妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
と訪ねて来たら、こちらは設営に時間がかかっている模様。
だから先に作戦を考えているみたいだけど、その様子がね…ただモニターを見てうっとりしている時点でもしやと思ったけれど。
「あ、本物の!」
「フェアリークイーン様!!」
「違うよ、プリンセスでしょ?!」
「み、深雪…ちょっとタイミング悪かったかも」
「ええ、そのようね」
ほのかちゃんがごめんね!と謝っているけど謝らなくていいよ。昨年の試合を見て勉強することは必要だからね。
特に昨年は初めて飛行魔法が使われた試合だ。
今年は制限こそかけられているものの一時的に使えるそうなので有効に使うこと前提で作戦に組み込む選手は多いだろう。
だから参考にするはずだとは思っていたけれど、予想以上の反応だね。
飛行魔法のコツや光の弾の捉え方。他の選手と取り合いに遭った時の対処法など色々とお話を。
実践ができなければとにかくイメージを、ってことみたいだけれど。
「イメージも大事だけれど、何より自分に合ったプレイスタイルを見つけないと。私にはほのかのように光を感知して動くことはできないわ。それぞれの個性を大事にした戦い方を模索しましょう」
「「「はい!」」」
…ここの生徒たちはほのかちゃんに感化されているのかっていうくらい従順ですね。先輩たちは揶揄い気味に一緒になって参加していたけれど。
何処もノリがいいったら。
正直、私のように縦横無尽に飛行魔法を使うには豊かな想子量と技量が必要となる。
とはいえ昨年は初めて飛行魔法が導入された試合だったため、ルールが新たに追加された。
さっきもちょろっと出したけど、飛行魔法の継続使用時間が一分と定められたのだ。途中脱落する選手がほとんどだったからね。
それでも一分を何度も何度も繰り返すのもまた、とんでもなく魔法力が必要となるわけで。
結局使える時間は精一杯使って、その他は今まで通り飛び跳ねるが主流になるのだとか。
それなら、飛び跳ねてからの遊泳ができれば結構節約になると思う、と提案すると、ちょっと呆れられた。
そんなにすぐ魔法の切り替えはできないそう。…自分基準が過ぎたかな。
でも、
「わ、私挑戦してみたいです!」
想子量はそこまで多くはないけれどやってみたいと一年生が手を上げた。
うんうん、何事もチャレンジだよね。CADを二台使うのは技術が必要だけれど、ひと月練習期間はある。
まずは跳ね上がるところから練習だね。
ここでできることが無くなってしまったので、予定より早いけれど一旦ピラーズブレイクの元へ戻ることに。ほのかちゃんもついてきた。
「雫のペアが気になって」
一応この後雫ちゃんと花音先輩ペアと対戦する予定となっていることを伝えたら見学したいって。
…いったんお兄様と合流する予定と伝えたことも大きな要因かな。恋に対して応援はできないけどきっかけは与えてもいいかな、と。彼女のモチベーションにも関わるしね。
選手の精神面を支えるのも生徒会役員の役目です。たとえそれが同じ生徒会役員だとしても。
雫ちゃんは花音先輩とは風紀委員仲間だし、関係は良好に見えるけど、魔法で共闘なんてする場面はそうそうないでしょうからね。
横浜でも一緒じゃなかったし。
どう息を合わせられるかは確かに気になるところだ。
「深雪。ほのかも」
「設営任せてしまってごめんなさいね」
「ん、問題ない」
「むしろほとんど司波さんがやってくれたからね。ただ並べるだけなら私たちにもできるわ」
