妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑩

 

「どうして俺に言わなかった?」

 

 

家に帰って美味しいご飯を食べて就寝前のひと時、お兄様のベッドの上でお兄様の足の上に座らされ、抱き込まれての尋問が。

……どうしてこうなりました???

 

 

おかしいな。特に変わったことなどなかったように思う。

普段通り水波ちゃんの作った美味しい夕食を頂き、食後のお茶を飲んで、お風呂に入り、マッサージとケアを念入りにしてもらって、水波ちゃんも疲れてるでしょう、と肩を揉んだりして恐縮させちゃったりした後、部屋に戻って勉強して、コーヒーを淹れてお兄様と普通に語らって、今日の出来事を楽しくおしゃべりしていたはずなのだけれど。

 

「――ああ、映像見させてもらったよ。いい試合だった」

 

お兄様も、あの後シールドダウンの練習場に赴いたらしい。エリカちゃんが大興奮でお兄様に試合の状況を教えてくれたそう。

エリカちゃんに喜んでもらえたならなによりだ。

私も嬉しくなって笑うと、お兄様はいつものように優しく頭を撫でてくれた。

ここまでは普通だった、と思ったのだけれど。

――その手が、頬を捉えるまでは。

 

「楽しかったかい?」

 

耳朶を震わせるお声がいつもより深い低音で。

そちらに気を取られていたらするり、とお兄様の大きな手が私の頬に滑り落ちて少し持ち上げられる。

 

「ええ、とて、も?」

 

絡まる視線に不穏なものを感じて言葉が途切れたが、その時にはすでに遅かった。

そのままお兄様が倒れ込むように抱きしめられたと思ったらいつも間にかお兄様のお膝の上に。

 

(???)

 

とんでもない早業に思考が追いつかない。

『!』に至るまでに時間を要した。

 

「お、お兄様!?」

 

 

 

「どうして俺に言わなかった?」

 

 

 

そして冒頭のこの言葉である。

お兄様の雰囲気がですね、とてもよろしくない雰囲気と言いますか…支えられている背がふるりと震えます。

触れているはずなのだからお兄様が気付いていないはずが無いのに、お兄様はそのことに触れずにただじっと私の目を見つめて。

 

「エリカから聞いた時、俺は悔しくなったよ。本気で試合をしたというエリカに――羨ましいと」

「そ、れは、その…」

 

お兄様の思いつめたような視線を受けつつ頬を撫でられる手に、言葉が上手く出てこない。

触れている温かな手が私に熱を与えてくれているはずなのに、身体が冷える一方なのはなんででしょう。

 

「…シールドダウンの、テコ入れが必要かと思いまして、デモンストレーションとしてちょうどいいかと」

 

盾を用意していたのは初めて発注を依頼した時だった。どういう盾がいいかと話をしていた時にいろんな案を出しあって着想を得たのだ。

その時話していたのはこんなものは違反にならないかという話だったのだけど、職人気質のおじ様が面白がって試作してくれる流れになった。

料金はいらない、ただ使い勝手を教えてくれって。

他の受注が終わってから届けられたから、昨日届いたばかりだったのだけど、戦い方はシミュレートしていたからすぐに実践に移せた。

我ながらなかなか面白い戦術だったと思う。

小手先の技がどこまで本戦で通用するかわからないけれどね。

あそこは魔法がすぐ分析できちゃうからそう何度も使えない手品ではあるんだけど、手品自体は相手をかく乱させるものだから。

次は本当に重く硬い強化を施したりすれば相手の意表を突くこともでき、戦術の幅が広がる。

戦いはただ技術のみならず。心理戦で制することだってできる。

 

「映像の中の深雪はとても輝いていて美しかった。とても楽しそうだったね」

「…そう、でしたでしょうか。無我夢中でしたのでよくわかりません」

 

