妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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ダブルセブン編⑨

 

 

今日のところは疲れただろうと、中条先輩の計らいで早い帰宅となった。

生徒会のメンバー三人と、風紀委員の二人、そして水波ちゃんとで喫茶店に寄ることに。ちょっとした慰労会です。

 

「お疲れ様」

 

乾杯と労いと共にのどを潤す。

風紀委員も案内だったり、警備だったりと忙しかったみたい。

ほのかちゃんも後片付けでバタバタしていたとあってぐったりしていた。

皆お疲れ様だね。

 

「そう言う深雪は来賓客の接待だったんでしょ。大丈夫だった?」

「大丈夫…と言いたいところだけれど、緊張したり、気を使ったりして少し疲れちゃった」

 

雫ちゃんはその大変さを身に染みて知っているので頭を撫でてくれた。ありがとう。その優しさが染みるようだ。

 

「そういえば、主席君の勧誘はどうなったの?」

 

ほんわりしたところで、吉田くんからの質問に、浮上しかけたほのかちゃんがまた沈んでしまった。

 

「…ダメだった」

 

ほのかちゃん関わってないのにそんなに残念だったの?周囲が慌てるレベルで落ち込んでしまった。

だけどねぇ。

 

「そんなに意外?」

「え?」

「正直彼は初めの挨拶の時から興味無さそうだったと思ったけど」

「…そういえば」

 

七宝君も興味があればもう少し愛想はよかったと思う。あんな初対面の先輩をぞんざいに扱うのは、関わる気がないと宣言しているようでもあった。

ほのかちゃんも心当たりがあったと、納得したようだ。

 

「え、でも総代って基本的に生徒会入りするんじゃないの?」

「過去にも入らないケースはあったらしい。本人は部活を頑張りたいからと言ったらしいな。他にやりたいことがあるのなら無理強いすることもない」

 

強制することでもないからということでこの話はそれ以上深く掘られることは無かった。

 

「なら候補は次席の人になるのかな」

「それが一番無難だろうな。こちらもあくまでも本人の意思によるものだが…こちらは恐らく深雪が誘えば一発だろうな」

「どういうこと?」

 

お兄様もそう思うんだ…。

まあでも確かに私が勧誘すれば間違いなく彼女は生徒会に入るだろうね。

 

「次席は七草泉美。七草会長の双子の妹の一人で、その次点も七草香澄。今日初めて挨拶したんだが、――どうにも泉美の方が深雪に一目惚れしたらしくてな」

「……なんだって?」

 

吉田くんが理解不能で聞き返し、雫ちゃんが険しいお顔(ミリ単位)で私に向けてどういうことか無言で問い掛けてくる。

ほのかちゃんはなぜ赤くなるのかね。水波ちゃんはすまし顔。ケーキ注文してもよかったのに。夕食近いから?偉いねぇ。

私の食べる?と差し出したら遠慮されちゃった。じゃあ自分で、と差し出した分を食べようと思ったら隣から視線が。

…お兄様、吉田くんたちも見てますから。お兄様にこれはあげられませんよ。

 

「…お姉さまと呼んでもいいかと聞かれていたな」

「その時からいたの?」

 

いつあの場に来ていたのか知らないけれど、その話を聞いていたということは思ったより早く近くにいたらしい。

…そう言うことだよね?視ていたから知っている、という可能性もあったり…?うん、気にしない方向で。

 

「とりあえずこの三人は成績が特出していた。誰がなってもおかしくはない優秀さだから問題はないだろう」

「深雪がまた引っ掛けるようなことをしたの?」

 

もしもし雫ちゃん?なんかとんでもない言いがかりを受けた気がするのだけれど。

 

「いいや、今回は完全に容姿と佇まいだ」

 

そしてなぜお兄様がお答えに?

