妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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入学編⑪

甲視点

 

 

この美しい少女のことをなんと形容するのが正しいのか、自分にはわからない。

この世の粋を結集させてつくらせた芸術作品。

まだ少女と呼べる年齢なのに完成されたような美しさに、移動班として車を運転している兄の部下がちらちらとミラー越しに視線を向けていた。

もう一人のカモフラージュ担当の男など、今にも触れそうだ。

しかし、そんなことはさせない。

 

「不用意に触れるなよ。そんなに強い薬じゃない」

「わかってるよんなこたぁ」

 

未練たらたらの声での否定に、こちらも警戒しなければならないのかと車中何度かけん制する羽目になった。

そして薬は運んでいる最中に予想通り切れてきた。

 

「ん、…」

「もうちょっとで着くから大丈夫だよ」

 

朦朧とする彼女を安心させるように声を掛けると、まだ兄に会っていないというのに従順に頷いた。

もしかしたら自分の説得が効いていて心を許してくれているのではないかと思えた。

あれだけ純粋に自身の兄のためにと動いていた彼女のことだ。きっと人を疑うことを知らないのかもしれない。

同じ兄を助けたいという気持ちが彼女の心を動かしたのだ。

だから共に平等な社会を目指す活動にも協力してくれるはずだ。

着いた先はバイオ燃料の工場であった場所だが、すでに機械類は運ばれており、机と椅子が並んでいるので広い講演会場…というにはうらぶれた雰囲気が漂うが。

その最奥に兄がいた。

いつもより人が多いのは学校で有名な優等生を連れて行くと伝えたからか、それとも美少女と名高い彼女が見られるからか。

兄の方に歩いていると下品な口笛が聞こえる。

物騒な仕事もあるから荒くれ者も仲間にいるのは仕方がないが、彼女が怯えて逃げたらどうするつもりだ。

兄もそう思ったのか手を挙げて黙らせた。

こっそり周りを見回すと、魔法師に対抗する可能性を考えているのか銃火器を持った奴らがちらほら。

しかしその顔はどれも司波さんを見て脂下がっている。

ようやく兄の元にたどり着くと、まずはご苦労、と労いの言葉。そして下がるように指示されるが、いつもと違い少し下がる程度、部屋を退出まではしなかった。

兄は眉を潜めたが何も言わない。

…俺はどうしたんだろう。いつも兄の言うとおりにしていたのに。もしや司波さんから離れがたかった、とか。

自分の行動がよくわからなかった。

まだぼんやりとしている司波さんは立っているのもやっとで、部下の人がすぐに椅子を持ってきて座らせた。

 

「よく来てくれたね。君のことは弟から聞いているよ。理不尽な評価を受けている兄を助けようとした話は、同じ兄弟のいる身としてとても感動した。

そして君の力になりたいと思ったんだ」

「あの、ここはどこです?…あなたは」

 

とても弱弱しい声。

自分が盛ったのが睡眠薬ではなく毒薬だったのではと心配になるほど衰弱している。

それが彼女をより一層儚く見せた。

その彼女に兄はゆっくりと近づいて視線を合わせる。

 

「ここには仲間しかいない、安全な場所だよ。そして君も、今から僕達の仲間だ!」

 

サングラスを外して、強くそう言い放った兄に、少女の元々力の入っていなかった体がさらに力を抜いて倒れそうになるのを兄が支えて高笑いを上げた。

 

「あはははは!呆気ないもんだな。魔法力がとんでもないと聞いていたが俺の力をもってすればこんなものだ!」

 

周囲も同調するようにゲラゲラと笑い声が上がる。

――これは、なんだ?兄は、何を――

 

「甲、お前は一度学校に戻れ。そして明日の討論会は格好の侵入日だ!お前が手引きしろ!」

 

いいな、と光る眼に俺は――何も考えられなくなる。

 

「はい、兄さん」

 

兄さんが言うことはいつも正しい、から…?

あれ、でも司波さんが…

学校に行かなくては、でも司波さんを残していくのか…?

なぜか兄の言葉にいつも持たない疑問を持つ。

閉まる扉の前には誰も見張りがいない。

周囲を『目』で見ても同じ反応だ。

初めて兄に逆らうように耳を当てた。

 

「ったく、長い計画だったぜ。使えねぇ魔法師たちの卵を懐柔してようやく使い物になったらこんなにかかっちまった」

「明日の計画だが、卵たちが集まっている講堂に陽動を掛ける。もう一班は職員室に。いくら魔法師と言ってもCADがなければほとんど何もできん。アンティナイトはガンガン利用していけ」

「本命の文献やらはあのガキどもと合流しないとどうこうできないからな」

「だが、いざとなれば怖気づかねぇか?」

「そんなもん、事を起こしゃあ共犯者よ。逃げられねぇさ」

「流石支部長」

「それにこんな上玉が手に入ったんだ。利用しない手はねぇ」

「おいおい、それだがいつもと利きが違くねぇか?あれから全く動いてねぇじゃねえか」

「魔法力が強すぎると俺の力は効きづらいが、薬も使った上、大事なお兄様とやらで心がぐらぐらしてればかからねぇわけがない」

「だが明日使ってポイっとするには勿体ねぇな」

「んなことするかよ。こんな上玉誰が手放すと思う?」

「おいおい、ロリコンかよ」

「これを前にロリコンもあるか?」

「違えねぇ!」

 

聞くに堪えない会話だった。

だが動けない。

体が扉を開けることを拒む。

それは兄に学校に戻れと言われたからか。

そうだ、学校に行かなくては…

 

「とりあえず明日があるんだ、手を出すことはしないが、そうだな――景気づけにストリップショーでもしてもらおうか」

 

学校に、戻って――誰か、彼女を――…そうだ、彼なら――

そう願ったからだろうか、工場を出ようとしたところで見覚えのない車から、『彼』が降りてきた。

 

「司甲、拘束させてもらうぞ」

「じゅう、文字会頭、あの!中に、司波さんが!彼女を」

「司波」

「彼を逃がさないでください」

 

やはり彼女のヒーローは彼のお兄さんだったんだ。

僕も、そうだったはず、なのにいったいどこで間違えたのだろう?

