妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
そういえば、そういう場面もあったねと、おじさまの横でにこにこと笑いながら心の中で遠目になった。
表には出さないよ。こんなおじさんに悟らせるような隙なんて見せませんとも。
淑女はいつでもどこでも完璧だから。
ほのかちゃんは後片付けに、お兄様は生徒の誘導に、私も来賓のチェックをしていたのだけれど、最有力権力者含めた集団に捕まりました。
与党議員の中でも一目置かれ、このままいけば将来は出世街道まっしぐらの、壮年であっても若手と呼ばれる議員の先生が隣から離れません。
上野先生とわざわざ名を呼び接待すると相好を崩して気を良くする。
わかりやすいあからさまな反応だけれど、誰も嗜めたり止はしないのは、相手が深雪ちゃんであり、そのような反応に違和感が無かったからか、はたまた権力には逆らえないからか。
…周囲も似たような顔だから前者の方が強い気がするね。
それでも議員の先生や権力者なのだから多少の忖度があるから、私の隣がずっとキープされ続けているのだろうけど。
前世の上司たちとの飲み会を思い出しますね。アレは無礼講という名のセクハラ大会でもあったから。
ハラスメントと訴えられる時代であっても、酒はその境界線を緩くさせ、多少なら酒のせいにして色々ぶつけられるっていうね。
お酌は一種の処世術でもあった。守りでもあり攻撃でもある。若い頃の酒の席は気の抜けない戦いです。その後になると情報収集と情報操作の場になるのだけどね。
やれ、誰それさんたちが交際している、やあの部長は部下に仕事を押し付けるのが上手い、やら。面倒だけど知っておくとその後動きやすくなる情報もある。
そんなの関係ない、気楽な飲み会もあったよ。忙しい時期を乗り切った慰労会とか。
とはいえ、うちの会社はさほどブラックと呼べるほどひどすぎるわけでもなく(一時的に繁忙期が忙しすぎただけ)、パワハラセクハラが横行するわけでもなかった(昭和のおっちゃんがはしゃいじゃう程度)。軽い感じで実害も無い発言程度なら~、と事なかれ主義であったから大抵聞き流して過ごせていた。
この世界ではきっとそういったことは味わうことがないんだろうな、と遠い目になりながらいつも以上に長尺で回想している間にも、口は自動でおじ様に気分良くお話をさせる相槌を打っている。流石です!から始まる『さしすせそ』。覚えておくと便利です。
高校生相手と言うのもあってアレな発言は控えられているから、この場をしのぐくらい平気だとおもっていたけど、次第に視線から下心が見え見えになってきてこうして話しかけられ続けるのも精神的ストレスは蓄積されるものだと実感。
帰ったら久しぶりにお兄様にハグをおねだりしようか、と意識を飛ばしながらも長話にお付き合いする。
教員たちもそろそろ迷惑だな、と思っていても下手に扱えない。
それだけの社会的地位を有している議員なのだ。だからこそ周囲の人たちも注意もできず、離れることもできずに留まっている。
このまま待っていれば七草先輩がきてくれるから、と大人しくしていたけれど、おや?議員先生のお手手が悪さしそうな雰囲気が。これはいけないね。
「上野先生はとても知識も豊富でいつまでもお話を聞いていたいです。…先生のような方が父であったならどれほど幸せだったことでしょう、と思ってしまいます」
「ははは。そう言ってもらえると嬉しいね」
動かしかけた手はそのまま自身の後頭部を支える手に回った。
これぞ秘儀!『お父さんだったら素敵ね』斬り。
父性に訴えて異性じゃないと切り捨てて、一時的に距離を取ることを可能とする計算しつくされた言葉である。
心の距離は近づくかもしれないが、必要以上のタッチはさせないホステスさんの必殺技だそう。
滅多に使わないらしいけどね。顧客として定着は付き辛くなるらしいから。
これで時間は稼げるかな?これも時間が経つとお父さんだから親しげに触れてもOK?とかいうトチ狂った考えに行きつく人もいるから早めに来ていただきたいところだけれど。
と、そうなるよりも早く待ちに待った七草先輩が登場し、議員先生がたちまち距離を空けた。控えおろう、十師族様だぞ!って感じです?