しばし見つめ合ってため息を吐く二人。見事なシンクロ。だけどなんでだろう、いつものように凄いね、と感動しない。

お兄様がトイレに立たれた後、自然を装って吉田くんが後に続いた。

これからしばらく帰ってこないだろう。

 

「今年の入学式は、こんなこと言うのは失礼なんだけど、印象に残らなかったね」

「…去年の深雪が登壇した時のような驚きはなかったから」

「それほどだったのですか?深雪姉様の答辞は」

「すごかったよー。もうね、女神さまが降臨したのかと思ったよ。こんな綺麗な人がいるんだって」

「大袈裟よ」

 

ちょ、流石に女神は言い過ぎでしょう。そう止めようとしたのだけれど親友二人は止まらない。

 

「アレは一種のトランス状態だった」

「本気の深雪は宗教だよね」

「皆静まり返って一音も逃さないように、瞬き一つももったいないと見逃さないように食い入るように見ていたもの」

「私、こんな美しい人と同じ学年なんだって、感動して。…その後のことはちょっと思い出したくないけど」

「ほのか、かなり心酔していたもんね」

「兄さんにも突っかかったりして」

「言わないで!!」

「…光井先輩がですか?」

 

水波ちゃんもしやすでにほのかちゃんがお兄様にホの字だと気付いているの?まだこうして席を共にして会うの、二回目だと思うのだけど。

私から前もって言うのも、と思って事前情報などは特に伝えてなかったのだけど。

すごい観察眼なのか、ほのかちゃんがわかりやすいのか。…いや、考えてみたら初回がパーティーの暴露事件だものね。わかるか。

しかしほのかちゃんが頭を抱えてしまった。

いくら深雪ちゃんに心酔?傾倒?していたからといってお兄様に突っかかるなんて、ほのかちゃんにとっては黒歴史だもんね。

 

「当時の一科生と二科生の間には越えられない壁があったの。だからほのかの当時の考えはおかしなものではないものだったのだけどね。差別するのが当たり前なところがあったから、私のために近寄らせないようにって張り切っちゃったのよね」

「…今考えると、本当、どうかしてた。深雪が何を思っていたのかなんて考えず、自己満足で動いてたの。一科生と二科生が仲良くしてたら深雪が悪く見られちゃうって」

「でも、それが深雪を追い詰めた」

「それは終わったことでしょう。結果、現在はこうして皆が過ごしやすくなったんだから良いじゃない」

 

水波ちゃんはもう少し聞きたそうだったけれど、そろそろお兄様たちが戻ってくるからね。この空気を何とかしましょう。

 

「今年これから起こるトラブルと言えば、やっぱり予測できるのは七草姉妹と七宝君の衝突かしら」

「風紀委員長からもその可能性は指摘されてた」

「…七宝君、喧嘩っ早そうだったものね。達也さんにも態度悪かったし」

「彼らの件は会わないようにするくらいしか対処法は無いって」

「物理的だけど、それが一番効果ありそうね。流石花音先輩」

 

端的だけど一番効力ある作戦。

 

「新歓中はお祭り騒ぎになるけれど、去年みたいな怪我人は出したくないね」

 

去年のブランシュについて知っている生徒は中条会長と服部会頭だけ。

エリカちゃん達も参加してないからね。

だから雫ちゃんが言っているのは壬生先輩個人のことだろう。彼女は自分を斬りつけた相手と現在ラブラブお付き合い中だから怪我の功名?

いや、意味は違うけど、怪我を負わされたことで結ばれるってのもなかなか珍しいよね。

毎年衝突が起こるのは伝統行事みたいなもののようだったけれど、去年までと違うのは一科生と二科生の壁がなくなったことで、わざわざいがみ合う理由がなくなったこと。

 

「雫と吉田くんは風紀委員として一番初めの大仕事だからね。頑張って」

「うん」

 

そんな話をしていると席を外した時と変わらぬ様子のお兄様と、ちょっと気が楽になったように表情が柔らかくなった吉田くんの顔が。

吉田くんがわかりやすいんじゃなくて、お兄様が変わらなすぎるから気づいたっていうだけなのだけどね。

エリカちゃんの出生の秘密をばらしたんだろうね。

…そんな大きな秘密を暴露するなんて、この時の吉田くんってすでにお兄様に対して信頼が天元突破してるよね。

お兄様ならこの情報も大事に取り扱って何とかしてくれるっていう。

お兄様にばっかり押し付けて、と原作の深雪ちゃんなら不満に思ったかもしれないけれど、こういう秘密を共有する関係になることが悪いことだとは思わない。

お兄様も頭は痛むだろうけど投げ出さない。

本人はまだそこまで思っていないかもしれないですけどね。お兄様は自分の感情には特に鈍いから。

 

「何か良いことがあったかい?」

 

こうして私の変化にはすぐに気づくのにね。

 

