妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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スティープルチェース編⑪

 

 

あっという間に奈良に着きました。

ここで先生とはお別れです。

 

「先生もお気をつけて」

 

周囲の目もあるので礼ではなく手を振ると、先生はひらりと振り返して行ってしまわれた。

最強キャラであらせられる先生に心配なんて必要ないのかもしれないけれど、こればかりは気持ちだから。

そして三人で先生の手配してくれたホテルへ。

ええ。ウチのホテルですねぇ。間違いない。

お兄様も知らないことを知っている、流石先生。だけど、本当何処でそういう情報って得るんだろうね?私だって内部資料見せてもらわなければ知らなかった。

まあでも、ここで過ごすならお兄様に心配をかけるようなことにはならない。不審者なんて外部から入り込む余地もないホテルです。

すぐに部屋に向かい、出立するお兄様を見送るのだけど。

 

「お兄様、どうかご無事で」

 

行かないで、連れて行ってとは引き止めないけどお兄様が危険な思いをされるのを知っていて心配にならないわけはないので。

お兄様の手を取って、胸の前でぎゅっといつもより強く握ってしまう。

お兄様が無事であることを祈るように。

いつもより大げさだから呆れられるかな、と思ったけれど、お兄様はこの儀式めいた行動に付き合ってくれた。

 

「必ずお前の元へ帰ってくるから、絶対にホテルから出てはいけないよ」

 

ああ、でも原作と同じように釘は刺されるのね。

手を解放したら頭を撫でられた。

 

「もちろんです。お兄様に無用な心配は掛けたり致しません」

 

ホテルからは出ないよ。私が突っ走らなくても厄介事っていうのは外から勝手にくるものですから。大人しく待ち構えてますとも。

いい子の答えにお兄様は満足したのか、少しだけ微笑むとすぐに表情を引き締めて行ってくる、と言うと水波ちゃんに向き直って。

 

「水波、深雪の世話を頼む」

「かしこまりました」

 

水波ちゃんは深々と頭を下げてお兄様への決意を見せる。…気合十分ですねぇ。やる気が漲っています。

お外で初めて一人での護衛任務ですから。だけどあまり張り切り過ぎないようにね。今回相対する予定があるのは身内なので。

 

「いってらっしゃいませ、お兄様」

 

お気をつけて。

お兄様の背を見送って、さてどうしましょう。

時刻は九時前。叔父様たちが来るのはもうしばらく後でしょうから。

 

「水波ちゃん、時間もあるから今日の分のお勉強しちゃいましょ」

 

この時代の何が良いって、勉強道具を持ち運ばなくてもどこでも勉強できることかな。いい時間つぶしになる。

水波ちゃんは素直に従い、一緒に机に着いて端末を操作する。

互いに互いの勉強をして、時折水波ちゃんの様子を聞いて、分からないところを聞いては教えてあげたりして時間を潰したのだけど、一時間とかからなかった。

今日は土曜日だったため授業が短かったことと、普段からもちゃんとお勉強しているようで予習もたいして時間がかからず終わってしまった。

あまり先をやり過ぎてもしょうがないのでキリのいい所で打ち切りにして。

 

「お兄様がお戻りになるまでまだ時間があるでしょうし、――トランプでもする?」

 

念のため暇つぶしで持ってきていたトランプ。これ一つで色々できますからね。…お兄様がいなければ。

お兄様がいると神経衰弱とかスピードなんてできませんから。敵う訳がない。

でも水波ちゃん接待プレイしちゃうかな?

