妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
え、あの後私たちの修羅場がどうなったかって?
何をそんなに慌てているの?と兄妹すっとぼけで生徒会のお仕事に戻ったら鎮火しました。
下手な言い訳より何も特別なことなどなかった、と自然体でいる方が事態は治まりやすいから。
素早く仕事に移ったことで今日の作業は早めに終わり、エリカちゃん達いつものメンバーで帰れることになった。
というか、皆情報通だから訊きたいことがあったんだよね。吉田くんから誘われたという時点で何かあることはわかるけども。
途中まで七草姉妹と一緒に帰路についていたのだけど、喫茶店までは香澄ちゃんが嫌がったため二人は帰っていった。
…雫ちゃんも吉田くんも居るのだから風紀委員として色々聞く機会でもあると思うんだけど、これはあれかな、上司のいるところでリラックスなんてできないからってことかな。若者の飲み会離れが頭を過る。
あれって結構重要な話聞けたりして会社で生きやすくなるためのちょっとしたヒントを集められる場所だったりするのだけど…人付き合いが面倒な人にはただの辛い会にしか思えないだろうからね。
まあ、そんなわけでメンバーはいつもの二年生メンバーにプラス水波ちゃんとなった。
水波ちゃん、先輩ばかりで居辛くない?大丈夫?無理しないでね。
飲み物が行き渡るとさっそく吉田くんから質問がお兄様に飛んだ。
九校戦の種目が変わったことについて、なぜ知っているのか尋ね返すと今度は雫ちゃんが答える。
「委員長と五十里先輩が話してた」
筒抜けですね。まあ隠すことではないのだけれど。
その事情を知っていたのは風紀委員の二人だけで、エリカちゃん達は驚愕の声を上げていた。
まあ、そうか。部活連には連絡済みで、明日には情報がいきわたる予定ではあったけど、つい先ほど公表されたことを選手でもない彼らが知るにはまだ早かったようだ。
変わった種目とそのルールを簡単に説明するお兄様。
すでにその頭にはルールブックが入っているようです。…この有能さが仇になるなんて、お兄様はいらぬ苦労を背負う星に生まれてますね。
器用な人間ならこれを回避できるのですが、お兄様こういうことにはひどく不器用を発揮する。
というより自分に関心がない弊害なんだろうけどね。自分がやればいっか、みたいな。
エリカちゃんはシールド・ダウンに目を輝かせ、美月ちゃんやほのかちゃんは直接やりあう対戦形式の試合に不安を覚えたようだ。
今までの競技は直接ぶつかり合う対決なんて無かったから。
一般スポーツならあるけど、魔法は武器だから高校生の大会と考慮されて、直接相手に当てるようなものはほとんど行われてこなかった。
「でも本当に危険なのはシールド・ダウンよりスティープルチェースの方だと思う」
「そうね。正直この競技は高校生レベルを逸していると思うわ」
雫ちゃんの意見に賛同すると、周囲の空気は一気に重くなった。
誰もが思っていた。変更されたこの三種目は――
「なあ、達也。今回加わった三種目って、やけに軍事色が強い気がすんだけど?」
「そうだな」
お兄様は否定なさらない。
こんなことで気休めを言ったところでどうにもならないことはわかっていたから。すでにこれは決定事項なのだ。綺麗事など言ったところで世間からどのように言われるかなど考えるまでもない。
「恐らく横浜事変の影響だろう。去年のあの一件で国防関係者が改めて魔法の軍事的有用性を認識し、その方面の教育を充実させようとしているんじゃないか」
「反魔法主義マスコミがアジっているとおりになってるね」
エリカちゃんの皮肉たっぷりの言葉に、嘲りの表情の混じる笑み。うーん。美少女はわるぅい顔も様になるねー。
だけどこの場の空気を変えるにはちょっと足りない。
