妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
スティープルチェース編①
六月ももう終わり。
入学後のひと月、ちょっとした騒動はあったものの内々のことだったため、学校全体としての派手な事件・事故の無い平和な4月であったと言えよう。
昨年は外部が絡んだから例外。小さく収めたけどおっきな事件でした。生徒たちはほとんど知らないけどね。
とまあ、その後もトラブルに見舞われる事なく平和そのものではあったのだけれど、一年生の間では流行したものがあった。
――実写版プリンセスとナイトの日常的いちゃつきウォッチング、なるものだそうです。
水波ちゃんが淡々と努めて冷静に、泉美ちゃんが表面上淡々と、漏れるオーラは禍々し気に教えてくれた。
先輩たちがこぞってこっそり教えてくれたそうだよ。学校内だけの秘密だよ、と。
それもう絶対学校外にも言ってませんか?
言ってない?新入生が来るまで我慢してた⁇外部には漏らしたくないそうです。自分たち一高だけの特別な秘密にしたいんだって。
妙な結束力が一高にあるらしい。
これっていいことなのかな?
秘密が守られるならいいこととしましょう。もうどうにでも好きにしてください。
私たち兄妹はいつの間にか観光スポットのイルカにでもなったらしい。
特に食堂は人気らしく早い者勝ちで先輩たちと席を競っているとか。
…実に平和な争いだね。
その場で私が何事です?といった感じで視線を向けるだけで収まるし、席を譲り合うし、最終的にどっかから椅子を持ち寄って仲良く昼食食べてるし。
うんうん、争わずに済むなら初めからそうしましょうね。
その流れまでがワンセット?体験型のイベントでした⁇
一年生の中には初めの頃、七宝君同様一科生が二科生を見下している風潮があったが、先輩たちの態度を見て自分たちが少数派だと知ると、いつしかその考えは変わっていった。
二科生でも実力のある者はいて、得意分野が違うだけ。
その認識が広まっていった原因は、昨年の4月の出来事を舞台で再現した新演劇部部長がいたから。変な伝統を継いだね、演劇部。アレを題材に自分たちの伝えたいことを表現したい!ってことらしいけど。
部員も皆ノリノリだったみたい。一応主役の名前は変えてくれたそうだけれどね――誰だ柴咲冬美(しばさきふゆみ)って。
柴咲貴也(しばさきたかや)とは⁇私たちの周囲は大爆笑。エリカちゃんからはしばらく冬美と貴也君と呼ばれた。
捻りがないけどその分わかりやすくていい、と。
でもね、冬美ちゃんはショートカットだったんだって。似せる勇気が無かったから変えたそうです。
すまんね。深雪ちゃんが美少女のばっかりに。いらぬ苦労をお掛けします。
お兄様役はアクションを頑張ったんだとか。思ったより本格的だったよ、と現場を知るエリカちゃんは評していた。
とまあそんなこともありつつ、あっという間に夏がもうそこまで来ていた。
そう、二年目の九校戦である。
二年目の九校戦の見どころは、…お兄様の苦労話だ。
何でもできてしまうお兄様が次々仕事を請け負って、そこへ別方面からも追加でお仕事が上乗せされてしまう。
本人は問題ないとスケジュールをぎちぎちに埋めていくのだが、元より過密だった仕事量が倍増しているのにため息をこぼすばかりで人に振り分けることも無く、すべて自分で熟そうとして蓄積される疲労に気付かない。
キャパオーバーになるところを深雪ちゃんに泣いて止められる、そんなお話だ。
一番大切にしなきゃならない女の子に泣かれて、ようやく自身が疲弊しているのだと実感するお兄様。
――お兄様がブラック企業の社畜思考になるだなんて…。
動けるうちはまだまだ元気。倒れてからが本番、みたいな。
良くない。良くないですよ。
疲労Max状態のところにパワーアップしたパラサイドールなる、パラサイトを人工培養してロボットに押し込んだ軍事兵器の性能テストを本人未承諾で試験させられる。
何も知らない高校生たちで試そうなんて、非常識ここに極まれりな作戦を実行しようというのだからさあ大変。
十師族、自分の子が直接絡まなければ何でもやらかす。
だけど四葉がいるのがわかってるのにどうしてGOサイン出した?どう考えても狩られるってわかってたよね⁇
嫌がらせにしても結構な資金かかっているはずなのにあっさり壊されるとか。ご愁傷様としか言いようがない。散財したかったの?