と思ったので。

 

「…まさかトランプタワー五段の完成を見られるとは思わなかったわ」

 

水波ちゃんの集中力凄い。

思わず端末で写真を撮ってしまった。

改めて水波ちゃんのスペックの高さに驚きだ。初めてとは思えないよ。

ちょっと誇らしげなところもとってもキュート。可愛い。

私は三段で精一杯。水波ちゃんの真剣な表情チラ見している時点で集中力なんて皆無でした。

水波ちゃんを褒めちぎっていたら時間はあっという間に過ぎていたらしい。

部屋の電話が鳴り響く。待ち人が来たらしい。

すぐに出られる恰好のままでよかった。軽く化粧を直すくらいで済む。

水波ちゃんは来客に驚いていたけれど、四葉にいるとこういうサプライズはよくあることだからね。慣れていこうね。

 

「では、ロビーに向かいましょうか」

 

魔法でも身だしなみを整えてから、出陣する。

少しでも隙は見せられない相手だ。

小娘の演技力がどこまで通用するかな。

 

 

――

 

 

ロビーにダンディなおじ様と可憐なお嬢様の姿が。

親子仲良く寄り添う姿は絵に描いたような理想像。ウチでは絶対にありえない光景だ。

羨ましいかと聞かれれば叔父様と親子ならば大歓迎だが、自分の父とは勘弁願いたい。父は望んでいるようだけれどね。

自身の行動振り返ってみてください。貴方の行動に娘が歓迎するようなことは何一つありませんから。一体どこを尊敬できると?

それに、黒羽の叔父様のようなダンディズムもお持ちじゃないですしね。貫禄がまず違う。

亜夜子ちゃんは良いなぁ。あんなお父様なら自慢にもなるよね。

 

「深雪ちゃん、お久しぶり」

 

うーん、大人の色気漂う素敵な叔父様ですね。お兄様とは違う色気にただただ感心する。

その場で軽くお辞儀をして、礼儀に適った距離まで近寄ってから立ち止まって深々と。

 

「叔父様、ご無沙汰しております」

「うん、深雪ちゃんも元気そうで何よりだ」

 

普通に可愛がっている親戚に向ける笑顔ですね。心の中を見せない方々だけど、家族への愛は本物で、一族への愛も深い。

だからこそより一層、不安要素のあるお兄様を毛嫌いするのだろうけどね。

私に対しては、その四葉を守るものとして造られているのだから、叔父様からすれば嫌う要素はない。

むしろ愛情を向けることで己の家族を守ることになると思っているかもしれないね。

四葉の愛は複雑怪奇。損益も絡む。――でも、そんなものでも愛は愛なのだから厄介だ。

 

「亜夜子ちゃんは、三か月ぶりね。春の一件では色々と力を貸してくれてありがとう」

 

亜夜子ちゃんはこの年で立派に仕事を熟しているプロフェッショナル。尊敬こそすれ、ライバルとは思えないんだよなぁ。

原作ではお兄様を取られるかも、っていうのが根底にあったからライバル関係だったのだろうけど、私にその気持ちは無いからかもしれない。

お兄様が望むのであれば、叔父様という障害も何のその、必ずや二人を幸せにする道を用意するよ。

そのための次期当主の座(権力)だと思ってる。

それに深雪ちゃんが面白く思えないポイントである能力の差も、お兄様のお役に立てる能力は羨ましいなと思うけれど、だからってずるい、とはならない。

亜夜子ちゃんだからこそお兄様のお役に立てるのだ。私が同じ能力を有したところでお兄様が私を使ってくれるとは限らない。

せっかく便利な魔法を有しても使わせてもらえないのでは意味がないのと同じこと。

もし同じことができるのに、危ないからと遠ざけられでもしたら余計に苦しむことになったかもしれない。

だからむしろその魔法が使えないことを喜ぶべきなのかもね。

 

「どういたしまして。達也さんと深雪お姉さまの御尽力があったればこそです」

 

…それにねぇ、こんな健気で可愛い子ちゃんをどうやって可愛がらずにいられるんだろう。

不審に思われないように表情は取り繕っているけれど、内心デレデレです。可愛い。亜夜子ちゃんの挑戦的な瞳も、負けない!という気概も全て可愛らしい。

思わず気を抜いてしまいそうになるけれど、叔父様の視線を忘れることはできないのでね。気を引き締めて隙を見せないようにしなければ。

叔父様に促されるままに喫茶室へと移動。個室のような作りなので安心してお話ができる場所です。

 

「このホテルは本家の息が掛かっているんだよ。深雪ちゃんは知らないと思うけど」

 

