妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版 作:tom200
試験が終わってすぐ、私はシールド・ダウンの練習場に顔を出した。
ある、一つの目的を果たすために。
「深雪、手加減は無しよ」
ギラリと彼女の目が好戦的に輝く。
今ばかりは、彼女の可愛らしさは鳴りを潜め、肉食獣のような気配が漂う。
「それはお互いに、ね。勝負よ、エリカ」
私も呼応する形で笑みを浮かべる。
冷ややかさを抱かせる笑みの中に、炎を灯して――。
これから行われるのはエリカちゃんとの一騎打ちだ。
こんな機会じゃないとエリカちゃんとやり合うことなんてできないからね。
そろそろ皆エリカちゃんの動きに慣れて、先輩たちもエリカちゃんとの戦いに勝てるようになってきたらしい。
それは良いことだけど、彼女の動きはそんなものじゃないっていうのを証明がしたかった。
舐められているわけではない。けれど、ある程度回数を熟し、馴れ合う試合が増えてくると、手の内が読みやすくなる。
そしてやはり二科生らしく魔法力が弱い――そう感じさせることが面白くなかった。
彼女の技量は一級品。それを、たかが魔法力が低いというだけで、こんなルールに雁字搦めにされて不自由に動けないでいる彼女を無意識にでも見下されているのは我慢ならなかった。
(不自由に、雁字搦めにされて藻掻いていても、彼女の闘争心は失われていない。――研がれた牙の鋭さはルールという鎖なんてかみ砕く!)
盾を構える私に対し、自然体に腕を下げているエリカちゃん。
ギャラリーは固唾を飲んで見守っている。
心配されているのは私だ。誰も私が近接で戦っているところなんて見たことないからね。心配になるのもしょうがない。
逆にそれだけエリカちゃんは手練れだと認識されているということなんだけどね。
ここにいる皆はもう誰も彼女をただの二科生だと思う人はいないだろう。
だけどね、彼女の凄さはそんなものじゃないから。
だから、私は――
――
エリカ視点
誰もが予期していなかった。深雪が、まさか中距離遠距離魔法で攻めるのではなく、近接攻撃で肉薄するなんて!
開始前に対峙する深雪をつぶさに観察した。
深雪の盾は練習用の一般的なモノではなく特注のようだった。二つハンドルの、女子にしては一番大きなサイズ。中世の騎士が掲げている盾のような形状だった。
木製と言えどその大きさではかなり重いはず。両手で盾を構える深雪はその重さを気にしていないようにも見えた。ということは見た目より軽量なのか。
(中・遠距離攻撃では当然分が悪い。だったら速攻で片をつけるのが定石だけれど、――深雪相手にどこまで通用するか)
この時点で私はすでに彼女を他の生徒たちと同じ一選手とは見ていなかった。
肌で感じる。――彼女は絶世の美少女の皮を被った獣である、と。
一瞬でも気を抜けば命はない、そういう相手だと。
私は、この直感を信じる。この直感は、何時だって私の命を救ってきた。
だから、決して油断はしない!様子見なんて以ての外だ。初めからトップスピードで行くため、ぐっと足に力を込めた。
ホイッスルを合図に自己加速魔法で飛び出す。捉えられないようにジグザグとステップを踏みながら左から斬りかかろうとしたその時だ。
深雪が持っていた盾をステージ上に真直ぐと下ろした。するとゴンッと信じられない重量のありそうな音と振動が。
木製のはずの盾が、まるで鋼鉄でできているかのような重厚なものに変わったよう。
それを深雪はその細腕で左に振り上げた。
ぶおん!とすごい風切り音と共に風圧が襲う!
直撃を避けられたのは直前の己の勘だった。これ以上踏み込んではいけないっ、と警鐘が鳴ったのだ。
飛びのいたのは正解だった。
だが、失策でもあった。
深雪が追い打ちをかけるように自己加速して、離れようとした私に迫る勢いで飛び込んできたのだ。
その盾を、遠心力を利用するように振り回して方向を変えて。
(一体どんな魔法を使ってこんなことを?!)
彼女が己の盾に魔法を掛けていることはわかっている。が、自身の盾に重力魔法など掛けないだろう。
己の盾を常に重くして何の得があるというのか。強度は上がるかもしれないがそんな重いものをあの細腕で振り回せるはずもない。はずがない、のに!
「っふ!」
「っ(おっも!)」
深雪の盾を避けきれず、強化した盾で往なそうとしたのだけれど弾かれた!
弾かれる、と言っても手から離れたわけではない。往なそうとしたのを外されたのだ。
体勢が崩れるけれど、何とか体を捻って戻すと深雪がこちらの盾に向けて盾を振り下ろしているところだった。
慌てて盾を引き寄せ回避すると、ステージにめり込むんじゃないかって程の音と衝撃。
こんなの受けたら盾が壊れるどころか腕までやられる!
