妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
『そして日常へ』
討論会の次の日、学校には微妙な空気が漂っていた。
討論会により全校生徒は認識を改め、変わるべきだと、今が変わる時だと意気込んだのはいいが、一日経って冷静になると今更どうすればいいのかがわからない、といった感じで戸惑っているようだった。
しょうがないことだけどね。
突然変わります!なんてうまくいくことはないから。
でも戸惑っているってことは変わろうとしているってことだから良い兆しだ。
「兄さんも居心地悪そうね」
「悪意の視線なら慣れているんだがな」
気まずそうなのはお兄様も一緒だった。
一昨日の誘拐事件はほとんどの生徒は知らないが、その前の闘技場の事件は全校集会で意味のない匿名という形で暴露され皆が知るところになり、討論会でも会長が「あの悲劇を生まないためにも~」と話してくださったおかげで学校一の有名兄妹になってしまった。
…それがなくても有名であったけどね。方向性が違うというか。
「おはよ!プリンセスとナイトの登校が見られるなんて今日はラッキーかも?」
「…おはよう。朝から元気だなエリカ」
「おはようございます千葉さん、そのプリンセスとナイトとは?」
「もちろん二人のことよ」
ニコッと笑うエリカちゃんの後ろには見えてるね。黒い尻尾が見える様。
走ってきたので何事かと思ったけど全力で揶揄いに来たってことだね。
その後ろから二つの足音も近づいてきた。
あらあら。友達置いてでも揶揄うことに全力を注ぐとは。
何事にも熱中できるのはいいことだと思います。
「え、エリカちゃん、はやい…」
「おっす達也。んで司波さんも。――よく見つけたよな。豆粒より小さかったぞ」
美月ちゃんは息も絶え絶え。そんな彼女を置いていかずについててあげる西城くん素敵ですね。私にも挨拶してくれるし好感度アゲアゲです。
「おはよう美月、レオ。レオは紹介はしてなかったよな」
「おう!オレは西城レオンハルトってんだ。よろしくな」
「司波深雪です。あの、」
「深雪、歩きながら話そう」
お兄様先導で学校に向かう。
二科生グループにポツンと私がいるのがさっきより目立っていた。
…今更か。
「深雪は皆に謝罪したいらしい。ほら、一科生に絡まれた時助けてくれたのに無視してしまったことが辛かったらしくてな」
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。本当はあの場でお礼を言いたかったのですが」
「いーのいーの。あの時はお高く留まって、とか思わなくもなかったけど理由を知っちゃえば、ね」
「え、エリカちゃん!」
「おっ前、本当容赦ねぇな」
あの時も思ったけどここまではっきり言ってもらえると逆に気持ちいいなぁ。
「ありがとう千葉さん。そう言って貰えると気が楽になります。西城くんも、柴田さんも気にかけて下さってありがとうございました」
「そんな固くならなくていいって。ね、深雪って呼んでいい?私のことはエリカでいいから」
「なら私も美月って呼んでください!」
おっとここでも青春ですね!嬉しいぜひぜひ参加させていただきますとも。
「よろしくね、エリカ、美月」
にっこり笑うと周囲のざわめきが。もうこれ通常BGMかな。放置放置。
「すごいですね、これがプリンセススマイル…」
「あの、美月?それにさっきもエリカが言ってたプリンセスとナイトって何なの?」
なんとなくアレのせいっていうのはわかるは分かるんだけど。
「ほら、闘技場の事件があったでしょ?あれを演劇部がインスピレーション受けたとかで脚本書いて本読み?立ち稽古っての?やってるのよ」
「も、もちろん名前も設定も変えてますよ!」
「でもどう見ても二人のことだってのは皆わかってるからね」
「その役どころが姫と騎士、ということか?」
あ~、創作意欲を掻き立てられたってことか。
オタク、わかりみ。
「でもどうして兄さんがナイトなの?王子でもいいと思うんだけど」
そう不思議がっていると西城くんが苦笑して言う。
「ほら、そこはあれだ。身分差ってやつ?それに達也はプリンスってよりナイトの方が似合うだろ」
「まあプリンスは柄じゃないな」
そうかな。結構似合いそうだけど。正統派じゃなくて乗っ取られた王国を取り戻そうと奮闘する系の強い王子。復讐とは言わないよ奮闘ね、奮闘。
でもお姫様を守る騎士もカッコよくて良き、だね。
「兄さんがナイトなんて、私贅沢ね」
「姫のそばに侍れる俺の方が贅沢だと思うがな」
きゃー、と至近距離から黄色い声が。
