妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑧

 

 

水着売り場の顛末は、まあほぼ原作通りでした。

 

「会うはずのないところで思いがけない人物に会えば驚きもしますよね」

「…そう言って貰えると助かるわ」

 

だからって悲鳴を上げるかと言えば、また別問題なのだけど。

水着姿なら見られたって…と思ったけれど、恥ずかしかったわ。不意打ちなら悲鳴上げてもしょうがないかもね。

それでもあんな痴漢に遭ったような悲鳴ではなくもっと短く済むと思うけど。

先輩がどんな水着だったかは知らないけれど、原作通りなら大胆なビキニだったからより恥ずかしかったのかな。

 

「兄さんも、不慮の事故とは言え、先輩の水着姿を見てしまったのです。そんな堂々と開き直ったのではダメでしょう」

 

お兄様は動じていない様子だけれど、ここでその態度は彼女たちには不遜な態度に見えてしまうかもしれないので彼女たちに向けての注意を。

 

「いいのよ深雪さん!達也くんは通り過ぎようとしていたのを妹たちが突っかかって、そこにタイミング悪く私が出てしまったのだから」

「だって、水着売り場の試着室に男が一人でいるなんてその時点でおかしいでしょ。しかもそれが見知った先輩なら猶更」

「香澄ちゃん!」

 

うーん。香澄ちゃん、ご立腹ね。だけど、水着売り場に男性か…。確かに不審に思われてもしょうがないけれど。

 

「だとしたら私のせいね。香澄さん、嫌な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」

 

誠意を込めて謝罪する。

まさか私が頭を下げて丁寧に謝罪すると思わなかったのだろう、香澄ちゃんは酷く驚いて声を上げた。

 

「ちょ、止めて下さい!先輩が謝ることじゃありません!」

「でも、貴女は不快に思ったのでしょう?兄さんを試着室の場所から追い出したのは私だもの。その場で待っていてもらうよりもどこかで時間を潰してもらおうとしたのが悪かったんだわ。兄さんも、ごめんなさい」

「俺は気にしていないよ。お前が俺を気遣ってくれたのはわかっていたからね。その間店員にいろんな話も聞けたから有意義な時間でもあったしな。だが、売り場にいるだけで不快感を与えるとは思わなかった。すまない」

「…いいえ、こっちも言い過ぎました。すみませんでした」

 

お兄様の謝罪を香澄ちゃんは一応受け入れてくれた。

…本当は謝罪なんていらないはずなんだけどね。形上喧嘩両成敗ってことで。

これでお話はお終い、というように全員で飲み物を一口飲んでひと心地着く。

 

「深雪先輩はこの後、どうされるご予定なんですか?」

 

さて、この質問には困った。

ここに訪れたのはお兄様の『用事』であって、それは先ほど終わったはずなので、この後の予定も何も決まっていない。

だが、それをそのまま口にするとお兄様への非難が集中することは火を見るより明らかだ。

お兄様が私の水着を選びに来た、なんて火にガソリンを注ぐようなもの。余計なことは口にしませんとも。

 

「そうねぇ。新しくできたばかりの施設だからもう少し見て回りたいと思っていたところよ。――七草先輩たちはどうなんですか?」

 

泉美ちゃんが私と一緒に回りたい、と期待する視線を向けられているのは気付いたけれど、横に気付いて。香澄ちゃんが結構すごいお顔してるから。うげーって顔してるから。

後輩として先輩に窺うのはおかしな流れでもない。自然とそう水を向ければ、七草先輩は少し思案して。

 

「え、そうね。私たちも気晴らしにウィンドウショッピングに来ていただけだから、特に決まった目的も無いの。だからこのままぶらぶらして、ってところかしら」

「ですから先輩もご一緒にいかがですか?」

 

うーん。お目目が爛々と輝いてますね。獲物を狙っているような。

だけどそれを止めたのは七草先輩だ。

 

「泉美ちゃん。他所のご家族の邪魔しちゃダメよ」

 

七草先輩、妹の豹変ぶりに若干引いてません?いつもの彼女ってどんな感じなのかな。私はよく見る光景なのだけど。

 

「そうですね。深雪先輩、失礼しました」

 

泉美ちゃん自身ヒートアップしていたことに気付いたか。引き下がってくれるようでなによりです。

このままで終われば綺麗だったんだけどね。やっぱりそうは問屋が卸さなかったか。

 

「そうだよ、泉美。司波先輩と司波先輩のデートを邪魔しちゃ悪いって」

「デート!?」

 

