妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
夕食を済ませ、私は少し早いお風呂に入り、水波ちゃんに髪を乾かしてもらって、もうくすぐったくない気持ちのいいマッサージ&ケアをしてもらっているところでチャイムが鳴った。
「こんな時間に来客かしら」
「様子を見てまいります」
あ、これ亜夜子ちゃん達が来るタイミングだ、と気づいた。
きな臭い動きをする人たちがたくさんいるとの情報は上がってきているからそろそろだと思ったけれど、今日でしたか。
とりあえず基礎のケアはすべて済んでいる。マッサージは別に毎日してもらわなくてもいいしね。あとは着替えくらいだ。
まだ早い時間でよかった。用意していた服は寝間着ではなかったし、原作の深雪ちゃんのような風通しのいい服装ではないのでこのまま出ても大丈夫だ。
身なりを整えたところで呼びに来た水波ちゃんとばったり。ちょっと悲しい顔をされた。着替え手伝いたかったのかな。ごめんね。
お茶の準備を任せて私はリビングに。そこには可愛らしい二人がお兄様と歓談していた。
お目目をキラキラさせてお兄様を見つめる二人は相変わらず可愛い。
一歳しかかわらないけれど亜夜子ちゃんは、すでに仕事をこなしているからかかなり大人びた空気を纏っていて、容姿に似合わず妖艶な雰囲気さえ感じられる。
15歳に言うことではないだろうけど、色気がある。
対する文弥くんは15歳の少年にしては線が細く可愛らしい。
中性的で甘い顔立ちと大きなお目目が女の子のようだけれど、まだ未熟なりに骨格はきちんと男の子寄りだ。比較対象の女の子がいるとちょっとした違いがわずかにわかる。
成長すればちゃんと男らしくなるだろう。…それでも女装は似合うだろうけどね。
「亜夜子さん、文弥君、いらっしゃい」
「深雪お姉様、お邪魔しております」
きちんと立って一礼する彼女の瞳には挑戦的な色が見えて、ああ、お兄様が好きなんだなと思わず頬が緩んでしまう。
でもその思いが表に出てしまい彼女にはそれが余裕に見えたのか、ちょっと表情が引きつらせてしまった。すまない。
ただ可愛いって思っただけなのに誤解を与えてしまった。
表には出さないようしょんぼりしながら少し離れてお兄様の横に腰を下ろしたのに、お兄様が手を伸ばしてきて腰を引き寄せられた。
「何に落ち込んだんだい?」
「っ、大したことではございませんので」
隠したつもりでも、お兄様にはお見通しでしたか。ですが今は探らないでいただきたい。
ほら、見て!正面の二人を。びっくり仰天していますよ。
こんなに密着する姿なんて彼らに見せたことないですからね。四葉でこんなことできないから。
お兄様だってわかっているはずなのにどうしてこんなに距離を詰めました?何故耳元に顔を寄せられるのです⁇
「あとで教えてくれ」
「……わかりましたから、元の姿勢に戻ってくださいませ。お客様の前ですよ」
「お客と言っても彼らは身内だよ。…でも、驚かせたみたいだからこのくらいにしようか」
そう言ってお兄様の腕が離れ、ほっと一安心。
そこに水波ちゃんがお茶を持って登場。ナイスタイミングよ水波ちゃん!
視線を向けたら小さく頷いてくれた。ありがとう、助かったよ!