他愛にない打ち明け話のような悪戯っぽい口調での、多分先制攻撃なんだろうけど、すみません。それ叔父様の従妹様から直に聞いてます。

その時の表情とそっくり。血と親しさを感じさせますね。

ただ、叔母様の時は全国のホテル一覧と共にでしたけどね。完全別グループに紛れ込むように――蜘蛛の巣を張り巡らせるように展開されていて内心うわぁ…と思った思い出。

語彙力ないけど申し訳ない。伝わってほしい。本当うわぁ…だから。

諜報としてホテルって一番大事な要素ではあるけれど、あんなところもウチだったんだと知った時の衝撃ね。

でも叔父様相手にゴメン知ってた、なんて素直に言えるわけもない。

 

「そうでしたか。ここを手配したのは九重先生でしたので…凄い偶然ですね」

 

偶然じゃないことくらいここにいる誰もが思っているだろうに、皆にこにこ笑顔。…水波ちゃんは空気に徹しているので除外する。

そこから始まる試験のような会話の応酬。

叔父様の気に入る回答を述べながら情報交換を。

改めて、四葉の諜報員ってすげー、ですよ。

お兄様でも難しい内部侵入もこなしてしまうのですから。

P兵器のこと、お兄様が今調査に向かっていること、叔父様からの誘導に導かれるように動揺、驚愕しながら叔父様を見つめる。

――うん、順調かな。

亜夜子ちゃんも気持ちよくデータカードを出してくれた。

叔父様にとって亜夜子ちゃんは自慢の娘ですものね。

こちらを見下しているわけではないことはわかるから悔しいとか苦しいとかは思わない。

…でも原作の深雪ちゃんからしたら辛かっただろうな。

 

「知っての通り、亜夜子の魔法は諜報向きだからね。戦闘や制圧に向いている深雪ちゃんとは得意分野が違っていても当然というものだ」

 

叔父様のこれって庇っているようでいて、自分の娘すごいだろうってことですからね。

親ばか全開。いいのだけど、そのことで亜夜子ちゃんが喜んでいるのってお兄様のお役に立てるのは自分だ、っていう自負もあるってことに叔父様は気づいているかな。…それとも見ない振りか。男親も複雑だよね。

 

(亜夜子ちゃんとお兄様が結婚したい場合、一番のハードルは叔父様だからなぁ。まあ、いざとなれば叔母様説得するけど)

 

最高権力者の絶対的命令が下されれば叔父様には断れないだろうから。

叔父様の心配していることは私が全部抑え込むから大丈夫ですとも。

もし二人が結婚するなら責任をもって叔父様の思い描く悪夢は取り払って、貴女の娘さんごと幸せにして差し上げますよ。大きなお世話かもしれないけど。

 

「呼び出して済まなかったね。失礼ながらあまり時間がないので私たちはこれで失礼するよ」

「達也さんによろしくお伝えください」

 

おおう、亜夜子ちゃんお父さんの前でそんな挑発的で大丈夫?叔父様ちょっとだけ口角が震えたように動いたよ。

私は私で苦笑いを浮かべないように表情を引き締めたので緊張したように見えたかな。親子を見送って水波ちゃんを連れて部屋に戻った。

 

 

――

 

 

圧迫面接に比べたらなんて気楽なお茶会だっただろうか。

まだ小娘扱いだからだろうな。

叔母様が叔父様に何も伝えてないようでちょっと安心。叔母様愉快犯みたいなところあるから。

 

「深雪姉様」

 

一応四葉系列のホテルとはいえ外だから、水波ちゃんから姉様呼びのまま話しかけられた。

表情と声から察するに心配をかけた模様。

 

「大丈夫よ、水波ちゃん。ありがとう。でも、少し疲れたわね。シャワーでも浴びようかしら」

「では準備をしてまいります」

 