中に向かう司波の背中は恐れるものなど何もないと語っているようだった。

 

 

――

 

 

深雪視点

 

 

はーい、こちら囚われのお姫様やってます深雪ちゃんです。

いやー、長期計画頑張ってますってわりに突貫でカワイ子ちゃん使えそうだし攫っちゃう?というイレギュラーやっちゃう組織て…。

杜撰。杜撰すぎますよ。穴ぼこだらけ。

まあ策と力に溺れたのかな。資金も潤沢にいただいているみたいですしね。

腕に発信機・パノラマ録画機能付き時計付いたままなんですけど。

音なんてリアル中継されちゃってるから全部筒抜けですよー。

このくらいの組織じゃ音波遮断の魔法使わないでしょうしね。

それにねぇ、明らかに薬入ってます!って言わんばかりのお紅茶誰がまともに飲むんですか?家業:暗殺なお家の方たちぐらいですよ。

まあ香りや一舐めして、これはどこ製のお薬ですねとのテイスティングはお嬢様の嗜みですけど。

あ、でも叔母様はそんなことしないってドン引きしてたっけ。

いいじゃないですか役に立つんですから。

それに魔法のある世界ですからね。致死じゃなければ何とかなります!

というわけで、はじめ彼らはお兄様がターゲットだったけど私も釣れるんじゃ、なんて欲をかいたものだからさあ大変。

パーフェクト美少女という名のラスボス予備軍を降臨させてしまったわけですね。

現在いやらしい視線に晒されております。

わかりやすい悪の組織です。新たな罪状自分で増やして世話無いですね。

――まあ、この方が何かと都合がいいのですけれど。

 

「私を見てくださるの?――嬉しいわ」

 

可憐な少女の声はどこか嬉しそうに響く。

男たちは言葉の意味も考えられずに唾を飲み込んだ。

ゆっくり立ち上がり、上着をするりと滑らせて、むき出しになる腕に見る者すべてが時を止めたかのように食い入るように見つめ――動かなくなる。

 

振動減速・精神干渉複合広域魔法「ステンノウィスパー」。

 

そう名付けてはいるけれど人にその名を教えることはない。

ギリシャ神話のゴルゴン三姉妹の長女、理想の女性の偶像であるステンノを見た者は皆魅了されて動けなくなることを由来にしているのだけど、オリジナルの固有魔法である。…名前からもわかるだろうが私の中二病が唸った結果だ。

だが自衛の魔法としてこれほど素晴らしいものはない。

CADを使わなくても使えるようになるのにはかなり苦労したけれど、その価値は十二分にある。

魔法力はかなり使うし、編み上げるのに時間もかかる。

けどその分威力は半端ないし、振動減速魔法特有の冷気が漂わないので対象に不審に思われるリスクもない。

言葉をキーワードに、私に釘付けになっている者を対象に徐々に全ての動きを止める。

凍るわけでもなく、ただ動かなくなるだけな上、見ている者全てという破格の効果。

その全てには肉眼以外も含まれる。

画面を通してでもレンズを通してでも、見た者はすべからく活動を停止させるのだ。

だが活動を停止と言うが、死ぬわけでもない。

解除すれば普通に活動を再開する。その固まっている間に対象を捕縛すれば事件は解決だ。

便利すぎるがこれをめったに使わない理由は二つ。

精神干渉は四葉の秘術だ。使ったらいくら複合でもばれる可能性はゼロじゃない。

そして何よりこれが問題、――お兄様が嫌がるのだ。

この魔法の最大の欠点と言ってもいい。

『見る者全て』にはお兄様のエレメンタル・サイトも含まれてしまうのだ。

だから必ずこの魔法を使う時にはキーワードを使う。

これから魔法使うよー、という合図であり『眼』を閉じてーと言っているのである。

お兄様がうっかり見ないように。

 

コンコンコンコン。

 

ノックが響く。

 

「お迎えありがとうございます、お兄様」

 

脱ぎかけたままになっていた上着を羽織りなおして声を掛ければ開かれる扉。

お兄様お一人なのはノックのリズムでわかっていたので普段の話し方で出迎える。

 

「入り口で司甲を十文字先輩が取り押さえている」

「ああ。どうやら先輩は随分洗脳されていたようですね」

「…だから殺すな、と?」

「被害者は殺さなくてよろしいのでは?」

「深雪を攫った実行犯だ」

「命じられて、ですよ」

「…だめか?」

「だめですね」

 

わかっていても割り切れないお兄様は駄々をこねるけどこればっかりはだめです。

原作より殺意が高いのは私が攫わせたりしたからだろう。でもこれは事件を起こさず一網打尽にするための策でしたからね。

 