「兄さんは優しいな、と再確認しただけよ」

「?」

 

何食わぬ顔で紅茶を飲んでそれ以上口にすることは無かった。

 

 

――

 

 

その日の晩、お兄様にお時間を頂いて、今日は私の部屋へ。お兄様の部屋だとベッドに座ることになるので気まずいのですよ。

私の部屋にはもう一脚椅子があるので二人して椅子に座れる。

お兄様を部屋にお招きするのは、それはそれで緊張ものなんだけどね。

ベッドに座るのとどっちがマシか、今日検証することにしましょう。

ってことで色々終わらせた頃、お兄様は部屋の扉をノックした。

出迎えて招き入れて――そしてハグをして。

どちらともなく抱き合った。私も疲れたけれど、お兄様も相当疲労しているのか、肩に顔を埋めてきた。

くすぐったいけれど、密着することは互いのストレス軽減に良いというので、我慢。恥ずかしいのも我慢。

…でもそこで息を深く吸い込まないで。深呼吸しないでほしい。

 

「お兄様もお疲れさまでした」

「深雪もな。…随分と嫌な思いをしただろう」

 

…やっぱりお兄様視えていたのかな。あの時近くには居なかったはずなので。

と、考えていたのだけれど――これがお兄様の力だけではなく、ピクシーが校内の音と映像を拾って音声通信ユニットを通じてお兄様に中継して(チクって)いたのだと知るのはしばらくしてからである。

なんというピクシーの使い方。…もう学校でお兄様以外とこそこそ話なんてできないね。

 

「七草先輩が助けて下さいましたので」

「…その後のトラブルを招いたのもその七草だがな」

「トラブル…ああ。泉美さんですか」

「香澄の方もだな。なぜあんな勘違いをするのか」

 

だから、お兄様首元でため息を吐かないでくださいませ!擽ったい。

動かさないために頭を撫でようかな。動いちゃダメですからね。

私にとって泉美ちゃんのお姉様と呼ばせて事件と、お兄様にとっては香澄ちゃんのお姉ちゃんを取るな事件は面倒なトラブル事と認定されていた。

 

「香澄さんにはお兄様は警戒対象なのでしょうね。七草先輩の態度もいつもと違って見えたのかもしれません」

「迷惑だ」

 

…おやまあ。もしやイベントは熟していても好感度までは上がっていないのか、お兄様が上がっている認識をできていないのか。

七草先輩自身の好感度は上がっているように見えるのですがね。

肝心のお兄様自身のパロメーターが見られていない模様。

こういう時友人や兄妹が情報通で教えてくれたりするのだけれど、お兄様の場合そういった噂に強い人が攻略対象だから訊くに訊けないのかもしれない。

ってこのゲーム脳も良くないね。現実を見ねば。

 

「彼女も目の曇りが晴れれば理解できると思うのですが」

「あの双子はどうにも視野が狭くなる性質があるようだからな」

 

確かに二人ともちょっと短絡的なところがあるよね。

 

「深雪は良いのかい?彼女が生徒会に入っても」

「そうですね…。彼女の距離の詰め方には驚きますが、優秀そうですし、そこまで問題はなさそうですけれど…」

「もし、辛くなったら俺も傍に居るんだ。いつでも頼ってくれ」

「その時はお願いしますね」

 

お兄様が頼もしい。その時はぜひお願いします!…でも美少女に迫られて辛くなるようなことあるかな?

そして長いハグを終え、椅子に腰かけて久しぶりに二人だけの時間を過ごす。

皆でお話しした内容も、二人になるとまた別の話のように聞こえて新鮮だった。

お兄様の表情が柔らかいことも関係しているのかもしれない。

久しぶりにお兄様の顔をしっかり見ている気がする。

このところお互い忙しかったり、水波ちゃんや他の人が一緒に居たりしてこうしてまじまじと見る機会がなかったのだ。

入学前のキャビネットやコミューターの中でも――と思ったけれど、一度膝に乗っけられましたね。でも近すぎて逆に見れないから。

お兄様も表情がさらに豊かになった気がする。

嬉しいこと、悔しいことが目に色を映して伝わってくる。口元を弛めたり、頬の動きも忙しい。

それだけで私の心はどんどん浮き立った。身体が軽くなった気さえする。

 

