妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
競技変更のお知らせが届いてから三日目のお昼休み。
生徒会役員と服部会頭が顔を突き合わせて選手選抜のために集まったのだけど、…うん、お兄様と服部会頭だけでお話が進んじゃってますね。
これはちょっと良くない傾向です。すでにお兄様が一人で突っ走り始めています。
去年の実績を鑑みてお兄様が総監督…じゃなかった、参謀に就いてしまったので忙しさが倍率ドンしてしまうことが決定した。
三高の吉祥寺君は選手も担うようだけれど、お兄様は調整も全てではないにしろ担当していますからね。
忙しさは共に過労死レベルだと思う。なんだって優秀な人は自ら苦労を買っていってしまうのだろうね。
過労死する気?過労死の先に天国は待っていませんよ、きっと。
と、いうわけで。
「兄さん、今後のスケジュールはどう考えているの?」
「そうだな。まだ新種目がどんなものかがわからないだろうから、とりあえず体験してみることが大事だろう。セットを組み立てて一通り通しでやってみるべきだ」
「ならセットの手配は――」
やるべきことを書き出して、仕事を分担していく。
お兄様は優秀だけれど、情報共有が後回しになることでほとんどを自身で指示して、それさえ面倒になったら自分でやってしまうでしょうからね。それだけは阻止しますよ。
自分でやった方が早い、はワンマン社長によくある行動です。
将来のことを思えば今のうちに矯正すべき思考です。
お兄様が原作のように会社を立ち上げて社長になるかわからないけれど、どの職に就こうともその癖は直しておくべきですから。
「対戦相手も自分の部活メンバーばかりでは良い発想も生まれないだろうから、そうだな。エリカやレオ辺りに頼んでもいいかもしれない」
「エリカたちなら奇想天外な動きで翻弄しそうね。練習相手にはいいのかも」
特にエリカちゃんシールド・ダウン気になってたみたいだし、大会に出場はしなくても競技ができるだけでも喜んでくれそう。
「…彼らを選手として出さないのか?」
…これはこれは。服部会頭からのまさかの質問。
去年まで二科生は出場した事例がない!とご立腹でしたのにね。先輩も柔軟な思考になった。
いつまでも認められないと駄々をこねるほど幼くもないけど、たった一年でこれだけの変化はすごい。明るい未来の象徴のよう。
「ルールに縛られた動きでは、彼らの本領は発揮できません。彼らのセンスならいい線までいくでしょうが、それでも魔法力がモノを言いますからね。最後に力押しに持ってこられたら彼らの勝率は下がります」
流石お兄様。友人だろうと冷静な判断。
そしてルールに縛られた動きではと前に付けたということはルール無用の勝負なら負けないと思っていそう。同意します。真剣勝負であれば学生同士ならエリカちゃんたちが負ける想像がつかない。
服部会頭はちょっと意外そうな顔をしながらも納得して引き下がった。
というより、もうお兄様の頭の中ではどれほどシミュレートされているのだろうか。脳内が既にフル回転疑惑。
「それだったら、私もほかの競技の練習相手に回ってもいい?」
「…深雪が…?しかし、深雪はピラーズブレイクの練習が」
「それなのだけど、ペアの練習相手ももちろんするわ。でもソロとして、何か発想を得たいの」
私はすでにソロとして決まっていた。
深雪ちゃんを誰かと組ませても勝てるだろうけど、ペアに回すのはもったいないそう。
ボッチじゃないよ。相性が悪いわけじゃない、と思う。ただ戦略的にね、そっちの方が良いんだって。くすん。
お兄様は私の発言に戸惑ったようだけれど、何処の競技も練習相手に不足している。
戦術の幅を広げるには慣れた相手よりも複数相手にした方が身に付くのはさっき自身でも言ったようにお兄様もよくわかっていた。
「わかった。深雪なら問題ないだろう」
「なら兄さんと重ならないようにどこから回るか考えないと」
「…俺が傍に居てはいけないか?」
あらぁ。お兄様、どうしてそんな寂しそうなお声で?