「十文字先輩がいるなら戻りましょう。…あ、この場はどうなるのです?」

「風間さんたちが動いてくれるそうだよ。小野先生の所属先ともお話が付いたそうだ」

「なら解除するタイミングがわかりやすくていいですね」

「いるか?解除」

「いりますよお兄様。――きっと黒幕なんてわからないでしょうけど」

「アンティナイトや武器の入手先では辿れないだろうな」

 

戻る道すがら、腕を触り、気づく。

 

「あ、CAD預けたままでした…」

 

相手をあまり刺激させないため、生徒会役員は携帯可のCADをあえて一般生徒同様預けたのだ。

持ったままで誰かがべたべた触るのが耐えられなかったので。

 

「すまない、そこまで気が回らなかった」

「いえ!お兄様は何も悪くありません。ただ、早く帰りたいです」

 

攫われた時も、主犯の元に連れられた時も嫌だったが、何よりも嘗め回すような視線が気持ち悪かった。

一刻も早く帰ってお風呂に入りたい。

身を清めたい。

それだけが頭を占めていた。恐怖心?そんなものは初めから持ち合わせておりません。お兄様が視ていて、駆けつけるとわかっていて何を恐れればいいのか。

だから隣から向けられている視線に気づけなかった。

お兄様の目が、まだ火を灯したままだということを。

 

 

 

十文字先輩と車…よく似合っていると思います。

車の後部座席には意識を失っている司先輩の姿もある。

 

「無事だったか」

「お、兄さんが助けに来てくれましたから」

 

安堵した十文字先輩のお顔ってかなりのレアじゃないですか?ありがとうございます。

 

「心配して下さってありがとうございます」

 

間違えた。お礼を言うならこちらが先でしたよ。ちょっと呆けてますね。

 

「これから学校に戻る、でいいんだな」

「それなんですが先輩、深雪だけ先にお願いします」

「え?」

「ちょっと気になることがありましたので。確認したらすぐ戻ります」

「それならここで待っているが」

「こんな場所にいつまでも深雪がいては深雪の心労が心配ですので」

 

どうあっても共に行かない、という意思を感じ取った十文字先輩は一つ頷くと車に乗り込む。

 

「兄さん、」

「お前も早く乗りなさい。大丈夫、すぐに俺も学校に戻るから」

 

もしかして何か『視えた』のかもしれない。

だとしたら邪魔はできないとしぶしぶ私も車に乗った。

 

「では十文字先輩、よろしくお願いします」

「心得た」

 

お兄様は見えなくなるまでこちらをずっと見ていた。

見えなくなったら――いったいどこへ向かおうというのか。

 

「司波が、兄が心配か?」

「いいえ、兄さんなら必ず私の元に戻ってきてくれますから」

 

それ以降会話はなかったが、意外にも重苦しい空気ではなくむしろ心地のいい無言が続き、学校まで安全運転でたどり着いた。

司先輩を俵担ぎする先輩に、木彫りの熊を連想しながら裏口から校舎へと入っていった。

 

 

――

 

 

生徒会室では根掘り葉掘り聞かれることはなく、労いの言葉をたくさんいただいた。

正直それより風呂に、シャワーでもいいから浴びたい。

お願いしたら悲壮な顔をされた。

あ、違います何もされて――ないわけじゃないけどそういうんじゃなくてですね。

本当市原先輩がいてくれて助かった。

誤解を解いてくれた上にシャワー借りられた。

シャワー室もついてる生徒会室ってそれなんてブラック企業?とか私は聞かない。

きっとリフレッシュするためにあるんだ。そうに違いない。

とりあえずさっぱりして、運動着に着替える。

いくら制服も魔法で綺麗になると言ってもなんとなく手垢って嫌じゃない?気分の問題だけどちょっと私は無理だった。

これを見越してってわけじゃないけど予備で制服買っておいてよかった。

ついでにもう一着用意しておこう。いつ何時、何があるかわからないからね。学校に常備しとこうかな。

そう考えながら生徒会室に戻って改めてお礼を述べる。

皆安心した顔に戻ったようで、何よりです。

十文字先輩が事情説明してくれたのと、風紀委員でもうまく取り締まれたのかな。

ああ、壬生先輩含めメンバー全員保健室経由で検査の為病院へ。洗脳ですからね。何かしら精神に異常をきたしている可能性もあるし当然の処置です。よかったよかった。

 

こんこんこんこん。

 

ノックと共に「失礼します」のお兄様の声!

しゅたっと思わず扉の近くに立って待ってしまう。

 

「深雪」

 

生徒会室に入ってきたお兄様は私の姿を確認して、言葉もなく抱きしめられた。

 

「兄さん」

 

私も、大丈夫と伝えるように強く抱き返す。

 

「深雪だけだ。お前だけが俺の心臓を止められる」

 

おおっと、お兄様それ四葉ジョーク?真実を知ってると余計に笑えなくなるジョークですね!

とりあえずここはひとつ受け流して見せましょう。

 

「心配かけてごめんなさい。来てくれてありがとう」

「当たり前だ」

「兄さんが来てくれるってわかってたからちっとも怖くなかった」

 

これは本当。むしろ組織の馬鹿さ加減に鼻で笑っていたレベルだ。

 

「あのぅ、そろそろ私たちのこと思い出してくれると嬉しいなぁ、なんて」

 

もっと前に話しかけてくれてもよかったんですよ?