「…困ったな」

「え…?」

「そんなに可愛い顔をされると、いくらでも喜ばせたくていらないことまでしゃべりそうだ。というよりすでにしゃべってしまったような気もするな」

「ふふ、お兄様が嫉妬なさったというお話ですか?照れ臭いですけれど、それだけお兄様に想われているのかと思うと頬が緩んでしまいます。お兄様は嫌な思いをされていますのに、申し訳ありません」

 

お兄様七宝君との話し合いの中で、一瞬でも目を光らせて攻撃的に忠告したことがずっと気がかりだったんだって。ずるいって。

…私にはお兄様を攻撃する気なんて起きないのでね、自分だけ正面から見ることができないのだと悔しがられました。

前にもあったよねそんなこと。あの時は小百合さん相手だった。

お兄様の悔しがるポイントって本当にわからない。

泉美ちゃんに関しては普通に危険だと思ったそう。…まあ、私も感じなくは無かったですけどね。勢いか、圧がね、すさまじくて。

でもオタクの熱量ってあんなものだから。嫌うことはできない。

ちょっとずつ気を付けていってもらえると良いな。

 

「今年も波乱の高校生活になりそうですね」

 

すでに四葉は動いている。各所の証拠集めもそれなりに順調とのこと。

…だけど証拠集めってことは事が起きないと動くことができないことでもあるから、防ぐ方向には動かないみたい。

叩きつけられるだけの証拠をたっぷり集めてまとめて責任を取らせるつもりのようだ。

来年には四年に一度の選定会を含めた十師族会議があるからね。

そこで引導を叩きつけ、ごほん。――渡すのかな。かなり自分勝手に動いている一族がいることだしね。

均衡を保つことも必要かもしれないけれど、まずは国を守ることを優先したらどうだろう。

そんなことだから足を引っ張り合っているところをつけ込まれるんですよ。

 

「お兄様は生徒会に入られて、研究のお時間を削られてしまいましたね」

「昨年は結構好きに時間を使えていたからね。資料自体は随分集まっているからそんなに問題ではないよ」

 

あら。なら少しはお兄様のお役に立てたかしら。風紀委員に入っていたらそこまで時間は無かったでしょうから。

 

「深雪が気に病むことなど何もない」

 

そう言って私の頬をするりと撫でる。丸い椅子に座っているお兄様と、勉強机に備え付けられたキャスター付きの椅子に座っている私とは、お兄様の椅子が幾分低いので目線がいつもより近い。

だからお兄様の顔もいつもより近く感じた。

 

「ありがとうございます」

 

気恥ずかしくて目を閉じると、よりお兄様の手の動きが明確に感じ取れる。

目の下を撫でる親指、耳に伸ばされる人差し指が、耳たぶを擽る。

小指が顎の下を掠めてぞくりと背筋が震えた。

 

「深雪はどうして、俺の前でそんな無防備になってしまうんだい?」

 

そうだね。急に来る色男モードに警戒すべきでしたね。お兄様ちょっとその手を離していただいても?

私は猫ではないので顎の下を撫でられてもごろごろ鳴きませんよ。

 

「お兄様はどうして、私を困らせようとするのです?」

 

リーナちゃんの時に聞きましたけどね。

 

「可愛い妹を可愛がっているだけだよ。深雪を見ていると全力で可愛がりたくなるのを、どうにか抑えているんだけれど、どうしても溢れてしまうみたいだ」

 

お兄様のその可愛がり方は妹に向けてのものではないような気がするのですがね。

もう今更忠告したところで手遅れな気がします。

本当、どうしてこうなってしまったのか。

 

「…でも、お兄様は私の嫌がることはしないでしょう」

 

お兄様には困らされることは多々あるけれど、それ以上の怖い思いをさせられたことは無い。…当然だけどね。お兄様が一体私をどう怖がらせるというのか。

まあ?たまに怖いって思うこともあるけどね。それは私に向けられたものじゃないから。

 

「さぁて、どうだろうね」

 

何でそこで意味深な言葉と一緒にお色気たっぷりに笑われているのでしょうね。

 

「お兄様は絶対にそんなことしません」

 

そうであれ!と願いを込めつつそっぽを向く。これ以上お兄様を直視できないのでね。

首をひねることでようやく頬から手が離れ、熱くなった頬を冷ますことができた。

 