ほのかちゃんがそわっとしてますよ。泉美ちゃんも警戒してか、緊張感が漂ってきた。
「効率を考えたの。私が相手をしている間を待っているより、そのデータを解析してから作戦を立てた方が時短になって良いでしょう?」
「……そうだな」
そんな絞り出したようなお声で。でもお兄様が寂しく思ってくださることがちょっと嬉しかったり。
「ありがとう」
だからいつもより緩んだ笑みで返すと、お兄様はしょうがないな、と諦めたような笑みで返してくれた。
それからいくつか仕事を分担し、お兄様にはできるだけ調整と参謀の仕事に集中できるようにしてもらった。
これで少しでも負担が軽減されるといいんだけど。
お昼も終わり、片付けを手伝いながら服部会頭の元へ。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい?」
服部会頭って後輩の面倒見も意外といいんだよね。まあ、会頭をするくらいなんだから組織を纏める能力に長けているのだろうけど。
こそっと近寄ってちょっとしたお願い事をすると、会頭はしばし考えたのちにわかった、と頷いてくれた。
…背後から視線を感じますけど、これは全てお兄様の為ですからね。
用事を終えてお兄様の元へ戻ると、お兄様が無言でじっと見つめてきます。
人目が無ければ頬を撫でて抱きしめて、腕の中に閉じ込めて耳元でごうも――聞き出すために囁くのでしょうけれど、そのような手を使わない判断力が残っていてよかったと安堵すべきなんでしょうね。
「兄さん、お互い頑張りましょうね」
「…深雪はあまり張り切り過ぎないようにな」
私の方が心配されてしまいました。
この心配の十分の一でも自分にかけられたなら、原作であれほど疲労しなかったでしょうに。
「それは兄さんもよ。何でもかんでも自分でやろうとしたらダメなんだから」
顔の前で小さくばってんを作ったら、お兄様はふぅー、と少し長めの息を吐いてから、私の頭に手を置いた。
「本当、深雪には敵わないな」
そう言って少しだけ頭を撫でてから、生徒会室を共に後にした。
――
練習初日。
お兄様がシールドダウンの練習に顔を出している時間、私は放課後前に水を張っておいたプールから、アイスピラーズブレイクに必要な氷柱を多めに作っておいて、並べるのを他の生徒に任せて近くのロアー・アンド・ガンナーの練習場に来ていた。
ここは昨年までバトルボードの水路として使われていた場所。
実際どんなフィールドが用意されるかわからないが、とりあえず水の上で空いている場所はここだった。
的は色んな部活動から借りてきて水路の脇や、小型ボートに設置したみたい。
扱ぎ手と射手がペアとなってタイムを競うペアと、両方を一人で担うソロの二種。
この競技に同時出走はなく純粋なタイムトライアル、つまり他の選手による妨害などは一切ない、ゴールまでの時間を競う種目となる。
だからこそ、選手の技量が際立つ。
なんにしても初めての競技だ。
競技概要はあるものの、実際どのように的が配置されるのかわからない。とりあえず基礎的な配置をしてみて、流してやってみることになった。
バトルボードの水路はレース用になっているので直線だけでなく急なカーブだったりもあるわけで、コントロール自体も難しい。
その上的を射抜かなければならないのだから、相当バランスが難しい。
特にペアは互いの魔法同士が重なって相克を起こしてなんてことになったらタイムロスに繋がるわけだから、相手との呼吸も合わせなければならないので、とりあえずどんな感じか操作することだけで手一杯のようだ。
ソロの方も一人で両方を担わなければならないから、切り替えのタイミングとバランスが難しくこちらも集中力が必要となる。
「…扱ぐ方に集中してしまうと的を見落としてしまうこともあるのね」
こちらはタイムを優先すれば的を逃して点が低くなり、点を優先すればタイムが遅くなる。なら間を取ってみてどちらもバランスよくも挑戦したが、それもただタイムを落とすだけという結果になった。
初日だとまあこんなモノだろうけれど。
ルールには的を破壊すればいいとあった。だが、彼らが今行っているのは的を射抜くこと。その一点に集中してしまっているようだ。
これも固定概念だろうか。
ルールブックとにらめっこしながら、選手たちと軽くディスカッション。それから、
「ええ!?プ、司波さんが実演を?!」
「そんな!お手を煩わせるなんて」
「先ほどのアドバイスでも十分ですのに!」
先輩先輩、後輩に敬語を使わないでください。
ワタシ、タダノ女子高生!プリンセス違ウ!!
