妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
原作でも、この時間は存在した。
深雪ちゃんがお兄様と二人きりで改めてお誕生日をお祝いするイベントだ。
ドレスアップした深雪ちゃんはそれはそれは麗しかった。16歳とは思えぬ魅力あふれる姿に、お兄様もさぞ驚かれたことだろう。
あの大胆なドレスは並の女子高生に着こなせるわけがない。
それを難なく着こなしてみせ、シャンパンを携える姿はただの部屋をも一瞬で高級ホテルの最上級クラスの部屋に変貌させてしまうほどの高級感を漂わせていた。
一つ間違えば大胆セクシーな衣装なのに、気品あるように見えるのは深雪ちゃん本来の性質によるモノなのだろうね。
お兄様が元々学生には見えない貫禄があるから深雪ちゃんもそれに合わせたかったのかもしれない。
誰にもまねできない特別を演出したかった深雪ちゃん。
誰よりもお兄様の記憶に残る様に、お祝いしたかったのだろう。
健気な乙女心のなせる行動。
だけどそれは私にはできなかった。というより、そこまで記憶に刻み込むこともないと思っている。
お兄様をお祝いすることに一番なんて拘ることはない。
お兄様が幸せであること。喜んでもらうこと。それが大事だから。
…ちょっぴり興味はあったけどね。ああいう恰好をしたらお兄様がどんな反応を示してくれるか、とか。残念だけど私では勇気が足りませんでした。
私的には十分にお兄様に喜んでもらえたので、大人しく部屋に下がったのだけれど、まさかこうしてお兄様の方から来てくださるとは思わなかった。
シャンパンは無理でも、お茶でも取りに行こうかと思ったのだけど、一時間しかないならこのまま一緒に過ごしたい、というお兄様の言葉によってなぜか私のベッドの上で横並びに座っておしゃべりする状況になっていた。
いや、お茶は無くてもいいのだけど、椅子ありますよ。
わざわざベッドの上でなくても、と思うのだけど、逆に変に意識してると思われるのも良くないか、と表面上は何事も無いですよの仮面で乗り切っている。
以前に比べて二人きりの時間というのは少なくなった気がするけれど、こうしておしゃべりする時間は増えた気がする。
前までは一緒の空間にいるだけで静かに過ごすことの方が多かった。
二人寄り添ってお兄様は本を読まれたり、時折思い出したように頭を撫でられたり、そんな無言の時間を過ごしていた。
今思えば、あの頃は話す必要があまりなかったんだよね。
ほとんどを共有できていたため真新しいことがなかったから。
だけど今は違う。それぞれお互いにいろんな新しいことが起きる。
たくさんおしゃべりしないと共有できないことが互いに増えてきたのだ。
軍に行っているお兄様、ラボに行っているお兄様、お仕事に行っているお兄様を私は今まで知ろうとしなかった。
根掘り葉掘り聞くのもお兄様には煩わしいだろうと聞かずにいられたけれど、学校のこととなると興味が尽きない。
「魔工科はまだ手探り状態なんですね」
「夏までには授業も形付くと思うがな」
色々実験的な授業が行われているらしい。
いくら試験で篩いに落としても実際生徒がどのあたりまでできるのか手探り状態なので少し授業に遅れが出ているんだって。
ジェニファー先生はきちんと生徒に寄り添って授業をしてくれているみたいね。良い先生だ。
明日はそのジェニファー先生と廿楽先生が私たちを守ってくれる。
良い先生たちに巡り合っていることに感謝しかない。
「――明日の実験はきっとうまくいきます」
唐突な話題に、お兄様はそうだね、と私の肩を抱いた。
不安がっていると思われたのかもしれない。その手に少し力が込められている。
実験については何一つ不安ではない。リハも安定していて、妨害でもない限り失敗はありえない。
問題は――マスコミたちの動きだ。
亜夜子ちゃん達からの追加情報は無いけれど、ウチのセクションからの暗号メールで届く内容には、予想外に正義のジャーナリストたちがアクティブに動いているという情報があった。
よくあのサイトに顔を出しているメンバーである。
派手に動き過ぎなければいいなと思うんだけど。彼らの動きがどういったものかは知らないのでちょっと心配。
下手に目立って追い詰められて、なんてことにならないようにね。
(なんて、これがフラグになったらどうしよう)
「心配いらないよ」
まるで心を見透かすような言葉に、思わずお兄様の顔を見上げた。
至近距離で視線がぶつかる。
「はい、お兄様」
気が付いたらそう口にしていた。
そうだ、心配することは何もない。
実験が成功すれば、彼らは大口を叩けば叩くほど損をすることになる。それだけの罠が張り巡らされているのだから。
お兄様の言葉は不思議だ。簡単に私から不安を拭い取ってしまう。
そっとお兄様の胸に寄り添うと、お兄様の腕が私を包み込んだ。
「言っておいてなんだが、俺の言葉を簡単に信じすぎじゃないか?」