実際、エリカちゃんの攻撃に緊張しながら戦ってたから、集中して自分がどういう風に見られていたかなんてわからない。

作戦上徹頭徹尾微笑んでおこうとは決めてたけどね。

 

「せめて生で見たかった」

「それは、申し訳ございません。お兄様にも予定があったと知っておりましたので」

 

本気で悔しがるお兄様に、私は謝罪するしか言葉が無かった。

お兄様はスティープルチェース・クロスカントリーのコースに、少しでも考え付くあり得そうな障害を組み込もうと部活連と話し合っていたのだ。

泥濘だったり、石礫だったり、古典的な罠を中心に怪我をしない程度の仕掛けを作ることになったらしい。

山道で泥濘なんて大事故に繋がる危険度だけど、当日無いとも限らない。足を取られる練習はしておいた方が良いからね。

と、話が逸れたけど、そんなわけでお兄様はお忙しかったのでこんなことでお手を煩わせることもない、とお声がけをしなかったのだ。

だがそれがまさかこんな事態になるなんて。

これ以上顔を近づけるとまたキスされちゃう、とお兄様の肩口に額を乗せて。

身を寄せることになるけれど、これで顔に何かされることは無くなるから。

代わりにぎゅうう、と抱き込まれる。今日は一段と力が強いですね。

力加減を知らない子供がお気に入りのぬいぐるみを抱きしめる様。…そんなに強いと綿出ちゃう。

とん、とん、とお兄様の背中を叩く。

タップじゃないよ。落ち着かせようとしているだけです。

苦しいけれど、耐えられないほどじゃないから。

 

「俺は本気で深雪に立ち向かうことなどできないから、エリカが羨ましい。好戦的な深雪と対峙できるなんて」

「それは困りましたねぇ」

 

私もお兄様と本気で向き合うなんて天地がひっくり返っても、機会が巡ってくることは無いと思うけれど。

 

「代わりにお兄様しか知らない私ではだめでしょうか」

 

お兄様がエリカちゃんを羨ましいのってあれだよね。コンプリート魂だよね?自分が持っていないスチル()が欲しいって。

前にも何度かこの手のことで羨ましがられた記憶。

でも、お兄様しか持っていないものの方が断然多いと思うのだけど。

と、弱まってきた腕から解放されつつある体を起こして恐るおそる顔を上げて見上げれば、お兄様は――なんで無表情で見下ろされているのでしょうか。ちょっとホラーかと思いました。

お兄様情緒大丈夫?さっきまで寂しそうだったり、かと思ったら悔しそうだったり思いつめたような苦しいお顔だったりしていたのに、今はすん、と表情が抜け落ちてます。

 

「深雪は一体どこでそういう言葉を覚えてくるのだろうね」

「どこ、と申されましても」

 

とっさに口にしている言葉の出どころ…?あえて言うなら過去に読んだ素晴らしい作品たちでしょうか。

口にできずにおろおろしていたら、お兄様が大きめの溜息を吐いて。

 

「最近深雪は忙しすぎないか。学校で一緒になるのは登下校とお昼くらいじゃないか」

「生徒会も、ほとんど作業に追われてますものね」

 

そこは九校戦関係なく変わりないはずなのに、お兄様としては忙しく動き回っているせいかすれ違っているように感じるのかもしれない。

忙しいと時間は一瞬になってしまいますものね。会っている時間も短く感じてしまうのかも。

夜はこうして一緒に過ごせているのに。

 

「私だけではございませんよ。お兄様もずっと働き通しではないですか」

 

お兄様は私の身体を心配されるけど、私だけじゃない。お兄様だって常に忙しくされている。

 

「お兄様もお疲れなのですよ。いくら調整に慣れているとはいえ、これだけ複数を同時になんてなかなかないでしょうし、その上作戦を立てたり、指導をしたりと動き回っておりますし」

「後半に関しては、だいぶ深雪に助けられてるよ。選手たちも自主的に作戦を立てているから俺はアドバイスをするだけということも増えた」

 