っていうか先輩方顔赤いですね。

夕日?今のご時世窓にライトカットが入ってるから夕日が校舎を照らして~みたいなことはドラマくらいでしか見ないから違うと思うけど。

 

「ああ。深雪を奪還しました。誘拐犯たちはちょうど公安警察が張っていたところだったので、無事制圧されたとのことでした」

「こ、公安!?そんなところまで動いていたの?」

「生徒が洗脳されていたくらいですから、そのくらい動いていてもおかしくはないでしょう。生徒の被害状況はどうでした?」

「まだちゃんと検査しないとだけど、今のところ重症レベルは一人、主将の司くんだけみたい。…詳しいことは分からないのだけどその、義理のお兄さんが主犯だったとか。もしかして入学させるところから――」

「そのあたりは調査が進んでから、でしょう。我々の知るところではないかもしれませんが」

「そう、ね。――明日の討論会はどうしようかしら」

「どうもこうも、討論会はやります。そして事情をある程度説明した上で対象となる生徒をカウンセリングです」

 

市原先輩こんなにできてなんで生徒会長やらないの?陰で動きたいタイプ⁇ならしょうがないね。

 

「…こんな中まだ抱き合っている司波兄妹が心配でならないんだが、お前たち本当に恋人じゃないんだよな」

 

誰もツッコまないからどうしようと思ってたけど渡辺先輩ありがとう。でも恋人でもこれはおかしいと思うの。

 

「血の繋がりがなければ恋人にしたいと思うことはありますね」

 

ここでお兄様のとんでもジョーク第二弾が放たれましたね。

これは飛距離が出そうです。

みんなポカーンとしてますよ。

 

「兄さん、ジョークは笑って言わないと通じにくいと思う」

「そうか」

「はは、ジョークか」

 

渡辺先輩お疲れだね。御顔が引きつってます。きっと私がいない間いろんなところを駆けずり回ったりして疲れたんだね。

私たちの事件は大っぴらに捜査してないから生徒の中で知っている人はいない。

おかげで誘拐犯として司先輩やほう助したとかで壬生先輩たちが捕まる恐れすらない。

何よりも彼らは被害者で、まだ重大な事件を起こす前だったことも大きい。

 

「ともあれ二人には学校からも正式に謝罪があると思うけど、先に生徒会長として謝罪させていただきます。

このような危険な目に遭わせて本当にごめんなさい」

 

…ほかの8つの学校ってなにもないのかな。一高だけこんなに事件が多いのかしら?

まあ東京だし?魔法科大学も近いから他の高校より狙われやすいのはしょうがないのかな。

 

「謝罪を受けます。今後このようなことがないことを願います」

 

お兄様が答え、私も一礼してそれに応えた。

…ようやくこれで入学編は終わりかな。

校舎の一部が壊れ、重要機密文書が盗まれそうになることも、生徒が傷だらけで戦うこともなく、この事件は未然に解決した。

 

 

――

 

 

した、のだけど。

帰って即調整でもないのに体調チェックのため地下室に測定へ。

何もなかったことを確認してから今度は湯を張ったお風呂に。

お風呂を上がったらなぜかお兄様手ずから髪を手入れされ、――もしやここは注文の多い料理店?

もしかして食べられちゃいます?

 

「お兄様、私は美味しくないと思います」

「…何がどうしてそういうことになったかわからないが、とりあえず深雪が不味いなどありえないだろう」

 

何がどうしてそういう結論になったかさっぱりなんですが、まず人間は美味しくないと思いますよお兄様。

だめだ。会話にならない。

 

「お腹が空いたなら今すぐ食事を用意しますね」

「いや、今日はHARにしないか」

 

おや珍しい。私が作ることにそんなに口出ししないお兄様が今日はするなと言う。

 

「深雪、こっちにおいで」

 

呼ばれたのはソファだ。

横に座るとこの前みたいに抱き込まれるのかなと思ったらコロンと横に倒された。

お兄様の太ももの上に頭が乗る。

 

「お兄様?」

 

頭を撫でられるのはいいのですけど、どうしてこの姿勢??

 

「深雪は無茶をし過ぎる。俺は何度心臓が止まるかと思ったよ」

「それは、心配かけて――」

 

申し訳ございません、と謝ろうとしたら目元を覆われ視界を奪われる。

 

「心配くらいさせてくれ。お前を心配できるのは俺にとっては悪いことじゃないのだから。

だけどね深雪。いくら深雪の魔法が強いと言っても一人で立とうとしないでくれ。傍にいさせてくれ。

――どうしてもあの魔法を使う時、深雪から『眼』を離さなければならないあの瞬間、俺はどうしようもなく不安になる」

 

常にお兄様の『眼』は私に向けている。このずっと先の話で明かされるが、お兄様の眼は常に私を守護するためエレメンタル・サイトのリソースの半分を割り当てているほどだ。

だが常に見られているわけではなく、感知できるようになっていると捉えるのが正しい。私室に入ったら見ないという約束は守られているはずだし、妹の入浴などお兄様だって目を瞑りたくもなるだろう。プライバシーは守られています。

だが、誘拐されている場面で護衛対象から眼を外さなければいけないというのは確かに恐ろしいことかもしれない。

元々そんな眼を持っていない自分には想像しかできないけれど、眼を離したくないのに知覚を切って感知しかできないだけの状態というのは、お兄様にとってはひどく苦痛を伴うものだったのだろう。

いったい今どんな表情をしているのか、目元を覆う手にそっと触れると、その手を掴まれいたずらを叱るようにちゅ、と口づけられる。

え、見えてないけど指先キスされた!?指に当たる柔らかな感触と、リップ音がそう想像させるんだけどたぶん間違いないよね!?

なんで⁇ちょっかいかけた罰?ただ顔を見たかっただけなのに?!