まるで悪いことはしてませんよ、と慌てて離れたようにも見えなくないですね。
その七草先輩の後ろには可愛らしい女の子が二人。彼女たちも先生と顔見知りのご挨拶。
大変だね七草家。こういったお偉いさんとも顔見知りだなんて。
…私たちもあの家で過ごしていたならば、いかな悪名高い四葉であろうとも多少こういうお付き合いが必要だったのかな。
そう考えると今の環境って天国だよね。必要最低限の好きな人としか付き合わないでいられるのだから。
彼女たちとの挨拶をきっかけに上野先生たちはそそくさと退散していき、大人たちの群れは散会、接待は終了した。
「深雪さん、大丈夫?」
「はい。七草先輩、ありがとうございます」
制服を着ていない先輩は、スーツ姿が大人っぽくてとてもグッド。赤いヒールが目を引きますね。
「先輩、スーツ姿とてもお似合いです。素敵ですね」
「あ、ありがとう。素直に褒められると嬉しいわ。…貴女のお兄さんにはちょーっとひねくれた言葉を貰ったから」
「先輩があまりに綺麗すぎて兄さんも直接的に褒めるのを躊躇ってしまったのでしょう。それくらい、今の先輩はお美しいですから」
「そ、そうかしら」
あらあら、先輩も悪い気はしていないようでなにより。
お兄様も誤解されやすいですからね。それもいい意味でも悪い意味でも。
今回は良い方に転がってくれているようでニコニコしてしまうね。
…そして同時に向けられた視線が強まった気がしますね。
(そういえば、そんな話もありましたか、パート2)
いや、こっちはちゃんと覚えてはいたけれども。
彼女も人気でしたし、深雪ちゃんを慕ってくれる後輩ちゃんだから。
深雪ちゃんが絡まなければ、七草先輩とはまた違った正統派お嬢様のような落ち着きを持ったご令嬢風ではあるのだけれど、深雪ちゃんを前にしちゃうと暴走気味になる変わった女の子だったよね。
七草先輩がご挨拶しなさい、と言ったことではっと目を覚ましたみたい。目が合ったからとりあえず微笑みかけてみたのだけど…過剰だったかな。
胸の前で手を組んで、頬を上気させ、瞳を潤ませて見つめ返されてしまった。
カワイ子ちゃんに慕われていると思えば悪い気はしないけれど、ちょっと熱視線過ぎるね。
「七草泉美です。あの、深雪先輩とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
声を震わせ、縋るように見つめられると勘違いしてしまいそうだけれど、これ、ただの憧れだから。
ちょっと行き過ぎてるだけだから。
「ええ。構いませんよ」
この時すでに泉美ちゃんはお兄様と兄妹ってことを知ってたから分けるためにも名字呼びではなく、下の名前で呼びたいってことなんだろうね。
去年のお兄様とのやり取りを彷彿とさせますねぇ。懐かしい。
ただ、違うのは熱意かなぁ。
「深雪先輩、九校戦でのご活躍、拝見しました。とても素敵でした」
「ありがとう」
…んー、気のせい、じゃないね。なんか距離が縮まってます。じりじりと寄ってきてる。
でもこれで後退するわけにもいかないよね。
「ですが、こうして直にお目にかかると、応援席から拝見した時より何倍も…おきれいです」
「そ、そうかしら」
これは、アレです。オタクの周囲が見えなくなっちゃったときの熱語りの時によく見るテンションです。
圧が、圧が凄い。
「深雪先輩のような方と同じ学舎に通えるなんて…私、感激です」
学舎って…この雰囲気はなんとなく昔流行った伝説の小説を思い出しますね。
上級生と下級生が姉妹の契りを交わす、あの美しい花園の物語を。
「泉美ちゃん、いったいどうしたの?」
七草先輩も妹の異常を感じたのでしょう、声を掛けるけど駄目だね。聞いてない。
大好きなお姉様の声も聞こえないほど真剣な模様。
そして放たれる問題発言。
「深雪先輩…私のお姉さまになっていただけませんか?」
わあ。本当に言われたよ。私誓いの指輪を用意した方が良いかしら?それとも薔薇を?うちの学校にそんな制度ないけれど。
「ちょっと泉美ちゃん、落ち着いて!貴女のお姉ちゃんはこの私よ!」
先輩も落ち着いてください。可愛い妹さんのことは取りませんから。
しかし、お姉さま、ねぇ。
「七草さんが深雪姉様の妹になるのは無理だと思われます」
「水波ちゃん」
声がする前に近づいてきたのには気づいたけれど、いつからいたのかはわからなかった。流石有望なガーディアン候補。気配を消して少し前から控えていた雰囲気がする。
「達也兄様の妹になることは可能ですが。
