妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

137 / 265
スティープルチェース編④

 

次の日は朝からてんてこ舞いだった。

昨日のうちに部活連と部長たちに通達し、今朝には学校中にその知らせは轟いた。

チャンスの無かった部活にチャンスが来て喜色を浮かべる一方で、毎年決まっていたからと今年も自分たちの部活から選出されると思っていた部活が落胆する現状。

だが、時間は待ってはくれない。

競技が変われば準備も変わる。

競技に必要な道具の発注も各学校の、さらに言えば生徒たち主導で準備しなければならない。

ということで生徒会はフル稼働。そこに通常業務も変わらずあるのだから余計忙しかった。

いっそ会社のように朝から晩まで仕事だけさせてくれればいいのだけれど、ここは学校。

通常授業もあるわけで、作業できる時間が休み時間と放課後のみだった。

その短時間で手配まで終えたの、すごくない?

明らかに三月までの面子ではできなかった。…はっきり言ってしまえばお兄様がいなかったらまず無理だった。

一人だけ違う仕事量に、中条会長はお兄様に向かってありがたやーと拝んでいた。

 

 

 

「いや、俺だけでなくお前も拝まれていただろう」

 

夕食後、ソファに腰掛けて水波ちゃんに淹れてもらったコーヒーの香りにほっと一息入れながら、今日の出来事を回想していた。

 

「それはお茶菓子を提供したからだと思いますよ」

 

あんな時だからこそ、糖分は必須。ピクシーに手伝ってもらってティーブレイクを途中強制的に挟ませた。

ロスした分を取り返そうと必死で顔色ヤバかったからね。

 

「深雪の手配の手際には感心したよ」

「恐れ入ります」

 

それは前世で培ったスキルのお陰ですね。お役に立ったならよかった。

その結果、発注はどこの学校より先んじて行えたらしい。こういうのは早い者勝ちのところもあるから初動が上手くできてよかった。

お兄様が労うように肩に腕を回して抱き寄せる。

…水波ちゃんがいる時に珍しい。お兄様もお疲れでしたからね。

注意しようとする水波ちゃんを視線だけで制する。

水波ちゃんはプロとして成長しつつあるのか、主の意向を汲み取れるようになってきた。

ちょっと不服です、ってお顔ですけどね。抑えてくれるらしい。ありがとう。

笑みで返すとほんのり頬が赤く染まる。まだ初々しくて可愛いね。

水波ちゃんとコンタクトを交わしていたら、お兄様の腕が肩から腰に回されて更に密着する。

ソファ越しからは見えないだろうから水波ちゃんからは見えていないはずだけど、お兄様どうしました?

 

「今日は同じ空間に居たのにお互いほとんど別作業に没頭していたからな」

 

あら、寂しさを感じて下さっていたということだろうか。

嬉しいことを言ってくださる。

 

「さながら戦場のような状況でしたね」

 

怒号こそ飛び交わなかったけれど、指示する声や確認の声が飛び交っていた。

 

「途中、うっかりお兄様と呼び掛けてしまいました」

 

集中しすぎて気が回らず、ついお兄様と呼びそうになってしまった場面があった。うっかりうっかり。

 

「ああ、あれは微笑ましかったな。おかげで一瞬心が和んだ」

 

学校の先生をお母さんと呼んでしまう、あの恥ずかしさと似たような羞恥だったのだけど、それがお兄様の心の潤いになったのならまあいいか。

密着しているのでお兄様の漏れる笑いが振動となって伝わる。

忘れていたわけではないのだけれど、密着していることを自覚すると、その熱が顕著に感じられて急に恥ずかしくなった。

背後に水波ちゃんがいるのに、こんなに密着しているなんて、兄妹と言えど節度っていうものが必要なのではないだろうか。

水波ちゃんが注意しようとしたのを止めたのは私だけど、今更になっておかしいと思い始めた。

そういう意味を込めてお兄様を見つめれば、お兄様は意を汲み取ってくれたけど、切なそうな表情を浮かべられる。

 

(うっ…その表情には弱いの知っていてそういうことするぅ…お兄様は意地悪だ)

 

これはあとでお兄様の部屋に呼ばれるんだろうな、と予感が過ると同時にお兄様の拘束する腕がするりと腰を撫でて、耳元に顔を寄せられたところで、電子メールの着信音が鳴った。

背後で水波ちゃんが素早く動き、お兄様もすっと離れて背後を振り向く。

小さなモニターを確認していた水波ちゃんが振り返るのだけど、その顔には戸惑いが浮かんでいた。

 

「達也様」

 

戸惑いというより困惑かな。

 