これ動揺せずにいろというのは酷いのではないでしょうか!?

見えていないから余計に不安――って、もしかしてそれを伝えるためにってこと?!そういうことですかお兄様!?

内心大恐慌に陥っているけれど表面はたぶんちょっと赤面してるくらい?あと緊張して固まってます。

手は解放され、アイマスクだった手も目の覆いを外してくれたけど、今度は上向きに転がされた。

上下でお兄様と向かい合う形になる。

 

「見えない瞬間が一番、深雪が無防備になる瞬間でもあるんだ」

 

真剣なお兄様の表情に心はすっと落ち着いた。

それは、そう。見てもらわないと魔法が効かないからと注目を浴びることをしなければならない。

今回のように上着を脱ぐとかね。

言葉も、妖艶なイメージのものが好ましい。

そのタイミングで常に見守れるお兄様の眼は閉じなければならないわけで。

…シスコンにとって苦痛の時間ですね。

一番心配な場面を耳でしか聞けないんだから。むしろ耳で聞こえてしまうから余計、かな。

やきもきする時間だ。

お兄様を見つめれば、その表情はだんだんと切なそうな、悲しそうな表情に変化していき、胸が締め付けられる。

 

「お兄様、動きたいの。これじゃ抱きしめられない」

 

あえて敬語は使わなかった。

けれどお兄様と呼ぶのはやめられない。

恥ずかしさがまったくないわけではないのだ。心臓の音が聞こえていないことを祈る。

 

「…深雪はどんどんずるくなっていくな」

 

拘束もされてないのにわざわざ許可をもらい、起き上がると私はぎゅっとお兄様を抱きしめた。

 

「私はこれからもっともっとずるくなる。わがままになるの。お兄様はそんな私は嫌?」

 

だって幸せになってもらいたいのだ、このお兄様に。

そのための今回の入学編の事件撲滅だったけど、結局お兄様は働きっぱなしだったし、ブランシュとも関わってしまった。

争いの芽は根絶した方がいいから仕方のないことではあったし、私一人で動くというのはお兄様が傍にいる限り不可能だ。結果一緒に巻き込まれてもらうしかない。

それを思うとこれからの九校戦など、出場する私のせいで軍の仕事と学生を熟しながら大会に出なければならないのだから、更に忙しくなってしまうわけで。

遠いな…お兄様の幸せへの道ははるか遠い。

でもそこへたどり着きたいから、私はお兄様にこれからもわがままを言って迷惑をかけるだろう。

体を起こしてもう一度お兄様を見つめる。

今度は悲しそうでも切なそうでもないけれど複雑な、曖昧な笑み。

苦労してますねお兄様。させているのは、私。

 

「嫌なわけないだろう?」

「言わせてる?」

「本心だ」

 

くすくすと笑い合い顔を寄せ合う。

もう少しで鼻が触れ合ってしまうほどの距離。

 

「お兄様は学校生活楽しいですか?」

「さあ?まだ始まったばかりだからな。慌ただしくてそれどころじゃなかったし」

「私は楽しいです。いろんなお兄様が見られて。そうだ、今度お兄様のクラスメイトを紹介してくださいね。まずは謝罪からさせてもらおうと思います」

「そういえば前にも言っていたね。一応誤解は解けてるんだけど、そうだね。討論会が終わったら学校の雰囲気も変わるだろうから、そしたらお昼でも一緒にしようか」

「はい、ぜひ!」

「でもその前に夕飯だな」

「そうでした」

 

 

次の日生徒会主催の討論会は七草会長による質疑応答を繰り返していたはずがいつの間にか演説会となり、綺麗に丸め込んで拍手喝采を浴びていた。

うーん、やっぱりこういうことは七草会長の方が映えるのか。

適材適所。

 

 