お願いね、と水波ちゃんに任せて少し一人になる。

この後しばらくしたらお兄様が戻られるだろう。

原作ではそのまま出迎えだけして就寝するのだけれど、情報は報連相が大事。

深雪ちゃんは心に整理がついていなかったからお兄様にすぐにお話しすることができなかっただろうけれど、こういったことに感情を持ち込んではいけない。

早いからといって事態が好転するわけでもないけれど、その前に心構えができる分違うから。

データカードを弄びながら思考する。

人には人の得意分野があって、私はほとんどチート能力を有しているのに、今一番欲しい諜報能力だけ適性がない。

現状、お兄様のお役に立てる力が無い。

私にできるのは力づくで周囲を制圧すること。

他を圧倒する力こそ司波深雪の真骨頂。

それは当主の四葉真夜にも言えることだけれど、お兄様の言う魔法力と固有の魔法を考えるに、恐らく私の能力は叔母様をも上回るだろう。

お兄様と互角の叔母様だろうと、私のコキュートスを止める術は奇襲による先制以外にはない。

この調整体の身体には『誓約』以外魔法はかかっていないはず。お兄様の眼で私に関して視えないものなどないのだから。

 

――だからいくら四葉で作られた身体とは言ってもパラサイドールのように、緊急停止措置など掛けられていないと思う。

 

とはいえ、深雪ちゃんはお兄様のこと以外は関心がないのがデフォと言うように、一族をどうこうしようなんてことを思うはずがないよう育てられてきた。ま、洗脳教育だね。幼少期の頃から思い返すとそれなりにそう誘導された記憶がある。

だからたとえ大好きなお兄様を見下されても、不満も見せず耐えてきた。その洗脳がしっかり効いていると思わせるように、身内内で争う姿勢など一切見せず。

…多少の内部改革はしたけどね。意識を変えればお兄様を見下すことに精を出す必要なんてないから。

もし力づくで解決できるならとっくにお兄様は自由になっている。

改めて、チートって何でもできるわけじゃないのだ、と思い知らされる。

私個人の力など、世界を凍らせ終焉を迎えることはできても、たった一人を平和に過ごさせることもできない。

 

(ああ、ままならない)

 

思う通りに展開が進めばいいのに、と思うけれど、そんなこと現実的には無理なのだ。

たとえこの世界が物語の中であっても――と考えて違うか、と頭を振った。

物語の世界だからこそ余計に物語から外れようとすると強制力が発動する。…結構、ここまで展開を変えられてきたと思うのだけど、本筋としては変わっていない。

学校でお兄様が嫌われ者の劣等生として扱われることなどなかったけれど、二年現在生徒会の副会長で、九校戦も参謀と調整とで忙しくしている。

そして奈良まで来て面倒事にまで着手して。

あまりに変えすぎてしまうと私も先の展開が読めなくなってしまうので、大胆に変更できずにいたのも要因ではあるのだけど。

――この先の九校戦、原作では泣いてお兄様を止めるシーンが印象的だった。

無意識に人を救おうとするお兄様を、魔法が使えなくなろうと実力行使に訴えてでもお兄様を止めたい、と泣いて引き留める深雪ちゃんの覚悟はすさまじかった。

あれなら疲れ切って思考の鈍っていたお兄様の精神分析も成功するというものだ。

傲慢に聞こえる言葉も全てお兄様の為を思ってのこと。

あの場面で深雪ちゃんは欠片も自分のためになんて思っていない。

お兄様が呪いに呑まれそうになっているのを深雪ちゃんが手を差し伸べて救い出すのだ。

無意識に人のために、己の身を削ってまで行動するお兄様を引き留めることに必死で、なりふり構わずに。

 

(この後お兄様は、どう動かれるだろうか)

 

問題はそこだ。

お兄様の仕事の負担はできるだけ減らそうと働き掛けてきたけれど、その分お兄様は隙間を見つけては他の仕事を入れてしまう。

できる限り、選手たちが自身で考えた作戦を添削して理想の形を模索し、実践させるとかね。

一から考えるよりはマシだと思ったけれど、どっこいどっこい?…むしろ余計に聞くという仕事を増やしてしまったような気さえする。

その上CADを調整し、試合に関係ない調整の相談まで受けているのを見た時は眩暈がした。

明らかに仕事が増えている!