あら。それなら少しはお役に立てたかしら。

すり、と擦り寄れば、お兄様は頭を撫でてくれた。

 

「深雪は大活躍だよ。今日のシールドダウンもだが、ミラージバットも飛躍的に動きがよくなっていた。やはり口頭で説明するより実演があるとだいぶ違うな」

 

特に深雪の動きは理想的だから、と褒められれば嬉しい反面、お兄様の腕の中ということも相まってより恥ずかしくもなるもので。

 

「あまりそのように褒めないでくださいませ。図に乗ってしまいます」

「図に乗られては、困るな。余計に深雪は張り切ってしまうだろうからこれ以上無理はさせたくない。…だが褒めるな、というのも難しい」

 

悩ましいな、と人の髪の毛をくるくると絡ませて弄びながらお兄様は穏やかに笑っていた。

…落ち着いて下さったようでなにより。

さっきまでの不穏な空気は無くなったようで一安心です。

でもこの体勢はいただけないなぁ。場所を思い出してほしい。ソファでさえギリギリだと思うのに、ベッドですよ。お兄様のベッド。

その上でお兄様のお膝に乗せられ抱っこ。…これは明らかにダメでしょう。

 

「お兄様もお疲れなのですから、このような戯れはよろしくないですよ。これではちっとも体が休まりません」

「そうか?深雪に触れているとそれだけで癒されるのに」

「これでは先日の香澄さんに対して示しが付きません。兄妹がべたべたとくっつくのはおかしなことなのですから」

「他所は他所、ウチはウチだろう?」

 

あらあら。香澄ちゃんの言った言葉を都合のいいように解釈しましたか。

 

「ところで、どうして香澄は『さん』で泉美は『ちゃん』なんだ?」

「え?」

 

お兄様にしては珍しいところが気になったようですね。

 

「親しさの差、でしょうか」

 

ゲームでもよくある好感度によって呼び方が変わるアレですね。

泉美ちゃんは何というか、うん。気づいたら親密度がMaxになってた感じ?

でも香澄ちゃんは何だかどんどんマイナスに傾いている感じなのよねー。会わないからかな。

会わないだけで、挨拶しないだけで好感度って下がっていきますからね。…ゲーム内の話ですけど。

ある学園恋愛シミュレーションゲームではしばらく会わないと爆弾が爆発して他の人の好感度まで巻き込んで下げられてしまうとかあったな。

アレは理不尽だった…。定期的に構えっていうね。

 

「いくら双子でも同じに扱うこともないでしょう。片方こうだから、もう片方はこう!というのではなく個々との関係性がそうなった、ということです」

「…そういうものか」

 

あれだね。名前の横のプロフィールに、生徒会の後輩。特に仲がいい。クッキーはサクサク系よりしっとり系が好み。と書かれている泉美ちゃんに対し、香澄ちゃんは七草家の次女。双子の妹がいる。くらいのプロフィールの差。…伝わるかな。

 

 

結局お兄様の膝から降りられたのは就寝したいと訴えるまででした。

 

 

――

 

 

7月21日の夜、先生と水波ちゃんと四人で小旅行に来ました。

…いえ、分かっているのですよ、先生とお兄様はやるべきことがあることは。お遊び気分なのは私だけなのだと。

でもねぇ。リニア列車の個室ですよ!お高いお陰で揺れも無ければ座り心地も最高抜群!窓の外の景色がビュンビュン飛んできますね!楽しい!!

 

「いやあ。深雪くんは誘い甲斐があるねぇ。そんなに喜んでもらえるとこの席を取った甲斐があったというものだよ」

「先生!お誘いいただいてありがとうございます。ですが、お二人にはこれから大事な用事があるというのにこのようにはしゃいでしまって…」

「いいんだよ。むしろこっちが感謝かな。良い物を見せてもらってるんだから」

 

先生はニヤニヤと笑い、隣のお兄様から凍てつく空気が先生に向けられているのが感じられる。お兄様、いつの間に凍てつく波動を覚えられました?