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おまけ

『今回は変則的ですが、前回の話の最後から再開させていただきます。ゲストはお兄様と深雪ちゃん両名です。早速ですがお兄様』
「深雪が誘拐された話だな」
「誘拐されたと言いますが、準備した上で本拠地まで連れて行ってもらおうと攫ってもらったと言いますか…」
「計画は前日に聞かされていたが、それでも気が気じゃなかったよ。お前が攫われる――俺から離れていくのは、な。結構堪えるんだ」
「…申し訳ございません」
『(こそこそ)深雪ちゃん、深雪ちゃん。これ、誘拐に限った話じゃなく離れようとする深雪ちゃんへの苦言も入ってますよ』
「(こそこそ)…わかっています。この件はその、お兄様に告白いただいた後に直接いただいていましたから」
『!そこんとこkwsk』
「お断りします!」
「で、話を続けていいか?」
「『はい!』」
「機器での位置情報など俺にいらないが、生徒会を納得させる理由が必要だったからな。学校を絡ませないで片を付けた方がずっと楽だったんだが」
「公安と軍が控えていますから学校側を無視しても組織は一網打尽にできたでしょうが、それでは学生間に大した説明なく恨みが残った形で片が付いてしまう可能性がありましたから」
『そうですねー。なんの事情説明もされず数人が学校を転校、または退学、謹慎処分になっては憶測を呼び生徒たちも疑心暗鬼になったでしょうね。二科生ばかりが『処分』されるわけですから』
「…だから、深雪の案が正しいことは理解したつもりだ」
「お兄様にはご心配おかけして――」
「謝らなくていい。必要なことだった、そして深雪はそうしたかった。それを叶えるのが俺の役目だ」
「……我慢してくださってありがとうございます」
「うん。そっちの方がいい。あとは、そうだな。我慢をしたことを褒めてもらえるなら褒美をもらえると更に嬉しいんだが――」
『お兄様お兄様、話が脱線してしまいます!それは後で二人でじっくりしていただくとして』
「(その流れこの間もやりましたよね!?)」
「…仕方ない。さっさと終わらせよう」
『助かります。で、お兄様もこの時別のカフェスペースで壬生先輩とお茶をしていたわけですが、美少女剣士とのデートは如何でした?』
「いかがでした!?」
「…こういった話題になると深雪は嬉しそうだな」
「それはもう!私のお兄様がモテモテ大人気となれば嬉しくなりますとも!」
「…そういった意味ではないと分かっていても『私の』と言われて喜ぶ俺は所謂『ちょろい男』と呼ばれるんだろうな」
「お兄様が…」
『ちょろい男……?』
「『最も似合わない言葉』ですね…」
「そうか?」
『お兄様がちょろかったら深雪ちゃんの心臓は過重労働を強いられてはいませんよ』
「そうですとも。お兄様がちょろいのでしたら…多分、この未来にはつながらなかったと思います」
『この未来――つまりお兄様が妹を恋人にしたいと告白する未来はなかった、と』
「はっきり言葉にしないでください!」
『その事実にまだ照れちゃうんですねぇ』
「もう慣れてもいい頃だが、そんな初々しい深雪も可愛いよ」
「……(両手で顔を覆いながら)進行、進めてください」
『まあその自称ちょろいお兄様はお手手繋いで生徒会室にデート相手を連行していくわけですが、』
「引っかかる箇所がいくつかあるが、手首をつかむ方が楽ではあったが、周囲の目があるからな。この場限りの相手なら雑に扱えたが、一応学校の先輩であり、まだ話を聞くべき相手でもある。丁重に扱ったつもりだ」
『お兄様には敵に協力した一人ですからね、逃すつもりも無かった、と』
「当然だな。いくら操られていたとはいえ無罪放免にできるはずがない――といいたいところだが、な。深雪に情状酌量の余地があると言われてしまえば罪を認識させるだけに留める結果に終わったな」
「彼女は誘拐の手伝いをさせられていることを知らなかったのです。もしそう知っていたらきっと手を貸していなかったでしょう。先輩は正義感がとても強い人ですから」
『彼女の任務はお兄様を引き入れることだけでしたからね』
「それに、一高の生徒は利用されていただけ。学校によって作られた心の隙を突かれたのは学校側にも責任があります。あの洗脳は弱った心に効きやすいのですから」
「あれしきの魔法であれば抵抗力の低い魔法師でも対抗手段はあっただろうな」
『正直、学校の責任は重大だと思うんですけどねぇ。他校ではここまで差別化されていなかったわけですし。長年抱えてきた問題を放置しすぎたことによって引き起こされた事件です』
「彼らの計画は学校に強襲を掛け、情報を盗み出しつつ魔法師の卵を無力化するつもりだったのでしょう?」
「藤林さんたちからはそう聞いたな。それが成功すれば日本は大打撃を受けただろう。何せ十師族の子息もいてその情報も掴めず侵入を許したわけだから。学校も非難を免れなかっただろう」
『それを深雪ちゃんの機転で最小限に抑えたわけですが、お兄様にとっては深雪ちゃんに囮をさせるのは辛かったでしょう』
「俺が壬生先輩に『勧誘』されて本部に連れて行ってもらう案も挙げたんだが」
「それでは時間がかかりすぎます。その場合、お兄様がいかに有能かチェックが必要だったでしょうから」
『使える人材かテストが必要だった可能性は確かにありますね。でも、深雪ちゃんの場合なら優秀なことは判明していますし、薬で酩酊していれば洗脳できる、と』
「ですが、いくら薬で酩酊していたとしても、私の魔法抵抗力は並ではありませんから」
『誘拐の件を詳しく聞きたかったのですが、お薬って初めから入ってたんです?』
「ええ。当然学校の用意した紅茶に入っているわけがありませんので席に着くまでに入れられたのでしょう」
『で、飲んだ振りをした』
「中身が減っていないと怪しまれるのでそこは魔法でちょちょいっと」
『魔法便利すぎかな?ばれないように魔法使うってとっても大変なのでは?しかも相手は普通より目が良いのでは?』
「ですから直前に怒った振りをしてサイオンを乱しながらカップを傾けました。そうすれば大した技術も無しに誤魔化せますから」
「サイオン量の多い深雪だからできる誤魔化し方だな」
「席に着く前に時計型の盗撮盗聴器を作動させ、特殊な受信機でなければ受信できないようになっているためネット回線などは使用していない仕組みになっているので安全に情報を飛ばしていました」
『(フリズスキャルヴ対策ってことですね)当然端末なども没収されたと思うのですが』
「校内でしたのでそういったものは一式教室のロッカーに置いてきた、という体で行きましたので。CADも生徒会役員は預けなくともいいのを忘れて預けてきた、とも事前に話していましたので」
『ボディチェック対策もばっちりでしたか』
「機器を使ってチェックされただけですね(触られていたら彼らは無事には済まされなかったかと)」
『(指は消えていたかもしれないですねー)で、体調が悪くなったところを運ばれた?』
「肩を貸してもらって移動を。長い廊下の辺りで意識を失った演技をしたので彼らにも都合が良かったようです」
『人目の多い場所で二人がかりで運べば怪しまれますし、学校内で魔法を使えば記録に残ってしまいますからね』
「ルートはすでに決まっていたので途中から用意してあったキャスター付きの椅子で運ばれたのは助かりました」
『それで、車で移動し、朦朧とした状態でアジトに到着したわけですね』
「先輩は洗脳されていたから異様さに気付かなかったようですが、あそこの空気は非常に荒んでいました。外観も入口上でしたから、誰が見てもあまりいい集まりには見えなかったでしょうね」