「ああ、時期が悪いとしか言いようがない。なぜこんな分かり易い変更を行ったのか…。現下の国際情勢で焦る必要はないと思うんだがな」
注目度が高いからといってなにも学生の大会でアピールすることはなかったはずだ。
自己都合しか考えない大人たち、権力者たちはもっと世間に目を向けるべきだった。
私はこの話に怒りを覚えるのだけれど、美月ちゃんとほのかちゃんは不安に思ったみたい。
そうだよね、裏事情知らなければそうなるのが普通だ。
「…それはともかく、しばらく忙しくなりそうだ」
お兄様が空気を変えようとしてか、うんざりしたような顔で近い未来を嘆く。
これはパフォーマンスも入っているけれど、本音がたっぷり混じってますね。…こういう反応はちょっとかわいく見えてしまう。
「そうね、生徒会としてもだけど、兄さんは去年の活躍があるから期待されることも多いだろうから」
流石に同級生の前で頭を撫でられるのはお兄様とて恥ずかしいだろうから、そっと机の下でお兄様の腿に手を置いた。
するとすぐにその手にお兄様の手が重ねられて握りこまれる。
逃さないと言われるように捕らわれた手はちょっと引くくらいでは奪還できそうにない。
お兄様~?とちらりと見れば、お兄様はすまし顔でなんだ?と言いたげな表情。…そう来ますか。
机の下で始まった静かな攻防戦を、周囲に気づかれないように会話は続く。
「確かに、達也くんの去年の活躍凄かったもんね」
「エンジニアとしてもすごかったけど、前回の実績があるからね。作戦を立てる参謀としても忙しくなりそうだね」
「選手としては出ないのか?」
「…レオ、俺の身体は一つしかないんだぞ。この上選手までさせられたら流石に俺も体がもたない」
「達也さんなら選手としても活躍しそう」
「でも、前回は女子だけでしたけど、今度は男子からも調整を任されそうですものね」
「山岳部はやってもらってるから去年みたいな抵抗はねぇだろうな」
「でも全部を達也さんがやるわけにもいかないから、今年は達也さんの取り合いになりそう…」
「取り合いって。そんなことにはならないさ。五十里先輩や中条先輩もかなりの腕前だし、今年は魔工科もあるからな。まだ三か月だが、去年より素人というわけでもないぞ」
「それでも、兄さんは指導にも回るんでしょう?」
自然に会話に加わりつつ、手全体を引き抜くことを諦めて悪戯しそうなお兄様の手を、自身の足に引き寄せて両手で封じ込める。
机の下の攻防は第二ラウンドに突入していた。
…表面上は普通に見えているはず。お兄様は涼しい顔でコーヒーを飲まれているけれど、何かしら動きそうなの気付いてますからね。
「伸びそうな芽は伸ばした方が良いだろう」
お兄様面倒見がよくなりましたね。自己負担を減らすついでだ、と言うけれど、そのために育成までしてしまうなんてすごいことですからね。
天下のシルバーから調整の指導を受けてたと知ったらどうなるんだろうか。
「うわー。完全に指導側の意見。まああの腕前持ってればそうなるんだろうけど」
「腕前って、エリカの調整はしたことないだろう?」
「それでも九校戦の活躍見てればわかるわよ。達也くんの調整した選手が軒並みトップを独占したんだから」
「いくら選手の素質があるって言っても、一年生がそこまで特出するケースは滅多にねぇよ。深雪さんはその稀なケースだが」
「西城くんは褒め上手だから図に乗ってしまいそうだわ」
口元に手を当てて笑みを隠すと、お兄様が残る手を逃さぬとばかりに指を絡めしっかりと繋ぎ留められた。…これ、恋人繋ぎだよね。お兄様そういった意識してないんだろうな。いつの間にかに逃さないゲームになってるから。
まったく、抑えを外したらすぐこれだ。さっきの拘束より逃れられないヤツー。
「褒め言葉じゃなくて事実。深雪は断トツだった」
「あら、雫まで?そんなに褒めても明日のおやつくらいしか出せないわよ」