慌てて周囲には大会に集中するよう『応援』して、大会前に関係ない相談は持ち込まないように伝えたけれど、それがどこまで効果があるか。

お兄様も私が注意したこともあって受けないようにしていたようだけど、お兄様も気が良いから。聞かれたら答えちゃうんだろうね。

これで他人に興味がないというのだから、信じられない。お兄様面倒見が良過ぎます。

頼まれたからやった、の範疇超えてますよ。学校内だから愛想をよくしているつもりなのかもしれないけど、それにしたって周囲の期待に応え過ぎです。

このままではお兄様は原作のように突っ走ってしまう。

 

(確か煮詰まりすぎて一部会場破壊しちゃお★ってなっちゃうんだよね。それで、責任擦り付けられる人を見つけて押し付けたいなんて阿漕なことを考え付いちゃうわけだ)

 

あくどいこと思いつきますね。お兄様も無意識に四葉クオリティ。

それがまさかの四葉が罪を擦り付ける気満々の相手にジャストミートするんだからお兄様もすごい。

利用される側もご愁傷様だけど、強硬派の行動ってただ事態を悪化させるだけだからね。

別の改革からしていけばよかったものを。

ただの武力行使だけじゃ戦争が無くならないことを、日本の誇る二大ロボットアニメから学んでこい。

むしろそのまま踏襲しようとして突っ走ってるの?同じ轍踏むにしてもシナリオ違いすぎるから。

と、そんな輩のことはどうでもいいんでした。

お兄様のことだ。

 

(…私に、お兄様を引き留められるだろうか)

 

止めねばならない、と思う。

いっそのことピクシーがあそこで探知できなければ、お兄様が向かおうとすることもないわけで。

…いや、それならば、私が先に探知してもいいのでは?ピクシーより先に感知できればピクシーのことも相手に気取られることもない。

もしそれが無理でも、最終日には必ず現れるわけだから事前に探索の必要はないと説き伏せればワンチャン?

場所がわからなければお兄様が追いかけることもなく、とりあえず九校戦だけに取り組んでもらえるはずだ。

大会当日に片付けることになるのは時間的にも労力的にも大変だろうけれど、大会中になんやかんやするよりも最後に大暴れの方が疲労も分散されるのではないだろうか。

大会当日なら彼らに目的のある状態なので、狙いがわかりやすく襲撃する形の方が確実に仕留められる。

大会前に鉢合ってもあちらに目的がないので正面対決は避けられ、逃げられることになるだろう。

大会当日性能テストと称して、襲い掛かるのが目的なのだから、それまで本格的な戦闘は避けると思われた。

 

(――結局は原作通りに進むけど、お兄様には九校戦だけに集中してもらえばもっと冷静に対処できるはず)

 

どんなに思考中でも身体は勝手に動くもので、すでにシャワーを浴び終えていた。コックを閉じて備え付けのタオルで体を拭う。

うん、いいタオルです。こういうところのサービスの良さも四葉のいいところ。

出れば水波ちゃんが待機していてお世話してもらいます。でも今日はマッサージは断った。

せっかくの小旅行なんだもの。水波ちゃんも休んでほしい。その代わり、柔軟は念入りにするから手伝って、と言えば水波ちゃんは不承不承ながら納得してくれた。

ありがとうね。わがままに付き合ってくれて。

身体を解し終えて、あったまったところでノック音。

いいタイミングですお兄様。

水波ちゃんが迎えに行ってお兄様を招き入れる。ここは家ではないのでね。念のためです。

 

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ただいま、深雪」

 

お兄様のご無事の姿に安堵して、その体を抱きしめる。

水波ちゃんはすっと、お茶の支度に消えていった。お兄様が戻ったら少し話すと伝えていたからね。

すん、と鼻を利かせる。お怪我はないようだけど、少し体が緊張したような出来事はあったみたい。

 

「いつもと違う香りだ」

 

…自分が匂いを嗅いでいる時、相手もまた匂いを嗅いでいるのだ。

旅先ですからね。さっきシャワーを浴びたことに気付いた模様。

一瞬萎えそうになる心に鞭を打って、お兄様と視線を合わせる。

 

「お兄様、お話しすべきことがございます」

 

 

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