美月ちゃん口抑えるの間に合わなかったね。
オタク必須スキルだよ、頑張ってレベル上げて。
「前に仲は悪くないって言ってたけどよ…これ兄妹仲が良いって言葉で収まるか?」
「異常に仲が良い、なら何とか?」
そこのお二人さんも仲良さげですよ。
校門をくぐってそれぞれ教室へ。…うーん、一人なのはちょっと寂しい。
お昼も食べる約束してるけどついてきてくれるかな。
誘ったらついてきてくれました。
「光井ほのかさんと北山雫さん。二人には授業でも助けてもらってるの」
「そ、そんなことないよ!深雪ったらなんでもできちゃうからむしろ私たちが教わってるくらいで!」
「ほのか。――お昼一緒させてくれてありがとう。よろしく」
一通り挨拶を終えていざ昼食会。
「二人は、っていうかほのかは二科生嫌ってなかった?」
相変わらずズバッと切り込むエリカちゃん。すごいね一撃で瀕死だよ。
でも大丈夫。ほのかちゃんには雫ちゃんが付いてるからね。
「ほのかは嫌ってたんじゃなくて、深雪に傾倒しすぎてたの」
要は憧れのアイドルに近寄るのは許さん状態だったってことみたいだけど、結構危険思考だよね…。
同担拒否?平和主義のオタクには難しい言葉です。
今は偏見も何もない、むしろ深雪に悪いことをした、としゅんとする女の子のなんと可愛いことか。
思わずなでなでしちゃう。
「み、深雪!?」
「ほのかは可愛いわよね」
「ちょ、ちょ!?」
「わかる」
「し、雫まで!」
何言ってるのと真っ赤になる女子を愛でていると、警戒心がなくなったのか、エリカちゃんがにやん、と笑う。
「でもあの時の深雪もちょっと言いかけてたのよね、『お兄ちゃん』って」
「ああ、やっぱりそうですよね!」
美月ちゃんは大人しそうな見かけからは想像できないほどテンションを上げている。
――まごう事無き同士です。微笑ましい。
「普段はお兄ちゃんなの?」
「そんな事実はありません」
否定するけど説得力ないよね。知ってる。
でもあれ期間限定ですので。局地的ですので。
まさかああなることを計算していて計画通り実行したなんて言えないし。
「俺はいつでも呼んでくれていいんだがな」
「兄さんは便乗しすぎよ」
なるべく前を見ないようにご飯に集中する。
だって前見たら絶対お兄様の目が期待に満ちてそうなんだもの。
「なんていうか、そんなに仲良いのによく思い切ったな」
西城くんは食べ終わったみたいだけど席を立たずに会話に興じてくれる。
やっぱり気の利く男子だね。モテそう。
「本当はもっとうまくできると思ってたんだけど、全然だめね。我慢できなかった」
「我慢なんてしなくていい」
「そうだよ深雪!あのまま続けてたら絶対倒れちゃうよ」
A組に変なトラウマスイッチ作っちゃったみたいで申し訳ない。
深雪ちゃんの強火担が誕生してしまった。
ありがとう、と宥めておく。実際ありがたいよ。こんなに心配してもらえて。
「その分家でのギャップがすごかったな」
「!兄さん!!」
ちょ、家の話は無しでしょう!?
突然爆弾を投下するお兄様。
それは危険行為です!
「なになに?学校で冷たい態度とった反動でもしかしてものすごい甘えたになったとか?」
ほら!愉快犯エリカちゃんの勢いが止まらない!
雫ちゃんたちもなんでそんな興味津々⁇
美月にいたってはそのメモ帳どうする気ですか?創作までしてましたか!?
どうやってお兄様を止めればいいのと慌てていると、お兄様は意味ありげに口角を上げて――
「流石に教えられないさ。俺しか見られない特別な深雪だからね」
きゃああああ!とものすごい悲鳴の嵐。
台風の目はこちらです。
…思ったより皆さん聞き耳立ててましたね。
エリカちゃんと西城くんなんてあまりの煩さに耳を塞いでます。
遅れてほのかちゃんや雫ちゃんも。美月ちゃん?上げてる人は煩さなんて感じないからね。
だけど――そう。
お兄様がそう来るならば私にだって、
「…そんなことを言うお兄ちゃんは、好きじゃなくなっちゃうよ」
この――諸刃の剣で斬りかかろうじゃないか。
とたん野太い声が響き渡るが気にしない。
致命傷を受けている身では気にする余裕はないのだ。
そして攻撃を受けたお兄様はすぐさま立ち上がって頭を下げた。
「頼むから許してくれ」
本当ならお兄ちゃん嫌い!がベストなんだけど嫌いなんて言葉嘘でも言いたくないんだよね。だから表現マイルドになっちゃうんだけどお兄様には十分致命傷だった。
お互い瀕死を負ってこの場は収まった。
「やっぱ変わってんな司波兄妹」
その言葉で締めくくれる西城くんは本当に大物だと思いましたまる。
それから一週間後の放課後。
エリカちゃんに誘われるままにやってきました病院に!