「メールが届いております。…その、差出人の名前が無いですが」

 

差出人が知らぬ人だったならこんな困惑は無かっただろう。

現代社会で差出人の名前を偽造することはできても『無し』というのは形式上不可能のはずだった。

わざわざ差出名を無くしてまで送られてきたというメールにお兄様が関心を寄越さぬはずもなく、しばし熟考の後、決めつけるのは早計かと口にして手元の無線コンソールで作業し始めた。

あらゆる可能性を考えた上で慎重に作業するお兄様って素敵だよね。

久々にオタク心がお兄様の行動にファーファーしています。

慎重に事を進める真剣な横顔カッコいい。プロフェッショナルって感じ。

原作知識通りなら相手は藤林さんで、内容としては個人的SOSなのよね。

軍からも関係性を警戒されて身動きが取れない状況。そんな中、頼れるのは妹が危険にさらされる予定のお兄様。

彼女は十師族の血縁としても柵が多いから。その反面お兄様は自分の立場より妹優先だから、軍だろうが四葉だろうが都合を考えないのである意味柵が無い。

彼女にとってこれほど頼りになる人はいないだろう。

…迷惑めっちゃ掛かってますけどね。そこは持ちつ持たれつでチャラにしようとしていたのか。彼女もそういうところは計算高いから。

 

(でもパラサイドールのこと、本当に彼女にはどうにもできなかったのだろうか?)

 

機械のお人形さんなんだから、電子の魔女ならば外部操作で停止させるシステムを潜り込ませることなどできなかっただろうか。

家を裏切れず、かといって軍も頼れず。彼女も苦しい立場なんだろうけれど、そのせいでお兄様がいらぬ苦労を背負わされるんだよね。

この情報はありがたいけれど、できれば自分の家のことは自分で片をつけて欲しかった。

…それが無理なことは重々承知だけどね。次期当主候補の私にだってそんなことはできないのだから。

権力を持った頭の固い方々を止めるなんて実力行使以外で方法はない。盲信に走った輩は死ななきゃ止まらない。

メールの暗号解析が済んで、モニターに表示された言葉は内容を知っていても衝撃を受けるものだった。

かろうじて言葉は呑み込んだものの、おいおい冗談だろうマイケル?と言いたくなるほど信じがたい内容で。

 

「新型兵器の実験ね…。鵜呑みにもできないが、頭ごなしに否定もできないか」

 

九校戦の種目変更は国防軍の圧力によるものであること、九島家がこれに乗じて秘密裏に開発した兵器の性能試験を企んでいること、その舞台となるのがスティープルチェース・クロスカントリーであることを伝える内容。

 

「国防軍の関与は事実だろう。だが匿名の時点で胡散臭いし、もっともらしい嘘にわかりやすい事実を混ぜるのは定石だからな…」

 

種目変更が全て国防軍による圧力だったか、と言われるとあそこも一枚岩ではないから、としか言いようがない。

良いように利用されたり持ちつ持たれつだったりと、損得を考えての種目変更だからね。

確か発言力を持つようになった強硬派を落ち着かせるために、彼らの希望通りに軍事色強めの競技をぶち込んだのだったか。そこに便乗する形で九島が機械仕掛けの魔法人形を公開実験に持ち込む、と。

見事に自己都合しか考えていない大人たちですね。

内情を探ったところでお兄様には意味がない。お兄様にとっての問題は新兵器が九校戦に持ち込まれる、この一点に尽きるわけで。

九島が関わっているならば、九重先生を頼るのも必然で、十師族が動くとなれば四葉へ連絡するのもまた必然。

 

「四葉への連絡はお任せください」

「深雪自身がするのかい?水波から葉山さんにお願いしようと思っていたのだが」

「こういった情報は早い方がよろしいかと」

 

なら任せる、とお兄様に託されて、私は一旦自室へと向かった。

ただ先ほどのメールを添付するだけでなくいくつかの言葉を添えてメールを作成、叔母様ではなく葉山さん宛に送付した。

葉山さんにも恐れ多いけれど、叔母様に雑用なんてお願いできないからね。

当然だがこの回線はかなり厳重に秘匿されている。何をどうやっているかは知らないけれど、お兄様が知らないという時点でかなりの技術の詰まったプロテクトがなされているのだろう。

余りここで長く作業をしていると不審がられてしまうのですぐにリビングへ戻る。

コーヒーは冷めてしまっているけれど、せっかく水波ちゃんが淹れてくれたのでね。淹れなおされてしまう前に魔法を使って熱を取り戻して一口。

香りは戻らないけれど温かい飲み物はほっと安心を与えてくれる。

 