「悪かった。ちょっと意地悪をし過ぎたね」

「…お兄様は加減をもう少し学ぶべきです。全然ちょっとなんてものではありませんでした」

「なら深雪も、兄貴だからって気を許しすぎてはダメだよ。すぐにつけあがるのだから」

 

くすくすと笑いながらお兄様はすっと立ち上がった。

今夜はここまでのようだ。

 

「このまま寝かしつけるまで傍に居たいところだが」

「オ・ニ・イ・サ・マ?」

「…子ども扱いしているわけではないんだがな」

 

言外に含んだ言葉を正しく読み取ったお兄様だけど納得はしていない様子。

でも寝かしつけなんて子供がされるものの代表でしょうに。

ほら、今もまたそうやって頭を撫でていく。

 

「むくれる深雪も可愛いよ」

「もう!早くお兄様も寝る準備をしてください」

 

立ち上がってお兄様の背中を押し、扉に向けた。

けれどお兄様はここでもいたずら心を起こしたのか、急に動かなくなった。

 

「もっと強く押さないと。これでは引き止められているのと変わらないぞ」

「お兄様を全力で押し返すなんてできるわけがないじゃありませんか」

 

今夜のお兄様は一段と意地悪だ。

もうちょっとだけ力を込めて押し戻そうとするのだけれど、むしろ背中が迫ってきた。体重を掛けてきたのだ!

 

「ちょ、お、お兄様?!」

 

お兄様の体重なんて私に支えられるわけがない!いったい何の遊びを始めました?!

腕がプルプルする!

腕立て伏せするより力がいる!

 

「深雪を押し倒すのは簡単だな」

 

この状態でよく笑ってられますね!?

肘は曲がり、もう腕でお兄様の背を支える状態まで来ているのに――と思ったら急に重さが無くなって、支えを失ったことで前のめりになりお兄様の背中に激突した。

 

「うっ、ご、ごめんなさい」

「ふっ、どうして深雪が謝るんだ」

 

お兄様は何がそんなに面白いのか、抑えきれない声を漏らしながら笑っていた。

テンションが壊れてますね。珍しすぎて怒ることも忘れてしまった。

 

「ああ、こんなに笑ったのは初めてだな」

 

私も初めて見ましたよ。お兄様がお腹に腕を回して口元を押さえる姿なんて。

腹がよじれるほど、ではないけれどお兄様が少しでも背中を丸めて、腹筋を震わせて笑うなんて姿を見ることができるとは、なんて貴重な体験だろうか。

揶揄われ、笑われているはずなのに、悔しさよりもむずがゆさが全身を襲う。

喜びだしそうな、こんな姿を見てしまっていいのだろうかという困惑感もありつつ、それでいてそうさせたのが自分だということが恥ずかしくもあり――つまり大混乱中である。

 

「深雪はいつも俺の知らない一面を引き出してくれるね」

 

振り返り微笑むお兄様は、優しい顔をしていた。

それを見てしまえば、自分の葛藤などどうでもよくなってしまって。

 

「…お兄様のお手伝いができているのなら、これほどの喜びはありません」

 

お兄様の感情が豊かになっていく。その手助けができていると言うのなら、これほど幸せなことは無い。

 

「手伝いどころか、いつだって俺を導いてくれるのはお前だよ、深雪」

 

正面で向き合って、頬に手を伸ばされて顔を上げさせられる。

 

「今日は良い夢が見られそうだ」

「ええ、私もです」

 

こんな素敵なお兄様の笑みを見て寝られるなんて、きっとこの後見る夢は良い夢に違いない。

 

「おやすみ深雪」

「はい、おやすみなさいませ。お兄様」

 

ぱたん、と閉じられた扉を見つめること三秒。

すぐにベッドにダイブした。

 

(激レアすぎるお兄様の爆笑(当社比)シーンとかヤバすぎでしょう!プライスレス!!価格がつけられない!どうしよう。全財産レベルの課金をしたい!お兄様に貢がせてほしい!!でも悲しいことにお兄様の方が収入は多いっていう現実!)

 

治まらない激情をやり過ごすのに時間がかかり、結局寝る時間がいつもより遅くなってしまったのは仕方のないことだった。

そういえば検証の結果だけど、お兄様の部屋でおしゃべりするのも、私の部屋でおしゃべりするのもどちらもお兄様がいる限り、気まずいし恥ずかしいという、考えるまでもない結論に至った。

 

 

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