なんで、と思われるかもしれませんが、実はエリカちゃん壬生先輩と話す機会があったとかで、河原で殴り合って仲良くなった的エピソードお持ちでした。
いつの間に?
既に三回ほどお見舞いに行っていたらしい。
今日はその退院日ということで誘われたのだ。
私の誘拐事件は表沙汰にはなっていないが、反国際魔法組織が学校に悪さをしていることは全校生徒に知らされた。
誰がどう洗脳されてたか隠そうにも隠し立てはできなかったのだ。被害に遭ったのが二科生だけでなく一科生にもいたらしいから範囲が絞りこめなくなったらしい。
この件もあったから一科生二科生の溝を無くそうという話がスムーズだったと言っても過言ではないだろう。
学内の内部分裂なんて余計な隙を与えるだけだから。
「今日はきっとさーやも驚くわ」
壬生先輩をさーやとは。エリカちゃんのコミュ力はすごい。
途中花屋で花を買い、エリカちゃんはそれをお兄様に押し付けた。
何でもお兄様は壬生先輩のヒーローのようで、よく話に出てくるらしい。
くんくん、これはフラグの匂い!
お兄様はなんで俺が?みたいな顔してますね。大丈夫!すぐ謎は解けますから。
たどり着いた病院に入ってすぐのエントランスにお探しの人の姿があった。
…おや?あれは…お初だけど一方的に見知った方が。
「あれは確か、剣術部の」
「そ!桐原先輩。あの時さーやを斬りつけた相手だねぇ」
あらぁ。先輩の見せ場奪っちゃったからこのフラグも立たなくなっちゃったかと思ってたけど、そんなことはなかったみたい。そういえば中学生の時からの一目惚れでしたっけね桐原先輩。
ご家族と看護師に囲まれて壬生先輩と桐原先輩がお話ししている。ちょっと桐原先輩は照れ臭そうに、壬生先輩は楽しそうに。
「随分親し気に見えるわ」
「桐原先輩毎日来てたらしいよ。入院って聞いてその日に駆けつけたんだって」
「へぇ、それはまた」
まあ意外だよね。
どうしてそうなった?みたいな。
桐原先輩ってあれだよね。好きな子いじめて嫌われちゃうタイプ。でも心配して日参するのはなかなかできることじゃない。
だけど約一週間で…?すごいな。原作はひと月かかってたと思うんだけど。もしや壬生先輩押しによわよわでは?
さて、このほのぼのまったり空気にどう入っていこうか。このままUターンでもいいかもだけど、と思っていたらどうやら先輩の方が気付いてくれたらしい。
「司波くん!どうして――あ、エリちゃん!」
流石仲良し。犯人を見つけるのが早い。
びっくりした表情だが喜色が浮かんでおり、隣の桐原先輩がむっとしたのがわかったが、彼女を止めることはしないらしい。
近づいたお兄様は手に持っていた花を彼女に向けて渡す。
「退院おめでとうございます」
「わ、ありがとう!可愛い」
片手で持てるブーケは可愛らしくまとめられたもので、気に入ってもらえたようだ。
そこから女子三人で他愛ない話をしていると、壮年の男性がお兄様に話しかけていた。
「君が司波くんだね」
がっしりとした体格だが無駄な脂肪などついていない。これは嗜んでいるくらいの身体つきではないことが窺えた。
挨拶すれば壬生先輩のお父上だそうで。
お兄様と話したいことがあるようで二人は少し離れていく。
「いったい何話してるのかな?」
「もしかしてあれじゃない?うちの娘を君に託したい―なんて」
「はぁ!?」
「先輩、エリカのそれは冗談ですから気にすることないですよ」
女子の会話の聞き役二号(一号はお兄様ね)に徹していた桐原先輩だったが聞き捨てならなかったらしい。
そんな心配になりますか。…なるな。お兄様相手だもの。
実際鳶に攫われるとこでしたもんね。
話はすぐに終わりお兄様が戻ってきた。
「ねえ達也くん、さーやのお父さんと何話してたの?」
「俺が昔お世話になった人が、お父上の親しい友人だったという話だな」
「へえ、そうなの」
壬生先輩も初耳だと不思議そうな顔で聞いていた。
そこへいたずら大好きエリカちゃんが絡む。
「達也くんとさーやってやっぱり深い縁があるのね~。ねえ、どうして達也くんから桐原先輩に乗り換えたの?達也くんのこと好きだったんでしょ?」
当人の前でも言えちゃうその勇気よ。
すごいよねほんと。真似できない。
お兄様は無表情だけど壬生先輩はえらいこっちゃっとなってますよ。真っ赤っか。再入院必要です?ってくらい赤い。
そして隣の桐原先輩は頑張って無表情作ろうとしてるけど眉間、すごいことになってますよ。コイン挟めそう。
「ルックスだけなら達也くんの方が上だと思うんだけどな~」
「…つくづく失礼な女だな、お前」
「ドンマイ。桐原先輩!男は顔じゃないですよ」
「こらエリカ、貴女やり過ぎよ。それに桐原先輩は悪くないでしょう」
「「「え」」」
揶揄うのはいいけれど、やり過ぎは争いを生む。
特に容姿いじりは可愛いエリカちゃんがするとイメージが悪くなってしまう。
今後の彼女によくないと嗜めるとなぜかみんなの視線を浴びていた。
…なぜ?