何を作ろうかしら。甘さ控えめのチョコチップクッキーでもどうだろう。
…ところでお兄様、繋がったままの手の甲を指で撫でるの止めません?なんでそんなに可動域が広いの?関節柔らかい?指長いですね。
「今年も深雪無双が見られそうねー」
「でもメイン種目が一つしか出られないのは痛いよね」
「ああ、スティープルチェースはカメラほとんど映らなそうだし、選手専用カメラなんてなさそうだもんね」
「有名選手、有力選手にはそれくらいしてもいいと思うんだけど」
「そんな不平等な映し方はしないだろう」
「わかんないわよー。視聴率稼ぐためならそれくらいの贔屓しても当然でしょ」
テレビなんだから、というエリカちゃん。確かに去年の大会は私が映る場面とか七草会長の映る場面とかが多かった。
画面映えする人間を撮りたくなるのはしょうがないことだけれど、流石に長距離レースでそれは無いと思うよ。ただのマラソンじゃないし。…そもそもただの大会競技でもないし、映せないこといっぱいの予定だから。
「ソロとペアがあって、被っていい種目はスティープルチェースのみとなると、選手の数が相当増えそうだね」
「ああ。そこも頭が痛いところだ」
「ただでさえ、選手を一から選ばなければならなくなった上にソロとペアも選ぶとあっては選考が難しくなりそう」
頭を抱えたくなる中条会長の気持ちもよくわかるというもの。
だけどそんな暇はない。
大会まで一か月しかないのだから。
私もただ選手として行動するのではなく、生徒会としても動かなければ。
(そして何より、多忙のお兄様の為少しでもお力になるべくお手伝いをしなくては!)
原作ではお兄様から選手として集中するように言われてその通りにしていたけれど、ぶっちゃけ学生の競技くらいでチートな深雪ちゃんが負けるはずないのだ。
もちろん油断なんてしないけれど、練習したとしてもたいして身になるようなことにならない。だって力でごり押ししたらどんな相手だろうと敵わないだろうから。練習相手のためにはなるかもしれないけれどね。
ただ原作のように圧倒的に力の差をぶつけるようなやり方はさくっと終わりすぎてよくないと思うので、そこも調整するつもりだ。アレは練習というより一方的な蹂躙になっちゃうから。練習相手を務めるからには相手の技量に合わせての戦い方をしないと。
せっかくこれだけの能力がある深雪ちゃんなのだから。手数多く攻めることができる。
お兄様の代わりにはならないだろうけど深雪ちゃんだからこそ手伝えることがたくさんあるはずだ。
気合を入れたせいでお兄様と繋がっている手を強く握ってしまったら、お兄様の親指が手のひらを擽ってきた!
「っん」
手の甲と違い、はっきりと感触が伝わってくすぐったさに思わず声が抑えきれず、くぐもった声が漏れる。
慌てて紅茶を飲んでごまかしたけれど、隣でお兄様が笑みを浮かべたことで周囲が何かあったと気付いてしまった。
皆の目線が机の下あたりに向けられていますね。見えないだろうけど、何かがあると睨まれている。皆勘がいい。…それとも経験則かな。
「…達也くぅん?」
「深雪が随分気負っていたからな。気を紛らわせようとしただけだ」
「やっぱり達也さんは私と席を代わるべき」
雫ちゃんが静かに怒ってる。
私の両サイドはお兄様と水波ちゃんで埋まってます。
水波ちゃんを一人にするわけにもいかないので、いつも隣にいた雫ちゃんと離れて座っている。その横にはほのかちゃん。
お兄様はあっちに座ってもいいと思うのだけど、気づいたら隣にいたよね。
そして雫ちゃんやエリカちゃんの非難の視線に対してお兄様、どこ吹く風ですね。
視界では西城くんと吉田くんがコーヒーを注文している姿が捉えられます。というかすでにマスターが持ってきているということはこうなることわかってました?