「ありがとう深雪」

「このくらい大した手間ではございませんので。お兄様のお役に立てたのならなによりです」

 

水波ちゃん、仕事を奪ってしまってごめんね。

でも一使用人から送られるメールより次期当主候補の方がお目通りは早いだろうから。

 

「明日師匠にも相談させてもらうとするよ」

 

すでにその知らせは送ったらしい。お兄様も仕事が早い。

ことが事だけに、一人では限界があるとわかっているのか、お兄様はまるっと頼りになる大人に任せようという魂胆のよう。

人を頼れるのは良いことです。ジャンジャン頼ってください。

お兄様の負担が減ることを私は推奨します。

この後雑談もせず、静かにコーヒーカップを傾けた。

互いに身を寄せながら、熱を感じながら、視線を合わせることもなく、ただ寄り添う。

これからの騒動を互いに予感しながら――。

 

 

――

 

 

早朝、先生のお寺に着くと今日の用事が相談のみと前もって連絡していたはずなのに、お兄様は寺に入るなり強襲を受けていた。

うんうん、サプライズ好きの先生ならこう来ますよね。お兄様もわかっていたからこそのその恰好だったのだろうけど、今日はちょっぴり手荒だね。お兄様からささっと済まそう感が。

多分最速で片が付いたんじゃないかな。お兄様容赦ない攻撃でした。心の中で拍手。

先生は僧坊前の階段で腰を下ろしてご覧になってました。いつの間に。流石忍ぶ者。カッコイイ。

お兄様の後について先生の元へ。

 

「おはようございます、師匠」

「おはようございます、先生」

 

お兄様に倣って挨拶するけれど、先生今日もなさることがお茶目ですね、と思っていたのが表に出ていたのか、私に対して口角をニヤッと上げられた。

うん、この全て見透かしてる感じ、ぞくぞくしますね。最強キャラはこうでないと。

 

「やあ、おはよう」

 

何とも自然体なご挨拶ですね。朝練無しと言った割に強襲を掛ける悪戯を仕掛けた人とは思えない。

 

「じゃあ、中で話そうか」

 

…今、お兄様の発言するタイミングわかってて遮りましたよね。

出鼻を挫くことで自分のペースに持ち込む先生は流石ですが、その反面お兄様にフラストレーションが溜まるのでできるだけ勘弁してもらいたいのだけど。

先生の後に続いて中に入る途中でお兄様の袖をちょこっと引っ張る。

少しでも不満を散らすためにしてみたのだけど、今どうなったの?お兄様の手首付近の袖を摘まんだのだけどいつの間にか指一本、小指を絡ませて歩いています。

けれどそれも短い時間、すぐにするりと解放されました。なんだか狐につままれた気分。お兄様何がしたかったの?

背後からお兄様の機嫌が持ち直したことはわかったから、まあよかったのだけど。

…短時間の接触で私の心臓は激しい運動をした後のようです。お兄様の不意打ち攻撃に弱すぎる。

もう四年の修行を重ねているはずなのに一向に耐性レベルが上がらない。いや、耐性は上がっていてもお兄様の攻撃力が増しているのかも?

なんてくだらないことを考えていたら変わった香りが漂い始めた。

先生の魔法で蝋燭に火が灯っていた。

部屋の明かりが点々と付いていくのに同時に部屋が暗く感じられる、不思議な感覚。

――想子の光が遠のいていく。

 

「これは結界ですか?」

「内緒話だからね」

 

わあ。先生にしてはいつになく慎重になってますね。いつもはこんな結界張らないのに。

それだけこの話は危険だということか。

お兄様からの指示で、私も電磁波と音波を完全遮断する障壁を構築した。

だけど先生の反応はちょっと苦笑気味。この部屋でお話しする際の習慣だった模様。

早とちりでしたか。でもやり過ぎて悪いこともないでしょうからね。このまま続行で。

 

「師匠、この度は面倒な案件を持ち込んでしまい、申し訳ございません」

 

お兄様が頭を下げるのに合わせて一礼する。

パラサイドールの一件はどう考えても厄介事ですからね。

 

「九島も随分危険なことを考えたものだね」

 

先生はお兄様の、受けてもらえますよね?攻撃も暖簾に腕押し状態で往なした。どうあっても先生のペースは揺るぎない。

まあ、そんなやり取りをしつつ受けてはくれるんですけどね。

 

「今更言うまでもないだろうけど、ただでさえスティープルチェースは危険な競技だ」

「やはり先生もそうお考えなのですね」

 