「――深雪は桐原先輩の顔が好きなのか?」
さっき声を上げてなかったお兄様も参戦ですか?なんで⁇
っていうか失礼過ぎない?確かにお兄様の方が容姿は整ってると思うんだけど、好みって人それぞれだし。
「好むか好まないかで言ったら好ましいと思うけど、それって人それぞれ、よね?」
信じられないと言わんばかりの女子二人に微妙な顔の桐原先輩、そして…表情どこに落としたんですお兄様?
っていうか女子!失礼だからな。
その分お兄様がかっこいいと言われてるようで気分はいいのだけど。
妹は鼻が高いです。
「あ~、仕切り直す、んだけどさ。結局さーやはなぜ桐原先輩に?決め手は?」
エリカちゃん、お兄様を見て慌てて話を引き戻したね。
でも話題がそれってどうなんだ?
そして混乱するとなんでもしゃべっちゃう押しの弱い壬生先輩はぺろっとこぼした。
「うん、多分エリちゃんの言う通り、司波くんが好きだったと思う。うん、恋、してた」
わあい!甘酸っぱいお話!!大好物ですけど先輩大丈夫です?
多分心の整理のために今考えながら話してるんだろうけど、聴衆多いですよ。看護師さんのお耳ダンボです。夜勤のネタは決まりですね。
「深雪さんを助け出したあの姿は、英雄そのもので、私の憧れた姿だった。…もちろん助け出されたい思いもあったけど、それよりも強い意志をもって救い出す姿に、私の憧れたモノが重なったの。私もああ強くなりたいって。
でもね。それは同時に怖いなと思った。きっと司波くんは立ち止まることがなくて、私がずっと追いかけても離れていってしまうだろうなって。手を引いてくれても、振り返らない姿を見て思ったの」
そして先輩は桐原先輩に振り返る。
その笑顔はとてもきれいで、迷いは見られない。
「桐原君はね、振り返ってくれて一緒に歩いてくれる。そう思った。この人なら転んでも手を差し伸べて起こしてくれるって。…まともに話をしたのは入院してからなんだけどね」
「時間は関係ないよさーや。さーやはちゃんと選んだんだ」
「うん」
女の子二人はすっきりした顔で笑い合ってるけど横の桐原先輩見てあげて。死にそうだから。
知ってる。あれは恥ずか死ぬという奴。私も経験した。だからこそその治療法も知ってる。ほっとくことだ。時間がお薬です。
そしてお兄様、話聞こえてましたか?さっきと表情の変化がないのですが。
「うわー桐原先輩、男性の赤面って暴力ですよ」
「うるせー!お前はもう黙って帰れ!!」
追い出される形で帰ることになった。
んだけど。
「あ~、じゃあ私こっちだから~」
気まずさを覚えてエリカちゃんはすたこらさっさと去っていった!ずるい!!絶対明日文句言うんだから!
沈黙が支配する帰り道。
コミューターに乗ってもお兄様は無言のままだ。
さてどうしたものか。
「…深雪は、」
「はい」
再稼働したけどちょっとパワーが足りないのかな。声に張りがない。
鞄に確かチョコレートがあると思うんだけど、あった!