『表向きは反魔法国際政治団体なんですから正義あふれる感じでもよかったはずなのに、そういった人材集まらなかったんですかねぇ?せめて取り繕うとか』
「長い期間潜伏していたとのことでしたから気が緩んでいたのかもしれませんね」
『で』
「で…」
『当然ですが催眠にかかることなくやっちまったわけですね?』
「……その言い方は如何なものかと思いますが、まあ、やってしまいました、ね」
『注目をさせてからの、活動停止の魔法ですか。しかも、視線を向けられているならカメラ越しであろうと停止できちゃうという』
「流石に録画したものでは効力はありませんが、リアルタイムで視線を向けられていたのでしたら間接的であろうとも動きを止めることができます」
『…これまでずっと黙っているお兄様が怖いのですが…、この術式はお兄様が深雪ちゃんの為に組んであげたんですよね?』
「深雪からのリクエストがあったからな」
『わあ、地を這う重低音…胃にもきそう。お兄様は何処までご覧になっていたのです?』
「深雪の『囁き』を聞くまで、だな。……飛び出そうとするのを抑えるのが必死だった」
『直前の男たちの汚らわしい言葉はお兄様にとって許しがたいものですもんね』
「直接触れるようなことがあれば深雪の言葉を無視してでも暴れていただろうな」
「『ひぇっ』」
「眼を外しても目の前の扉から凄まじいサイオンの量と動きは感じられていたからね。魔法が上手く作用していることも、男たちの気配が消えたこともわかっていても、それでもすぐに中に飛び込みたくて仕方が無かった」
『終わった頃を見計らってノックをされたんですよね?(押し入っていいかの合図じゃないよね?)』
「タイミングはばっちりでしたとも(お兄様に限ってそんなはずは…)」
「お前の邪魔をせずに済んだならよかった」
『…振り返ると相当我慢していたのが窺えますね。この後司先輩も無罪放免されますし』
「…というより私はいきなり殺す前提だったお兄様に内心驚いておりました」
「操られていたとはいえ、深雪を連れ出したんだ。深雪が目を一秒でも閉じてくれれば始末したのに」
『あ。思ったよりも殺意高かった。そのあと冗談で流してたからてっきり軽いノリかと。まあ先輩には後で出番もあったので助かりました。引いてくださってありがとうございます。んで、その後なんですが…お兄様一旦現場に戻られて何をしていたんです?』
「大したことじゃない」
『深雪ちゃんはご存じです?』
「…その後それどころではなくて…」
『ああ…この後に控えている膝枕事件ですね』
「事件か?」
「事件です!///」
『その前に学校に戻ってくるわけですが…(こっそり)実際問題処分はされてないんですよね?』
「(小声)するわけないだろう。重要参考人だ。ただ解除される前に全員に一二発入れた程度だ」
『(怯え)それ、内臓に響く系の一二発です?』
「(小声)打撲すら残っていないはずだ。何せ活動停止中だからな。だが――解除後は幻痛くらいは残ったかもな」
『(コキュートスとの違いはこんなところにも)十文字先輩とはほぼ無言だったんですか?』
「事情聴取的な質問もありませんでしたね。きっと気遣ってくれていたんだと思います」
『十文字先輩は中でも屈指の紳士ですからねぇ』
「生徒会室に着いても皆さん気を使っていただいたようで特に聞かれることなくすぐにシャワーを使わせていただけましたが…生徒会室にシャワーや食事が完備されているって…」
『それ以上は考えてはいけません』
「ですよね…」
『そして珍しい運動着姿の深雪ちゃんに出迎えられるんですよね、お兄様』
「予備の制服を用意しておかなかったことを後悔したな。それ以前にCADを持っていけば深雪の不快な気持ちはもっと早く払拭できたのに、すまなかった」
「いえ!お兄様が謝られることではございませんとも!むしろ私の準備不足です」
『まあまあ。謝罪合戦は終わりにして。それよりもここの問題発言ですよ、お兄様』
「問題?あったか?」
「あ、ありますよ!ほら、『お前だけが俺の心臓を止められる』ですとか…『血の繋がりが無ければ恋人にしたい』ですとか…」
「すべて本当のことだ」
「っ///」
『そうですが、そうじゃないんですよ。前半はともかく後半は妹に思っていいことじゃないですからね?』
「そうか?そんなことも無いだろう」
「…シスコンと呼ばれる方の中でもなかなかここまでのセリフを堂々と言う方はいないかと」
『しかも、血の繋がりがあろうが恋人にしたいわけですからね』
「世の中どうなるかわからないもんだな」
『…そんな言葉で片付けて良い問題じゃない…。でも、確かにここ、お兄様否定はしていないんですよねぇ』
「私はお兄様ジョークだとばかり思っておりました…だって」
『わかりますよ(原作ではジョークでしたもんね)。お兄様、もうこの時にはほぼ自覚してません?』
「していたら深雪にのみジョークではないと伝えていたんじゃないか?そうして少しずつ真実を浸透させていく気がする」
『…想いを隠されないので?』
「いや、基本は隠すさ。大切な妹を困らせたいわけじゃないんだ。だがな、俺は深雪のように演技が上手いわけでも隠し事ができるわけでもない。なら、下手に隠そうとしない方が自然で、深雪の方も都合のいいように取るだろうからな」
『(それで刷り込んでいって雁字搦めにするお兄様が見えます…バッドエンド一直線お兄様)』
「(不吉なことを言うのはやめてください!)」
『そして妹は美味しくいただかれる注文の多い料理店に向かうわけですか』
「食べられてません!」
「…何故そんな話に?――ああ、それで深雪が自分は美味しくないという話になったのか」
『…ツッコんじゃいけないとわかっているんですけどねー。美味しかったですか?深雪ちゃん』
「!?何を――」
「この世のものとは思えないほど極上の味だった」
「お、お兄様?!~~~」
『ちょ、深雪ちゃん落ち着いて!サイオン大変なことになってるから!霜が!!お兄様も宥めてください!』
「深雪の前では嘘は付けないからね。でも、深雪がおかしなことを言ったから事実を言ったまでだ。あの時は想像でしかなかったが、現実は想像を絶するものだった」
『誰が煽れと!み、深雪ちゃん!問題はその後のお兄様の行動だから!いくらトラウマだったからって妹に膝枕して目隠しして、指先にキスするとか明らかに妹にする行動じゃないから』
「そ、そうでした!あの時トラウマを刺激してしまったからと思いお兄様のお好きに、と我慢していましたが、明らかに異常でしたよね?!あの頃からストレスで触れるように…?」
「アレは…深雪に目隠しをして、見えないことの恐怖を体験してもらおうとして――まあ、そうだな。妹にすることではなかった、か」
「『お兄様がお認めに!?』」
「その後深雪が抱きしめてくれたからそこで終わっているが、いくら綺麗に洗い落としていたとしてもあれだけの目垢が付けられたんだ。触れて落そうとまで考えていたな」
『…それ、落すというより上書きしようとしていたのでは…マーキング…』
「…あの時急にお兄様を抱きしめなければ、という焦燥に駆られていたのですが…私は正しい選択をしたのですね」
「俺としては抱きしめてもらえることの方が嬉しいから大人しく抱きしめられたんだが、そのあと気持ちも落ち着いて――そうか、ストレスでおかしくなっていたのか」
『…あの頃からお兄様の異常思考や行動は始まっていたんですねぇ。いやあ、深堀してみるもんですね』
「こうして振り返ると、自分の行動の異常さを客観視できるな」
「……なんだかひも解いてはいけないものもひも解けているような…」
『ではお兄様、深雪ちゃんからご褒美をもらってきてください。本日はお疲れ様でした』
「え、ご褒美…あ」
「さて、何を貰おうか。楽しみだな」