雫ちゃん、花音先輩と合流しておしゃべり。
彼女たちもポジションを魔法の組み合わせを考えて調整中のよう。
他のペアも同様みたい。
一年生はまずは一年生同士で一本の氷柱相手に攻防役を決めて練習をしていた。一発で壊せているのは泉美ちゃんだね。優秀優秀。
相手の情報強化も何のその、でした。魔法力もサイオン量も違いますからね。
アイスピラーズブレイクって一番技術を必要としない競技な気がする。いえ、工夫次第ではそれなりにできると思うのだけど、最後に物を言うのは結局パワーだから。
互角の相手がいて初めて技術が必要になるというか。
「とりあえず構想は練ってみたから形にしてみたいのだけど司波さん、いい?」
「もちろんです。お相手務めさせていただきます」
ということでさっそくステージに三人で向かう。普通ならペア同士でやるべきなんだろうけど、模擬戦ということでどんな感じかやってみようってことらしい。
ふぅむ。ここで原作では圧倒的な力でのしちゃっていたけれど、それじゃ彼女たちの相手にはならないよね。
…あれはお兄様が見ていたから深雪ちゃん張り切っちゃったのかな。
ペアはそのまま攻守決めた通りに。ソロの私は防御に徹する時間と攻撃する時間に分けて、まずは魔法の範囲がどんなものか、相手の邪魔をせずに行使するにはどうしたらいいか。
慎重に見極めていかなければ、とそこへお兄様が現れた。ナイスタイミングですお兄様。
ほのかちゃんが忠犬のように駆け寄って現状を説明。
健気な姿。お兄様、褒めてあげてもいいと思うのだけど、口頭でのお礼だけだね。
あんな可愛い子に迫られているのにスルーできるとは。お兄様お仕事中だとより一層鈍感になる。
もちろんただの鈍感とはわけが違うのはわかっている。
(だけど、お兄様がほのかちゃんの気持ちに応えられないのは、自身に恋ができないと思い込んでいるからなのでは、と思うんだけどどうなんだろう)
原作とは違い、感情や心が育ってきたお兄様だ。友情を多少でも優先できるほど育ってきたのだから恋も、と思うのだけど。
当然お兄様にも好みのタイプだってあるだろうし、自身を好きになってくれた子を必ずしも好きになるわけではないのだが。
何かきっかけがないとお兄様に恋は難しいのか。
(…しかし、告白以上のきっかけって何かあるかな)
などと考えているとお兄様と視線が合う。あちらも準備できた様子。
試合同様、四方のランプが点灯していく。
先制攻撃はあちら側。まずは防御のターンです。
情報強化と干渉力を高めて防御する。花音先輩の攻撃に耐える、んだけど何一つ攻撃を受けていない様子の氷柱に先輩は威力を上げる。
けれども、うーん…微動だにしないね。ちょっと弱める?でもそれじゃ練習の意味ないよね。
先輩の攻撃力が弱いんじゃない。ただ私が強化した氷柱に対してその振動力だけでは何の変化も与えられない。
威力があるだけでは対抗手段があれば防げてしまう。特に千代田家の地雷源は有名だから。
解決法も見つからず、タイムアップ。攻守交替、攻撃のターンに。
インフェルノだったりニブルヘイムは一発目には向かないので、ここは基本中の基本の振動系でいこう。
花音先輩と系統は同じ。でも狙いは違う。
それを伝えたくて、まずは手前の四本を狙って。
「っ!」
流石に初歩魔法式では雫ちゃんの強化を崩せない。対抗できないのはわかっていた。
だから私は二重で同じ魔法を発動。互いの魔法を邪魔しない、時間差発動で超微細の振動を起こさせる。
ここからは科学実験だ。