「桐原先輩みたいなのが。その」
「タイプかタイプでないならタイプではないですよ。いじめっ子よりはストレートに気持ちを伝えてくれた方がいいですから」
好きな子いじめちゃう系男子って実らないよね。大抵鳶にかっさらわれていく当て馬にもなれないスライム的弱者だ。
まあそういう素直になれない系を好きになるタイプもいるだろうし、そういうキャラを可愛いなぁ不憫だなあと愛でることはあっても私の推しになることはない。
「先輩たちにはぜひ幸せになってもらいたいですね」
あれはエリカちゃん西城くんほどじゃないけどじゃれ合いケンカップルになるだろう。好きです。
お兄様はどこか上の空のまま。
ふむ。
「お兄様お口開けて下さいな」
そう言って唇に用意していたチョコを押し当てる。
ゆっくり開かれる唇にチョコを押し込むと指が唇に当たった。
(ちょっと恥ずかしくなりかけたけど落ち着け私。これくらいで動揺するな。この前指先にキスされたでしょ。あの恥ずかしさに比べたら――)
比べるものを間違えて赤面して動けなくなった。
構図としては深く座っているお兄様に横から覆いかぶさるように顔を寄せてチョコを突っ込んだ事後ですね。
一カメさんと二カメさん、そしてバックの三カメさん。いいアングルですね後でください。え?妄想?残念無念。
お兄様が目を開閉させる。
私も同調するようにぱちり。ぱちり。
「やはり深雪は閉じ込めるべきじゃないか?」
「だからそれはバッドエンドですお兄様」
何がどうしてそんなお考えになるの!?
お母様ヘルプミー!!
天国の母に思わず助けを求めるが、悲しいことに何も返っては来ない。
――頭でも叩けばよろしいのではなくて?
これは半眼で見下しているイマジナリーお母様ですね。イマジナリーでもお会いできて嬉しいです。でもお兄様の賢い頭を私が叩くなんてできっこない。
だから。
「メッ!ですよお兄様」
せめて言葉で伝えておく。
長い長い沈黙の後。
お兄様はそれはそれは小さな声で「………わかった」と苦渋の決断を下すような声で答えた。
夕食後。
「で。深雪は桐原先輩の顔が好きなのか?」
冒頭に戻った!?
しばらくお兄様のこの質問は繰り返されることになる。
おじいちゃんご飯はさっき食べたでしょー!健忘症になるには早いですよお兄様。
後日このお兄様の状態を聞いたエリカちゃんは私に頭を下げ、桐原先輩を学校で見かけることは無くなった。
NEXT→
おまけ
『事件終了後の後始末のお話ですね、ということでいつものご両人お願いします』
「あまり語ることがあるとは思えんが」
『いえいえ盛りだくさんですよ。二人がプリンセスとナイトとして舞台化されたり、ほのかちゃんたちと昼食するようになったり、壬生先輩の退院に顔を出したり』
「確かに詰め込みましたね、小タイトルまで付いて」
『わあ、メタな切り口。でもそうですね、ちょっとしたエピローグ小話として書いた話です。あの事件後、生徒たちにどう説明があったのか、とかも書きたかったのですが』
「一般生徒たちへの説明、か。ブランシュやエガリテなどは伏せられて一部生徒がある先日逮捕された犯罪グループにより洗脳を受けていたことが判明し、全生徒に洗脳の痕跡がないかチェックすると会長の口から直接説明があった」
「生徒たちはざわついていましたが、会長たちが落ち着いて説明していたことと、もう犯人グループが逮捕され生徒たちが悪用されないと分かっていたのも安心材料だったのかと」
『若い魔法師を利用して犯罪に巻き込もうとしたって、それだけで十分大事件ですが、まだ具体的な事件に巻き込まれる前だから大した影響はなかったということですかね』
「深雪の誘拐は大事件だが?」
『もちろんそうです!ただ生徒たちに知られないうちに秘密裏に処理したのでしょう?(お兄様ガンつけめっちゃ怖い!)』
「そういう意味でしたら、そうですね。生徒のほとんどは知りません。生徒会と風紀委員の一部、くらいでしょうか」
「ブランシュ壊滅と同時期だったから犯罪グループが彼らだということに気付いた生徒も中にはいたかもしれないが」
「だとしても終わった事件です。生徒たちは安堵したことでしょう。これもお兄様のご活躍あってのことです」
「深雪の無茶が一番の活躍じゃないか?」
「…もう、あまりいじめないでくださいませ」
「それだけ心配したってことだ。許してくれ」
「……これは一生言われ続けるのでしょうね」
『ま、トラウマの上塗りみたいなものでしたからねー、諦めてください!』
「(ぼそ)他人事だと思って…」
『二人の奮闘あって生徒たちの心が守られ学校襲撃計画もぽしゃったわけですから。その後の討論会も七草会長の独演会みたいになりましたが、一科生と二科生の壁を無くす運動は成功したんですよね』