彼女のお陰で固まっていた空気が良い具合に掻き混ぜられて元に戻った、のは表面上だけ。
「…それが、いつもの達也さんたちの距離なのですか?」
亜夜子ちゃんが声を震わせないよういつも通りを装って声を掛けるけれど、緊張が隠せていない。
気付いているだろうにお兄様はカップを傾けながら悠然と、そうだね、とあっさり答える。温度差ぁ…。
「あまり俺たちの仲が良いといい顔をしない人たちが多いからね」
そうですね。特にこの二人のお父さんはいい顔をしない。彼らもすぐに思い当たったのだろう。
また空気が暗くなりかけたけれど、お兄様がカップを戻して膝の上で手を組んだ。
「そういえば言っていなかったな。四高合格おめでとう」
「二人の実力なら当然でしょうけど、おめでとう、亜夜子さん、文弥君」
合格どころか入学して日にちが経っているけれど、直接話をするのはお正月以来だからということだろう。お兄様律儀だから。
「ありがとうございます。達也さん、深雪お姉さま」
「本当は第一高校への進学も考えていたのですが」
というよりお兄様と学校生活送りたかったんだよね。
だけどさすがに彼らまで来たら――どうなっていただろう?
お兄様のハーレムがギスギスしそう?亜夜子ちゃん隠さないだろうし。
って思いを馳せるのそこじゃないね。四葉を臭わせている彼女たちが入学したら七宝君というより七草のお家が煩そう。
トラブルが悪化しそうな気配しかない。
文弥くんが未練たらたらの様子なのに対し、亜夜子ちゃんはあっさり。
無理なことが初めからわかっていたのだろうね。固まり過ぎるのも良くないから。
お兄様が文弥くんを慰めて一段落ついたところで、お兄様が切り出した。
「ところで今日はどうして東京に?関東方面の仕事は文弥の担当じゃなかったはずだが」
「実は、達也兄さんと深雪さんにお伝えしたいことがありまして」
ちらっと彼女の方に視線を向けられ、初めて水波ちゃんを紹介していなかったことに気付いた。
「この子は桜井水波。深雪のガーディアンだ」
おや、候補が外れてる。お兄様的に水波ちゃんは確定したんですね。大歓迎なのでよかった。
安心している私に対し、黒羽姉弟は驚いていた。
「えっ、でも深雪さんには」
「達也さん、深雪お姉さまのガーディアンをお辞めになるのですか?」
まあ、そう思うのも無理はないよね。飛躍した話のように聞こえるけれど、ガーディアンが二人付くなんてそうない話だから。
いずれはそうなるだろうけど、それは今の話ではない。
お兄様は笑って否定してみせ、亜夜子ちゃんは口では納得してみせたけど、少し思案顔。
それを文弥くんが水波ちゃんの同席を問題視しないことで話の流れを元に戻した。
そして語られるのは国外の反魔法師勢力によりマスコミ工作が仕掛けられていること。
それがUSNAからであり、人間主義者の活動が活発となり、以前からも日本国内にも侵入しているが、それが新たな工作段階に入ったということ。
これから行われるだろうマスコミ工作で反魔法師キャンペーンが起こるだろうということ。
その動きが野党の国会議員にまで回っていることを突き止めていること。
「魔法師の人権を大義名分として、まず魔法の軍事利用を非難。次に魔法大学出身者の四割が軍に所属していることを根拠に魔法教育機関が軍と癒着しているという架空の構図を作り上げ、第三段階として魔法大学に多くの卒業生を送り込んでいる第一高校を標的に『軍事利用されている子供たちの解放』をアピールする、というのが現在判明している彼らのシナリオです」
長い説明を終えた文弥くんが一息入れたタイミングで、お兄様が称賛の眼差しを文弥くんに向けていた。
年齢関係なく仕事ぶりを褒めたたえられる関係っていいね。文弥くんも嬉しそう。
黒羽家の諜報員もスペシャリストが揃っているけれど、それを使いこなして目的まで読み取るのは纏める人の力量だ。
