聞いたのだろうと予測はつく。事実生徒会役員は七草先輩と懇意にしていたからそう思われても不思議ではない。
だからこそ七草の息のかかったものとして警戒されていた。
原作通りであれば私はブラコンで、お兄様は学校の嫌われ者だからそこを突くと良い、みたいなアドバイスがあったけど、現実は違う。
現在我が一高にそのような事実はないのだから。
原作ほどの隙など今の私たちには無いと思うけれど、どうやって彼はこの一高を牛耳る為に攻略するつもりなんだろうか。
「彼の家は十八家の中でも十師族への執着が強い。今日の反応を見る限り、七草への対抗心も相当なものなのだろうな」
「七草の名を出した途端、冷静さを失いましたからね」
面白いくらい反応がありましたからねぇ。
意識しまくりだってことがよく分かりましたとも。
「私たちを七草一派と思い、けん制していたのかも知れませんよ」
「それなら生徒会全体をそう思うのではないか?特に中条先輩のことは彼女が教育してきたのだから」
「私たちより先に中条会長と会っているのですから、その際に違うな、と気づいたのかもしれません」
中条会長に会えば、彼女が敵対する存在でないことはすぐにわかるでしょうからね。
小動物的可愛さは攻撃対象になりません。
まさかとは思うけど、この間のパーティーの一件で気に食わなかったから槍玉に挙げてきたというわけではないよね?
それならほのかちゃんや雫ちゃんたちと仲が良いことも知っているはずだから、中立派として取り込んだ方が、なんてアドバイスしないと思うし。
…七草先輩がお兄様に懸想をしていることに気付いちゃったりとか?
確か九校戦ではちょっと噂になったんじゃなかったかな。
注目度が高い先輩の柔軟を手伝った男子、なんて気にならないわけないから。…いや、そんなところそもそもカメラに映ってないか。でも調べたのだとしたら噂くらい耳にしたかも?
四葉を感づかれたなんてことは絶対ありえないだろうし、何がどうして警戒対象に選ばれたのか。
「深雪の言った通りだ。七草と七宝が揃うと面倒なことになりそうだな」
「…水波ちゃん、巻き込まれないように気を付けてね。貴女はそのうちの誰かと必ず同じクラスメイトになるでしょうから」
それだけが心配。そう声を掛けると、気を付けます、と頷いた。
「仲良くなるのはいいと思うけれど、敵対することは無いからね」
「…ですが、七宝はすでにお二人に喧嘩を売られたご様子。従妹という立場なら面白く思わないとなってもおかしくないのではないでしょうか」
あらー。意外にもお怒りでした。むっすりとしてます、可愛い。
主人とその兄を見下されたわけだからね。気に入らないとなってもおかしくはないか。
まだ会ったこともないのに好感度が下がった模様。
「随分と名に拘っているようでしたから、私たちのような無名には関心が低くてもよさそうでしたのに」
「俺の場合は正にその対応だったが、深雪は昨年の総代でもあるわけだから実力がないとは思わなかったのだろう。九校戦の活躍も当然見ただろうからな」
「だったらお兄様を軽視するのはおかしくも思いますが」
お兄様の活躍だってあの有名な十師族の一条くんを破っての新人戦優勝だ。
一高の勝利に多大な貢献をしたのに。
「地味な接戦より余裕の優勝の方が目立つ。あの大会での一番の注目は間違いなくお前だったのだから」
…お兄様に自慢だと言わんばかりの表情を浮かべられてしまえば、水波ちゃんのがうつったように恐縮してしまうしかなかった。
照れる。恥ずかしいですお兄様…。
「照れるお前も可愛いね」
「…揶揄いになるのはよしてくださいませ。ご飯が進みません」
微笑まれたまま言われると、顔に熱が集まって更に縮こまるしかできない。逃げ場がない。
「揶揄ってなんていないよ。なあ水波」
「はい。深雪様、大変可愛らしいです」
「もう!水波ちゃんまで!」
水波ちゃんはお兄様からどういう教育を受けたのか、こういうことを言うようになってしまった。
何?ガーディアン教育って主を喜ばせることも仕事の内なの!?モチベーションをあげるためか何か⁇
やり過ぎはよくないと思います!何も手につかなくなっちゃう。
お兄様も水波ちゃんも微笑ましそうにこちらを見てくる。ううう…食べ辛い。
これ以上いじめるのは、と思ったのかお兄様がふっと笑ってから話題を戻した。
「真面目な話に戻すが、恐らく深雪がライバル視されるのは同じ総代であることだけでも気にかけるところに、七草との関係まで疑っているからだろうな。どちらかだけでも彼にとっては目の上のたん瘤になり得る」
そんなに総代なんて意識されてないのでは、と思っていたのだけどお兄様には違って見えたみたい。
特に明日は去年と比べられて嫌な思いをするんじゃないか、とまで付け加えられれば多少思い当たるところが無いわけでもなく。
だって、教職員の間からも聞こえてましたからね。今年は普通の総代、とかなんとか。
まるで私が普通じゃないみたいではないですか。まあ、筆記試験二位の総代なんて過去を遡っても限りなく少数でしたけどね。あ、そう言う意味じゃない?ちょっと呆けてみただけじゃないですか。
確かに昨年は深雪ちゃんの威光が輝いてましたからね。
七宝君もカッコいいと思うけど、女子と男子とでは盛り上がりが違うから。比べられて嫌な思いはするか。
その上七草との関係があると思われたら、彼にとって私という存在はより一層面白くないものに感じるのかもしれない。
「…流石に四葉を疑われるということはなさそうですよね」
更に四葉疑惑なんて乗っかったら厄介事の気配しかしない。
だがお兄様はしばし考えて首を振る。
「七宝家に四葉の情報統制を突破する力があるとは思えないが…。もしそうなのだとしたら、対面であのような態度で済むとは思えないな。彼は自己顕示欲が強いから、恐らく堂々と脅しをかけてくるんじゃないか。自分は弱みを握っているぞ、と」
「…想像ができてしまいますね」
なんとも子供染みた方法だけれど、彼にはそれが似合っている気がした。
なんというか、小物臭がするというか。
「悪役ムーヴでは負けそうにないですね」
あっちは四天王でも最弱、みたいな。
いや、違うか。四天王になる直前の中ボス?ラスボス系チートの深雪ちゃんにはきっと敵わない。噛ませ犬にもならなそう。
「深雪が悪役?をするのか…?」
「絶対的強者として立ち向かうのでしたら、もっと気位の高い雰囲気を出した方が良いかもしれません」
格の違いを見せつけてやる!という気持ちが沸々と湧き出るようでしてですね。
私が変なヤル気を見せると、お兄様は珍しく疑問符を顔に張り付けていた。
水波ちゃんも私が悪役というのが理解できないらしい。何度もその言葉を口にしては首を捻っている。
そんなに似合わないかな悪役。
深雪ちゃんって雪の女王が似合うようだし悪役もできると思うのだけど。
それになんていったってあの!四葉なのだから!絶対に悪役に合うはずなのに。
にじみ出る恐ろしオーラが!