「いや、エリカによれば会長の言葉が影響したというよりは演劇部のパロディ劇の方が効果あったと言っていたな」
「…会長のお言葉に生徒たちも戸惑っていたのですから、言葉が響いたとも思えますが」
『だとしても、二人のあの寸劇が無ければあそこまで聞き入れられなかったのでは?』
「寸劇…」
『一科生と二科生の関係は相当拗れてましたからね、あれくらいの劇薬が無いと。ただの綺麗ごとじゃ解決しなかったでしょ』
「それはあるだろうな。彼らにとって俺たちのやり取りは衝撃だっただろうからな。生徒たちの関心が高いから劇にまでされたわけだ」
「うぅ…まさかアレがこんなことになるなんて…」
『『プリンセスとナイト』誕生ですね。まあ、正直このネタがそこまで広がるとはこの時誰も予想だにしなかったでしょう』
「出版までされるとか…皆、娯楽に飢えていたんですかね?」
『この時代で中世ヨーロッパ風の作品は斬新に映ったようですよ。皆好きですよね、あの時代に夢を持ってるというか』
「好きですけど…純粋にこの作品自体面白いとも思いますが、その背景を知っていると複雑なんです」
『ま、自分の二次創作読んでいるようなものですからねぇ。そりゃ複雑にもなりますか。気分を変えるためにも話を戻しますが、この時になってようやくレオと挨拶ができたんですね』
「会う機会が無かったものですから…あ、一度お兄様の傍にいたことはあったのですが、あの時は声もかけられず…」
「レオは何とも思ってなかったぞ。それにその後お前はちゃんと謝罪しただろう?」
「エリカたちに謝罪して許してもらいましたが…」
「それで十分じゃないか」
『あとは、あれです。お兄様がシスコン発言かましてたおかげで『知ってたからあんな平然としてたのか』と受け入れられたことも要因かと』
「しすこんはつげん…」
「大したことは言っていないんだがな。ただ、どんな妹も可愛いと真実を伝えただけで」
『うん、深雪ちゃんの赤面は可愛いのはわかりましたから。ここで止まるといつまでも終わりませんから次行きますよー』
「…捌き方が慣れてきましたね」
『これでも司会進行役ですから、学習しますとも。で、E組メンバーと仲良くなった後はA組二人ですね。どう誘ったんですか?』
「だまし討ちも良くないので自然に『兄さんたちと食事をしようと思うのだけど二人も一緒にどう?』と」
『二人に選択肢を与えて一緒に来てもらったんですね』
「いきなり二科生と仲良く、なんて無理強いはできないでしょう?」
「ほのかは緊張していたが、エリカに直接突っ込まれてからはすぐに解け込んだな」
「雫のフォローもありましたから」
「深雪のもな」
「私は可愛がっただけですので」
「今思えば、あの時にきちんと人前では気を付けるように注意していたら違っていたのだろうか?」
『…お兄様、それは注意ではなく警告であり、その後バッドエンドに向かう未来しか見えないんですが』
「どういうことだ?」
『どうもこうも、囲い込み一歩手前といいますか…。人前で抱きしめ禁止、にすると同時に「家でなら自分がいくらでも付き合うから」とか言って人に抱き着くことをさせずに、自分だけは許す、という――独占したい表れですよね?』
「「………」」
『自覚された今でも無言になります?』
「兄として!兄として忠告されたかったんですよね?!」
「…いや、あの時の考えにそんな意味は無かったと思っていたが…そうか。アレも独占欲によるものだったのか」
「………」
『いえ、そんな余計なことを、みたいに睨みつけられましても…。実際なかったんですからよかったじゃないですか。エリカちゃんがタイミングよく突っ込んでくれたおかげで』
「『お兄ちゃん』呼びの件ですね。エリカにとっては恰好の揶揄いネタですもの」
「深雪に何と呼ばれようが構わないが、アレはアレで楽しかったな。また機会があれば呼んでもらいたいものだが」
「…機会がありましたら」
「次のご褒美でねだるとしようか」
『どんどん壁際に追い詰められていきますねー。あまり追い詰めすぎて逃げられないようにしないとですよ、お兄様。お兄様のことだから逃がしはしないでしょうが、深雪ちゃんにだって限界はあるんですから』
「善処しよう」
「『(これ自重しないヤツ…)』」
『そういえば、その後のお兄様の発言、牽制凄かったですね。『俺しか見られない深雪』発言』
「あれは仲が良いことを伝えるためだったんだが」
『だとしたらチョイスミスですお兄様…。あの発言は過剰だったかと』
「あの後しばらく食堂は騒然となっておりました…」
『でしょうねぇ、深雪ちゃんの発言もヤバかったですから。あちらもチョイスミス』
「…他に思い浮かばなかったのです」
「嘘でも好きじゃなくなる、との言葉には慄いたよ」
『即謝ってましたね』
「嫌われたら生きていけない」
『……めっちゃ重いお言葉…』