これだけ重いはずなのに、深雪はそれを軽々と振り上げ、まるで剣の鋭さを彷彿とさせる一閃を以て距離を開けられる。
近寄らせない、攻撃をさせない大振りの一手。私が深雪の隙ができたタイミングで踏み込もうとしたのが読まれていたのだ。
…面白い。
これは接近の戦い方を知っている者の動きだ。思わず舌なめずりをしていた。
深雪は試合が始まってからずっと変わらない微笑を浮かべたまま。私はまだあの表情を変えられていない。
俄然やる気が出てきたというものだ。
深雪自体に速さはない。瞬発力はあるみたいだけれど、普通に移動する分にはたいして速いとは思わない。
それでもどんなトリックか、私の懐に入り込んだり間合いをけん制したりする。
初めはカウンター狙いにいこうと思っていたが、今のように躱す術もあるようだ。
(だったら――私も奇策を使わせてもらおうじゃない)
たくさん試合を重ねたからこそ思いついた奇策。
通用するかは一か八かだけど、試さないで、――表情を変えられずに終わるなんて、許せるはずないから!
深雪が盾を構えている。
あれは、深雪も待っているんだ。私の一撃を。
舐めているのでも、余裕でいるのでもない。彼女の闘気が立ち昇って見えるよう。気迫が違う。
あんな嫋やかな細身のどこに隠してたのかっていうくらい、今の彼女は強者の気配を纏っていた。
あの重い盾に正面からぶつかっても私の軽い盾では揺るがすことはできないだろう。恐らく強度が違う。
深雪に本気の情報強化なんてされたら私の本気の剣でもない限り届くことはないだろう。
だけど、――だからこそ。他の選手相手にはできなかった、深雪相手だからこそできる技を!
この盾を、己の腕の延長線上の剣のように同調させて。
深雪のいる位置は立ち会った時と同じ位置。場外までは距離がある。
私のように剣の軽い者は速さで補うのが定石だ。素早く振り抜くことで速度を乗せて強さとする。
――だが、振り抜かずに速度を乗せられる方法がある。
己を加速させて刺突、――刺し穿つ。
剣は斬るだけにあらず。一点集中、突きをしたならば鎧すらも貫く。
紡錘形の先細りになった先端よりも鋭いのは盾の鋭角な角。防御を捨てた戦法だった。
揺さぶりなど一切不要。猪突猛進、ただひたすら真直ぐに、速く――すべてを切先に集中!!
高周波ブレードではないけれど、刺し穿つと同時に振動を与えれば盾は砕ける――はずだった。
深雪の表情から笑みが消えた。
ふっ、と短く漏れる吐息が、彼女の本気を窺わせる。
ぶつかり合ったはずの衝撃は受けるのに、私の剣はあと数ミリ盾に届いていない。届かないまま停止していた。
違う、これは…減速?!
「な!?」
盾を戻そうにも強力な磁石でくっついているんじゃないかってくらい離れない。
そのまま深雪が大きく左足を下げ、身体を振りかぶるように反転させる。
同時に見えないエアクッションのようなものに盾を軸に体全体を押し退けられ、そのタイミングで磁力を失ったように深雪の盾から離れふっ飛ばされて場外となった。
わっと沸く大歓声。
確かにここ最近にない見ごたえのある試合ができたと思う。
負けたけど、とっても悔しいけど、今までで一番すっきりした試合だった。
身体を受け止めてくれた大量のクッションから這い上がると、深雪が手を差し伸べてくれていた。
こんなほっそりとした白い腕に、私は――負けたのだ。
「あの刺突、冷汗が出たわ」
あの瞬間慌てたという深雪の言葉に、込みあげた悔しさが、醜い嫉妬が霧散し完全に溜飲が下がった思いだった。
「本気で相手したかったから」
敵わないだろう、とわかっていた。
彼女は――達也くんと同じ。魔法力の高さからポテンシャルで言えば恐らく達也くんすら上回っていると思う。
だけど、関係なかった。
友人だからこそ、友人でいたいからこそ、全力でぶつかった。
剣を交わす方が言葉を交わすより相手の気持ちが伝わってくると私は思っている。
だからわかった。
深雪が真剣に私を受け止めたことを。誰よりも私を警戒し、技に注意し、一挙手一投足に気を張っていたことを。
最大限の警戒をしてくれていたことに、最大の敬意を以て返礼の一撃で応えたのだ。
「ありがとう」
深雪もわかったのだろう。
だからこそ、満足そうな笑みを浮かべているのだ。こんな生き生きとした深雪、見たことが無い。
(…あーあ、完敗だ)
この笑みを見たら、敗北したというのに私まで満足してしまった。
試合の直後で興奮していて見惚れる余裕なんてないはずなのに、目が離せない。
「こっちこそ」
気が付けば手を差し出していた。
交わす握手。
その手は、私とは違う柔らかさを持った、熱くなった体にちょうどいい、ひんやりとした気持ちのいい女の子の手だった。
――
深雪視点
「で、あの盾は一体どんな仕掛けなのよ」
エリカちゃんは試合が終わってすぐ切り替えられているようで、普通に話しかけてくれてるけどもうちょっと待ってね。