七草さんのお姉さまが達也兄様と結婚なされば、七草さんは達也兄様の義理の妹となりますから」
ソウダネー。その発言で七草先輩が真っ赤になって息を詰まらせたり、まだ紹介はされてない香澄ちゃんは言葉を飲み込むのに時間がかかっているようだし、泉美ちゃんは言葉の続きを冷静に待っている。
三者三様。面白い姉妹ですね。
くるりと背後を振り返った水波ちゃんはそこにいる人物に問い掛ける。
「この場合、達也兄様の実の妹である深雪姉様と、義理の姉妹である七草さんは姉妹と呼べるのでしょうか」
…普通に考えると、呼べなくはないのではないかしら。一応親戚になるのだし?その辺は曖昧よね。
でも、その質問、お兄様的によろしくなかったかもしれないわよ水波ちゃん。
「兄さん」
何故水波ちゃんを睨んでいるのです?まるで余計なことを言うんじゃない、と忠告しているよう。
しかし水波ちゃんも負けてないね。
妹になるのは無理だと申しました、と言わんばかりのすまし顔。
…二人も随分仲良くなりましたよね。嬉しいけれど、ちょっぴり疎外感。
私も仲間に入りたいけど、この話題は入ったら危険な気がします。
まあ、入る前にようやく導火線が火薬に到達したようですが。
「絶対反対!」
香澄ちゃんが七草先輩の前に立ちはだかって強い拒絶を示す。
七草先輩嫌がっているように見えないのだけどね。
やっぱりこの世界、妹が兄弟姉妹の結婚に口出すのが当たり前なのだろうか。
「お姉ちゃんが司波先輩のお嫁さんになるなんて、ボクは絶対反対だからね!」
でもなんでこんなに拒絶されるんだろうか。初対面なんだよね?見た目だけで判断されてる?
お兄様って妹の欲目を抜きにしても、結婚相手として結構優良だと思うのだけど。
違うとわかっててもお兄様自身を拒絶されたようで悲しくなる。
「っ深雪姉様、どうかされましたか?」
「深雪先輩!?な、何か悲しませることが?!」
一番に気付いたお兄様が苦笑を浮かべているのは、私の考えがわかっているからですね。流石お兄様。
水波ちゃんも気づいてくれてありがとう。
その声に反応して泉美ちゃんも心配させてごめんなさいね。
「いえ、きっと…香澄さん、と呼んでもいいかしら?――ありがとう。香澄さんは七草先輩が大切だからだと思うのだけど、まるで兄さんを悪く言われているような気になってしまって。
大好きなお姉さんを取られたくないってことなのよね?」
「うっ…え、と」
「香澄ちゃん!先輩が気に入らないからって失礼よ」
自己紹介されてなかったから呼んでいいか確認したうえで訴えさせていただきました。
うちのお兄様のこと、まだ何も知らないのに否定しないで、と。
あとお姉さんの反応を見て。貴女のお姉さんは嫌がってはいないようですよ。
多分本能的にお兄様が危険だって気付いてるからなんだろうけどね。だからってそんなに毛嫌いされてるのは見ていて気持ちの良いものじゃない。
「貴女にとっては初めて見た馬の骨に見えるのかもしれないけれど、私には大好きな兄なの。とても自慢できる、素敵なところがたくさんある兄なのよ。今は嫌な相手にしか見えないかもしれないけれど、少しずつでも知ってもらえると嬉しいわ」
悲しい顔のまま微笑みかければ、香澄ちゃんはうろたえながらも小さな声で謝った。
うーん、やっぱりいい子はいい子なんだよなぁ。思い込みが激しいだけで。
七草先輩も妹の不始末を謝罪した。
「ごめんなさいね、深雪さん。うちの妹、達は思い込みがちょっと激しいみたいで」
…先輩にとって泉美ちゃんは冷静な子だと思っていただけに今日の反応を見て「達」、と言わざるを得なくなったんだね。
「達也くんもごめんなさい。変な言いがかりを掛けてしまって」
「気にしてませんよ。な、深雪」
「ええ。兄妹を心配するのはどこの家でも当たり前のことでしょうから」
「そう言ってもらえると助かるわ。今度必ず埋め合わせするから」
こんな先輩の姿は初めて見た。
申し訳ないと全身で表しながら妹さんたちを連れて去っていった。
「お姉さんというのも大変なんですねぇ」
その後ろ姿に思わずポロリと言葉が出てしまった。
この独り言を拾ったお兄様がそっと寄り添う。
「うちは全く手のかからない妹で助かったような、寂しいような」
残念そうに微笑んで頭を撫でるお兄様に、私は笑って答える。
「そこは喜ぶところだと思うわ」
妹はお兄様の為、頑張っているのですから。
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