あの氷は私が造ったのでよくわかるけれど、零度まで温度を下げて水が固体化してできた氷である。つまり氷の中の水分子はまだ動いている状態の普通の氷なのだ。
そこに極微細ながら振動が加わったらどうなるか。
分子が動き出すとそれすなわち熱が発生する。
その状態で外部から大きな刺激が来たらどうなるか。――脆くなった内部はいとも簡単に亀裂が入る。そこに上から圧力を掛ければほらこの通り。氷柱が崩れ落ちた。
「うそ!?」
「情報は強化したはずっ」
雫ちゃんは確かに情報強化はしたけれど、それは側面のみであって内部にはかかっていなかった。超微細の振動を与え脆くなった内部に、一点集中で外部を揺らす衝撃を与えればそれだけでひびが入ったのだ。
同様に上から押さえつけるように圧力をかけたのは、氷の性質を利用するため。
氷は圧力をかけると融点が低くなる。つまり圧力がかかったところは水になるということ。亀裂が入り圧力をかけられたことで崩れ落ちたのは融解して形を保てなくなったから。
氷の仕組みがわかるからできた壊し方です。科学実験の証明終了。
ちなみに圧力をすぐに外すことができれば崩れ落ちはしなかったはず。圧力が無くなった途端、すぐに融点が戻って再び凍るらしい。この現象を復氷と言うそうですよ。
だから諦めないで圧力を分散する方法を取ればまだ巻き返しが利くのだけれど、これは氷の仕組みをある程度知らないと出来ないことだね。
あとで説明するとして、今度はまた攻守交替する。
再び花音先輩の攻撃、地雷源が派手に振動をもたらすけれど、分子をほとんど動かすことができないよう減速魔法で氷の温度を下げているので、その振動によって私がしたように氷が内部から傷つくことはない。
やけになって派手にドッカンドッカン来てます。イライラされてますね。
それでいて魔法の精度が上がっているのですから大した精神力。
普通なら集中が切れて制御が甘くなり、見た目派手でも中身が伴わないことがあるのだけど、先輩のはちゃんと攻撃が成り立っている。
…それでもダメージが入らないのが申し訳なくなるレベルだ。
雫ちゃんも今度は攻撃に加わっている。彼女も振動系は得意だからね。反発させることなく相乗効果狙いで魔法が重ね掛けられるけど、まだ即興感があってうまくかみ合わない。
これは練習次第で武器になりそうだけど、雫ちゃんが思い付きでやってみたってところかな。ナイスアイディア。
ただ防御がおろそかだから隙を突かれてら窮地に追い込まれるかもね。
今度は私の番。
インフェルノが彼女たちの真ん中の氷柱4本を襲う。
…この攻撃も恐ろしいよね。相手に熱を与えておきながら自陣を強化できるんだから。一人二役。
深雪ちゃんは一人で初めからペアができちゃいます。チートってすごい。
なんというか、この魔法この競技のためにあるような魔法だよね。いや、実戦でも使い道はちゃんとあるけれどね。
相手燃やして自陣には影響しないよう壁を作るようなものだから。
雫ちゃんは何とか奮闘するのだが、押されてしまっている。その間花音先輩も果敢に攻撃を仕掛けているんだけれど…うーん、これもまたかみ合わないね。
二人の魔法領域が重なって威力が弱まっちゃってる。しかも本人たちがその事に気付く余裕もないみたい。
まだ初日だから、というのもあるんだろうけども。ペアって難しいね。
ある程度問題点も見つかったし、一旦これで打ち切りましょうかね。最後の4本もあっさり片付けて試合終了。
舞台から降りると泉美ちゃんが淑女の速度を守りつつ駆け寄ってきてくれて褒めたたえてくれます。
うん、美少女から絶賛されるの、悪い気はしないんだけどその熱視線はちょっと心臓によろしくないかな。