そこで赤くなって戸惑いの声を上げたのは七草先輩。先輩相変わらずこの手のネタ弱い?親子デートとか兄妹デートってこの時代言わないのかもしれない。

というか司波先輩と司波先輩って…わかりづらい。お二人で纏めちゃえばいいのに。態とだってわかってるけどね。

この後はお兄様が否定を口にするのだろうけど、どうしよう。ここでヒートアップさせて変な発言に繋がるのもねぇ、と思っていたのだけれど。

 

「そうだな。これ以上の邪魔はされたくない」

「「「な!?」」」

 

あらぁ。素敵な三重奏。息ぴったりですね。じゃなくて。

 

「兄さん」

「事実だ」

 

あ、ダメだ。お兄様がおへそを曲げています。この状況にご不満でしたか。

私が謝罪した時からちょっと様子がおかしいなと思っていたけれど。私のために黙ってくれてたものね。

でも泉美ちゃんに邪魔されかけて、香澄ちゃんにちょっかいかけられて、オブラートも解けちゃいましたか。

由々しき事態ですね。

 

「きょ、兄妹でデートなんて、非生産過ぎる!」

 

あ、言っちゃいましたね。色々過程すっ飛ばしましたけども。

でもブーメランだよね。その理論だと三姉妹でお出かけも引っかかっちゃう。

 

「香澄さん、落ち着いて。それを言ったらまた七草先輩や、貴女達にも悪い噂が付いちゃうから」

「え、姉さんや私達に悪い噂?どうして!?」

「だって、兄妹デートが非生産で、三姉妹のお出かけが生産的だってことになったら、まずいでしょう」

 

……

…………。

 

「深雪、それは、ちょっと論点が違うな」

 

違うかな。私の妄想力が悪いの?

三姉妹それぞれタイプの違う美少女が生産性高いお出かけ(意味深)って、成人指定の雑誌のような展開で一部の方は喜ぶと思うのだけど。

 

「…その前に、姉の悪い噂とは何でしょう?」

 

あ、そこからか!しまった。これはつい口が滑ってしまった。フォローを入れねば。

 

「七草先輩が悪いわけじゃないのよ。ただの僻み交じりの噂話に尾ひれがついただけだから」

 

そう言ったらああ、と彼女たちは納得した。いつものことか、みたいな。

…先輩の思わせぶりな態度って妹たちも知っての通りのいつものことなのか。

そして勘違いする方が悪いみたいなスタンス…怖いね。

だからお兄様も入学初日そういった類だと思われたのか。

 

「香澄さん、私たち兄妹は唯一の家族でね。だからデートというよりは家族でお出かけしている感覚なの。他人からはどう見られているかわからないけれど、ね。休日に友人と過ごすのも有意義な時間だと思うけれど、時には家族も大事にしたい。これはおかしなことかしら?」

「そんな、ことはないです、けど…」

 

自然と父を亡き者として扱ってるけどお兄様も訂正しないからそのままで。

家族は二人兄妹です。今は可愛い従姉妹(偽装)もいるけどね。

 

「男と女の兄妹が休日を過ごすのはおかしい?」

「…それは、家族、それぞれですから」

「私と兄さんが気持ち悪いなら、なるべく視界に入らないよう努力するけれど」

「そんなことしていただかなくても大丈夫です!!」

 

香澄ちゃんが爆発したように大きな声を上げた。

言わせたの私だけどね。あの言葉を、――魔法師は優秀な子供を産む義務がある発言を言わせるくらいなら、別の言葉にすればいいかな、と。

こうやって発散すれば多少落ち着きを取り戻すだろうから。

泉美ちゃんはハラハラしながら香澄ちゃんと私を交互に見て、七草先輩は妹を落ち着かせようと名前を呼んで叱り付ける。ここは店内ですからね。

もう少し前に落ち着かせてほしかったけれど、しょうがないね。

お兄様には静かに見守ってほしいと改めてお兄様の太ももに手を置いてモールス信号を。本当便利ですね。モールス。

 

「…冷静さを欠いていました。申し訳ありません」

「ごめんなさいね。ただでさえ忙しい時期にストレス抱えてたみたいだから気晴らしに出かけてたんだけど、まさかこんな形で爆発すると思ってなくて」

「深雪先輩。香澄ちゃんが申し訳ありませんでした」

 

うーん、三者三様。おもしろいねぇ。それぞれがそれぞれの思惑で謝罪してる。

 

「いいえ。先輩たちのプライベートな時間を邪魔してしまってこちらこそ申し訳ありませんでした。――兄さん」

「ああ。それでは俺たちはここで失礼させていただきます」

「あ、伝票!こっちが迷惑かけたのだからこっちに払わせて頂戴」

「女性に恥をかかせたのです。俺が払うのが道理でしょう。それでは」

 