高校に入学したばかりの少年がそれだけのことをやってのけるのだから、四葉一族の教育って恐ろしいね。
当然本人の努力もすごいのだけど、他の十師族だったりの方々を見る限りこんなことできる子いないもの。
これで実働部隊もできるのだから有能すぎる。
お兄様に褒められて美少年が顔を赤らめています。ふへへ。いい光景。
それに亜夜子ちゃんもニヤニヤ顔。さっきまでの難しいお顔よりとっても健康的でいいと思いますよ。
揶揄える姉弟の仲の良さもとてもいい。
水波ちゃんは興味無さそう。あまりこういうのを楽しむ趣味は無いみたいだね。
話題を振る時は気をつけないと。
お兄様は苦笑している。好意を向けられて悪い気はしないだろうけど、ちょっと持て余し気味なのかな。
それを察知して亜夜子ちゃんが空気を掻き混ぜているんだろうね。いい関係だよね、この三人も。
それからもう少し踏み込んだ細かい話、七草弘一が九島烈に共謀を持ちかけたことも話していってからホテルへと帰っていった。
二人とも黒い服を着ているため、見送る彼らの姿が私には途中までしか見えなかったけれど、寄り添って一緒に見送っていたお兄様にはばっちり見えていた、はずなのに私が見えなくなって手を下ろしたタイミングでぎゅっと抱きしめられた。
水波ちゃんは見送りに来ていないので二人だけなのだけど、タイミング早すぎない?見られてない⁇
「お兄様、今日はどうなさったのです?」
「何がだ?」
「その、二人の前であのような…」
くっついたりしたことを訊ねると、お兄様は感情を見せない鉄壁の笑みを浮かべていた。
次いでにちょっとお色気モード混じりましたね。良くない気配が漂います。
「あのような?何かあったか」
耳元で囁くけれど、わかってて言ってますよね。
「亜夜子さん達を揶揄いたかったのですか?」
その手には乗らない、とお兄様の腕を突く。
するとお兄様は悪びれも無く笑いながらそんなつもりはないと言うと首元に顔を埋めてきた。
「揶揄いたかったというか、自慢かな。いつもは仲の良い姿なんて見せることができず、見せつけられるばかりだったからね」
…それは、そうではあるけれど…そのことを言われてしまうと、許してしまいたくなる。
お兄様にはいろんな場面で我慢させてしまっているし、仲の良い、気の許せる親戚くらいにはいつもの姿を見せたかった、ということなのだろうけど――お兄様大好きな亜夜子ちゃんには衝撃が大きすぎたと思うよ。
「それで、深雪はどうしてあの場で落ち込んだんだ?」
「落ち込んだ、と言いますか。亜夜子さんを微笑ましく思って見たら、気分を害してしまったようだったので申し訳ない気持ちになったと言いますか」
「…深雪は本当に可愛いモノに目がないね。なるべく関わらないようにしているのに、可愛がりたくて仕方がなさそうにいつも見ていたもんな」
「やはり、気づかれていましたか」
黒羽の姉弟を許されるならもっと以前から愛でたかった。
けれど、彼らと私が仲良くなれたとしたらきっと彼女たちの父親が何らかの対策を立てる可能性があった。
切れ者のおじ様に動かれてしまうのは、いろいろ都合が悪くなりそうだったので。
「本人たちには気づかれていないようだがな」
本人たちにまで気づかれていたら憤死ものですよ。
できればお兄様にもバレたくは無かったけれど。
「お兄様には何でもお見通しですね」
「何でも、ではないさ。でもいつも見落とさないように必死に目を凝らしているつもりだがな」
目を凝らさなくてもお兄様の眼なら見えるでしょうに、なんてツッコまないけれど。
それにしてもお兄様お顔が近い。こんなに近いと毛穴まで全部見られそうでちょっと勘弁していただきたい。
深雪ちゃんにだってミクロの毛穴くらいあるのです。人なのでね。ミクロと呼びたくなるほど小さいけど。
「何でもではないから、教えてくれないか?」
「いったい何を聞きたいのです?」
この時になってお兄様の動きの異変に気が付いた。これ、抱きしめているのではなく拘束でしたね。