どうせだったら軍だけで訓練すればいいのに。どうして素人高校生相手に九校戦でやろう!になったのか。
お兄様で性能チェックしたかった?対抗手段はあるし、いざとなったらストッパーになるからって?
普通出荷する予定がある商品なら、まずは自分たちだけで性能チェックして安全を確認してから外部を交えて試験投入するものではないの?
しかも製造過程の途中、信頼できない外国人の手が入るとか。
どうぞ罠をお好きなだけ仕掛けて下さいと言っているようなものでしょう。
どうしてそれが渡りに船!の発想になる?お花畑か⁇…失礼。
ちょっと前世で目算の甘い上司に辛酸をなめさせられた記憶が。
外注しちゃった本人はどうとでもできる、という謎の自信があったようだけど、もしかして軽く催眠でもかかってた?そんな描写は無かったけれど相手は搦め手・裏工作お手の物!のあの周だし。
…まさか言葉巧みに、だけじゃないよね?
俺ツイてる~、とか思っちゃってないよね⁇最終的にはパパンが帳尻を合わせてくれるから大丈夫とでも思っていたのか。
なんていうか、九島翁の苦労が偲ばれる。成人した息子の尻拭いをさせられ続けるって大変だね。
でもそうさせたのは、息子本人の気質だけではないだろう。幼少期からの環境も良くなかっただろうから。
息子の教育を間違えたというより、本人の性格に合わせて教育できていなかったんだろうね。
だから、その歪みが末のお孫さんの誕生に繋がったのだろうけれど。
だけどね、悔んだからって、魔法師にこれ以上の悲劇を生みたくないからって、他の魔法師の子供たちをドロップアウトの危険性しかない試験に巻き込むのはどうかと思いますよ。
何がしたいのおじいちゃん。未来を見据えすぎて足元が全く見えていない。
目標と目的が全くもってかみ合ってない。これは耄碌と言わざるを得ないですよ閣下。
その尻拭いをお兄様が一手に引き受けなければならない理由なんてないはずなのに、私に危害が及ぶかもしれない可能性及び、大惨事を避けるために一人立ち向かうなんて無茶が過ぎる。
リーナちゃんと二人で相手にしていた人数の倍近くをたった一人で倒さなければならないなんて、どんな無茶ぶり?
しかも戦闘ロボットだから性能は上がっているとか。
ただでさえ疲労が蓄積しているお兄様になんて追い打ちをかけるのか。
許せないよねぇ。
こんな作戦実行する九島はもちろん、容認している七草も同罪だ。
だけど、忘れてはいけない。そもそもお兄様を疲労させる初めの原因は、私たち一高生だ。
いくら有能で頼りになるからといって、何でもかんでもお兄様に任せ過ぎである。
お兄様もこれくらいなら熟せるか、と引き受けてしまうのも原因。
少しは人に回すことも覚えておかないと将来ワンマン社長になっちゃいますよ。
――そして将来、仕事が忙しくて奥さんを蔑ろになんてしちゃって不幸まっしぐら!なんてことも。
それだけは阻止せねば。
全てはお兄様の幸せのために!
――
「会長、自治委員会と風紀委員会からの報告及び提言はすべて決済待ちのディレクトリに入れておきましたので、明日までに確認しておいてください」
放課後になって一時間、有能なお兄様は仕事に一切の手を抜かない。
普通ならこんな短時間で終わるはずのない業務量をあっさりと片付けられ、退室の許可を会長に取りに行っていた。
他にもやりたいことが山積みのお兄様なので時間を有効に使おうということなんだろうけど、それにしても早い。
会長は、ちょっと甘えてお仕事手伝ってくれてもいいのよ~、と言っているけれど、それをすると困るのは会長ですよ。
お兄様に対して、早く業務が終ったら早退するシステムを導入したのは会長と五十里先輩だ。
お兄様の有能さが便利すぎてすべての仕事をお兄様が熟しそうになったのを、慌ててストップをかけたのだ。
このままではお兄様に依存してしまい、お兄様がいなくなった後の生徒会が回らなくなる未来を危惧してのことだった。
正しい判断だと思います。
でも早退システムの理由を会長たちが直接言わなかったせいで誤解が生じたり、お兄様も深く理由も聞かずに自由な時間を得られたと有効活用してしまうので、その後の九校戦の無茶にも繋がってしまうのだけどね。
ちなみにこの件で、お兄様とはひと悶着あった。
お兄様曰く、生徒会入りした主な目的は私の傍に居る為であって、何故追い出されなければならないのか、と。