お兄様は有無を言わさずに席を立ちさっさと会計に行ってしまった。私も一礼をしてその後に続く。

俯く香澄ちゃんに慰めるように泉美ちゃんが背を撫でている。

原作よりは落ち着いているようだけどね。なんともおかしな時間だった。

多分『兄妹でデート』を非難するより、『兄妹で子供は作れない』ことを強調するお話しだったんだろうけど…原作の深雪ちゃん、これ聞いても傷ついた様子なかったんだよねぇ。

つまりこの話を聞かせる相手ってお兄様か七草先輩ってことになるよね。

お兄様は当然気にもしないだろうから、ホンボシは七草先輩、か。

兄妹だからいくら傍に居ても恋愛にはならない、と。おかしな関係に見えても兄妹なんだ、と。

そういうことかな。それなら兄妹で非生産的と言われるだけでも十分伝わるから大丈夫だろう。

多少改変はしたけどイベントはミッションクリアと見て問題ないはず。

 

 

――

 

 

行きの時のように腕を絡ませて、という気分にはならなかったので手を繋ぐ。

お兄様も握り返してくれるけれど、その力は弱い。

 

「…大丈夫?」

「…ああ、ちょっと疲れたかな」

 

そうだね。お兄様にしてみれば、いきなりの痴漢容疑からの非難だったから。本当女難に見舞われますね。

 

「それなら、お口直しに何か甘いものでも食べる?」

 

こういうところには絶対甘いスイーツのお店が入っているでしょうから。

 

「甘いもの、か。どうせ甘いなら深雪から貰えるものが良いな」

 

うーん、相当参ってる感じだ。

なら早く家に帰ろう。恥ずかしいけれど、家でならお兄様を甘やかすこともできる。

 

「私があげられるモノだったら――って、お兄様?」

 

急に手を強く握りこんで引っ張りこまれたのは人気のない、死角にある少し細い道だった。

従業員が通る場所なのか、こんなに混んだ施設なのに人の通りが全くない、少し薄暗い通りだった。

そこでぎゅっと抱きこまれて。

 

「なら、少しだけ甘やかしてくれ」

 

耳元で囁かれた言葉は少しかすれていて、本当に疲れの色が見えた。

ぎゅっと心臓が掴まれるような衝撃に襲われるのだけれど、何とかそうは気取られないように微笑んで、お兄様の後頭部を撫でる。

 

「お疲れ様ですお兄様。とんだ災難に巻き込まれ、大変な目に遭いましたね」

「…全くだ。どうにも七草とは合わんな」

 

俺も四葉だからか、とはなんとも皮肉なお言葉ですね。

でも四葉と知らなくてもちょっかいを掛けられるのだから縁を感じますね。良い意味でも悪い意味でも。

 

「お兄様は何一つ悪くなかったですよ」

「酷い言いがかりだった」

 

そうだねぇ。ただ居合わせただけで叫ばれちゃうなんて。なんて女難の相をお持ちなのか。あとラッキースケベね。この二つの呪いがある限り、お兄様は一生女性絡みで大変な目に遭うのだろうね。

お兄様の頭を抱き寄せて。

 

「不満でしたでしょうに、堪えさせてしまって申し訳ありませんでした」

 

女性の話に男性が入り込むとただ徒にかき乱しちゃうだけでしたから黙ってもらってたけど、黙って聞いているだけというのも結構辛いものがある。

 

「お前が謝ることは何一つなかった。俺のせいで謝らせる形になって、悪かった」

「お兄様こそ。謝ることなどなかったのに、謝らせてしまいました」

 

お互いの調子であの時の謝罪が口先だけだったとわかるとくすくすと笑いに変わった。

 

「言葉一つで場が治まるなら安いもんだな」

「まあ。悪いお兄様」

「お前の誘導もなかなかだった。深雪には悪女の素質もあるようだな」

 

少し前まで悪役なんて、と言われてましたけど、ようやく納得してくれたみたい。

そうなんですよ、深雪ちゃんのポテンシャルは高いのですから悪女から聖女までこなせちゃうんですから。

近づく人の気配に不自然じゃないように体を離して歩き出す。

今度は腕を絡めて。

 

「さて、仕切り直しといくか」

 

そう言ってお兄様は出口に向かって歩き出す。

うん、この施設はできるだけ早くおさらばしたいね。

少し離れたホテルの喫茶店で季節のスイーツを味わってゆっくりとお茶を楽しんで帰った。

 

 

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