「一高のプリンセスが悪役なんて、配役ミスじゃないか?」
「私は有りだと思うのですが――録画でもしてジャッジは演劇部部長にお願いしましょうか」
ああ、ここでも本のイメージが先行してしまうのか。
出版した本は売れ行きが好調で、さっそくシリーズ二作目が脱稿目前らしい。
この快挙に学校側は喜んだが、公表はしたくないという生徒の意思を尊重しているので表立って祝えないことがもどかしいらしい。
教員方もモデルが四月の事件だと知っているので、今後のためにも協力してやってほしいと私たちに声を掛けられるほどだ。
一体どう協力しろというのか、と思ったが、ただ日常を提供すればいいとのこと。
この教員、オタクをわかってるね。オタクは二人セットでいるだけで自家発電するイキモノだから。
これネタなら提供すれば十分な素材にもなるだろうから、私は正当な理由を得て鬱憤も晴らせて、部長にはネタ提供ができて一石二鳥だね。
ちなみに水波ちゃんにもこの本のことは伝えてある。この本ができるいきさつも含めて。
読破後彼女は自分でもこの本をわざわざ紙媒体版を購入していた。
「去年の四月の再演か?」
「お兄様を馬鹿にされて、私が大人しく引き下がるわけにはいきませんので」
彼の意識も丸っと改革してみせましょう!
私も余裕ある態度を見せているけどね、まったくもって不満は解消されていないのですよ。
チョッと忠告したくらいで溜飲が下げられるわけがない。
「…ほどほどにな」
「撮影係はお任せください」
お兄様はしょうがないな、と。
水波ちゃんは張り切って。
うん、止められないのは信頼されているからってことで嬉しい、のだけど水波ちゃん反応おかしくない?
お兄様も高性能なカメラを用意しようって、案外乗り気なのはどうしてでしょうね。
――
入学式二時間前に学校に着きました。
生徒会役員として準備があるから早く来たのだ。
本当なら水波ちゃんは遅くてもいいのだけど一緒に来てもらった。なぜなら――
「お兄様、もう少し水波ちゃんに寄ってください」
二人とも少し困ったように眉を下げてこちらを向く表情はそっくりですね。従妹と言っても疑われないくらい似てますよ。
こういう記念写真は残したいですからね。と言いながら去年は写真なんて撮ってないのだけど。
あの時は作戦のことでいっぱいいっぱいでしたから。
今年はせっかくの水波ちゃんの晴れ舞台。人もいないし撮ろうと思い立ったので付き合ってもらっている。
急な誘いにも嫌な顔せず付き合ってくれて嬉しいです。…戸惑ってはいるようだけどね。
「なら次は深雪だな」
水波ちゃんの横に寄り添って。
「水波ちゃん、入学おめでとう」
「…ありがとうございます」
お祝いは何度でも言って良いものだから。水波ちゃんはちょっとだけ頬を赤らめて俯いた。可愛いね。初々しい。
ぱしゃり、と写真を撮って最終打ち合わせの講堂の準備室へ。
すでに五十里先輩とほのかちゃんがいた。
ほのかちゃんはすでに水波ちゃんを紹介済みなので五十里先輩に。
挨拶し終えると中条会長と花音先輩、そして七宝君が現れた。
あのふてぶてしさは鳴りを潜め殊勝な態度。
今日は落ち着いた優等生モードなのかな。最後まで保つと良いね。
突っかかることもなかったので空気が悪くなることもなく、中条会長主導のもとこの後の流れを最終確認した。
リハーサルも順調に終わり、七宝君には変な緊張感も無くこのまま何事も無く式も終わりそうだな、と思われた。
ほっと安心する中条会長に私たちも空気を緩ませているとお兄様が動く。
「新入生の誘導に行ってきます」
ついにお兄様のギャルゲー二年目が開幕するわけですね!いってらっしゃいませ!
たくさんの女の子や可愛い男の子との出会いを楽しんできてね。
…とはいっても女の子は皆何の因果か七草家の娘たちばかりですけどね。
七草と四葉は運命が絡むようになっているってことなのかな。困った運命もあったものです。
でも本人が恋をするっていうなら応援しますよ。どれもタイプの違う美少女です。選択肢が多いことは良いことだ。
ひらひらと手を振って見送って、私たちも仕事に戻りましょう。
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