冷汗がね、主にね。危険アラームが脳内に響きます。距離が近いですね。
そんなことはおくびにも出さずに微笑んでお礼を返し、どうだったかしら、と意見を聞くのだけど返ってくるのは美しかった、綺麗だった、神々しかったというオタク3段活用。
違うよ。そうじゃなくて試合内容ね。
苦笑してもう一度選手としての意見を聞くのだけど圧倒されました、とお目目キラキラ。…まあ興奮状態の時に聞いたこちらも悪かった。分析は落ち着いてからの方が良いね。
ということでお兄様と雫ちゃん達の元へ。
お兄様はすでに彼女たちのミスを指摘していた。
少し落ち込む雫ちゃんと、一方的で攻撃も通じなかったことで膨れている花音先輩。
申し訳ないけれど、だからといって彼らは下手な手加減を良しとする人たちじゃないから。
私の存在に気付いた雫ちゃんが顔を上げて私を見る。その瞳に宿るは去年よりも小さな光で、まだ私と対決するには自信が足りないようだ。
「問題点はいくつもあるけど、あと1か月あるわ。――去年、私のステージまで上がってきた貴女を期待してる」
自信が足りなければ、鍛えればいい。それだけの素地が彼女にはある。
今の短時間でも、彼女はすでにその可能性を見せてくれた。
昨年の、私を驚かせただけの技術を形にしてみせた雫ちゃんの努力を、私は知っている。
挑戦的に見つめ返せば、彼女の瞳の小さな輝きは強さを増した。
「深雪の期待には、応えてみせる」
たとえどんな手を使っても、とお兄様をちらっと見たのはお兄様を参謀として使う気満々ですね。
いいと思います。それを実現できるかは、本人の努力次第なのだから。
視線を向けられたお兄様は、無表情に見えるけどちょっぴり複雑そう。何か思うところがあったかな。
とりあえず今考え付く問題点をいくつか挙げるだけ挙げて、お兄様はほかの競技へと向かった。
その去り際に、また腕を上げたね、と頭を撫でていってくれた。えへへー。お兄様に褒められてしまった。
緩む顔を抑えつつお礼を言ってお兄様を見送った。…なんか、とっても離れがたそうになっていたけれど、時間ありませんからね。
私も今日はこのまま雫ちゃん達と作戦会議です。
私が何をしたのか気になっていたようで色々質問されたりしたけれど、そんな方法が、と感心されてしまった。
泉美ちゃんの視線がさらに輝いて眩しいです。サングラス欲しい。
参考になったようでよかった。ただ圧倒するような一方的な試合じゃあまり勉強にならないからね。
それから今日使い切るだろう氷柱を追加して皆の指導を少々。
その後、たくさん魔法を使いまくりましたからね。休むように言われました。私も張り切り過ぎたね。
反省するから雫ちゃん、そんな心配そうな顔しないで。ちゃんと休むから!
――
それから昼は授業、放課後は九校戦の練習に費やす日々が始まった。
スティープルチェース・クロスカントリーについては、まずは演習林を走ることからということで、各競技の2年3年がかわるがわる走ることになった。
舗装されていない道を走るのはそれだけで体力を消耗するからね。慣れておかないと。
私?私はたとえピンヒールの靴であろうと森林山道踏破できる。…四葉の山に囲まれた立地は体力づくりにもってこいですよね。
どんな状況にあっても逃げ出せるようにならないとね。鍛えるに越したことはない世の中ですから。
自力で逃げ出さないにしても、お兄様の足手まといにはなりたくないという妹心です。
…大抵そういう場面はお兄様に運ばれている気がしますけど、いつか、そういうことがあるかもしれないから!