先生の隣の水波ちゃんも先生を不審者のように警戒して見つめていますけど、安心していいよ。先生本気でそんなこと思ってないから。

先生は揶揄いに生きがいを感じているタイプだから。

 

「水波ちゃん、お茶を用意してもらっていい?軽く摘まめるものをご用意しましたので先生もよろしければぜひ召し上がってください」

「すまないねぇ。いやあ。楽しい旅になりそうでよかった。達也くんと二人きりじゃ、こうはならなかっただろうからね」

 

それはそうだね。用事があっていくだけの二人がキャッキャしてたらびっくりだ。

それはそれで見てみたいけど想像がつかない。

 

「九校戦の準備はどうだい?順調かい」

「はい。選手たちの練習もだんだんと板についてきて、…青春って感じです」

 

先生はただの雑談として話題に出してくれたのだから、そこまで詳しい話はいらないか、と大事なところだけ伝える。

そう、青春してるよ彼らは。

 

「青春か。それは良い」

 

ですよねぇ。とにこにこにっこり。先生とはこういう話が合う。

お兄様と水波ちゃんが入れない世界です。申し訳ない。

 

「ところで今年はどんな衣装の予定なんだい?」

 

先生の問いに、初めて言葉が詰まる。

そう、なんだよねぇ。二年の時の九校戦どうしようか。一年の時は原作にもあったから、と巫女さんにしたけれどここは改変しても神は修正を入れないと思うんだよね。

本筋からずれることは無いから強制力が働かない気がする。

ってことで、ここはあえて原作を無視した服にしようと思っているのだけど…。

 

「そろそろ発注しないと間に合わないんじゃないのかい?」

「そう、なのですが」

 

去年考えたシスターも捨てがたいけど、やっぱりイロモノ過ぎるかな。

…巫女も大概イロモノだと思うのだけど、ほら。お兄様も納得する理由があったし。

…魔女っ娘衣装とか?いや、確かそういう恰好の人去年いたな。

アイスピラーズブレイクなのだから、いっそのことスノークイーンの衣装とか?白と水色のドレス。刺繍をあしらって?…いや、それなら思い切ってアレにしちゃおうかしら。あの、有名なででにー作品のアレである。

でもそういえばこっちにあったかしら。見た記憶がない。…もしあったとしても100年前だし権利関係は問題ないはず。それっぽくするだけで同じ物にはしないけど。

 

「せっかくですから競技にちなんで雪の女王をイメージしたドレスにしてみるのもいいかもしれませんね」

「雪の女王、か。深雪くんはまだプリンセスのような愛らしさだけれど、うん。似合いそうだね」

 

先生、うっすら開眼しましたけど、こんなところでするのはどうかと思います!いったい何をご覧になりました⁇

 

「師匠」

「ん?別におかしな会話じゃないでしょ」

 

お兄様も、先生の発言の怪しさは知っているでしょうに。これもコミュニケーションの一種かな。でもじゃれ合いにしてはお兄様から剣呑な空気が。

お兄様、楽しい小旅行ですよ。

小さなサイズのサンドイッチをお兄様の口元へ。

お腹が減ってはイライラもしやすいですからね。

お兄様の唇に当てれば口を開くしかない。ちょっと目を見開いて驚いてからすぐさまかぶりついてくれたのですけど、目測誤りました?私の指に唇が当たりました。大きなお口ですこと。

 

(なんて余裕は表面上だけだよ!お兄様目が笑ってるもの!絶対態とだ!!)

 

妹を揶揄って遊ばないでください。ここには先生も水波ちゃんもいるんですから。

水波ちゃんは気付いてない、というか初めから視線を逸らしていたけれど、先生はがっつり見てニヤニヤ。

お兄様としてはこの悪戯だけでとりあえず満足されたらしい。それ以上のちょっかいはかからなかった。

 

 

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