疑惑の視線を向けたらぱちんとウィンクを頂きました。
…もしかしなくてもマスターのいるカウンターからは見えてましたか。……恥ずかしい。
「達也兄様、深雪姉様が可哀想です。今すぐ手を離してください」
「深雪から触れてくれたんだがな」
「だとしてもです。深雪姉様にいつまでも甘えすぎですよ」
おお、水波ちゃんが私を守らんとしてくれてます。ガーディアン務まってるよー!心の中で応援上映気分でペンライト振ってますけど、表面上は未だ赤面が取れないので俯いたままになっている。
本当、最近の淑女の仮面は脆すぎるね。気が緩んでいるのかな。
「なんか、家の中でもこんな感じなの?」
「こんな感じとは?」
「んー、年下に注意されてる、的な?」
「大人げなく取り合いとかしてんじゃねぇよな?」
ここぞとばかりにお兄様に非難が集中してますね。
しかし、取り合いなんて。…母とはよくやってましたけどね。懐かしい。
「母親とはよくやったが、年下の従妹相手にそれはないだろう」
あら、お兄様も同じことを思い出されてましたか。
その発言は同級生のみならず水波ちゃんも驚かせてます。
彼女自身、司波深夜を見たことはないだろうけれど、存在は知っているだろうから。
…それだけでなく、母と息子が
なかなか聞かない家族関係だからね。
「…つまり達也くんの深雪好きは親譲り?」
「似た者親子?」
「親譲りではないな。俺の方がずっと深雪を見ていたから」
「いや、そこは普通生まれた直後から見ている親の方じゃないのか」
お兄様、その辺グレーゾーンなので引き返してください。故人と張り合わない。
でも、あっていると思いますけどね。母の一番はお兄様でしたから。
多分あの事件が無ければ、あのように愛してもらうことはなかった。あったとしてもずっと憐みで愛されるだけだっただろうから。
だからずっと見ていたお兄様には確かにわかっていたのかもしれない。母の愛が、私にほとんど向けられておらず私からの一方通行だったことを。
…わあ。今更知りたくない真実を知ってしまった?いや、予想はしてましたけど確信までは至らなかったのに。
お兄様としては親譲りではなく、先に自分だった!と主張したかっただけなのだろうけども。
ま、終わりよければすべてよし!よね。最終的に親子仲良くなったのだから完全勝利ですよ。そういうことにしましょう。
「ほら、皆に言われているでしょう。水波ちゃんに注意されるのは恥ずべき事よ」
「そう言う深雪も水波を可愛がり過ぎて困らせるのはよくないんじゃないか」
「うっ、それは…」
このままべたべたの触れ合いを無くそうと指摘したらしっぺ返しがきました。
…確かにお兄様が注意されるより私が困らせることの方が多い。
だって、水波ちゃんが可愛いから。
「やっぱり深雪、うちで住み込みの家庭教師しない?」
あら、雫ちゃんから魅惑のお誘い。
お泊りでのお勉強会なら興味がありますけどね。住み込みは流石にできそうにない。というかできないね。
「雫、まだあきらめてなかったのか」
「達也さんの専属もあきらめたわけじゃないよ」
あらあら。お兄様とセットで雇ってくれるんですって。最高の環境だね。
「深雪を働きに出さなければならないほどウチの家計はひっ迫しているわけじゃないからな」
ひっ迫どころかかなり裕福です。お兄様の個人資産だけでも相当の上、父からも一応形上の生活費を入れてもらってますからね。…お兄様が生み出しているお金ですけれど。
お兄様のお断りの言葉に、雫ちゃんは反論しようもなくこの話はまたもうやむやに。
でもそこまで必要としてくれるのは嬉しいね。そうお兄様に微笑みかけると、お兄様は苦笑して返した。
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