お兄様も、雫ちゃんも気づいたようにこの障害物競走は言うまでもなく実戦レベルの軍事訓練だ。

ペイント弾だろうと自動銃座まで設置されるし、魔法の罠も仕掛け放題。

そこに制御装置の簡単に外れる機械仕掛けの魔法兵器が投入されるとあっては訓練どころじゃない、本物さながらの実戦が投入される。

生き残りをかけた命のやり取りだ。

 

「その危険な競技を新兵器の性能試験に使おうなんて、正気を疑いたくなる話だよ」

 

この時点ではまだ自分たちで製造・コントロールできているけれど、もう数日で刺客が潜り込まれてくるはずだ。すでに横浜に妙な動きがあることは善意の自称一般人の情報で某掲示板に雑談として話に上がっていた。

不審船が接岸していたそうですよ。警察も軍も、関東を守護しているという十文字・七草も何をしているのか。

何でも人員が足りないと言って機械任せにするから肉眼で観察している一般人に後れを取るんだよ。…っていうかまさか周たちあちらのお国の人たちも深夜に肉眼で港をウォッチングしてる一般人がいるって思いもしないだろうね。

たとえステルス機能を持っていても、魔法で隠されていても波の動きがおかしい、何かある!と気づかれているなんて――一般人って何だろう?逸般人⁇

とりあえず(四葉に)通報しました。

どう料理するかはお任せで。

 

「九島家が計画している実験について、師匠はすでにご存じだったのですか?」

 

思考が脱線していてもお兄様の声は聞き逃しません。

お兄様が踏み込んで質問する。

 

「例えば、新兵器の正体とか」

「P兵器、という符丁だけはわかっているんだけどね。残念ながら詳細は不明だ」

 

詳しく調べてなくてもその言葉を知り得るって、いったいどんな諜報を普段から行えばそうなるのか。

お弟子さんを派遣してる?…いや、先生の場合何事も自身で調べてそうだよね。

耳に入った情報を自身で裏取りとか取ってそう。疑っているわけじゃないんだけど迂闊に何でも信じられるほど単純な立場じゃなさそうだものね。

 

「風間くんなら知っているんだろうけど」

 

先生はどうやって軍部の情報までも知ったのか。

本人から連絡が来たと思えない。それだったら今回先生は率先してこの件に関わろうとしているのでペロッとしゃべるだろう。

先生の言葉に、お兄様が口を開こうとしたタイミングで私から質問を。

お兄様に変に裏切られた気持ちを味わわせることもないから。

 

「強硬派が動くことで、派閥以外の軍も静観する、ということでしょうか」

「おそらくだけど、九島が動いていることに気付いている一部が泳がせているんじゃないかな。――もしかしたらうまくいけば十師族の力を削ぐ事ができるんじゃないか、ってね」

 

…先生のそれは推理ですか?それとも予知?仏門に入ると神の御意思が伝わりやすくなるとか?仏と神はまた信仰が違うのだけど、神仏習合してましたかねこのお寺。西洋文化も取り入れちゃう先生のことだから利用できるものは何でも利用しそうだね。

でもお兄様ははっと気づいたよう。

風間さんが先生に報告しなかった理由。

彼らの所属する部隊の派閥は十師族が大きな顔をすることを良しとはしていない。

十師族と、それに支配された現在の魔法師界の在り方に批判的な派閥サイドの人間であることを、お兄様は思い出した。

そして自身が認められていなくとも、四葉の人間であることは間違いないことも。

お兄様は客観的に考えているつもりでも若干卑屈…というより最悪寄りに考えてしまうから、便宜上の軍人であり、階級も下であり、四葉所属の戦闘員の自分になんて連絡が来るはずない、とかお考えなんでしょうけどね。

軍にとって特尉であるお兄様は一応民間人だから連絡できないという判断だったようですよ。まあ、上層部としては十師族であることが全く考慮されてないとは思わないけど。

風間さん個人としてはお兄様に連絡した方が良いんじゃないかなって思っていたみたいだけどね。

…だって、ほら。九校戦っていえばお兄様の大事な妹が出場する大会で、その大事な妹が危険にさらされるとなったら、ね。誰だって去年の二の舞が過ってお兄様が動くことが予測付きますからね。

いや、お兄様は九校戦の会場で表立って大暴れこそしなかったけど、あの電子金蚕仕込まれた時、風間さん近くに居ましたから、お兄様の異常に気付いていたもの。その後無頭竜相手に暴れていましたし。