「お兄様を好きでなくなることなんてありえませんのに」
「俺にはそれが信じられないんだよ。いつ消えても不思議じゃない、と。今ではそんなこと考えないが、当時の俺は急に深雪の態度が変わったことが強く印象に残っていたから。またいつころっと変わってしまうのではないかとね」
『今は疑ってないのですか?』
「深雪がどれだけ愛情を注いでくれたかわかっているからな。突如嫌われるようなことは無いことくらいわかる」
「もしそのようなことがあれば洗脳を受けた場合でしょうが」
「魔法抵抗力の高い深雪を洗脳できるほどの実力者が居たらそいつはもう地球全体を掌握しているだろうな」
『規模がデカい。世界中のだれが洗脳されようとも深雪ちゃんが洗脳されることは無い、と言いたいわけですね』
「精神干渉が得意な人間であろうとも深雪に対して何か仕掛けるのは難しいだろう」
『流石、チート兄妹。絶対に芯だけはぶれない』
「当然だな。俺の中心は深雪以外ありえない」
「それを言ったら、私もお兄様の幸せの為というのに変わりはありません」
「深雪」
「お兄様…」
『上手く纏まったところで一週間後のお話ですが、壬生先輩の退院日ですね』
「お兄様が先輩からの片思いを告白された日ですね」
「…深雪の好みの男の話が出た時だな」
「…あの、私の好みのタイプの男性に桐原先輩は含まれておりませんよ?」
「だが、『好ましい』んだろ?」
「あれはエリカの発言を注意するためのものであって」
「だが、『好ましい』んだろ?」
「セリフが変わらない!?」
『お兄様、『村人A』になってしまいました(笑)』
「笑い事じゃないですよ!」
『というよりあれですよね、基本メインキャラは顔が良いから性格ヤバくなきゃ嫌いにならないですし、桐原先輩最初こそただのクソ野郎ですが、徐々に彼女が好きすぎるあまりにってのが露呈していきますからね』
「メタい…。でも先輩が悪い人ではないから嫌悪を抱く必要が無かった、というのは事実ですね。未来の彼女を傷つけたのは如何なものかと思いますが」
『あれはやりすぎですよねー。怪我させても下がらせたいとか。普通に傷害罪…』
「それは言ってはいけないお約束です」
『まあ、学校側が隠ぺい工作するのかな。魔法でトラブルが起きたら魔法師への風当たり強くなるから』
「…確かに。これまでも毎年のように怪我人が出ていたという割に外部に漏れていなかったのですから――」
「その後の俺たちの代では抑え込めている、問題ない。深雪が気にすることではないよ」
『お兄様はどうなんです?壬生先輩から好きだったとの告白がありましたが』
「過去形な上俺にはその気も無いのだからどうということも無いだろう」
「…こう、おモテになることには何も思われないのですか?」
「以前にも言ったと思うが、深雪以外にモテてもな。興味がない」
「はっきり…」
『ばっさり…』
「衝動が抱けないんだ。どうしようもないだろう」
『まあ、そんなんですが』
「それを言ってはおしまい感が…」
『そうですよね。それをいっちゃあ深雪ちゃんを嫁にする以外のルートなんて初めから存在しないってことですもんね』
「うっ…」
「そうだな」
『ってことです深雪ちゃん。ご愁傷さまです』
「…個別ルートがあるはずなんです…」
『残念ですがお兄様がされていたゲームはギャルゲーではなく『深雪攻略ゲーム~エンディングは二十種~』とかいうゲームですきっと』
「二十種!?」
『大団円エンド1種、ハッピーエンド3種、バッドエンド12種、メリバエンド4種?』
「ノーマルエンド無し!?しかもバッドがメリバ含めて16種って比率おかしいでしょう!」
『一歩間違えれば闇落ち一直線。幸せなエンドを迎えよう!』
「何ですその難易度高いゲームは!」
『それだけ二人の幸せエンドが難しかったということです。よかったですね』
「……低い確率から真エンドを迎えられたのならよかった、のでしょうね」
『…真エンドが大団円と限っていないと思うのですけど…これからもまだ分岐ありますから。バッドエンドを避けつつ頑張ってください』
「まだエンディングを迎えていない、と!?」
『迎えてないでしょう。結婚してませんし、まだお付き合いにも至ってないのですから』
「………うう…」
「よくわからないが、とりあえず深雪との結婚は確定だからエンディングは迎えられるのではないか?」
『お兄様はそっちのゲームには疎いようですね。(そのまま疎いままでいて欲しい)そうです。二人して幸せになってくれればクリアですから、お兄様は今まで通り深雪ちゃんを待っていてあげてください』
「深雪を幸せにするのは俺の命題だからな。そこは変わらないよ」
「『(そう願います…)』」
「それで、結局深雪は桐原先輩はタイプではないが顔が好みということで――」
「『戻った!』」