…どれだけ本の世界に浸食されているのですか一高は。
「実際に競技をしていないのですから先ほどのはただの机上の空論です。やってみた方が良いアイディアも浮かぶかもしれませんから」
実践あるのみ、と微笑んだら胸の前で手を組んで感激された。…だから、そんなありがたがる存在じゃないですよ。
(ううん…これ、大丈夫かな。もし四葉ってバレた時裏切られた感倍増しない?ちょっと怖くなってきた)
と、そんなことを考えていたら練習着に着替えてきた新人戦出場の一年生たちも合流した。
香澄ちゃん、一瞬目が合ったようだけど視線を外されました。
ご機嫌斜めかな。…というか、泉美ちゃんとのことが原因で嫌われている気がひしひしと。
お兄様もなんでか嫌われているというか、突っかかられちゃうんだけど、こっちは何でだろうね。
最初は初めて出会った時の印象が悪かったから意固地になって、と考えたのだけどしっくりこない。やっぱりお姉さんを取られちゃう、とか考えたのかな。
どこの馬とも知れない得体の知れない男にお姉ちゃんはやらない!みたいな?
お兄様、妹視点では最高にかっこいいお兄様だけれど、初めてお兄様を見る人は威圧を感じるみたいなのよね。
鋭いという目つきのせいなのか。キリっとしててカッコいいのに。
特に七草家からはふてぶてしく見える、とか胡散臭いとか結構な言われようになってしまう。
特別何かお兄様に感じるのだろうか。四葉臭でも感知する嗅覚をお持ちです?
「し、司波さん、運動着のままやるの?」
そんなことを考えつつコースに向かおうとしたらそんな声がかけられたけど、確かに皆さん一年生含めて防水加工の服ですね。
そういった部活動に所属している人が多いからすぐに用意できたみたい。部活用の予備の服もあるみたいで、部活に入っていない人はそれを借りてるようだ。
私は授業用の運動着のみしか持っていないし、すぐにまた別の場所に移動するのだからこの競技のためにわざわざ替えるのも手間なので、これで問題ないだろうとこのままいかせてもらうことを主張する。
さっきも何人か選手が落水したり水しぶきを派手に浴びてたから心配されたんだろうけど。
「濡れたとしてもすぐ乾きますから大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
軽く頭を下げて微笑むと、もったいないお言葉です!って…もしや皆楽しんでやってるね?なら指摘するのも野暮なのか。
でも何も言わないのもあれだしね。
「先輩たちもお戯れはほどほどにお願いしますよ」
これでは先輩と後輩の示しがつきませんから、とちょっと身をかがめて下から見上げるようにしてめっ、と忠告を一つ。
これなら冗談とも受け止めてもらえるかな、と思ってやったのだけど…加減、間違えたか?ボン、と真っ赤になってコクコク頷かれた。
すまない、深雪ちゃんの美貌は男女問わず魅了するのでした。ちょっとしたいたずら気分だったのだけどね。
早くコースに移動しようと背を向けて歩き出すと背後で注意した先輩方の方からきゃあきゃあ楽しそうな声が。
なんかファンサービスをした有名人のよう。なんだかなぁ。
コースを見下ろすと、結構ぐねぐね複雑な上、波が立っている。海上を想定して波状装置を使っているようだ。
今日は初日ということもあり最小に抑えているようだけれど、それでもただの水面より難しいだろう。
以前見た渡辺先輩の様なボートを自身を固定して一体化して移動する魔法は逆にバランスを崩しそうだったので、お兄様との朝練で慣れているローラーブレードの時と似た魔法式を展開準備して。
(的を撃ち抜く、撃ち落とす、叩き壊す、爆破する、…的を狙った攻撃のバリエーションをどれだけ試せるかな)
何が一番効率がいいか、参考になる動きを見せなければ!と気合を入れなおして合図を待つ。
3,2,1,ーーGo!