そんなこんなで練習を始めて初めての休日、日曜日です。
自主練で学校に行っている人もいるでしょうけど、今日お兄様は第三ラボに行っている。
私も水波ちゃんもあまり練習を必要としていないので、今日はまったりお家で過ごそうと決めていた。
水波ちゃんはHARの掃除で満足していないようで張り切って家事をこなしている。
張り切っている人の邪魔はしちゃいけないので私は大人しく部屋に籠ってチクチクと。
最近全然縫う暇がなかった。
夜はご飯を食べてお茶を飲んで過ごした後お風呂に入ってマッサージを受けてお勉強。
そしてその後お兄様との、お兄様曰くリラックスタイムを共に過ごしてばたんきゅー。くたくたになって眠ってしまうのだ。
リラックスタイムってほっと落ち着く時間のことだよね?ドキドキ寿命を縮める時間じゃないよね⁇
お兄様のお陰で私はぐっすり快眠です。すぐ寝落ちします。夢を見る余裕もなく朝が始まる。
肌の調子がいいのだからよく眠れているはずなのだけれどね。
ということでここ暫くほとんどぬいに触れることもできていなかった。叔母様はそれを予期していたのか、しばらく仕事はお休み、とこちらの依頼は受けていない。
一応、水波ちゃんぬいは作ったのでお送りしましたけどね。制服バージョンしか作れなかった。メイドさん風の衣装は今、ようやく着手できたところだ。
お兄様の新制服は実物を見る前にほぼ作っていたから、最後腕のエンブレムを完成させるだけだったのですぐにできたよ。
お兄様を後回しなんて、ぬいの世界であってもできることじゃない。
何事もお兄様最優先で。そこは揺るがない。
ミシンを使って生地を縫い合わせて…久しぶりの作業に心が躍る。楽しい。
一年の頃とは違い、水波ちゃんが来てくれたことで料理を作ってくれている間の時間は余ったはずなのに、その時間は暗躍関連に使ってしまっていた。
このところきな臭い動きが多発していて報告を読むだけでも頭が痛くなる。
葉山さんとも連携を取っているようで、原作よりだいぶ真相に近づくのが早い気がする。…大丈夫かな。
原作クラッシュというより葉山さんに筒抜けの状態が大丈夫なのかが不安。…私が危険視されたりしないかな。
もしくはこの諜報部隊が本家に吸収されちゃわないかな。…まあその方が彼らにとっては大出世になるからいいのかもしれないけれど…、ううん。今度訊いてみようか。
何だか手塩にかけた子を連れていかれるような気分。
もやもやする気持ちを、ぬいを縫うことで頭を空っぽにさせていく。
モノ作りはやっぱりいいね。人を無心にさせてくれる。
この後はお菓子作りでもしようかな。生徒会も皆疲れた顔をしていたし、ピラーズブレイクの皆も疲労の顔をしていたしね。
ああ、そうだ。まだシールドダウンのところにお邪魔していないのだった。水波ちゃんとエリカちゃん見に行かなくちゃ。
まだまだいろいろとやることが山積みだ。
表の、学校だけもこんなにあるのに更にお兄様は他にもお仕事があるなんて、お兄様疲労するのも当たり前です。
もっと体を労わってほしい。脳だって休ませなきゃいけないのにいつだってフル回転だ。
だから今日は休ませてあげたい。…あげたいのだけど…どうしよう。
今日はこの後七草先輩との関係を進展させるために必要なラッキースケb…ごほん。ラブイベントが控えている。
これは日にち指定のイベントのはずだ。今日を逃すともう別の日は無い。
まだお兄様の恋愛感情が育っていなかったとしても、可能性は伸ばしてあった方が良いと思うわけで…やっぱりイベントは熟しておくことに越したことはない、と思う。
ラブハプニングで美少女?いえ、大学生なのだから美女と形容しよう――の水着姿も見られるわけだし、その後すぐに帰ってゆっくり休めば少しは疲れが取れるかな。
…だけどどうやって誘おうか。
原作では深雪ちゃんのストレスを心配したお兄様が外に連れ出してくれることになって、お買い物デートに付き合ってくれる流れになるのだけど。
今の私は原作の深雪ちゃんほどストレスは溜まっていない。こうやって発散できているからね。
テスト勉強もばっちりだ。頭を悩ませていることはあるけれど、こうしてぬいを縫っていれば心は落ち着きすっきりしてくるというもので。
良い案が浮かぶかと言われるとそうでもないのだけれど、頭の中が整頓されるから気は楽になる。余白が生まれるというのかな。
つまり現段階でお兄様に心配されるようなストレスフルな状況でもないわけで、お兄様が外出を誘ってくるようなことはないはずだ。
だから、私から外に誘い出さなければと思うのだけど、良い案が思いつかない。
ファッションにさして興味の無い妹がいきなり新しい商業施設に行きたいなんて言うのもおかしいよね。
どうしよう。
もうそろそろお兄様が帰宅される頃――って、帰ってきた!