CAD携帯許可も理由のはずだけどお兄様的にそちらは二の次らしい。それは置いといて。
だけど、昨年はその自由な時間があったから図書室通いができていたではないか、と伝えるとお兄様は私の顔を大きな手で包み込んで、切なそうに言うのだ。
「寂しいと思うのは俺だけなのか?」
…意識跳びかけたよね。多分魂は一回身体を離れた。
近づくお兄様の切なげに揺れる瞳に釘付けでしばし動けずにいたのだけど、触れそうになるくらい近づいたタイミングで何とか息を吹き返して、両手でお兄様の頬を挟んで動きを封じる。
…危機一髪。何かわからないけれど危険を回避した気がした。
「お兄様とずっと共にいられることは、それは嬉しいことですけれど、私の我侭でお兄様を束縛してしまうのはいけないことでしょうから」
「いけなくなんてないさ。お前が望んでくれれば俺はいつだってお前の傍に居るよ」
Oh…。お兄様が色男モードに突入されてしまった。
この至近距離で浴びせられると脳が痺れて動けなくなってしまいそうだ。
というより束縛がまんざらでもないように言わないでいただきたい。私にそのような趣味は無いです。
…じゃなくて、お兄様には自由になってもらいたいのですから。
「では、私は望みます。お兄様がこの学校でしかできないことをなしてくださいませ。…二人の時間はお家の方がゆっくりできますもの」
「…全く、深雪には敵わないな」
頬を包み込んでいた手がするりと流れ落ち、腰を引き寄せられて密着する形になった。
かろうじて私の腕がお兄様との間に隙間を作ってくれている。
「学校ではこんなに触れ合えないからな。家で時間を取ってもらえるならば我慢するか」
…お兄様の言葉に、私はどうやら大事なものを差し出してしまったらしい、と気づいたのは後の祭りだった。
水波ちゃんと暮らすようになって、触れ合う時間が減っていたはずだったのにこの発言後、時間こそ短いものの濃密な触れ合いが増えた…気がする。
しばらく触れてなかった期間が長かったからかその反動があったようで、それ以降この触れ合いが常態になってしまった。
と、私の犠牲については今は置いておくとして。
お兄様は生徒会の自分の仕事を終わらせると、時に図書室で調べものを、時に体を動かしに練習場へとアクティブに活動して過ごしている模様。
お兄様が自由に動けているのはいいことです。
…お家での濃厚になったスキンシップもストレス解消に一役買っていると思えば、何とか耐えられる。
お兄様はいつも私のためを思ってくれているけれど、働き過ぎている心臓だけは思いやってくれない。
時には休ませてあげて欲しい。止めちゃダメだけどね。
そんなわけでお兄様は今日も仕事を終えられ早退です。
会長たちの説明不足による誤解で泉美ちゃんなんて本当に仕事をしているのか疑っている――というかサボっていると思っているみたいだけど、お兄様はきちんと割り当てられている仕事をきっちりこなしてますよ。
有能過ぎて仕事を終えるのが早いばっかりにサボっていると思われるのは理不尽だ。
「深雪」
「いってらっしゃい」
あとで迎えに来るというお兄様に、私はひらひらと手を振って見送る。
待ってる、という言葉もいいのだけど、同じ戻ってくるならいってらっしゃいの方が良いかな、と。お兄様もニッコリ笑顔(妹視点)。
ほのかちゃんも便乗で手を振ってる。可愛い。
私も今日はちょっと早めにお仕事しようかな。泉美ちゃんのフォローを入れつつ今日こそ誤解を解いておかないと。
本来なら私もこの程度の作業はすぐに片付く。だてに四葉でお勉強はしていないのだ。
だけど、ここはチームでお仕事しているわけだから、輪を乱すようなことはできない。
お兄様は良いの。やることいっぱいあるのだから。別枠です。
でも私は生徒会長になるのだから、皆を成長させ、まとめ上げるのが仕事ですからね。
一応過去の整理されていないフォルダをこっそり整頓する作業はしているので遊んでいるわけでもない。
こういうのは時間がある時にやっておくと、あとで楽になりますからね。
というわけでささっと作業を終わらせて、泉美ちゃんの元へ。
「だいぶ慣れてきたかしら?」
「!はい。深雪先輩が教えて下さったおかげで」
あら、さっきまでお兄様にご不満です、ってお顔してたのに。