「お兄様の言葉には信頼と実績がありますから」
どこかの老舗企業のような文言を返せば、お兄様はクスッと笑った。
「どこかの使いまわされたキャッチコピーだな」
密着してくすくすと笑い合う。
お兄様の温かい体温が伝わって、私の体まで温かくなった。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもの。今日も残るところあと五分となった。
…本当は、贈るのを少しためらっているものがある。
食事を終えた後、プレゼントには刺繍を入れたタオルをプレゼントしている。
もっとも無難で日用雑貨だから使って消耗してくれるだろうと。
お兄様も喜んで受け取ってくれた。だからもう、プレゼントを贈る必要はない、のだけれど。
「お兄様、少し放してくださいますか」
お兄様の腕から解放されて、私は机の引き出しにしまっておいた小さな箱を取り出した。
リボンもかけていない、けれどしっかりとした箱は高級感がある作りだった。
中もベルベットの生地になっているからそれっぽい。
…このベルベットは私が用意してつけたものだけどね。元のままだと寂しかったので。
「どうぞ」
「…これは、ネクタイピンか」
包装もしていなかったので簡単に開く小箱がお兄様によって開けられ、すぐに中身が見えた。
シンプルなシルバーのネクタイピン。
その先端には小粒の透明な石が申し訳程度についていてきらりと輝いている。
人工ダイヤなので透明度が高く、一見ガラスにも見えるだろうけれど、お兄様は気付いているようだ。
「誕生石だね」
四月生まれはダイヤモンドですからね。でも、それだけではない。
「それはレンズの役割もしております」
お兄様の目の色が変わった。
手に取ってみると、裏のクリップの部分が普通より大きいのがわかる。
そこには超小型バッテリーと転送装置も入っているからそのサイズなんだけど。
知ればそれがとんでもない小ささだと驚愕するだろう。
「オンの状態で衝撃が伝わると自動で録画機能が作動します。転送先は好きに設定できますのでお兄様の端末にでもどうぞ」
「……こんなサイズは見たことが無い」
でしょうね。軍でもこんなのないと思いますよ。
うちの変態技術者が私の出した企画に気が狂ったように笑いながら楽しそうに作ったそうです。
…某名探偵の世界の博士のつくった盗聴器って異常だと思う。
けどこの時代ならできるんじゃない?と提案したら、まあ、できちゃったみたいで。
外部転送ではあるけれど録画機能までついちゃった。手近の端末に転送するように設定すると電波もたいして飛ばないので傍受される恐れも無いんだとか。
どんな技術が組み込まれているのか。なんでも頼んでみるものだね。
「お兄様は何かと事件に巻き込まれますからね。証拠になったらいいな、程度に使っていただけたらと。もちろんオフにしてただのネクタイピンとして使っていただいても構いません」
お兄様のお好きなように、と笑うと、ちょうど零時になるところだった。
「お兄様。お誕生日おめでとうございます。お兄様の幸せをこれからも祈っております」
「お前が傍に居てくれれば、俺はいつでも幸せだよ。ありがとう」
ずっとお傍に居ることなんてできませんよ、なんて無粋なことは言わない。
今は二人、傍に居るのだから。
ちなみに、ネクタイピンを贈る意味にはあなたは私のもの、という意味もあるけれど、私が守る、の方の意味を込めて贈らせていただいた。
お兄様は私が守る!その幸せも見守っていきますからね。どんどん幸せになってください。
――
やってきました議員先生の訪問です。この間の上野先生よりも小粒感。野党の若手だしね、飛び道具ならこんなモノでしょう。
そちらも気になるだろうけど、生徒たちの注目はこれから行われる世紀の実験だった。
授業中の時間だけれどね、この実験がどれほどすごいか魔法に携わる人間ならわかるだろうから。
おじさんが引きつれたマスコミ達よりこっちの方が生徒たちだって気になる。
教員たちも見学を止めることなく、むしろ見学を推奨しているようだった。
中条会長とお兄様の指示のもと、私たちは魔法を順番に展開していく。何度も練習したおかげで実にスムーズな流れ。
生徒たちが固唾を飲んで見守る中、工程を一つ一つクリアしていき――そして、中条会長による実験成功の言葉に割れんばかりの歓声が上がった。
来客陣にはその声の大きさに自体が呑み込めないのか動揺している。
今目の前で行われた実験がどれほどの意義があることなのか理解できていないのだ。
…まあ専門外ですからそんなものですよね。議員先生たちが食って掛かるように廿楽先生たちに質問している様子を尻目に私たちはさっさと撤収作業に入る。
後片付けまでが実験ですからね。サクサク片付けましょう。
皆で作業をしていると遠くで廿楽先生の高笑いが聞こえた。ああ、悪役っぽい。素敵です廿楽先生!