スピードはあまり速すぎないよう、コントロール重視で滑り出す。
うん、これは難しい。波の衝撃を受けないように極力抑え込むか、受け流すかで対処も変わる。
水面自体に働きかけるもの有りだね。その時その時で対応を変えて色々検証。
おお、カーブのところウォータースライダーみたいでちょっと楽しい。っと、楽しんでたら的がちらほら。
では手始めに皆お馴染みエアブリッドからいきましょうかね。
撃ち抜くんだったら空気の塊のイメージを先端の尖った螺旋構造の弾をイメージして、放つ。
ど真ん中に穴が開いてからボロっと崩れ落ちた。威力間違えた?…次、行きましょうか。
今度は連なる的を散弾銃のイメージで、打つ!…わあ。的が穴だらけで倒れていきましたね。
これなら複数的が出現しても同時に射抜くことができそうだ。
お次はこれだけ水が豊富なのだから水を使ってみましょうか。
ってことでウォーターカッターをイメージして――うーん、切れ味抜群だね☆これ範囲絞らなければまとめていけちゃうところも使い勝手が良い。
…いいけどこれまた審議かな。的は壊れるけど中心部から狙ったわけじゃないから。
あと、爆破?水が豊富だから酸素と水素それぞれを的に集めて濃度を高めて静電気でBOM!…粉々だぁ。
難易度は、水素の方が難しいけど威力は高いかな。でもどっちも狙いなんてあったもんじゃないね。
ただちょっと時間がかかるかも。私は短時間でできたけど、的と的の間隔短いから悠長に濃度を高められないかもしれない。
それから、爆破する場所も考えないと波を徒に起こしてバランスを崩す可能性も。
やっぱり中心狙わなくてもルール上問題ないんじゃないかな。一応運営に確認しておこう。
色々試してコースを回っていたら、あれ、もうゴールです?あっという間でしたね。
途中から無意識にスピードアップしてしまった模様。うっかり。
波が穏やかだったものでそんなに扱ぐのが大変でなかったことも要因か。
コースから降りてすぐ、多少浴びた水しぶきをぱぱっと服から弾いてから皆さんの元に戻ったのだけど、まじまじと見つめられてますね。
あの香澄ちゃんも同じ反応なのにはこちらがびっくりだ。
「あの、いろいろと試してみたのですが、参考になったでしょうか」
あまりに皆が茫然としていて気まずかったので声を掛けてみたのだけど、反応が鈍い。
終わってから気づいたけど…はっ茶け過ぎましたかね。
途中楽しくてボートを蛇行させたり跳んだりしちゃってましたからね。空中なら足場がボートに固定されていれば的を狙うの楽だった。
波の上でバランスが取りづらいとか、互いの魔法が相殺し合ってしまうということもないだろうから結構いいアイディアだと思うのだけど。
「…司波さん、水上初めてって言ってなかった?」
「ええ。こういったスポーツには縁がなかったものですから」
スピードを競うような水上競技はやったことが無い。
不慣れだから色々試しながらやってみたのだけど、おかしかっただろうか?
不安になって尋ねると全員がそうじゃない、と首を横に振った。
「いや、とても初めてとは思えない滑りだったよ!」
「というよりどれだけバリエーションがあるの?!的も全部命中していたし!」
「どうやってあれだけ波を制御してるの?!しかもスピードが後半更に加速してたよね」
動けたことで皆息を吹き返したように質問攻めに遭いました。
できるだけ質問に答えるけれど、ごめんなさい。ここに滞在できる時間はそろそろ終了しますので。
「参考どころか!ほとんど正解のようだよ。これこそがロアガンだって」
「うんうん。説明見ただけじゃイメージ掴めてなかったけど、これなら色々私たちでも工夫ができそう!」
プロモーションとしては成功、なのかな。
皆作戦会議に入る様なのでここでお別れ。次は去年参加したミラージバットへ。
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