私まだ心臓どっきんどっきんしてるから。
最後にして最強の一撃、エリカちゃんが目の前に瞬間移動してきてびっくりしたんだから。正直貫かれるかと思った。
想像してしまうほど彼女の盾は――っていうかもうあの時点で盾に見えなかったよね。剣でした、間違いなく。
多分魔法の情報を読み取ってそう幻視しちゃったんだろうね。…前世の知識が牙〇だ!と叫んでいた。構えは別に斎藤さんじゃなかったけどね。〇突怖い…。
瞬間的になんちゃって無下限を盾に発動できてよかった。まさかの同雑誌のキャラ夢の対決である。
そのまま磁石のようにくっついた――というより超減速していたために一時的にくっついていた――状態から盾を含めてエリカちゃんを巨大なエアハンマーで撃ち落としたのだ。
イメージはだるま落とし。でもハンマーは木槌じゃなくてピコハンね。多分木槌イメージしたままだと空気圧縮しすぎてトラック激突ばりに怪我させちゃってた。
「盾はもちろん規格内の木製よ。ただ、表面上に加工しにくい木刀などに使われる木材を張り付けたの」
最も固い部類に入るイスノキの板を張り付けた、ヒノキ板である。
周りを覆っているイスノキ以外のほとんどがヒノキのため見た目以上に軽い。補強材の樹脂等は使ってはいけないけれど圧縮してくっつけることはOKだったので。素晴らしい日本の匠のお仕事です。
「仕掛けは――手品みたいなものね」
「手品?」
そう、この盾を鋼鉄より重くて硬いと錯覚させるための魔法を少々。
「初めに床にたたきつけるパフォーマンスをしたでしょう?その時すでに錯覚を起こさせたのよ。こんな重い音がして振動が足を伝えばこの盾が重いと錯覚しやすくなる。直後、風切り音を反響させて大きく聞こえさせて、少し遅れて発生する風圧はこの盾に何かとんでもない魔法を掛けて頑丈にしているんじゃないかって」
「……まさか、音と風と振動を使った張りぼての盾だったってこと?」
正解ですエリカちゃん。
床に打ち付けた時に発生した音を増幅させて、床が揺れるほどの振動が起きたと思わせた。
――二つとも振動魔法のため威力も増幅していたから少しのサイオン量でできちゃう、相手にそんな魔法を使ったと感じさせないくらいのお手軽手品だった。
多分盾を強化している時のサイオンだと勘違いしたんじゃないかな。
音と振動、遅れて風を浴びさせればあら不思議。
あの盾一体どんな魔法が掛けられているんだ!?と思わせるとんでも武器に錯覚させることに成功するというわけ。
もちろん当たったらただじゃ済まない衝撃も与えられたけどね。
ただのハリボテの裏にもちゃんと第二の策を仕込んでましたとも。エリカちゃんの嗅覚が鋭いことは承知してましたからね。油断なんてしない。
「あとは、そうね。去年の九校戦で目立ったでしょう?きっとすごい魔法を使うと思われるでしょうから」
「それであんな微笑をずっと浮かべてたってわけね」
強者って常に笑ってるイメージあるよね。余裕があるっていうのか。
それだけで相手にプレッシャーを与えるっていう。
要は雰囲気を作っていたということです。手品にはムードってものが必要ですから。
「情報があるからこそ勘違いさせることもできるってことよ」
先輩たちの中には昨年も出場した選手もいる。つまり手の内を知られている可能性があるのだ。
工夫することに越したことはない。
このところ新鮮味がなかったでしょうからね。まだ半月あるのです。どんどん工夫して技の練度を上げていきましょう。
「いいテコ入れになったわ。このところ刺激が無かったから」
エリカちゃんも感じてたんだね。
根気良く付き合ってくれて生徒会としてはとっても助かってます。
慣れた人との試合ってどうしても気が緩んじゃうから、エリカちゃんみたいに変幻自在に動ける人は貴重なのだ。
かといって一人で全員を相手にできないから、どうしても馴れ合いのような試合になってしまう。
この流れが来たら勝てない、とかね。
宙に浮いたなら宙に浮いたなりに逃れる方法を模索すればいいのに、間に合わない、だけでは勝てる可能性を捨てているのだと気付いていない。
エリカちゃんには難しいかもしれないけれど、魔法力のある人ならば足場を一時的に作ることくらいできるはずだ。
もしくは飛ばされる前に自身で跳びつつ反転できるだけの瞬発力を身に付けたりね。
体勢を立て直すのは武道では当たり前の行動。
でもスポーツしかしてきていない人にはその基礎ができていない。
「深雪ってさ、結構武闘派?」
「護身術程度よ」
淑女の嗜みです。とは言えないのでいつもの誘拐ネタで説明。嘘でもないからね。
淑女、誘拐や暴漢を想定して護身を学びますから。
身体も動かせたし、何よりエリカちゃんと試合ができた上、テコ入れもできた。
うんうん、順調ですね。
そう思っていたのだけれど。
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