――深雪が退出しました――
――達也が退出しました――


――

成主妹が攫われてしまいました。
オリジナル魔法が出る回でしたね。
しかも暗躍向きの痕跡をほぼ残さない上に、CADが無くとも行使できてしまう魔法。ご都合主義です。
学校で事件起こされるよりアジトでバトった方が校舎も壊れないし被害も少ないしで万々歳では?という成主妹の勝手な考えによってお兄様の胃が死にました。トラウマスイッチ押しすぎてストレスマッハ。
我慢のし過ぎで最後にちょっとおかしくなりました。
許されることなら全員残らず始末したかった。軍からOK出れば雲散霧消してた。まあ、これしきの事では許可が下りませんが。でもお兄様の気持ちを汲んでお腹踏みつけや蹴りは見逃した。その後情報交換。どのようにオチを付けるか話し合いを。魔法解除するタイミングもありますからね。
後始末ですが軍と公安はどちらがどのようにお持ち帰りしたんでしょうね。むしろ軍は情報を渡して押し付けたような気がしなくもありません。そいつらからとれる情報は大したものがありませんからね。恩を売った形かも。
学校サイドには公安からと現場に行ったお兄様と十文字先輩、それから自主的に話した成主妹からの報告があり、学校に侵入するつもりであったことを知って防衛にさらに力を入れるように。ここにも貴重な資料等がありますからね。…生徒の安全のためだけでないところが世知辛いですね。
そんなこんなで誘拐された時間は移動含めてせいぜい30分程度。あっという間の救出劇でした。
十文字先輩運転と運搬のみ。大して活躍の場がありませんでした。
…運動着姿の深雪ちゃんに出迎えられるお兄様。そして無表情ながら複雑そうなお兄様に流れるようにハグをされる…そんな画が見たいと思って書いたのですが、あまり運動着の描写を書いていませんでしたね。普段隠れている腕と生足を晒す深雪ちゃんを学校で観る機会はお兄様にはないと思って。家でも滅多にお目にかかれないから動揺とか躊躇いがあっても良かったのですが、一秒でも離れているのが耐えがたい状態になっていたため観賞する余裕もありませんでした。
そして家に帰ってからの一連の流れ。
もう兄妹ってなんでしたっけ?という触れ合いなのにお互い他のことで頭がいっぱいで上手く認識できていないという…。
本能で独占欲を見せるお兄様と、本能で危機を察知し肉を切らせて骨を断つ妹。危機(バッドエンドフラグ)は去りました。
リンちゃん先輩好きなのですが、あまり出番が少ないですよね。
表舞台より陰で操る方が彼女にとって楽なのかもしれません。もちろん七草会長のカリスマ性も一役買っていたのでしょう。
これにて大事件であったはずのブランシュ事件は小規模の内に鎮火しました。


お粗末様でした。
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