「昼間、話していたのは七宝か」
昼間?ああ、あれか。そういえばお兄様に報告してなかったね。
大したことない話だったからうっかり話すことを忘れていた。
「七草家との関わりが本当に無いかと訊ねられました。…どうにも彼はどこかから唆されているような印象を受けますね」
あんなに七草と大した付き合いはないと伝えているのだからわかりそうなものなのだけど、どうしてかリセットされちゃうんだよね。
もしかして泉美ちゃんに懐かれていることも疑われる要因に?それは無いか。
「前にもそんな話があったな。七宝を操っている奴がいると」
「操っているというよりノせられている、でしょうか」
ブランシュの時や、論文コンペの時のような洗脳じゃない。
彼は別に魔法なんて受けてない。魅惑のお姉さんによる誘導で手のひらコロコロされているだけである。
魔法じゃない手のひらコロコロは解除できないから余計に厄介だよね。
「七宝の後ろに誰かがいる、か。また妙なことになってきたな。その上今回のマスコミ工作があると」
「七草も余計なことを仕掛けてきますね」
七草と九島の共闘というけれど、九島は黙認する、というだけなので主犯は七草だ。
その目的は十師族でも特出した力を持つ四葉の弱体化…というけれど、表立って私たちが四葉と名乗っていないのに一高を揺さぶることで、どうやって弱体化に繋がるのだろうか。
ただの嫌がらせくらいにしかならないんじゃないの?
お兄様との軍の関係をばらす?それなら確かに高校生が軍の所属しているのはセンセーショナルな話題ではあるけれど、そこでもし、四葉とつながりを見せたとして、――四葉が世間から叩かれたとして、十師族を抜ける?
それこそありえない。そんなことになれば国防を任せられる人材がいなくなる。
今の日本を守れるのは抑止力の戦略級魔法師のいる五輪と新ソ連の侵攻を食い止めている一条が有名なところ。
十文字も軍と深い関係もあるが、関東の守りとしては昨年の横浜を見てもわかる通り未然に防ぐ意味では機能できていない。
…そういえば七草先輩から実際声はかかっていないけれど、自宅に私たち兄妹を招こうとしている描写があったね。
つまりお兄様を取り込もうとしていたのか、七草に。そうすれば念願の四葉が手に入るものね。どう念願なのか知らないけれど。
匿うという理由をこじ付けて取り込もうとしている、のか?
この先七草先輩とも婚約させようとしたりしたよね。
別に恋愛でくっつく分には良いんだよ。二人が心から結ばれるのなら、幸せになるというのなら結婚も構わない。
だけどそこにお兄様の利用が結びつくのはダメだ。くっついたとしても七草家からは遠ざけさせてもらう。
きっと七草弘一の考えを知れば七草先輩自ら家を出そうだしね。
お兄様と幸せに暮らしてくれるというのならばどこにでも居場所を提供しようじゃないの。
って話が逸れに逸れた。
お兄様が四葉の主力である、と当主が気付いて奪おうとするのであれば四葉の弱体化に繋がるのだろうか。
答えは否。
確かにお兄様が不在となれば戦力は一部ダウンするだろうけれど、お兄様が戦場に立つ前まで――依頼を熟すようになる前までも、十分に四葉は力を有していた。
今だってお兄様の使いどころは最小限だ。つまり弱体化はしない。
叔母様がキレて冷静さを失ったとしても、葉山さんがいる。必ず叔母様の暴走を止めてくれるはずだ。
たとえ彼が四葉を欲しがりお兄様を手に入れようと画策したとしても、お兄様が不幸になるかもしれない男のいる家にお兄様を行かせるわけがない。
そんなこと、この私が絶対に許さない。
「彼らの思う通りになったとして、誰が幸せになれるのでしょうね」
「少なくとも俺たちは幸せにはなれそうにないな」
「なら、彼らの幻想を打ち砕かないとですね」
ぎゅっと、お兄様に抱きつくと、お兄様は力強く抱き返してくれた。
「お前の望むままに」
NEXT→