ぬいを素早く片付けて机の下に一時的に避難させて急いでお出迎えを。
水波ちゃんはお兄様のお出迎えはしない。彼女が仕えているのはあくまで私だから。
むしろ私たちとしては今まで通りでありがたいのだけど。
「おかえりなさいませ、お兄様」
「ただいま、深雪」
お兄様は久しぶりに爽やかすっきりなお顔。いい結果が得られたみたい。お兄様が喜んでいるとこちらも嬉しくなる。
ここでは隠すこともない。笑みをこぼしてお兄様を迎え入れると、お兄様は私を抱き込んで。
「どうしたんだ、随分ご機嫌だね」
「お兄様につられてしまったのです。――いい結果が得られたのでしょう?」
「深雪には何でもお見通しだな」
「お兄様の些細な変化を見つけるのは私の楽しみですもの。特にここ最近は疲れたお顔ばかりでしたけれど、今は輝いて見えます」
本当、ここ数日はこんな晴れやかなお兄様の表情なんて見られなかった。
いい結果が出たのですね、と嬉しくて私の腰回りに見えないはずの尻尾がぶんぶん振られているのがわかる。
「それは、心配かけたね。…そんなに疲れた顔をしていたつもりはないのだが」
「お兄様は疲労にも鈍感ですもの」
「にも、って。俺は別に鈍感なわけではないぞ」
「あら、そうでしたか?」
くすくすと笑って30秒のハグを終えるとゆっくりと体を離す。
お兄様は苦笑気味に笑っているけれど、お兄様は鈍感系主人公に分類されますからね。
天然モノではなく人工的ではあるけれど、本人分かっているつもりで実はずれてるから全てを手術のせいにはできない。
きっと生まれながらのままだったとしても天然で鈍感だった。間違いない。
「試作品が完成してね」
そう言ってみせてもらったのはチェーンに通されたメダル型のCAD。――完全思考操作型CADだった。
…こんな薄くて小さなものが。
「これは深雪の分だ」
「え!?私にもいただけるのですか?」
「深雪には必要ないものかもしれないが、」
「そんなことございません!嬉しいです!」
深雪ちゃんは思うままに使うことができる魔法をいくつか有しているし、干渉力が高いので大抵何とかなってしまうけれど、それでもこのCADがあれば、手でCADを操作せずとも魔法を行使できる。それはとても画期的なこと。
CADを使う魔法師なら誰もが欲するだろう。
なによりお兄様が手ずから私に下さるというのだ。嬉しくないはずがない。
「…欲を言うならば、深雪に似合うデザインのものを用意したいところではあったが」
あら、お兄様ったらいったいどこでそんな女性を喜ばせるような言葉を身に付けてきたんでしょうね。
でもそれも嬉しいですがお気持ちだけで十分です。何より――
「私は、こちらの方が嬉しいです。お兄様とお揃いですもの」
推しと同じものを身に着けられるなんて、そちらの方が喜びます。
そう言うと、お兄様はポリポリと頬を掻いて視線を外された。
お兄様が!照れていらっしゃる!
じっと見つめられてはお兄様も心地が悪いだろうと凝視しないようにしていたけれど、心がぴょんぴょんしちゃう。
多分私の周りには花が飛んでいるのだろうね。とっても幸せです。
心が浮ついています。
だから気が抜けていたのだろう。
「深雪」
「はい」
「出かけようと思うんだが付き合ってくれるか?」
「よろこんで!」
お兄様からのお誘いに、1もなく2もなく頷いていた。
NEXT→