そういえば私はまだ七宝君に悪役ムーヴを見せていない。格の違いを見せたいのだけど、この間も普通に接しちゃったのよね。
まあ観客もいないところで悪役したらただの悪い人にしかならないから。意味がない悪役はしません。
今の段階で嫌われても良いことないだろうしね、彼の場合。
でもそうだ。この後七宝君は七草家がこの件に関わっていることを中途半端に知って、変に勘違いして突っかかりに行っちゃうんだよね。
そこで原作では七草双子と直接対決するわけだけど…あれはお兄様が憎まれるだけの消化不良な試合になる。
納得いかない。あのお兄様の決断は正しかったのに。
二組の魔法が未熟だから、危険と判断してお兄様は止めたというのに言いがかりが付けられる。
決着がきちんとした形で付かなかったことが彼らには不満となってお兄様にぶつけられるのだ。理不尽。
いくらお兄様の幸運値が低いからと言ってあんまりだ。
これはぜひとも回避したい。
放課後、生徒会室で千秋ちゃんやケント君たち有志を集めてちょっとした慰労会をやった。
お茶菓子はお家で作って持ってきていた。前回生徒会の皆で食べそびれたパウンドケーキだ。
人数に合わせて切り分ければいいだけだから何人来ても対応可能。
人数が多かったけど、皆小っちゃかったり線の細い人ばかりだったので何とか座れた。
私は水波ちゃんとお兄様に密着されてましたけどね。ほのかちゃんごめんよ。
そして泉美ちゃんはそんなぎりぃ、みたいなお顔しちゃダメよ。可愛いんだから。
注意する為に顔を向けようとするときゅるんと戻るんだけどね。その様子に香澄ちゃんと千秋ちゃんはドン引き。なかなかカオスだなぁ。
お茶はピクシーが運んでくれたけど、淹れたのは私と泉美ちゃん。と言っても泉美ちゃんはほぼ見学だったけどね。
流れだけでも覚えてもらえれば、と実践してみせたのだけど、私ばっかり見られてたね。覚えられたかな。
多分七草さんちのお嬢さんだから紅茶の淹れ方なんて見慣れてるかもしれないね。
実験の成功を喜び合い、今後の流れを少しだけ話し合うと、議員の策略等に気付いていなかった人たちが驚愕の表情に。
ただの実験として手伝ってくれてたのに、裏事情を聞かせちゃってごめんね。
でもこういうのは早い段階で知っておいた方がきっと君たちのためになるから。
この実験が成功したことで一高は注目を浴びることは予測できた。それだけ大きなことを証明した実験だったから当然とも言える。大学からもすでに連絡がきているとか。
先生たちもここに参加してもらおうと思ったけれど、すでに連絡が多数きていてそっちの対応に忙しいのだと断られてしまった。
仕事を増やして申し訳ないけれど、先生たちはとてもいい笑顔をしていたので安心しています。
生徒会として生徒を守る活動ができたのはよかった、と言って中条会長が安堵したことで、新入生は尊敬の眼差しで会長を見ていたけれど、気の抜けた先輩はその視線よりもケーキに舌鼓を打っていた。
美味しいですか。良かったです。え?手作りですよ。そんなキラキラしたお目目を向けられてもおかわりは一切れしか出せませんよ。先生の分は切り分けてましたのでね。
あと一切れ誰か欲しい人います?――争奪戦が起きてじゃんけんとなった。
ゲットした千秋ちゃんは別に欲しかったわけじゃないけど、お兄様たちに渡すのが癪だったとのこと。
でも味は悪くないわ、とのツンデレを頂きましたので私としてはご満悦です。
その言葉に突っかかろうとした泉美ちゃんだけど、私が気にしていないことを伝えると不服そうだけれども黙った。ありがとうね。
止めさせなくて大丈夫です。私はツンデレ結構好きだから。女の子のツンデレ大歓迎。
男の子のツンデレは受けたことが無いのでノーコメント。
…お兄様のツンデレとか興味なくはないけど、お兄様の場合ツンデレというよりSっ気のほうが強そうでですね。また種類が異なりそうなんですよね。
でも興味があったので脳内でちょっぴり想像してみた。
「お、お前のためじゃないんだからな!」
……ちがう、こんなのお兄様じゃない。お兄様は全て深雪ちゃんのためだから。解釈違いだった。もしくは言葉のチョイスミス。
一条くん辺りなら似合いそうだね。西城くんも有りだし吉田くんもいけそう。だけどお兄様だけが合わない。絶望的に似合わない。
「あなたのためではありませんが」
無表情で敬語ならお兄様だ。うん。でもやっぱりツンデレじゃあ無いんだよね。ツンがつんつんじゃなくてツンドラなところがまず違う。
クーデレならワンチャン?だとしても妹の私に向くことは無いんだよね。
「深雪」
じっと見つめていたことに、お兄様が食べたいのか?とケーキを一口サイズに切り分けたのを差し出しますが、大丈夫です。お兄様がお食べ下さい。
NEXT→