そもそも出会いがアレでしたしね。沖縄での妹失いかけての大暴走。

当時中学生があれだけの破壊力を持って敵を壊滅させたのだから不安を抱くのも無理はない。

互いに話せないからこうしてボタンの掛け違いが起きてしまうのがもどかしい。

少しだけ、これくらいで直るとは思えないけれど、少しでもお兄様に風間さんに対する疑念は減らしてあげたい。

 

「九島が関わっているとなると、藤林さんも無関係とはいえなくなるのでしょうから風間さんの部隊は待機を命じられている可能性が高いですね。そうなるとお兄様は特務士官、民間人相手にむやみに通達できない規律が適用されてしまった、ということでしょうか」

「ああ、達也くんに連絡がいかなかったのはそんな理由が妥当じゃないかな」

 

あら、先生が私の意図を汲み取ってくださった模様。ありがとうございます。

先生も中立と言いながら結構世話焼きですよね。…下心もありそうですけれど。

 

「とにかく九島が行おうとしている試験の中身がわからないことには、具体的な対策が立てられないな…」

 

先生はそうぼやいてみせるけれど、その瞳には挑戦的な光が宿っていた。P兵器の正体などすぐに突き止めてみせる、という自負の光というヤツだそうです。やる気ですね、先生。カッコイイ。これだから最強キャラは!好き。

 

「奈良へ行く必要があるだろう」

「旧第九研ですね」

「僕たちには因縁の場所だ」

 

第九研を巡る古式魔法師と「九」の数字付きとの確執は知っている。というよりこれからその件で大変大きな騒動になっていきますからね。

たった百年で怒りが風化するなら戦争など起きはしないのだ。

国を守るためとはいえ、人権や守ってきた歴史を無視すれば憎しみに変わることをなぜ二千年経っても学ばないのか。

その為の歴史書だったり記録でしょうに。

…まあそれも都合よく改ざんされた物だったり歪曲されてしまったものも含まれているのだけど。

今更こんなことを言ってもしょうがない。禍根は十二分に残り、今でも彼らは恨み続けている。

中には先生のように中立の人もいるけれど、そちらの方が少数だし、先生も完全な中立かって言うと――本当のところはわからない。

だけど、先生の心はきっと――

 

「ん?深雪くん、何か言いたいことでもあるのかい」

 

さっきから僕を熱心に見つめているけれど、と態と言葉にしたのはお兄様を揶揄うためですか?

お兄様の方からちょっと不穏な空気が。

 

「いえ、遊びに行くわけではないことはわかっているのですが、せっかく奈良に行かれるのですもの。もしお時間があれば風景の写真の一枚や、現地のお土産でもお願いしてもよろしいでしょうか」

 

原作では連れて行ってもらった奈良の現地調査だけれど、正直私が行く意味はせいぜい黒羽親子から情報を渡されるだけなので、東京で留守番していても問題ないと判断。

情報は必ず渡されるだろうから遅れても一日くらい。

一緒に行けばお兄様に快適な旅をお届はできるかもしれないけどね。

でもそれがお兄様の心を楽にさせているかと言うと…お疲れの様子だったからか、あまり楽しむ余裕も無かったように思う。

それならば無理についていくのではなく、お兄様が自分のことだけを考えて任務を完遂でき、更に帰りにちょっとした旅の思い出でも作ってもらえたら十分じゃないかな、と。

あと、普通にお土産買ってきてもらえたら私が喜びます。地名の入ったクッキーでもお煎餅でも、何なら奈良漬けでもいい。美味しいよね、奈良漬け。お酒弱いからそんなに食べられないだろうけど。

そう伝えれば、先生はじっくりと私の顔を見てからにんまりと笑って。

 

「なら、深雪くんも来ちゃいなよ」

 

とあっさりとおっしゃった。

 

「え?…私も、ですか?」

 

あれ?これもしや強制イベントでした⁇行かない選択肢を選んだら、まさかの先生からのアシストが。神の御意思?

 

「師匠、それは」

「いや、ホテルで待っていてもらえば危ないこともないだろうし、ちょっとした小旅行気分で行こうじゃないか」

 

もう一人連れて行くことになったところで問題ないよ、と先生は気楽に言うけれど…もしや気を使われている?まるで、穂波さんのようなお心遣いを感じる。

気が付くと急に胸が温かくなって頬まで赤くなった気がして少し俯いてしまった。

そのことに先生は何も触れず、ただ穏やかな笑みを湛えられていた。

 

(…ああ、これだから尊敬できる大人たちの言動は困る)

 

憧れずにいられない、この大人の余裕。

私が喜んでいるのがお兄様にも伝わってしまったらしい。

お兄様も先生の案に了承し、いつになるかまだ分からないけれど九校戦前に奈良旅行が決定した。

 

 

NEXT→

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。