今じゃ恋する乙女…じゃなくて憧れの先輩を見る…にしてはちょっと熱視線なんだよなぁ…、と思わなくもないけれど、これが泉美ちゃんだ。しょうがないね。
お仕事もちゃんとできてる。いい子なんです。いい子なんですけどね。
香澄ちゃん曰く、熱しやすく冷めやすいらしいから冷めるのを待ちましょう。
「ふふ、兄さんがお仕事サボってるように見えた?」
「っ!!も、申し訳ありません。深雪先輩のお兄様だってわかってはいるのですけれど…」
あら素直。言ってることはあれだけど、素直な子は褒めておきましょうね。
…うん、ほっぺが赤くてかわいいね。瞳も潤んじゃって。…美少女にそんな表情で見られたら別の扉が開きそうになるので、もうちょっとその好き好きオーラを抑えていただきたいところだけれども。
「兄さんを追い出しているのは私たちよ」
「え?」
「兄さんが本気で仕事をしてしまうと全部一日で終わってしまうから、私たちの仕事が無くなってしまうの。それだと兄さんだけが頑張って他の皆が何もできなくなっちゃうでしょう?だから兄さんは与えられた仕事だけをやって、早退してもらっているの。割り当てられた分だって私よりも多いくらい。兄さんも4月から生徒会の仕事を任されているのだけど新人期間なんてなかったわね。一日で全部覚えちゃったから」
「あの時の達也さん、すごかったですよね。私なんて全部できるようになるまで三か月もかかったのに」
ほのかちゃんもお話に参加してきました。ちょっと余裕が出てきたのかな。
「司波くんは能力が高すぎです。もういっそのこと会長の仕事も任せたいくらいですよ」
中条会長はちょっと拗ねながら机に突っ伏してしまった。可愛い。いじける姿も可愛いですよ先輩。
皆の気が緩んだのがわかったのか、ピクシーがコーヒーを持ってきてくれた。
最近は空気まで読める子になったんですよ。いい子。
「ありがとうピクシー。ちょうど欲しかったの」
お兄様がいなくても率先してお仕事してくれるなんて。
にっこり笑ってお礼を言うと、彼女も口角をちょっぴり上げて目を細めてくれる。
彼女なりの笑顔に更ににっこりしてしまうね。可愛い。
今日も触手は元気にうねっております。調子いいね。
「それは流石にダメだよ中条さん。というか、中条さんも十分仕事熟せてるからね」
五十里先輩のフォローにのっそりと顔を上げる。
確かに先輩の言う通り会長はよくやっている。生徒会の仕事だけでなく、九校戦の準備も同時進行に行っているのだから。…これが裏目に出てしまうのだけど、彼女は一切悪くない。…今度多めにお茶菓子作ってこよう。
「頼り過ぎちゃうと生徒会が機能しなくなる恐れがあるからね。七草さんには誤解させちゃったみたいだ」
「いえ、私も理由も考えずに。申し訳ありません」
先輩たちが素直に理由を言っておけばこんな誤解が生まれることは無かったのだけどね。
お兄様、そんな誤解されたとしても気にも止めないから。
うんうん、理解できれば誤解も解けるよね。これでお兄様への悪感情も――と思ったけれど、それは早計でした。
「…そうですよね、司波先輩がいなければ、私が深雪先輩を独り占めできるのですから」
わあ。ヤンデレ要素をお持ちです?仄暗い光が瞳に宿ってますね。
というか、私を独り占めとは⁇ここには他にも先輩方居ますよ。ほのかちゃんもいるし。何より――
「深雪様から・離れて下さい」
ピクシーが私たちの間に入った。
「な!?何を」
「マスターから・深雪様を・お守りするよう・申しつかっております」
今特にテレパシーを使った形跡がなかったので、元々言いつけられてたのかな。まあお兄様の最優先事項だからピクシーにも頼んでておかしくない。
ありがとうお兄様、ピクシー。
「ピクシー、守ろうとしてくれてありがとう。泉美ちゃんも、別に私に何かしようとしたわけではないから大丈夫よ。ね?」
…たぶんだけど、ピクシーの行動は正しいと思う。けどね、こうやってけん制しておけば多分大丈夫だと思うから。
ピクシー、ご不満だろうけど我慢して。そのご不満ですっていう触手のうねうね怖いのでちょっと抑えてくれると嬉しいなー。
感情表現が本当に豊かになりましたね。波動で感じるだけだからわかるの私だけだけど。
泉美ちゃんも正気に戻ったのか目の色を戻してもちろんです、とにっこり。…言質取ったからね。
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