「…もう、私が呼吸を止めて見惚れる相手は一人しかいないと、お兄様はご存じでしょう?」
「安心して良いんだな?」
「もちろんです。…私には、お兄様が一番ですもの」
「なら、いい」
『お兄様は一体何をそこまで心配されることがあるのかってくらい深雪ちゃんはお兄様の全てが好きなんですがねぇ』
「信じがたいだろう。俺は平凡なんだから」
「『お兄様が平凡とは…』」
「なんだ?」
「『いいえ、何でも(この認識だけは一生変わらないんでしょうね…)』」
『あ、ちなみにこの後桐原先輩を見かけなくなったのはお兄様桐原先輩ナイナイしちゃったんです?』
「そんなわけがあるか。何もしていない」
『ってことは偶然…?』
「まあ、先輩とは階も異なりますし、そもそも会う機会が――」
「会うたびに視線を送ったくらいか?」
『……無言でアピってた…。でも、それくらいなら被害とも言えないか…。よかったですね先輩(生きてて)』
「お兄様!」
「直接何かを訴えたわけではないし、お前も用事は無かっただろう?」
「…まあ、そうですが」
「なら問題ない」
『それで言いくるめられちゃう深雪ちゃん…心配になっちゃう。ま、桐原先輩も巻き込まれずに済んで何よりです。では、今日はこの辺で』
「『さよーならー』」
――達也が退出しました――
――深雪が退出しました――
――
さて、ここからはエピローグと小話が続いて行くわけですが、ブランシュ事件後の後始末の話ですね。
ここでは学校に侵入を許しても無ければ洗脳された生徒が暴動を起こしていないので処分はされませんでした。でも司先輩は一高を去っていきます。洗脳されていたとはいえ誘拐はしていたのでね。学校に残っていたら(彼自身の生命が)危ない(お兄様からずっと睨まれ続けたでしょう)。
ですが、学校に仕掛けられていたことは静観できることではありません。公安からも指導があって学校は対策を取る。毎月魔法をかけられていないかと洗脳チェックをすることに。後は防犯対策も見直すようです。…まあ微々たるものでしたが全くないよりはマシ、程度ですかね。
一般生徒はほとんど事情を知りません。平和そのもの。そのおかげもあって一科生と二科生の関係を見直そうと余裕が生まれたのでしょう。
そしてその英雄に祭り上げられたのかこの兄妹です。この時演劇部長の出版する本の影響はこの物語の最後まで響きます。
裏話として、この部長さんの名前が『佐鳥』(佐島をもじった)で、一族は決して表に出てはいけない『サトリ』の能力を持つ~とか裏設定がありました。一族全員にそんな特殊能力があるわけじゃありません。稀に出る程度。その中でこの部長はほんのり人の感情がオーラで見える程度の力がありました。だからお兄様の感情がほとんど見られなかったことに注目していたようです。明らかに異常だったので。だけど妹に対しては出るのでそこも興味深い。なのに表向き二人の関係は良好に見えなくて、これは何かあるなと思っていたらあの大どんでん返しに魅了されファンに。
兄妹だからけして結ばれないけれど、物語でくらいなら、と。お兄様の気持ちに誰よりも早く気付いた。
でもね、そんなことしなくともこの二人は現実でくっつくので。その結果に部長は昇天しました。
…なんて、部長の話は書きませんがこんな設定があった、とだけメモ程度に。
そして原作通り昼食グループ形成成功。何とか形になりました。
ほのかちゃんの暴走も許してもらえて仲間入り。…普通はあそこまでするとなかなか仲間に入りづらいのですが…入学前から気になっていたお兄様が居ますからね。お近づきになりたかったのか…どうなんでしょう。
女子高生特有のノリ、人前でも気にせずハグ、ですよ。まさかこの時点でお兄様が嫉妬していたとか。女子相手にするものでもないから思いもよらなかったでしょうが、その直後に俺の深雪自慢をしている辺り気にしていたんでしょうね。
狭い世界しか知らなかった二人なのに、妹がいきなり外界とお近づきになったか焦りを抱いたのかもしれません。
…だからバッドエンドがほのかに香ってくるわけですが…すぐ閉じ込めたくなっちゃうお兄様…
壬生先輩の退院イベントでは原作で深雪ちゃんが、となりますがここではお兄様がその役を買って出ました。…深雪ちゃんより動揺する形で。お兄様がちょっかい掛けられるところはしょっちゅうありましたが、妹がこうして異性のことを語る場面はありませんでしたから。お兄様も慌てられたことでしょう。
異性に興味を持つ年頃だと気付いたお兄様が危機感を抱き暴走を始めます。これもバッドエンドのフラグ乱立の原因ですね。バッドエンドのフラグすぐ立つ。
イマジナリーお母様が修正を促しますが…妹がマイルドに対応するのでやきもき。母の心子知らず、ですね。
桐原先輩はご愁傷さまです。
お粗末様でした。